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温泉の街 プラーミア
第二話④
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プラーミアは、観光業で成り立っている街の一つである。ゲーム内に出てくる観光地は掃いて捨てるほどあるのだが、プレイヤーが強い思い入れをもつ観光地、となると名前の上がる率はグンとあがる。それだけ制作者が力を入れて作ったグラフィックやBGMだったわけだけれど、実際に歩き回ってみると、そういった面白みというものは消えてしまうものである。
「まあ、そもそも音楽なんて聞こえないしね。」
「何か言った?」
「なんでもない。」
屋台で売られていたお饅頭を口に放り投げて飲み込んだ。正式名称は【お饅頭】ではないのだろうけれど、別次元の記憶が邪魔をしてどうしても【お饅頭】と認識してしまう。もちもちとした食感と、少ししょっぱい味がじわりと口の中に残っていた。
「王都とはまた違った活気があって面白いね。」
「そうなの。」
「ああ、そっか。アンジュは王都歩いたことないんだよねえ。もったいないことさせちゃったな。」
少し前なら、別にゲームで知っていると一蹴していた。けれど、このBGMもなく、グラフィック特有のかくつきもない世界で息をしていると、実際の様子を見てみたかったという欲が湧いてくるものだ。まあ、いずれ戻ることにはなるのだから焦る必要はないのだけれど。
「アンジュ、喉渇かない?」
「そうね。ちょっとお散歩は休憩にしましょうか。」
「じゃあ、僕お水買ってくるから。少しここで待っていて。」
食べないでね、なんて念押しして私に甘味を押し付ける。これは食べてほしいということなのだろうか。そう思ってじいと眺めていると、鈴のような彼の声に止められる。
「言っておくけど、フリじゃないから。」
「残念。」
「あとで好きなだけ買ってあげるから。僕のは残しておいてよね!」
小さくなる背中を見送りながら、久しぶりにエピソードの整理をすることにした。グラフィックとは離れがちな街並みを見まわす。兄様と勇者が出会うのは、いったいこの街のどの辺りだったのだろうか。ゲームの世界だと見当たらなかった建物が並んでいるからよくわからない。確か街の中心の辺りが舞台だった気がする。そうなると、今いるこのあたりも該当するのだろうか。
「聖地巡礼、なんてわけにもいかないものね。」
今はとにかく情報が欲しい。あの人が死なずに済む、幸せになるための情報。どうしたものかと思考を巡らせていると、ふと肩に何か当たったようだ。
「わ、」
「す、すみません。ノーヴァ、杖の扱いには気をつけろって先生にも言われたろ。」
「わかっているわよ!…ごめんなさい、怪我はないかしら。」
いかにも魔女と冒険者です、といった風貌の二人づれが心配そうにこちらを眺めている。どうやらぶつかったのは、彼女の杖のようだった。
「だ、大丈夫です。こちらこそ、ぼんやりしていてごめんなさい。」
「いやいや、この騒がしさだとぼんやりもしちゃいますよね。僕らも今さっきここについたばっかりでーーー」
顔を、見た。
見慣れた、けれども直接みるのは初めての顔である。
「ゆうしゃ、」
わたしが名前を呼ぼうとしたその刹那、今度は別方向から肩を引かれた。なんなんだ、今日は肩になにか憑いているのか。
「あんじゅ、?」
振り向きざまに見えたのは、私が愛してやまなかった、エメラルド。
ちょっとまて、もしかしなくても、今ってイベント中ですか?
「まあ、そもそも音楽なんて聞こえないしね。」
「何か言った?」
「なんでもない。」
屋台で売られていたお饅頭を口に放り投げて飲み込んだ。正式名称は【お饅頭】ではないのだろうけれど、別次元の記憶が邪魔をしてどうしても【お饅頭】と認識してしまう。もちもちとした食感と、少ししょっぱい味がじわりと口の中に残っていた。
「王都とはまた違った活気があって面白いね。」
「そうなの。」
「ああ、そっか。アンジュは王都歩いたことないんだよねえ。もったいないことさせちゃったな。」
少し前なら、別にゲームで知っていると一蹴していた。けれど、このBGMもなく、グラフィック特有のかくつきもない世界で息をしていると、実際の様子を見てみたかったという欲が湧いてくるものだ。まあ、いずれ戻ることにはなるのだから焦る必要はないのだけれど。
「アンジュ、喉渇かない?」
「そうね。ちょっとお散歩は休憩にしましょうか。」
「じゃあ、僕お水買ってくるから。少しここで待っていて。」
食べないでね、なんて念押しして私に甘味を押し付ける。これは食べてほしいということなのだろうか。そう思ってじいと眺めていると、鈴のような彼の声に止められる。
「言っておくけど、フリじゃないから。」
「残念。」
「あとで好きなだけ買ってあげるから。僕のは残しておいてよね!」
小さくなる背中を見送りながら、久しぶりにエピソードの整理をすることにした。グラフィックとは離れがちな街並みを見まわす。兄様と勇者が出会うのは、いったいこの街のどの辺りだったのだろうか。ゲームの世界だと見当たらなかった建物が並んでいるからよくわからない。確か街の中心の辺りが舞台だった気がする。そうなると、今いるこのあたりも該当するのだろうか。
「聖地巡礼、なんてわけにもいかないものね。」
今はとにかく情報が欲しい。あの人が死なずに済む、幸せになるための情報。どうしたものかと思考を巡らせていると、ふと肩に何か当たったようだ。
「わ、」
「す、すみません。ノーヴァ、杖の扱いには気をつけろって先生にも言われたろ。」
「わかっているわよ!…ごめんなさい、怪我はないかしら。」
いかにも魔女と冒険者です、といった風貌の二人づれが心配そうにこちらを眺めている。どうやらぶつかったのは、彼女の杖のようだった。
「だ、大丈夫です。こちらこそ、ぼんやりしていてごめんなさい。」
「いやいや、この騒がしさだとぼんやりもしちゃいますよね。僕らも今さっきここについたばっかりでーーー」
顔を、見た。
見慣れた、けれども直接みるのは初めての顔である。
「ゆうしゃ、」
わたしが名前を呼ぼうとしたその刹那、今度は別方向から肩を引かれた。なんなんだ、今日は肩になにか憑いているのか。
「あんじゅ、?」
振り向きざまに見えたのは、私が愛してやまなかった、エメラルド。
ちょっとまて、もしかしなくても、今ってイベント中ですか?
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