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◇
――蓮歌山。
17、18歳ほどの少女が、白い息を吐きながら二匹の飛竜――フェイロン――と共に、ミカヅキと呼ばれる黄色いアケビのような実を採取していた。
祖母譲りの桃色がかった髪をかんざし一本で器用にまとめ上げ、金色の瞳をキラキラと輝かせながら、大きく背伸びをしてミカヅキを採取していく。
「んっ、これまだ酸っぱい!」
つまみ食いをして顔をしかめた少女に、ミカヅキのつるを咥え少女が取りやすいようにと手伝いをしていたフェイロンたちが、キューキューと抗議の声をあげながら突撃していく。
「いや、美味しくなかったんだってば!」
じゃれついてくるフェイロンたちを手で退けながら、言い訳するように少女は言うが、それを二匹の連携で掻い潜り、ギューギューとさらに声を大きくする。
それでも自分たちの口にミカヅキが入らないと判断したフェイロンたちは、今度は頭突きを繰りだし激しく抗議し始めた。
「ぅっ……分かった、分かったってば! ……半分ずつね?」
激突された腹を押さえながら、少女は困ったように笑うと、フェイロンたちに話しかけた。
その言葉を理解したのか、フェイロンたちは瞳を輝かせ、よだれを垂らしながら期待のこもった眼差しで少女を見つめる。
そんな二匹の様子にクスクスと笑い、少女は持っていたミカヅキに軽く妖力を通してその黄色い皮に切れ込みを入れる。
――妖力。
それは通常、人間が持ちえない力だった。
そしてそれこそが、少女の先祖に龍族がいる証であり、少女が人間のくくりからは少し外れる存在であることの証明に他ならなかった。
「はい、どーぞ」
少女がミカヅキの実をむき出して、1口ずつ口に入れてやると、二匹は嬉しそうにパタパタと空中を飛び、その場でくるくると回転しながら喜んだ。
「これ、実をジャムにしてもいいし、皮んトコも天ぷらが美味しいんだよねー。 たくさん取って帰ろうね!」
まだまだたわわに実っているミカヅキを見上げながら言った少女に、二匹のフェイロンは「キュー!」「キュッキュッ!」と、賛成するようにコクコクと頷きながらキラキラと口元を輝かせた。
この二匹のフェイロンはまだまだ子供だったが、それでも人間の何倍も重いものを運ぶことができた。
少女は食べきれないほどの大量のミカヅキを取り終えると、フェイロンの背中にカゴごとくくりつけ、家へと続く道を軽い足取りで進んでいった。
「あ、香茸だ! キノコ汁とかあったまっていいよねぇー。 鍋も美味しいし!」
獣道のような道を行く少女は、木の根元、落ち葉の下に隠れるように生えている香茸を発見し、しゃがみ込みながら嬉しそうに言う。
そんな少女にまとわりつき、なにかをねだるようにキューキューと甘えるような高い声を出し始めるフェイロンたち。
「キノコは火を通してからですぅー」
あしらうように言いながら、ぶちぶちと香茸を採取して行く少女。
しかし、フェイロンたちは諦めることなく、少女にまとわりつき頭をグリグリ押し付けその邪魔をする。
「今すぐやめないとキノコ無しにするからね⁉︎」
少女に一喝され、フェイロンたちは、キュー……と、悲しげな声をあげ、シッポを丸めてうなだれた。
しかし、チラチラと少女を眺めては、チラチラとかごの中のミカヅキに視線を送る。
どうやら、キノコの代わりをよこせと訴えているようだった。
「……もー、ハイハイ。 1口ずつだからね」
呆れたように言いながら、少女はカゴの中からミカヅキを取り出す。
それを見て、フェイロンたちはキュー! キュッキュッ! と、はしゃぐように少女の周りを飛び回る。
その口にミカヅキを入れてやりながら、少女は呆れたように肩をすくめるのだった。
「ミカズキ落とさないように気をつけてよー」
香茸を取り終え家へと続く道を再び歩き始めた少女。
その背中にカゴを付け、頭上でじゃれ合いを始めたフェイロンたちに声をかける。
言った瞬間、カゴから落ちたミカズキが、少女の頭めがけて転がり落ちてきて――
「――イテッ」
フェイロンたちは少女から叱られる前に、我先にと少女に愛想を振りまくのだった。
――蓮歌山。
17、18歳ほどの少女が、白い息を吐きながら二匹の飛竜――フェイロン――と共に、ミカヅキと呼ばれる黄色いアケビのような実を採取していた。
祖母譲りの桃色がかった髪をかんざし一本で器用にまとめ上げ、金色の瞳をキラキラと輝かせながら、大きく背伸びをしてミカヅキを採取していく。
「んっ、これまだ酸っぱい!」
つまみ食いをして顔をしかめた少女に、ミカヅキのつるを咥え少女が取りやすいようにと手伝いをしていたフェイロンたちが、キューキューと抗議の声をあげながら突撃していく。
「いや、美味しくなかったんだってば!」
じゃれついてくるフェイロンたちを手で退けながら、言い訳するように少女は言うが、それを二匹の連携で掻い潜り、ギューギューとさらに声を大きくする。
それでも自分たちの口にミカヅキが入らないと判断したフェイロンたちは、今度は頭突きを繰りだし激しく抗議し始めた。
「ぅっ……分かった、分かったってば! ……半分ずつね?」
激突された腹を押さえながら、少女は困ったように笑うと、フェイロンたちに話しかけた。
その言葉を理解したのか、フェイロンたちは瞳を輝かせ、よだれを垂らしながら期待のこもった眼差しで少女を見つめる。
そんな二匹の様子にクスクスと笑い、少女は持っていたミカヅキに軽く妖力を通してその黄色い皮に切れ込みを入れる。
――妖力。
それは通常、人間が持ちえない力だった。
そしてそれこそが、少女の先祖に龍族がいる証であり、少女が人間のくくりからは少し外れる存在であることの証明に他ならなかった。
「はい、どーぞ」
少女がミカヅキの実をむき出して、1口ずつ口に入れてやると、二匹は嬉しそうにパタパタと空中を飛び、その場でくるくると回転しながら喜んだ。
「これ、実をジャムにしてもいいし、皮んトコも天ぷらが美味しいんだよねー。 たくさん取って帰ろうね!」
まだまだたわわに実っているミカヅキを見上げながら言った少女に、二匹のフェイロンは「キュー!」「キュッキュッ!」と、賛成するようにコクコクと頷きながらキラキラと口元を輝かせた。
この二匹のフェイロンはまだまだ子供だったが、それでも人間の何倍も重いものを運ぶことができた。
少女は食べきれないほどの大量のミカヅキを取り終えると、フェイロンの背中にカゴごとくくりつけ、家へと続く道を軽い足取りで進んでいった。
「あ、香茸だ! キノコ汁とかあったまっていいよねぇー。 鍋も美味しいし!」
獣道のような道を行く少女は、木の根元、落ち葉の下に隠れるように生えている香茸を発見し、しゃがみ込みながら嬉しそうに言う。
そんな少女にまとわりつき、なにかをねだるようにキューキューと甘えるような高い声を出し始めるフェイロンたち。
「キノコは火を通してからですぅー」
あしらうように言いながら、ぶちぶちと香茸を採取して行く少女。
しかし、フェイロンたちは諦めることなく、少女にまとわりつき頭をグリグリ押し付けその邪魔をする。
「今すぐやめないとキノコ無しにするからね⁉︎」
少女に一喝され、フェイロンたちは、キュー……と、悲しげな声をあげ、シッポを丸めてうなだれた。
しかし、チラチラと少女を眺めては、チラチラとかごの中のミカヅキに視線を送る。
どうやら、キノコの代わりをよこせと訴えているようだった。
「……もー、ハイハイ。 1口ずつだからね」
呆れたように言いながら、少女はカゴの中からミカヅキを取り出す。
それを見て、フェイロンたちはキュー! キュッキュッ! と、はしゃぐように少女の周りを飛び回る。
その口にミカヅキを入れてやりながら、少女は呆れたように肩をすくめるのだった。
「ミカズキ落とさないように気をつけてよー」
香茸を取り終え家へと続く道を再び歩き始めた少女。
その背中にカゴを付け、頭上でじゃれ合いを始めたフェイロンたちに声をかける。
言った瞬間、カゴから落ちたミカズキが、少女の頭めがけて転がり落ちてきて――
「――イテッ」
フェイロンたちは少女から叱られる前に、我先にと少女に愛想を振りまくのだった。
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