心霊探偵、神原語は仕事しない

巫夏希

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第三章 繰り返しの幽霊

第36話 ハッピーハッピー研究所1

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 目的地は黒山羊と呼ばれる場所だ。笠川市の繁華街とも知られているエリアで、夜になっても明かりが消えることはなく煌々と照らされている場所でもある。

「混沌という言葉が似合う場所だよな。これが似合うのはバンカラ街ぐらいか?」

 何だ、お前もゲームぐらいするのか?
 ちょっと意外だな……、そういったものは触れてこない人間とばかり思っていたから。

「僕ちゃんのことを何だと思っているのかはさておき……、普通にゲームぐらい遊ぶよ。最新機種だって一通り揃えているさ。まあ、遊ぶゲームには偏りがあるのは否めないがね」
「じゃあゼルダは?」
「漸くタイトル決まったから楽しみにはしているけれど、職業柄何時死んでもおかしくないからなあ」

 物騒なこと言いやがって。

「とにかく、探偵というのは危険と隣り合わせなんだよ。分かるかい? 分からないというのなら、致し方ないけれど」
「何だかこっちを下に見ているような気がして気に食わないけれど、あんまりこっちも文句を言わない方が良いだろうし、これぐらいにしておいてやろう……。話は戻すけれど、見学に来るということはさっき話した事件に興味はある、ということで良いかな?」
「まあ、否定はしないかな」

 素直になれよ、全く。

「まあ、ゲームは絶対に遊んでおくと良いと思うよね。実際、最近色々と面白いゲームが出ているしなあ。時間も足りなくなるし……」
「僕ちゃんは暇だけれどね。仕事がない時は全然毎日のようにマッチングしているし」
「フェスとか参加したのか?」
「無人島に持って行くなら道具だろうね」

 参加したのね。
 それはさておき。

「目的地はここだけれど、どうする?」

 到着した場所は、小さな雑居ビルだ。
 建物の入り口には、どのフロアに何があるか書いてあるのだけれど、大抵は空きテナントになっている。唯一入っているのは飲み屋と良く分からない事務所ぐらいだ――まあ、後者はここのオーナーなんだけれどね。

「先ずは現場を見たいかな。それともオーナーに挨拶が先?」
「別にどちらでも良いけれど……。好きな方にしたら?」
「じゃあ、挨拶からかな」

 別にどっちだって良いって言っただろ。
 ぼくに許可を取るのは悪くないけれどさ。
 オーナーの居る事務所は、三階にある。二階と一階は空きテナントだ。かつて一階には喫茶店があったらしいけれど、色々と事件が起こって今は空きテナントと化している。
 一応外れとはいえ繁華街にあるビルなのに、こうもテナントが少ないのは珍しい。普通なら飲み屋とか入ってもおかしくはなさそうなのだが……、まあ、恐らくはオーナーの意向なのかな。飲み屋を沢山設けたくないとか、そういった感じなのかも。
 ドアには小さく、こう書かれている。

「ハッピーハッピー研究所……? いや、何で二回重ねて言っているんだ? 全くもって理解出来ない。――一応言っておくけれど、宗教とかそういった類いの場所ではないだろうね?」
「いや、それはないと思うな……。まあ、確かにあれで宗教法人の関係者じゃなかったらちょっと凄いんだけれどね」
「僕ちゃんにはたーくんの言っていることがさっぱり分からないよ……」

 分からないだろうな、確かに。
 けれども何れは――いや、そう遠くない未来で嫌というほど理解すると思う。
 このビルのオーナーが何者か――ということをね。


 ◇◇◇


 ドアをノックすると、何も反応はなかった――そう、これはいつも通りだ。反応がある方がちょっと不思議に思うぐらいだからね。だから、これは正常なサインでもある。

「全くもって入ろうと思いたくないのだけれど……。幾ら僕ちゃんだって、これが正しいサインであるとは、全く思いたくないんのだけれどね」
「まあまあ、そう言わずに……。幽霊について調べに来たんだし、一応オーナーの許可を取らないと」
「未遂、ね。まだ事件だと決まった訳ではないし、もしかしたら妄言の可能性も零じゃないんだ。だから、まだ確定していない段階で未遂を取っ払うのは宜しくない」
「未遂だろうが何だろうが、調べるためには無許可じゃ駄目だ。違うか?」

 そりゃその通りだが……。神原は言う。
 神原は諦めが悪いというか、こういうところで決断が遅かったりする。別に神原に文句を言いたい訳ではないのだけれど、しかして神原はこう人間性に問題がありまくりなので、こうやって介護してやらなければならないのだ。
 介護というよりは、介助か。

「とにかく入ってから、物事を決めてくれ。……相手だってノックが聞こえたのに一切入ってこなかったら、流石に意味が分からなくなるぞ?」

 多分それぐらいで怒ってくることはないだろうが、念には念を押してというところもある。

「わ、分かった……。もし何かあったら、慰謝料を請求するからな」
「その出所はそちらから貰う手数料だけれどね?」

 軽口を叩いていたって何も始まらない。
 神原は漸く意を決したのか――扉の向こうへと足を踏み入れた。

「ハッピーですか?」
「うわっ!」

 いきなり右から人の上半身が円を描くようにスライドしてきたら、そりゃあそんな反応をするのが正解だろう。

「おやおや、驚かせてしまったようですね……。それはアンハッピーです。誠に申し訳ありません。けれども、ご安心なされい! ここに来たと言うことは直ぐにあなたもハッピーになれます! アンハッピーをハッピーに変える方法を、いとも簡単に伝授して差し上げましょう!」
「い、いや、それを求めて来た訳ではなくて……。たーくん、本当にここは宗教施設とかじゃないんだろうな?」

 うん、多分違うはずだ。
 確かに、雰囲気はめちゃくちゃ怪しいのだけれどね。

「そう! あなたもハッピーを目指してきましたですか?」

 多少怪しい日本語を使っているようだけれど、一応ぼくとあなたって面識あったような気がするのだけれどね?

「――というか、良く見たら先程話をした青年ではありませんか。どうして先に言ってくれないのですか? 水臭いですねえ、実にアンハッピーです」

 何処が?
 一体何処がアンハッピーになっているのか教えてくれないだろうか。
 ……違う違う。相手のトーンに乗せられちゃいけないんだよ。やらないといけないことがあるんだ。それを、さっさと始めなくてはならない。
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