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悪霊悪戯には玩具を添えて
■悪霊悪戯には玩具を添えて_05
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「いまのグッズッて豊富だよな。色々試したく……ぁあッ! オイ首輪も買ッただろ! 忘れてた!」
ロキは広いベッドを見渡して、慌てて放置されている鈴付きの首輪を小指に吊るして拾い上げた。
「兄様。もういい」
「うっ――ふ、ァ、あ……いいの?」
「んーん、良くない。揃えてあるならトコトンしてーの」
「?」
「半端な猫チャンに飲ませるのはやだッてこと。首輪するから身体起こせ」
「うん……分かった」
ナオは薄い笑みで承諾し、丸めていた背を伸ばす。
喉を撫でて欲しい猫を模倣してロキへと急所を晒した。キスマークの乱雑した首筋を汗が滑り落ちていく。
ロキはローションボトルをナオの手に握らせるとプレイ用だと一目で分かる首輪を白い首に巻きつけた。
「なんなら、喋るのもニャーだけにするか?」
赤い首輪に金の鈴。
飾られた鈴を指先で弾けば、濁りのある安っぽい音色が響いた。
「ロキがしたいならいいよ」
「兄様は優しいな」
「ロキの兄様だからね」
「ん?」
「?」
ロキは首輪に人差し指を掛けてナオの顔をしっかと覗く。
ナオは唾液と先走りでてらつく唇でぎごちなく微笑み、光のない隠微な双眼でロキを見返した。
「にーさま?」
「うん? うん。兄様だよ」
「ふーん……」
いつもは自分を『お兄ちゃん』と称するナオがロキにつられて『兄様』と自分を呼んだ。どうやら落ち着いてきたのかと思いきや、薬の作用が変化しただけらしい。
元々精神的に壊れており、自我も希薄なのでナオは性欲というものをまともに持ち合わせていない。ロキが教えなければ自慰すら永遠に知らないままだったろう。ゆえに、兄は薬で感度を上げても中々乱れ切らない。
こればかりは仕方がないのだが教え込めば知識として吸収し、こうしてそこらの娼婦より巧みに振る舞い、こうしてそこらの男娼よりも下準備の手際が良い。
ならば発情期の猫ほど乱して鳴かせるのも勉強の一環として良いだろうと熟慮する。
発情期の猫の鳴き声は煩いが、眼前の黒猫はいくら啼かせても楽しい。
なにより、二人揃って明日の仕事はお休みだ。
「はぁ……っ」
ナオの呼吸はが細くなったり荒くなったりと波があるが、扇情的に上擦ったままなのは変わらない。
身体とともに眼球を時折ふらつかせて、かと思えば唐突に朧げな黒い焦点を鋭く合わせてどこでもないどこかを凝視する。表面に変化が現れても根本的な薬の作用は変わらず、強制的な覚醒状態は持続している様子。
心は欲に希薄でも神経の通った身体は反応しないわけではなく、むしろ自我が薄い分快楽を叩き込めば叩き込むほど兄の身体は愚直に反応する。が、やりすぎるとナオは精神のほうがついていけずにひきつけに似た奇異な硬直を起こす。なので遊ぶ時は予定を確認しながら加減を調整しているのだが、覚醒状態ならば無茶をさせても強制的にナオが落ちることはないかとロキはいままでの経験から予想した。
SNOW PIGEONの系列店には薬物セックスの為のホテルがある。そちらと異なり雪鳩には自殺防止の内装は施されていないが、兄が薬物に溺れて命を絶つことは絶対に有り得ず、ロキ自身は直に薬物を服用する気もない。
折角のハロウィンなのだから悪戯をしても良いだろうとロキは自己解決する。
「兄様。ハロウィンの合言葉はご存知?」
「Trick or Treat……だよね?」
「良くできました。お菓子あげるからその前に自分でローション使ッて解しな。すぐ出来るだろ?」
「うん。来る前にお風呂入ったよ」
「俺も一緒に入りたかッた」
「ロキは寝てたから」
「次は起こせよ」
「時間ギリギリまで寝たいって言ってなかった?」
「兄様と風呂入るほうが大事。見てるのも楽しーの」
拗ねた口調を強めてロキはナオの額に自分の額をぶつけた。
通常時はひんやりとしている体温の低い兄の額は逆上せたように熱い。身の内はもっと煮立っているだろう。
「分かった。次はちゃんと起こすね」
「兄様。優しい。キスで起こせよ」
「舌は入れる?」
「勿論」
ロキが突き飛ばすように首輪から指を離せば、圧迫感から解放されたナオは深呼吸を三度した。黒い眼差しを持たされたローションボトルへと下げる。
「飲んでみる? ミルク味だと」
ボトルの中身を指差してロキが歯を見せれば、飲んだほうが弟が喜ぶと判断したらしいナオがコップの水でも呷る手付きでボトルを傾け「あー! 飲まなくていい飲まなくていい」
豪快なやり方にロキはすかさずボトルの口を鷲掴んで制止した。
ぱちり。と、ナオが瞬きをひとつ。
「いいの?」
「いいの」
神経系に刺激を受けているせいでぼやけながらも散瞳している黒眼に苦笑して、ロキはナオの手からローションボトルを奪い取った。
その手に中身を滴らせる。ナオの左手の薬指に嵌められたままの指輪が淡い乳白色に包まれた。
「やッぱ超精液」
ローションを水遊びでもする手付きでにちゃにちゃと指に纏わせるナオの手元を見てロキは呟いた。
「ん? まだ出してないよね?」
「早く出してーから指突ッ込みな」
「うん」
半端な四つん這いでベッドを這い、ロキは照明スイッチが並ぶベッドボードの空きスペースに中身の残るボトルを置く。
ベッドはハロウィン仕立てでシーツにオバケの顔の刺繍が施されており、スイッチにはコウモリやカボチャのシールが貼ってあった。備え付けのスキンの隣にはゾンビの指人形が直立している。
兄と遊ぶ際に部屋の照明を落とすなどしないが、ロキは気まぐれに明かりを調整。室内がやんわりと薄暗くなり、ベッドボードの両サイドに付属されているライトだけがとろんとした蜂蜜色の光を強めた。
「たまにはありか? ハロウィンだし」
小さなゾンビを人差し指で弾いて床に飛ばすとロキはケラケラと笑い兄へ注意を戻した。
「あッ、にーさまちょーかーわいーい」
軽く腰を持ち上げ、両膝でベッドに立つナオにロキは声音を弾ませた。上着の裾を口で咥え、濃厚にベトついた指で自分で解すナオを眺めたままロキは手の生えたオバケ枕をベッドボードに立て寄り掛かる。
片脚を立てると膝に肘を乗せ、姿勢悪く頬杖をついた。
「兄様」
「ッ――ふぅ……ん、っ?」
「俺が寝てた時も風呂でそーやッて一人で準備してたわけ?」
「ん……」
ナオが頷く。耳が揺れ、鈴が鳴った。
ふうふう……と一旦は落ち着き出した呼吸がまた目に見えて荒くなり、上着を噛む歯の隙間から涎が零れる。
背筋を震わせ、肩を跳ねさせ、熱っぽく呻きながらも指を蠢かして淫らに粘ついた水音を奏でるナオをロキは楽しく鑑賞する。
穏やかな弧を描いたふたつのミントグリーンに含まれる事情は柔らかな愛情でも昂る欲情でもなく、自分の作った作品の完成度に満足している――まさに自画自賛と称するものだった。
ロキは広いベッドを見渡して、慌てて放置されている鈴付きの首輪を小指に吊るして拾い上げた。
「兄様。もういい」
「うっ――ふ、ァ、あ……いいの?」
「んーん、良くない。揃えてあるならトコトンしてーの」
「?」
「半端な猫チャンに飲ませるのはやだッてこと。首輪するから身体起こせ」
「うん……分かった」
ナオは薄い笑みで承諾し、丸めていた背を伸ばす。
喉を撫でて欲しい猫を模倣してロキへと急所を晒した。キスマークの乱雑した首筋を汗が滑り落ちていく。
ロキはローションボトルをナオの手に握らせるとプレイ用だと一目で分かる首輪を白い首に巻きつけた。
「なんなら、喋るのもニャーだけにするか?」
赤い首輪に金の鈴。
飾られた鈴を指先で弾けば、濁りのある安っぽい音色が響いた。
「ロキがしたいならいいよ」
「兄様は優しいな」
「ロキの兄様だからね」
「ん?」
「?」
ロキは首輪に人差し指を掛けてナオの顔をしっかと覗く。
ナオは唾液と先走りでてらつく唇でぎごちなく微笑み、光のない隠微な双眼でロキを見返した。
「にーさま?」
「うん? うん。兄様だよ」
「ふーん……」
いつもは自分を『お兄ちゃん』と称するナオがロキにつられて『兄様』と自分を呼んだ。どうやら落ち着いてきたのかと思いきや、薬の作用が変化しただけらしい。
元々精神的に壊れており、自我も希薄なのでナオは性欲というものをまともに持ち合わせていない。ロキが教えなければ自慰すら永遠に知らないままだったろう。ゆえに、兄は薬で感度を上げても中々乱れ切らない。
こればかりは仕方がないのだが教え込めば知識として吸収し、こうしてそこらの娼婦より巧みに振る舞い、こうしてそこらの男娼よりも下準備の手際が良い。
ならば発情期の猫ほど乱して鳴かせるのも勉強の一環として良いだろうと熟慮する。
発情期の猫の鳴き声は煩いが、眼前の黒猫はいくら啼かせても楽しい。
なにより、二人揃って明日の仕事はお休みだ。
「はぁ……っ」
ナオの呼吸はが細くなったり荒くなったりと波があるが、扇情的に上擦ったままなのは変わらない。
身体とともに眼球を時折ふらつかせて、かと思えば唐突に朧げな黒い焦点を鋭く合わせてどこでもないどこかを凝視する。表面に変化が現れても根本的な薬の作用は変わらず、強制的な覚醒状態は持続している様子。
心は欲に希薄でも神経の通った身体は反応しないわけではなく、むしろ自我が薄い分快楽を叩き込めば叩き込むほど兄の身体は愚直に反応する。が、やりすぎるとナオは精神のほうがついていけずにひきつけに似た奇異な硬直を起こす。なので遊ぶ時は予定を確認しながら加減を調整しているのだが、覚醒状態ならば無茶をさせても強制的にナオが落ちることはないかとロキはいままでの経験から予想した。
SNOW PIGEONの系列店には薬物セックスの為のホテルがある。そちらと異なり雪鳩には自殺防止の内装は施されていないが、兄が薬物に溺れて命を絶つことは絶対に有り得ず、ロキ自身は直に薬物を服用する気もない。
折角のハロウィンなのだから悪戯をしても良いだろうとロキは自己解決する。
「兄様。ハロウィンの合言葉はご存知?」
「Trick or Treat……だよね?」
「良くできました。お菓子あげるからその前に自分でローション使ッて解しな。すぐ出来るだろ?」
「うん。来る前にお風呂入ったよ」
「俺も一緒に入りたかッた」
「ロキは寝てたから」
「次は起こせよ」
「時間ギリギリまで寝たいって言ってなかった?」
「兄様と風呂入るほうが大事。見てるのも楽しーの」
拗ねた口調を強めてロキはナオの額に自分の額をぶつけた。
通常時はひんやりとしている体温の低い兄の額は逆上せたように熱い。身の内はもっと煮立っているだろう。
「分かった。次はちゃんと起こすね」
「兄様。優しい。キスで起こせよ」
「舌は入れる?」
「勿論」
ロキが突き飛ばすように首輪から指を離せば、圧迫感から解放されたナオは深呼吸を三度した。黒い眼差しを持たされたローションボトルへと下げる。
「飲んでみる? ミルク味だと」
ボトルの中身を指差してロキが歯を見せれば、飲んだほうが弟が喜ぶと判断したらしいナオがコップの水でも呷る手付きでボトルを傾け「あー! 飲まなくていい飲まなくていい」
豪快なやり方にロキはすかさずボトルの口を鷲掴んで制止した。
ぱちり。と、ナオが瞬きをひとつ。
「いいの?」
「いいの」
神経系に刺激を受けているせいでぼやけながらも散瞳している黒眼に苦笑して、ロキはナオの手からローションボトルを奪い取った。
その手に中身を滴らせる。ナオの左手の薬指に嵌められたままの指輪が淡い乳白色に包まれた。
「やッぱ超精液」
ローションを水遊びでもする手付きでにちゃにちゃと指に纏わせるナオの手元を見てロキは呟いた。
「ん? まだ出してないよね?」
「早く出してーから指突ッ込みな」
「うん」
半端な四つん這いでベッドを這い、ロキは照明スイッチが並ぶベッドボードの空きスペースに中身の残るボトルを置く。
ベッドはハロウィン仕立てでシーツにオバケの顔の刺繍が施されており、スイッチにはコウモリやカボチャのシールが貼ってあった。備え付けのスキンの隣にはゾンビの指人形が直立している。
兄と遊ぶ際に部屋の照明を落とすなどしないが、ロキは気まぐれに明かりを調整。室内がやんわりと薄暗くなり、ベッドボードの両サイドに付属されているライトだけがとろんとした蜂蜜色の光を強めた。
「たまにはありか? ハロウィンだし」
小さなゾンビを人差し指で弾いて床に飛ばすとロキはケラケラと笑い兄へ注意を戻した。
「あッ、にーさまちょーかーわいーい」
軽く腰を持ち上げ、両膝でベッドに立つナオにロキは声音を弾ませた。上着の裾を口で咥え、濃厚にベトついた指で自分で解すナオを眺めたままロキは手の生えたオバケ枕をベッドボードに立て寄り掛かる。
片脚を立てると膝に肘を乗せ、姿勢悪く頬杖をついた。
「兄様」
「ッ――ふぅ……ん、っ?」
「俺が寝てた時も風呂でそーやッて一人で準備してたわけ?」
「ん……」
ナオが頷く。耳が揺れ、鈴が鳴った。
ふうふう……と一旦は落ち着き出した呼吸がまた目に見えて荒くなり、上着を噛む歯の隙間から涎が零れる。
背筋を震わせ、肩を跳ねさせ、熱っぽく呻きながらも指を蠢かして淫らに粘ついた水音を奏でるナオをロキは楽しく鑑賞する。
穏やかな弧を描いたふたつのミントグリーンに含まれる事情は柔らかな愛情でも昂る欲情でもなく、自分の作った作品の完成度に満足している――まさに自画自賛と称するものだった。
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