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「イルメラ嬢、時間だ」
一通りの治療を終え、そこそこの時間になった頃、治療室の入口からエド様が現れ、声をかけてきた。
「あ、はーい! じゃあお先でーす‼︎」
言いながらサササッと、荷物をまとめると、小走りにエド様の元へと急ぐ。
ここでご厄介になってからもうすぐ1ヶ月強、最初のほうこそ、侯爵家のご令嬢という事で遠巻きにされていたけど、挨拶の徹底と基本は笑顔ってことを心がけていたからなのか、なんとかハブっ子にはならずにすんでいる。
あとはこの職場に、ほかの女の子が全くいないってのも要因の一つなのかな?
私のようなジミ顔でも、女の子ってだけで優しくしてもらえている。
エド様にもこんな風に気をつかってもらってるしね!
「お疲れ様でしたー」
入口の前に立ち、まだ作業を続けている、先輩方や師匠に声をかける。
「ああ。 明日は討伐日だーー忘れてくれるなよ?」
手を上げつつおざなりに応えた師匠が、何かを思い出したような顔つきになって、私に念を押してくる。
「はーい! 爺の好きな、だし巻き卵たくさん作ってくるねー」
私はその念押しが面白くて、ふふっと笑いながらヒラヒラと手を振りながら応えた。
明日はここではなく、屋外で仕事する予定になっていた。
その為、師匠ーーというか、ここの治癒師たち全員が、自分の食べ物を自分で用意する決まりになっているのだったが、いつだったか私が持ってきたお弁当を味見した爺が、その味をいたく気に入り、明日のように食べ物を用意するような場合は、弟子なのだから……と、私に用意させるようになっていたのだ。
……ついでに言うと、師匠のお弁当を用意するようになってすぐ、先輩方からも先輩の分を……という圧力をかけられる、今では全員分のおかずを持参するハメになっている。
ーーって言っても、私も屋敷の料理長に「明日の分よろしくお願いしますね」と、お願いをするだけなんだけどー。
最初は自分で作ってたけど、さすがに
あの量は時間かかるし、調理場を独占するわけにもいかないし……
今となっては、こうして安請け合いするだけの実に簡単なお仕事だ。
ーーうちの料理長が作った方が断然早くて断然美味しいし……
「おうよ! いやー、あれには目がなくてなぁー?」
パウロ爺がそう言いながらも、エド様にチラリと目配せし、ニヤリと笑いかけながら言った。
……何よそのアイコンタクトは?
自慢なの? ……いや、エド様は伯爵様なんだから、その辺の騎士たちみたいに、だし巻き卵羨ましがったりしないってって……
子供みたいなことすんなし。
ーーほら見ろー。
エド様も、ちょっと、もにょった顔になっちゃったじゃないかー。
「ーーあー……お時間があればエド様も味見しにきてください。 ……ーー余るほど作ってきますので……」
「ーーそうか……? ……では、そうだな、時間があればうかがおう」
少し視線を揺らしながら答えるエド様。
あっ……これ、気を使わせてしまったヤツなのでは……?
ーー忙しかったら来なくてもええんやで……?
余計なこと言ってしまってすまんの……
そんな話題を切り上げるかのように咳払いしたエド様が、私をエスコートするために手を差し出す。
その手に自分の手を重ねて、私はみんなよりも一足早く職場を後にしたのだった。
ーーこの職場のなにが凄いって、イケメン伯爵の送り迎え付きって事ですよ……!
しかもキチンとしたエスコート付きでっ!
エド様が忙しい時は執事のセストさんの時もあるんだけど、セストさんだって普通にイケメンだし、なによりあの人はリップサービスがお上手だから……
このご褒美がずっと続くなら、イルメラお休みなんていらない。 ずっとずっとお仕事する!
◇
「ーー師匠、先程の話 本当なんですかね……?」
イルメラの帰った処置室。
その中には今、多くの治癒師達が集められていた。
パウロはついさっきイルメラから聞いた話を要約して、短い言葉で簡潔に説明していく。
脊髄などという言葉は、長く医療の現場で活躍してパウロでさえも聞いたことが無かったからだ。
その知識の元が侯爵家なのか、貴族たちの受ける教育によるものなのかは不明だが、自分が知らない言葉を、自分が一人前にしてきた弟子たちに教えた所で、誰も理解できるわけがないと考えた為だ。
「分からん。 だが、これが本当なら怪我でくすぶってる奴らを救い上げてやれる。 ーー場所は背骨の中の筋だ。 首から下まで全て直してこいっ」
「ーーはいっ!」
師匠の言葉に、集められた治癒師達は声をそろえ一斉に返事を返した。
「ーーそれとセストにそろそろ給料上げるように言ってこい。 この中の誰よりも強い力で、あの知識……ーーそれで見習いと同じ給料? そんな前例なんて作らせんじゃねぇ!」
「ーーですよね⁉︎」
師匠の言葉を聞いた、まだ年若い治癒師たちは、顔を青ざめさせながら互いに顔を見合わせ合うと、我先に部屋を飛び出していった。
(イルメラさんを基準にされたら、僕の給料ずっと据え置きにされる⁉︎)
などと、考えながら。
一通りの治療を終え、そこそこの時間になった頃、治療室の入口からエド様が現れ、声をかけてきた。
「あ、はーい! じゃあお先でーす‼︎」
言いながらサササッと、荷物をまとめると、小走りにエド様の元へと急ぐ。
ここでご厄介になってからもうすぐ1ヶ月強、最初のほうこそ、侯爵家のご令嬢という事で遠巻きにされていたけど、挨拶の徹底と基本は笑顔ってことを心がけていたからなのか、なんとかハブっ子にはならずにすんでいる。
あとはこの職場に、ほかの女の子が全くいないってのも要因の一つなのかな?
私のようなジミ顔でも、女の子ってだけで優しくしてもらえている。
エド様にもこんな風に気をつかってもらってるしね!
「お疲れ様でしたー」
入口の前に立ち、まだ作業を続けている、先輩方や師匠に声をかける。
「ああ。 明日は討伐日だーー忘れてくれるなよ?」
手を上げつつおざなりに応えた師匠が、何かを思い出したような顔つきになって、私に念を押してくる。
「はーい! 爺の好きな、だし巻き卵たくさん作ってくるねー」
私はその念押しが面白くて、ふふっと笑いながらヒラヒラと手を振りながら応えた。
明日はここではなく、屋外で仕事する予定になっていた。
その為、師匠ーーというか、ここの治癒師たち全員が、自分の食べ物を自分で用意する決まりになっているのだったが、いつだったか私が持ってきたお弁当を味見した爺が、その味をいたく気に入り、明日のように食べ物を用意するような場合は、弟子なのだから……と、私に用意させるようになっていたのだ。
……ついでに言うと、師匠のお弁当を用意するようになってすぐ、先輩方からも先輩の分を……という圧力をかけられる、今では全員分のおかずを持参するハメになっている。
ーーって言っても、私も屋敷の料理長に「明日の分よろしくお願いしますね」と、お願いをするだけなんだけどー。
最初は自分で作ってたけど、さすがに
あの量は時間かかるし、調理場を独占するわけにもいかないし……
今となっては、こうして安請け合いするだけの実に簡単なお仕事だ。
ーーうちの料理長が作った方が断然早くて断然美味しいし……
「おうよ! いやー、あれには目がなくてなぁー?」
パウロ爺がそう言いながらも、エド様にチラリと目配せし、ニヤリと笑いかけながら言った。
……何よそのアイコンタクトは?
自慢なの? ……いや、エド様は伯爵様なんだから、その辺の騎士たちみたいに、だし巻き卵羨ましがったりしないってって……
子供みたいなことすんなし。
ーーほら見ろー。
エド様も、ちょっと、もにょった顔になっちゃったじゃないかー。
「ーーあー……お時間があればエド様も味見しにきてください。 ……ーー余るほど作ってきますので……」
「ーーそうか……? ……では、そうだな、時間があればうかがおう」
少し視線を揺らしながら答えるエド様。
あっ……これ、気を使わせてしまったヤツなのでは……?
ーー忙しかったら来なくてもええんやで……?
余計なこと言ってしまってすまんの……
そんな話題を切り上げるかのように咳払いしたエド様が、私をエスコートするために手を差し出す。
その手に自分の手を重ねて、私はみんなよりも一足早く職場を後にしたのだった。
ーーこの職場のなにが凄いって、イケメン伯爵の送り迎え付きって事ですよ……!
しかもキチンとしたエスコート付きでっ!
エド様が忙しい時は執事のセストさんの時もあるんだけど、セストさんだって普通にイケメンだし、なによりあの人はリップサービスがお上手だから……
このご褒美がずっと続くなら、イルメラお休みなんていらない。 ずっとずっとお仕事する!
◇
「ーー師匠、先程の話 本当なんですかね……?」
イルメラの帰った処置室。
その中には今、多くの治癒師達が集められていた。
パウロはついさっきイルメラから聞いた話を要約して、短い言葉で簡潔に説明していく。
脊髄などという言葉は、長く医療の現場で活躍してパウロでさえも聞いたことが無かったからだ。
その知識の元が侯爵家なのか、貴族たちの受ける教育によるものなのかは不明だが、自分が知らない言葉を、自分が一人前にしてきた弟子たちに教えた所で、誰も理解できるわけがないと考えた為だ。
「分からん。 だが、これが本当なら怪我でくすぶってる奴らを救い上げてやれる。 ーー場所は背骨の中の筋だ。 首から下まで全て直してこいっ」
「ーーはいっ!」
師匠の言葉に、集められた治癒師達は声をそろえ一斉に返事を返した。
「ーーそれとセストにそろそろ給料上げるように言ってこい。 この中の誰よりも強い力で、あの知識……ーーそれで見習いと同じ給料? そんな前例なんて作らせんじゃねぇ!」
「ーーですよね⁉︎」
師匠の言葉を聞いた、まだ年若い治癒師たちは、顔を青ざめさせながら互いに顔を見合わせ合うと、我先に部屋を飛び出していった。
(イルメラさんを基準にされたら、僕の給料ずっと据え置きにされる⁉︎)
などと、考えながら。
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