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第三章 繰り返しの幽霊
第35話 依頼3
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「……ところで、そろそろ本題に入ってはくれないものかな。それとも、話をしたくないかい? だとしたら、それは致し方ないことではあるのだけれど」
神原がうんざりとした表情でぼくにそう語った。ぼくだって好きでこんな面倒な話を続けている訳ではない――神原と話していく上では、きちんとした段取りをしておく必要があり、そのプロセスがやっと終わった。
だから、これからが本題。
これからが、主題だ。
「神原、お前は幽霊というのはどうやって生まれる物だと考える?」
「藪から棒に何だ? ……でもまあ、それにきちんと答えるとするならば、死んでしまったら幽霊になる――ということだ。人の命が消えてしまったならば、それは幽霊になると言えよう。けれども、誰にも見えていないのならばそれを確かめようがないのだけれど……」
「そうだ。きっとそうだ。……それはその通りなのだけれど」
「そうなのだけれど――ではなく、質問の本質が分かりかねる以上、話はしたくないね。これ以上展開したところでくだらない結末になるのは嫌だし」
「そんなことはないから安心しろ……。ぼくが言いたいのは、そんな哲学的なことではなくて、最終的には幽霊の話に持って行くから」
「未遂」
「……幽霊未遂の話に持って行くから。それで良いだろう? 異論は?」
「まあ、本当にそうなっていくのなら異論はないが……。だが、本当だろうね? ここまで話をしておいて、実はあんまり関係のない話だったら、流石に料金を請求するよ?」
何に対する料金なんだよ。
流石に訳が分からない。
「で、その幽霊とは何か――という質問と、幽霊未遂に何の関連性が?」
「つまり、ぼくが言いたいのは……幽霊が幽霊になってしまった状態とは何か? ということだ。きっと幽霊には誰にだってその状態があったはずだ。正確には訪れた、経験した、と言えば良いのかな……。いずれにせよ、その状態を経験して今に至るということは間違いないのだし」
「そりゃあ、そうだろうね。幽霊が幽霊たり得る理由は……命がないことだ。命がない、ということは何処かで死んでしまった、ということ……。それ以上でもそれ以下でもないね」
「命がなくなる瞬間を、永遠に繰り返している幽霊が居る……そう言ったとしたら?」
「ほう?」
食いついてきた。
というか、こいつはこうやって遠回りをしてじっくりと興味を持たせる方向に誘導していかないといけないのが面倒なんだよな……。何でこんなことを延々とし続けなければならないのか――なんて時折考えてしまうことも無きにしも非ずではあるけれど、考えたら負けである。
「繰り返している幽霊……それは即ち、地縛霊ということか?」
「地縛霊……そうかもしれないね。けれども、これがそういった類いであるかどうかは、まだ判別がつかないところだ」
「というと?」
食いつくとこいつはさっさと話を進めようとしたがる。
こっちが幾ら順序立てて話を進めようと画策していたって、関係ない。
困る反面、そこまで持って行けば後は話が楽なので、いかにここまで話を持って行くかが肝だと言える。全神経を使う――と言っても過言ではないかな。何せ、こいつとの話はえらく長いのは周知の事実ではあるけれど、それ以上に話を切るタイミングが掴みづらい。時折、そのタイミングが零に等しい時だって訪れるぐらいだ。はっきり言って、そんなタイミングで会話など出来る訳もなく、主導権はずっと神原が握ったままとなってしまう。
とはいえ、全てが全てそんな複雑な会話を続ける必要があるかと言われると、そんなことは全くないし、有り得ない。
神原の話をかなり長い間聞いているぼくだから出来る話であって、きっと他人には出来やしないだろう。それぐらいの自負がある。自負というよりはくだらないプライドと言っても差し支えないだろうけれどね。
「地縛霊かどうか判別がつかない、ということだが……。地縛霊というのは、どういった幽霊かは分かるだろう?」
「馬鹿にしているのか、ぼくを何だと思っている」
神原はそう言いながら、しかし求められていた回答をすらすらと話し始める。
「地縛霊というのは、文字通りその地に縛られる存在だ。それがどういった理由であるにせよ、その土地から紐解くことが出来るという大きなメリットがある。幽霊未遂を幽霊に仕立て上げ、そして天へと還ってもらう――そういったプロセスの上では、地縛霊というのはかなり有難い存在ではあるかな。何せ、本人が未練に感じていることが簡単に見つけやすいのだからね」
「そうだろう。そうだ、模範的な回答をどうも有難う」
「……人を小馬鹿にしているようだけれど、納得出来る話の展開を用意しているのだろうね?」
「ああ、用意しているよ。用意しているとも。……地縛霊は確かにその通りで、その土地に縛られている。ということは調査を続けていけば、やがてその存在が何者かが分かってくるはずだ」
「ああ、その通りだ。そんな簡単なことだって――」
「――だが、彼女はそれを幾ら調べても出てこなかった」
「……は?」
流石の神原も、その言葉の意味を理解したようだった。
何を言っているのか分からない、といった感じで目を丸くしている。
「……神原、ぼくは言っただろう? 地縛霊かどうかさえ分からない、と。それはそういったことなんだよ。地縛霊と判断するには、材料が少なすぎるんだ。幽霊未遂であることは間違いないし、何なら証拠だって多数ある。けれども、彼女が地縛霊である証拠もなければ未練も見つかりやしない。だから彼女は永遠に囚われたまま……」
「たーくん。つまり、その幽霊はずっと何かをしつけている――そう言いたいんだな?」
ああ、そうだよ。その通りだ。
「そうさ、そうなんだよ。そしてそれがきみの仕事。その謎を解き明かすのが……ね。永遠に飛び降り自殺を繰り返す、幽霊の謎を」
神原がうんざりとした表情でぼくにそう語った。ぼくだって好きでこんな面倒な話を続けている訳ではない――神原と話していく上では、きちんとした段取りをしておく必要があり、そのプロセスがやっと終わった。
だから、これからが本題。
これからが、主題だ。
「神原、お前は幽霊というのはどうやって生まれる物だと考える?」
「藪から棒に何だ? ……でもまあ、それにきちんと答えるとするならば、死んでしまったら幽霊になる――ということだ。人の命が消えてしまったならば、それは幽霊になると言えよう。けれども、誰にも見えていないのならばそれを確かめようがないのだけれど……」
「そうだ。きっとそうだ。……それはその通りなのだけれど」
「そうなのだけれど――ではなく、質問の本質が分かりかねる以上、話はしたくないね。これ以上展開したところでくだらない結末になるのは嫌だし」
「そんなことはないから安心しろ……。ぼくが言いたいのは、そんな哲学的なことではなくて、最終的には幽霊の話に持って行くから」
「未遂」
「……幽霊未遂の話に持って行くから。それで良いだろう? 異論は?」
「まあ、本当にそうなっていくのなら異論はないが……。だが、本当だろうね? ここまで話をしておいて、実はあんまり関係のない話だったら、流石に料金を請求するよ?」
何に対する料金なんだよ。
流石に訳が分からない。
「で、その幽霊とは何か――という質問と、幽霊未遂に何の関連性が?」
「つまり、ぼくが言いたいのは……幽霊が幽霊になってしまった状態とは何か? ということだ。きっと幽霊には誰にだってその状態があったはずだ。正確には訪れた、経験した、と言えば良いのかな……。いずれにせよ、その状態を経験して今に至るということは間違いないのだし」
「そりゃあ、そうだろうね。幽霊が幽霊たり得る理由は……命がないことだ。命がない、ということは何処かで死んでしまった、ということ……。それ以上でもそれ以下でもないね」
「命がなくなる瞬間を、永遠に繰り返している幽霊が居る……そう言ったとしたら?」
「ほう?」
食いついてきた。
というか、こいつはこうやって遠回りをしてじっくりと興味を持たせる方向に誘導していかないといけないのが面倒なんだよな……。何でこんなことを延々とし続けなければならないのか――なんて時折考えてしまうことも無きにしも非ずではあるけれど、考えたら負けである。
「繰り返している幽霊……それは即ち、地縛霊ということか?」
「地縛霊……そうかもしれないね。けれども、これがそういった類いであるかどうかは、まだ判別がつかないところだ」
「というと?」
食いつくとこいつはさっさと話を進めようとしたがる。
こっちが幾ら順序立てて話を進めようと画策していたって、関係ない。
困る反面、そこまで持って行けば後は話が楽なので、いかにここまで話を持って行くかが肝だと言える。全神経を使う――と言っても過言ではないかな。何せ、こいつとの話はえらく長いのは周知の事実ではあるけれど、それ以上に話を切るタイミングが掴みづらい。時折、そのタイミングが零に等しい時だって訪れるぐらいだ。はっきり言って、そんなタイミングで会話など出来る訳もなく、主導権はずっと神原が握ったままとなってしまう。
とはいえ、全てが全てそんな複雑な会話を続ける必要があるかと言われると、そんなことは全くないし、有り得ない。
神原の話をかなり長い間聞いているぼくだから出来る話であって、きっと他人には出来やしないだろう。それぐらいの自負がある。自負というよりはくだらないプライドと言っても差し支えないだろうけれどね。
「地縛霊かどうか判別がつかない、ということだが……。地縛霊というのは、どういった幽霊かは分かるだろう?」
「馬鹿にしているのか、ぼくを何だと思っている」
神原はそう言いながら、しかし求められていた回答をすらすらと話し始める。
「地縛霊というのは、文字通りその地に縛られる存在だ。それがどういった理由であるにせよ、その土地から紐解くことが出来るという大きなメリットがある。幽霊未遂を幽霊に仕立て上げ、そして天へと還ってもらう――そういったプロセスの上では、地縛霊というのはかなり有難い存在ではあるかな。何せ、本人が未練に感じていることが簡単に見つけやすいのだからね」
「そうだろう。そうだ、模範的な回答をどうも有難う」
「……人を小馬鹿にしているようだけれど、納得出来る話の展開を用意しているのだろうね?」
「ああ、用意しているよ。用意しているとも。……地縛霊は確かにその通りで、その土地に縛られている。ということは調査を続けていけば、やがてその存在が何者かが分かってくるはずだ」
「ああ、その通りだ。そんな簡単なことだって――」
「――だが、彼女はそれを幾ら調べても出てこなかった」
「……は?」
流石の神原も、その言葉の意味を理解したようだった。
何を言っているのか分からない、といった感じで目を丸くしている。
「……神原、ぼくは言っただろう? 地縛霊かどうかさえ分からない、と。それはそういったことなんだよ。地縛霊と判断するには、材料が少なすぎるんだ。幽霊未遂であることは間違いないし、何なら証拠だって多数ある。けれども、彼女が地縛霊である証拠もなければ未練も見つかりやしない。だから彼女は永遠に囚われたまま……」
「たーくん。つまり、その幽霊はずっと何かをしつけている――そう言いたいんだな?」
ああ、そうだよ。その通りだ。
「そうさ、そうなんだよ。そしてそれがきみの仕事。その謎を解き明かすのが……ね。永遠に飛び降り自殺を繰り返す、幽霊の謎を」
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