これは私の物語

笹乃笹世

文字の大きさ
20 / 613
一章 村からの脱出

17

しおりを挟む
「――じゃあ出発の日、買いにきますね!」

 苛立ちをグッと堪えながら笑顔で答える。
 ――貰ったんだからもう私のお金。 カケラだってムダ使いしない!

「ぇ、出発、かい?」
「そんないいパン、買って帰ったら明日には無くなっちゃいそうで……」

 わざとらしいほど恥ずかしそうに答えた。
 ――今日の分のパンはあるんだよ。 カチカチだけどね!
 優先すべきは塩! そして護身用の刃物! チーズと干し肉も追加したいところだけど……どうせ足元見られるんだろうなぁ……
 そう内心で肩を落としていると、目の前に大きなパンが差し出された。
 それは店で一番大きく、面倒な飾り模様がびっしりと入ったパンで、比較的裕福なご家庭の方々が好んで買っていくパンだった。

「持ってけ」
「え……?」
「試しだ。 いつもみてぇに売れ残りばっかりじゃウチの味もろくにわかんねぇだろ」

 ……その売れ残りしか売ってくれないのが、お隣にいる奥様なんですけどね?

「――金はいらねぇよ。 持って帰って弟たちに食わしてやんな」
「……良いんですか? ――ありがとうございます!」

 奴隷にしてやると手ぐすね引いている相手から受ける親切を、心底気持ち悪く思いながら貼り付けた愛想笑い、それがちゃんとごまかせる程度のものになっているのか、それが1番不安だった。



「――ああ、良かったダリア! 会えないかと思ったよ」

 色々持たされたパン屋からの帰り道、小屋が見えてきたところで、薬屋のオババが杖をつきながら急足で近づいてきた。

「あ、お師匠様。 なにか御用ですか?」

 ――この人はある意味で村長よりも厄介なご老人だ。
 自称錬金術師のオババで、魔物よけや痛み止め、ポーションと呼ばれる薬なんかをを売っている薬屋の店主。
 そして……呼びかける時は“お師匠様”と言わないと反応すら返してくれない厄介な御仁だ。 ちなみにこのかた、錬金術師どころか、ちゃんとした教育を受けた薬師でもない。
 若い頃に薬師の元に修行に出たはいいが、他の弟子たちとの折り合いが悪く出奔。 自称薬師として、見よう見まねで作ったポーションがほんの少しの効力を発揮したがために運良く薬師として認められ、今ではこんな辺鄙な田舎ではあるものの、錬金術師の大先生様だともてはやされ満足してる。 
 ――そして事あるごとに、この話を自慢話として語って下さるという、本当に変わった感性の御仁なのだ。

「――いやね? 今まで散々世話になったダリアが引っ越すと聞いてね?」

 ……アンタもかい。

「ほらこれ持っておいき!」

 そう言って渡されたのは、たくさんの魔物よけで――ってこれ、ほとんど私がほぐしたやつじゃん!
 アンタやアンタの弟子――娘や孫が私にばっかり押し付けるから、あの店のほとんどの魔物よけは私が作ったものだよ!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

敏腕SEの優しすぎる無償の愛

春咲さゆ
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した祭りは、雨の夜に終わりを願う。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。

アンジェリーヌは一人じゃない

れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。 メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。 そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。 まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。 実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。 それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。 新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。 アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。 果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。 *タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*) (なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)

隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として三国の王女を貰い受けました

しろねこ。
恋愛
三国から攻め入られ、四面楚歌の絶体絶命の危機だったけど、何とか戦を終わらせられました。 つきましては和平の為の政略結婚に移ります。 冷酷と呼ばれる第一王子。 脳筋マッチョの第二王子。 要領良しな腹黒第三王子。 選ぶのは三人の難ありな王子様方。 宝石と貴金属が有名なパルス国。 騎士と聖女がいるシェスタ国。 緑が多く農業盛んなセラフィム国。 それぞれの国から王女を貰い受けたいと思います。 戦を仕掛けた事を後悔してもらいましょう。 ご都合主義、ハピエン、両片想い大好きな作者による作品です。 現在10万字以上となっています、私の作品で一番長いです。 基本甘々です。 同名キャラにて、様々な作品を書いています。 作品によりキャラの性格、立場が違いますので、それぞれの差分をお楽しみ下さい。 全員ではないですが、イメージイラストあります。 皆様の心に残るような、そして自分の好みを詰め込んだ甘々な作品を書いていきますので、よろしくお願い致します(*´ω`*) カクヨムさんでも投稿中で、そちらでコンテスト参加している作品となりますm(_ _)m 小説家になろうさん、ネオページさんでも掲載中。

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。 父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。 無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。 純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

【完結】本物の聖女は私!? 妹に取って代わられた冷遇王女、通称・氷の貴公子様に拾われて幸せになります

Rohdea
恋愛
───出来損ないでお荷物なだけの王女め! “聖女”に選ばれなかった私はそう罵られて捨てられた。 グォンドラ王国は神に護られた国。 そんな“神の声”を聞ける人間は聖女と呼ばれ、聖女は代々王家の王女が儀式を経て神に選ばれて来た。 そして今代、王家には可愛げの無い姉王女と誰からも愛される妹王女の二人が誕生していた…… グォンドラ王国の第一王女、リディエンヌは18歳の誕生日を向かえた後、 儀式に挑むが神の声を聞く事が出来なかった事で冷遇されるようになる。 そして2年後、妹の第二王女、マリアーナが“神の声”を聞いた事で聖女となる。 聖女となったマリアーナは、まず、リディエンヌの婚約者を奪い、リディエンヌの居場所をどんどん奪っていく…… そして、とうとうリディエンヌは“出来損ないでお荷物な王女”と蔑まれたあげく、不要な王女として捨てられてしまう。 そんな捨てられた先の国で、リディエンヌを拾ってくれたのは、 通称・氷の貴公子様と呼ばれるくらい、人には冷たい男、ダグラス。 二人の出会いはあまり良いものではなかったけれど─── 一方、リディエンヌを捨てたグォンドラ王国は、何故か謎の天変地異が起き、国が崩壊寸前となっていた…… 追記: あと少しで完結予定ですが、 長くなったので、短編⇒長編に変更しました。(2022.11.6)

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

お転婆令嬢は、大好きな騎士様に本性を隠し通す

湊一桜
恋愛
侯爵令嬢クロエは、二度も婚約破棄をされた。彼女の男勝りで豪快な性格のせいである。 それに懲りたクロエは、普段は令嬢らしく振る舞い、夜には”白薔薇”という偽名のもと大暴れして、憂さ晴らしをしていた。 そんな彼女のもとに、兄が一人の騎士を連れてきた。 彼の名はルーク、別名”孤高の黒薔薇”。その冷たい振る舞いからそう呼ばれている。 だが実は、彼は女性が苦手であり、女性に話しかけられるとフリーズするため勘違いされていたのだ。 兄は、クロエとルークのこじらせっぷりに辟易し、二人に”恋愛の特訓”を持ちかける。 特訓を重ねるうちに、二人の距離は少しずつ近付いていく。だがクロエは、ルークに”好きな人”がいることを知ってしまった…… 恋愛なんてこりごりなのに、恋をしてしまったお転婆令嬢と、実は優しくて一途な騎士が、思い悩んで幸せになっていくお話です。

処理中です...