5 / 15
序章
序章⑤
しおりを挟む
花の香りがする。耳をすませば、小鳥の囀り。ああ、もう少しだけ、寝かせて欲しいのに。
小さく体を動かしたからだろうか。こつんと何かにぶつかる感覚がした。
「んん?…あれ、」
自分の声が不思議な音を立てる。試しにもう一度声をあげてみるが、記憶にある自分の声よりも幾分か低くなっているようだ。小首を傾げて、ゆっくりと思考に耽る。ここはどこなのだろう。何か、箱のようなものに閉じ込められているらしい。…なぜ?そのヒントを得るために、必死になって考えを巡らせた。
そこでふと、意識を失う直前の出来事を思い出す。落ちる星、崩れる家屋、涙をこぼすにいさま。ふるりと身体が震えた。
…もしかせずとも、自分は、死んでしまったのだろうか?
だとしたら、ここは天国とかいう場所なのだろう。自分の声がおかしいのも、もしかすると天界と地上では空気の伝わり方が違うのだという可能性もある。だが、そんな場所ならもっと広いところに安置してほしいものだ。さっきから狭い場所に押し込められているようで、身体中が痛くて仕方ない。がさごそと寝返りを打とうとするも、箱のあちこちに身体がぶつかって音を立てている。瞼を開いても一面真っ暗で、何も分かりやしない。ああ、なんだか苛立ってきた。箱であるならどこかに蓋があるはず。全身を思い切り伸ばして、うまい具合にぶつかった拍子で開いたりしないだろうか。一念発起して両手両足をバタバタと動かそうと————
「待って待って止まって!起きたならちょっと待ってったら!」
突然、眼前の闇が晴れた。そこにあったのは、見覚えのあるサファイアだ。この【見覚え】は自分ではなく、過去の、要するに前世の自分であるわけだが。
「ユーゴ、」
「おはよう!半信半疑だったけど、本当に目覚めるなんて思ってもみなかった!」
ふわり、と抱きしめられて理解する。現在の自分の記憶の中よりも、ずっとずっと成長した姿。そして、過去の自分がゲームグラフィックで飽きるほど見た、【リュカとユーゴの自宅】の風景。これは、多分。
「もしかして、わたし、生きてるの。」
「そう!もう目が覚めないかと思った!」
「…あれから、どのくらい、」
「だいたい5年!兄さんが全然諦めないし、僕にも君にも家族愛通り越してなんかもうよくわかんない執着心見せるし、僕が出る予定だった旅にまで横入りしてきて大変で…って、言ってもわからないだろうから、もう少し待ってて!旅に出てる兄さんに文を出すから!そこに僕用のビスケットがあるから食べてていいよ!じゃね!」
まるで竜巻のような勢いで捲し立ててユーゴは去っていった。随分と元気になったものだ。身体の問題が解決してくれたことは、友人として喜ばしい。あとでお祝いをしなくては。まだ完全には起ききっていない身体の調子を見ながらゆっくりと立ち上がって———ちょっと待て。聞こえるべきではなかった内容が聞こえてきたような気がするが?
もう一度彼の言葉を反芻する。言っていた。確かに言っていた。【僕が出るはずだった旅に横入りしてきて】【旅に出ている兄さん】。もしかして、いや、もしかしなくても、これは。
「本編、始まっちゃった…?」
のんびりと二度寝を決め込んでいる間に、どうやらとんでもない時間が過ぎていたようだ。彼の生死を決めるカウントダウンは、今、確実に進んでしまっている。
なんだかよくわからないけれど、自分は生き残ってしまったらしい。しかも、あのゲームの本編の時間軸で!あの日の天啓がまた降り注ぐ。これは、好機だ。これこそまさしく天啓だ。私は彼が生き残るためにできることをすべてしなければならない。具体的に言えば、勇者との仲をとりもたなければならないわけである。
乾いたビスケットを噛み砕く。すまない前世の友人さん。あなたの推しは永久離脱はするけれど死ぬわけじゃあないので。人間の生死がかかっているんだ。やっぱり命の方が大切だよねありがとう!
「絶対、リュカ兄様の死だけは、認めないんだから…!」
冷め切った紅茶を飲み干して、一人小さく声に出す。勇者がどういう世界を目指していようが、運命に阻まれようが、シナリオ的に死んだキャラがいる方が燃えない?と言われようが関係ない。私は私の推しを生き残らせるためにこれからの人生を使うのだ。
まずは、まあ、そうだな。とりあえず、兄様と仲良くすることで生まれるメリットを書き記すことから始めようか。
小さく体を動かしたからだろうか。こつんと何かにぶつかる感覚がした。
「んん?…あれ、」
自分の声が不思議な音を立てる。試しにもう一度声をあげてみるが、記憶にある自分の声よりも幾分か低くなっているようだ。小首を傾げて、ゆっくりと思考に耽る。ここはどこなのだろう。何か、箱のようなものに閉じ込められているらしい。…なぜ?そのヒントを得るために、必死になって考えを巡らせた。
そこでふと、意識を失う直前の出来事を思い出す。落ちる星、崩れる家屋、涙をこぼすにいさま。ふるりと身体が震えた。
…もしかせずとも、自分は、死んでしまったのだろうか?
だとしたら、ここは天国とかいう場所なのだろう。自分の声がおかしいのも、もしかすると天界と地上では空気の伝わり方が違うのだという可能性もある。だが、そんな場所ならもっと広いところに安置してほしいものだ。さっきから狭い場所に押し込められているようで、身体中が痛くて仕方ない。がさごそと寝返りを打とうとするも、箱のあちこちに身体がぶつかって音を立てている。瞼を開いても一面真っ暗で、何も分かりやしない。ああ、なんだか苛立ってきた。箱であるならどこかに蓋があるはず。全身を思い切り伸ばして、うまい具合にぶつかった拍子で開いたりしないだろうか。一念発起して両手両足をバタバタと動かそうと————
「待って待って止まって!起きたならちょっと待ってったら!」
突然、眼前の闇が晴れた。そこにあったのは、見覚えのあるサファイアだ。この【見覚え】は自分ではなく、過去の、要するに前世の自分であるわけだが。
「ユーゴ、」
「おはよう!半信半疑だったけど、本当に目覚めるなんて思ってもみなかった!」
ふわり、と抱きしめられて理解する。現在の自分の記憶の中よりも、ずっとずっと成長した姿。そして、過去の自分がゲームグラフィックで飽きるほど見た、【リュカとユーゴの自宅】の風景。これは、多分。
「もしかして、わたし、生きてるの。」
「そう!もう目が覚めないかと思った!」
「…あれから、どのくらい、」
「だいたい5年!兄さんが全然諦めないし、僕にも君にも家族愛通り越してなんかもうよくわかんない執着心見せるし、僕が出る予定だった旅にまで横入りしてきて大変で…って、言ってもわからないだろうから、もう少し待ってて!旅に出てる兄さんに文を出すから!そこに僕用のビスケットがあるから食べてていいよ!じゃね!」
まるで竜巻のような勢いで捲し立ててユーゴは去っていった。随分と元気になったものだ。身体の問題が解決してくれたことは、友人として喜ばしい。あとでお祝いをしなくては。まだ完全には起ききっていない身体の調子を見ながらゆっくりと立ち上がって———ちょっと待て。聞こえるべきではなかった内容が聞こえてきたような気がするが?
もう一度彼の言葉を反芻する。言っていた。確かに言っていた。【僕が出るはずだった旅に横入りしてきて】【旅に出ている兄さん】。もしかして、いや、もしかしなくても、これは。
「本編、始まっちゃった…?」
のんびりと二度寝を決め込んでいる間に、どうやらとんでもない時間が過ぎていたようだ。彼の生死を決めるカウントダウンは、今、確実に進んでしまっている。
なんだかよくわからないけれど、自分は生き残ってしまったらしい。しかも、あのゲームの本編の時間軸で!あの日の天啓がまた降り注ぐ。これは、好機だ。これこそまさしく天啓だ。私は彼が生き残るためにできることをすべてしなければならない。具体的に言えば、勇者との仲をとりもたなければならないわけである。
乾いたビスケットを噛み砕く。すまない前世の友人さん。あなたの推しは永久離脱はするけれど死ぬわけじゃあないので。人間の生死がかかっているんだ。やっぱり命の方が大切だよねありがとう!
「絶対、リュカ兄様の死だけは、認めないんだから…!」
冷め切った紅茶を飲み干して、一人小さく声に出す。勇者がどういう世界を目指していようが、運命に阻まれようが、シナリオ的に死んだキャラがいる方が燃えない?と言われようが関係ない。私は私の推しを生き残らせるためにこれからの人生を使うのだ。
まずは、まあ、そうだな。とりあえず、兄様と仲良くすることで生まれるメリットを書き記すことから始めようか。
0
あなたにおすすめの小説
目覚めたら大好きなアニメの悪役令嬢でしたが、嫌われないようにしただけなのに全員から溺愛されています
月影みるく
恋愛
目を覚ましたら、大好きだったアニメの世界。
しかも私は、未来で断罪される運命の悪役令嬢になっていた。
破滅を回避するために決めたことはただ一つ――
嫌われないように生きること。
原作知識を頼りに穏やかに過ごしていたはずなのに、
なぜか王族や騎士、同年代の男女から次々と好意を向けられ、
気づけば全員から溺愛される状況に……?
世界に一人しかいない光属性を持つ悪役令嬢が、
無自覚のまま運命と恋を変えていく、
溺愛必至の異世界転生ラブファンタジー。
拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました
星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎
王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝――
路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。
熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。
「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」
甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。
よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、
気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて――
しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!?
「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」
年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。
ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。
記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?
一途に愛した1周目は殺されて終わったので、2周目は王子様を嫌いたいのに、なぜか婚約者がヤンデレ化して離してくれません!
夢咲 アメ
恋愛
「君の愛が煩わしいんだ」
婚約者である王太子の冷たい言葉に、私の心は砕け散った。
それから間もなく、私は謎の襲撃者に命を奪われ死んだ――はずだった。
死の間際に見えたのは、絶望に顔を歪ませ、私の名を叫びながら駆け寄る彼の姿。
……けれど、次に目を覚ました時、私は18歳の自分に戻っていた。
「今世こそ、彼を愛するのを辞めよう」
そう決意して距離を置く私。しかし、1周目であれほど冷酷だった彼は、なぜか焦ったように私を追いかけ、甘い言葉で縛り付けようとしてきて……?
「どこへ行くつもり? 君が愛してくれるまで、僕は君を離さないよ」
不器用すぎて愛を間違えたヤンデレ王子×今世こそ静かに暮らしたい令嬢。
死から始まる、執着愛の二周目が幕を開ける!
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます
ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。
前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。
社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。
けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。
家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士――
五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。
遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。
異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。
女性希少世界で、自分の幸せを選べるようになるまでの逆ハーレム恋愛ファンタジー。
悪役令嬢は死んで生き返ってついでに中身も入れ替えました
蒼黒せい
恋愛
侯爵令嬢ミリアはその性格の悪さと家の権威散らし、散財から学園内では大層嫌われていた。しかし、突如不治の病にかかった彼女は5年という長い年月苦しみ続け、そして治療の甲斐もなく亡くなってしまう。しかし、直後に彼女は息を吹き返す。病を克服して。
だが、その中身は全くの別人であった。かつて『日本人』として生きていた女性は、異世界という新たな世界で二度目の生を謳歌する… ※同名アカウントでなろう・カクヨムにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる