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第三章 繰り返しの幽霊
第44話 離別2
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「……要は、ひとりぼっちだったんだろう?」
ぼくは呟いて、一歩前に進む。
闇だった物は、やがて拒絶するようにぼくの歩みを止めようとする。抵抗しているのだろうけれど――そんなことは分かり切っている。けれども、ぼくだってそれをそのまま押し切られたくはない。なぜならば、ぼくだって元の世界に戻らなければならないのだから。
でも、元の世界に戻る――と簡単に言ったところで、それが実現出来るとも思えないのも、事実だ。
現実はそんなに甘くないからね。
さりとて――現実を見なければならないのもまた事実。生きていく上では、絶対に無視出来ない代物だろう。
人間が弱くなるのは、現実を見ないからだ。
たとえ最悪で最弱な結末を迎えようとしても、きちんと現実を――前を見る人間には、救済が訪れる。そんなことを言うと、宗教じみてしまうのだけれどね。
「……ひとりぼっちだったから、人を巻き込みたかった。或いは話し相手が欲しかった……そういう感じだろう、違うか?」
きっと、答えはしないだろう。
きっと、反応しないだろう。
何故ならば、そこで何かしらの答えをするということは――自らを客観視出来てしまうということだからだ。
客観視出来てしまったならば、その幽霊の存在意義に関わることだろう。
何故なら幽霊というのは――未来がない、行き止まった存在だからだ。
行き止まった存在が、それを自覚してしまうと、自責の念に堪えられない――そう聞いたことがある。つまり、幽霊が幽霊であると自覚させてしまえば、後は自動的に成仏してくれる、というシステムなのだとか。一体誰がそんなシステムを構築したのかは定かではないけれど、しかし今はその人間に感謝をしようではないか――何故ならば、それによって一縷の希望が出てきたから、だ。
「……遊んでくれる?」
「遊ぶ?」
ちょっとばかし予想外の反応が出てきたので、ぼくは首を傾げた。
「遊ぶ……とはいったいどういうことだ? この空間はただの白――つまり、遊ぶも何も……」
「難しい?」
少女は首を傾げる。
幽霊が、幽霊である以上、前を進むことは出来ない――否、進みたくはない。つまりは、人間としての人生を終えてしまったということを、認識したくないがためのことなのだ。
「難しい……な。それは実現するのは出来ない、と思う。もしかしたらあの探偵ならば、実現出来たのかもしれないけれど――」
――そんなことを言ったって、先ずはここから脱出しないといけない。
どうする――と独りごちったところで、何も解決しやしない。
刻一刻と、事態は変わり続けていく。
一秒前に出来ていたことが、一秒後には出来なくなっていることだって、多々あることだろう――ならば、考えることは、たった一つ。
前に進め。
一つでも多くのアイディアを作り出せ。
百生み出したならば、そのうちの一つぐらいは――使えるアイディアはあるだろうから。
◇◇◇
たーくんが闇に囚われてしまった――ということを一言で片付けてしまうのも、それはそれで難儀といったところではある。けれども、難儀だからといって放置してしまうのもどうかしている……。考えを止めてしまっている、と言えば良いだろうか。
「たーくんがどうなっているのかどうか……。まあ、裏を返せばたーくんならば、問題はないと思っているけれど、そこまで単純でもないからなあ……」
そう、単純な出来事ではないことぐらい、分かっている。
分かっているけれど、難しい考えだ……。結論をそう簡単に導ける訳がない。
「どうすれば良い。どうすれば……」
思考が巡る。けれども、その答えが出てくるとは限らない。
「あれ? 何やっているのかな?」
声がした。
こんな場所に、夜更けにやってくるなんて誰だと思っていたが、振り返ると――ハッピーハッピー研究所の所長兼オーナーが立っていた。
「あなたは……確か……」
「つい数時間前に話した人間のことも忘れちゃった? だとしたらアンハッピーですね。記憶力を補強するために色々と頑張って下さい」
「いや、そんなことは……」
「ところでもう一人は? いやー、屋上で謎の光が見えたから調査してくれなんて言われちゃって、急いでやってきたよ。もう少し遅かったらナイトスクープに依頼出されちゃうところだった」
「いや、だから……」
「今、行き詰まっているんじゃないかい?」
「……っ!」
いきなり核心を突かれて、僕ちゃんは目を丸くした。
もしかしてずっとここに居たのか? ……いや、だとしたらさっきの台詞は辻褄が合わない。もしかしてこちらが気付く前からずっとここを調査していたとか……。
「何を勘違いしているのか知らないけれど、わたしはただのハッピーハッピー研究所の所長です。それ以上でもそれ以下でもありません。世の中にハッピーを伝えるために活動しているだけですから」
「……、」
うん、良くも悪くもさっきと同じだ。悪くないだろう。
「どうするべきか、決まったのかな? このままじゃ駄目だってことぐらいは……分かっていそうな感じがするけれど」
「やはり、ずっと見ていましたよね?」
「……嫌だなあ、きみだって忘れているんだろう? かつての同胞のことを」
「?」
かつての同胞?
ハッピーハッピー研究所の所長みたいな胡散臭い存在と付き合いがあった覚えはないと思うけれど……。ただまあ、僕ちゃんは物覚えは良い方ではない。自分にとって興味のないか殆どないようなことはすぽんと忘れてしまうので、良くたーくんに怒られるんだけれどね……。
「……わたしも昔は、ちょっち変わった組織に所属していてね。組織というよりかはプログラムと言えば良いのかな。あのプログラムは才能をよりよい方向に発達させる人間と開花させる人間が居たと思うけれど、わたしは後者だった」
「……まさか……」
その説明は聞いたことがあるし、話したことがあるし、何なら経験したことがある――それは、紛れもなくバベルプログラムのことだ。
「忘れちまったかい? かつての同胞のことを……。わたしはハッピーハッピー研究所の所長であり、占い師でもある……そしてかつてはバベルプログラムのメンバーでもある、占部紡です。忘れてしまったなら仕方なし! 改めてよろしくね!」
ぼくは呟いて、一歩前に進む。
闇だった物は、やがて拒絶するようにぼくの歩みを止めようとする。抵抗しているのだろうけれど――そんなことは分かり切っている。けれども、ぼくだってそれをそのまま押し切られたくはない。なぜならば、ぼくだって元の世界に戻らなければならないのだから。
でも、元の世界に戻る――と簡単に言ったところで、それが実現出来るとも思えないのも、事実だ。
現実はそんなに甘くないからね。
さりとて――現実を見なければならないのもまた事実。生きていく上では、絶対に無視出来ない代物だろう。
人間が弱くなるのは、現実を見ないからだ。
たとえ最悪で最弱な結末を迎えようとしても、きちんと現実を――前を見る人間には、救済が訪れる。そんなことを言うと、宗教じみてしまうのだけれどね。
「……ひとりぼっちだったから、人を巻き込みたかった。或いは話し相手が欲しかった……そういう感じだろう、違うか?」
きっと、答えはしないだろう。
きっと、反応しないだろう。
何故ならば、そこで何かしらの答えをするということは――自らを客観視出来てしまうということだからだ。
客観視出来てしまったならば、その幽霊の存在意義に関わることだろう。
何故なら幽霊というのは――未来がない、行き止まった存在だからだ。
行き止まった存在が、それを自覚してしまうと、自責の念に堪えられない――そう聞いたことがある。つまり、幽霊が幽霊であると自覚させてしまえば、後は自動的に成仏してくれる、というシステムなのだとか。一体誰がそんなシステムを構築したのかは定かではないけれど、しかし今はその人間に感謝をしようではないか――何故ならば、それによって一縷の希望が出てきたから、だ。
「……遊んでくれる?」
「遊ぶ?」
ちょっとばかし予想外の反応が出てきたので、ぼくは首を傾げた。
「遊ぶ……とはいったいどういうことだ? この空間はただの白――つまり、遊ぶも何も……」
「難しい?」
少女は首を傾げる。
幽霊が、幽霊である以上、前を進むことは出来ない――否、進みたくはない。つまりは、人間としての人生を終えてしまったということを、認識したくないがためのことなのだ。
「難しい……な。それは実現するのは出来ない、と思う。もしかしたらあの探偵ならば、実現出来たのかもしれないけれど――」
――そんなことを言ったって、先ずはここから脱出しないといけない。
どうする――と独りごちったところで、何も解決しやしない。
刻一刻と、事態は変わり続けていく。
一秒前に出来ていたことが、一秒後には出来なくなっていることだって、多々あることだろう――ならば、考えることは、たった一つ。
前に進め。
一つでも多くのアイディアを作り出せ。
百生み出したならば、そのうちの一つぐらいは――使えるアイディアはあるだろうから。
◇◇◇
たーくんが闇に囚われてしまった――ということを一言で片付けてしまうのも、それはそれで難儀といったところではある。けれども、難儀だからといって放置してしまうのもどうかしている……。考えを止めてしまっている、と言えば良いだろうか。
「たーくんがどうなっているのかどうか……。まあ、裏を返せばたーくんならば、問題はないと思っているけれど、そこまで単純でもないからなあ……」
そう、単純な出来事ではないことぐらい、分かっている。
分かっているけれど、難しい考えだ……。結論をそう簡単に導ける訳がない。
「どうすれば良い。どうすれば……」
思考が巡る。けれども、その答えが出てくるとは限らない。
「あれ? 何やっているのかな?」
声がした。
こんな場所に、夜更けにやってくるなんて誰だと思っていたが、振り返ると――ハッピーハッピー研究所の所長兼オーナーが立っていた。
「あなたは……確か……」
「つい数時間前に話した人間のことも忘れちゃった? だとしたらアンハッピーですね。記憶力を補強するために色々と頑張って下さい」
「いや、そんなことは……」
「ところでもう一人は? いやー、屋上で謎の光が見えたから調査してくれなんて言われちゃって、急いでやってきたよ。もう少し遅かったらナイトスクープに依頼出されちゃうところだった」
「いや、だから……」
「今、行き詰まっているんじゃないかい?」
「……っ!」
いきなり核心を突かれて、僕ちゃんは目を丸くした。
もしかしてずっとここに居たのか? ……いや、だとしたらさっきの台詞は辻褄が合わない。もしかしてこちらが気付く前からずっとここを調査していたとか……。
「何を勘違いしているのか知らないけれど、わたしはただのハッピーハッピー研究所の所長です。それ以上でもそれ以下でもありません。世の中にハッピーを伝えるために活動しているだけですから」
「……、」
うん、良くも悪くもさっきと同じだ。悪くないだろう。
「どうするべきか、決まったのかな? このままじゃ駄目だってことぐらいは……分かっていそうな感じがするけれど」
「やはり、ずっと見ていましたよね?」
「……嫌だなあ、きみだって忘れているんだろう? かつての同胞のことを」
「?」
かつての同胞?
ハッピーハッピー研究所の所長みたいな胡散臭い存在と付き合いがあった覚えはないと思うけれど……。ただまあ、僕ちゃんは物覚えは良い方ではない。自分にとって興味のないか殆どないようなことはすぽんと忘れてしまうので、良くたーくんに怒られるんだけれどね……。
「……わたしも昔は、ちょっち変わった組織に所属していてね。組織というよりかはプログラムと言えば良いのかな。あのプログラムは才能をよりよい方向に発達させる人間と開花させる人間が居たと思うけれど、わたしは後者だった」
「……まさか……」
その説明は聞いたことがあるし、話したことがあるし、何なら経験したことがある――それは、紛れもなくバベルプログラムのことだ。
「忘れちまったかい? かつての同胞のことを……。わたしはハッピーハッピー研究所の所長であり、占い師でもある……そしてかつてはバベルプログラムのメンバーでもある、占部紡です。忘れてしまったなら仕方なし! 改めてよろしくね!」
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