心霊探偵、神原語は仕事しない

巫夏希

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第三章 繰り返しの幽霊

第41話 夜の屋上1

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 夜を迎えた。こうも呆気なく迎えるのも、それはそれで悪くないものだ。

「呆気ないかどうかは置いておくとして、夜にも見に行ける……そう言ったのはたーくんだったよな?」

 だからってあの喫茶店で本当に夜まで時間を潰すとは思わなかった――だって、軽く二時間はあそこに居たぞ? 幾ら何でも、もっと他にやりようがあったような気がするけれど。

「別に良いだろ。例えばドリップコーヒー一杯だけで二時間過ごしているとかなら、流石に怒られても致し方ないのかもしれないけれど、僕ちゃんはきちんとメニューを注文しているじゃないか。だったら、別に良くないか?」
「良いのかもしれないけれど、流石にまあまあ混雑している中時間を潰すのは、ちょっと視線が痛かったよ……」

 食べ物を注文していたからとて、それを二時間かけてゆっくり食べることはあまりない。それはぼく達もその例に漏れず、大抵四十五分ぐらいで食べ終えてしまっていた。
 じゃあ、残りの一時間十五分は何をしていたかというと、コーヒーのおかわりを貰いつつ、適当に時間を潰していた。
 有意義な時間であるとは、はっきり言って言い難いものだった。
 当然と言えば、当然なのだけれどね。
 しかし、ぼくからしてみれば暇だったとはいえこうも時間を無駄に過ごすのは如何な物か、などと思ってもいた。それをこいつに言ったところで、きっと無駄なのかもしれないけれど。

「夜を迎えるまで時間を潰すのは、確かに大変だったよ……。けれども、それを成し遂げたことによって一歩前進したような気もする」
「それがどれぐらいの歩幅にもよるがな……。例えばムーンウォークぐらいの歩幅だったら、そこまでする価値はあったのか、などと思ってしまうような気がする……」
「ムーンウォークはほぼ歩いていないと言って良いのでは?」

 お、気付いたか。

「いや、気付いたとかどうこうの話ではなく……。僕ちゃんのことを小馬鹿にするのも如何かなと思っただけで」
「別に小馬鹿にしているつもりはないよ」
「そうかい? なら良いけれど」

 単純で助かる。これが小難しいことばかりを言っている小姑とかだったら、話が二重にも三重にも雁字搦めになって訳が分からなくなっていたな……。

「話を戻して良いかな?」
「どうぞ」

 まあ、脱線させていたのは主にぼくなのだけれど――それをクドクド言っても致し方ないし、話が何時までも進展しない。
 今ぼく達は夜の屋上を調査するために、再び屋上へと向かう扉、その前へとやってきていた。

「……じっとしているけれど、何か感じているのか?」
「感じている? 何を?」
「そうじゃないのか」
「霊気のことなら感じているけれど」
「感じているんじゃねえかよ」

 回りくどく話を進めないでもらいたいな。

「別に僕ちゃんのことについては報告義務はないしね。なかったはずだから、僕ちゃんは何も全てを言う必要はない、ってことだけれど――もしかしてそういう義務も契約に含まれていたかな? だとしたら違約金を払わないといけないか」

 違約金もねえし義務もねえよ。
 けれども、気になることがあるなら一言言ってくれても良いだろう。一応ビジネスパートナーでもあるのだし。

「ビジネスパートナー……ねえ。いや、失敬。別にそれを嘲笑うつもりはなかったよ。けれども、きみの口からそういう言葉が出るとは思わなかったよ、よもやバベルプログラムで学んだことを全て忘れてしまったとは言わないだろうね?」
「言わないし、言うこともないし。そもそもあそこで学んだことって……何かあったっけ? ふんわりとした目標を決められて、ふんわりとしたカリキュラムを受けて、手に入れることが出来なかったらまた今度、っていうのを繰り返していたんじゃなかったか?」

 まさに、スクラップアンドビルドとはこのことを言うのだろう――ぼくはそう思っていた。

「まあ、それがバベルプログラムでもあったからねえ……。僕ちゃんは色々と楽しかったけれどね、確かに渇いていた人間は居たに違いないよ。そうして渇きに潤いを与えるために、自ら進んでバベルプログラムを辞退した被験者だって居たらしいし」
「その被験者って――確か行方不明になっていなかったか? 一説には、薬を注射され廃人になってしまった……とも。失敗作を世に放つなら、たとえそれが非凡な人間であったとしても闇に葬り去る――それがバベルプログラムの掟だったと聞いたことがあるが」
「廃人にする必要があるかな? そんなに口封じがしたいならさっさと殺してしまえば良かったような気もするけれど。でも、何でそんなことをしようとしたのかな?」
「多分、見せしめ――だろうな。自分に逆らうとこうなるんだ……ってことをまざまざと見せつけたかったんだろう。そうすることで恐怖心を植え付け、従順になるように育てていたのだろうさ。けれども、そうはならなかった――バベルプログラムそのものが終焉を迎えたことで」
「……バベルプログラムは成功だったのかね、上の考えは分からないが」
「二度と生まれることはない、という趣旨だけを考えるならそれ相応だと思うけれどね。まさかそれを提唱していた制度がそうんるとは思いもしなかったのでしょうけれど」
「笑えるようで、笑えない冗談だな。全く」

 まあ、バベルプログラムについては二度と生まれることはない――そう言い切っても良いかもしれない。何せ、世界へのメリットが皆無なのだから。
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