魔王と呼ばれた勇者、或いは勇者と呼ばれた魔王 〜最強の魔剣で自由に生きる! 金も女も、国さえも思いのまま!! …でも何かが違うみたいです

ちありや

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第117話 冤罪

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 自身の身を佩いていた剣で貫いたヨアンナさんは、その場で力尽き仰向けに倒れた。
 目の光は既に無く、今からではティリティアが到着しても回復魔法は効果を顕さないだろう。

「ヨアンナ!」

 叫び声を聞きつけたのだろう、ミア姫が部屋から飛び出してこちらに駆け寄ってきた。
 現場には胸元を真っ赤に染めて事切れたヨアンナさんと血に塗れた彼女の剣、そして立ち尽くす俺だ。

 王女様はこの状況に息を呑み口元を押さえて固まってしまった。やがて体を小刻みに震わせながら、俺に向けて何やら問いかける様な、咎める様な視線を送ってきた。

 これ完全に『俺がヨアンナさんを殺した』みたいな構図だよね? 逃げる前に「賊です!」とか言ってたもんね。

 ヨアンナさんは叫び声を上げる前に、露骨に悪役チックな悪そうな笑顔を浮かべていた。まるで「罠に掛かったな馬鹿め」とでも言いたそうに……。

 これはつまりガドゥの目的が、ヨアンナさんを使ってミア姫を暗殺する事ではなく、事態収拾に向かった『俺』に冤罪を着せて動きを封じる事だったのか…?

 ガドゥは自分が俺達に追われている事を知っているし、追跡を撹乱する為に幾つもの小細工を用意していた。バルジオンの城まで俺達がやってくる事も想定済みだろう。

 ここで俺が殺人事件を起こして逮捕されたなら、ガドゥは俺の邪魔を気にせず王様や王女様を暗殺出来るだろうし、俺が逮捕を逃れようと暴れ出したら、その混乱を突いてガドゥ本人や別の『駒』を動かせる……。

 クソッ、どうにもガドゥ相手だと行動が後手後手に回る… むしろ対ガドゥ限定で策謀神の加護が弱体化している様にすら感じられる。

 まぁ今の問題はヨアンナさんの死体に縋って号泣しているミア姫の対応だよな。

「あの、王女様…」

 とりあえず肩でも触れてやれば『魅了』の力で落ち着かせる位は出来るかな? と思って手を伸ばす。
 その気配を感じたのか、王女様は俺の手が触れる直前に顔を上げ、怒りと悲しみに満ちた目で俺を睨みつけた。

「一体なぜ…? ヨアンナが貴方に何をしたと言うのです…? いくら貴方でも非道すぎます…」

「ミア姉様、それは違いますわ。ヨアンナさんは敵の術にかかって自ら身罷みまかられたのです…」

 俺を詰問しようとするミア姫だったが、ようやく追いついたティリティアに止められる。
 今の状況で王女様を説得できるのはティリティアしか居ないだろう。

 妊婦をあちこち連れ回すのは正直心苦しいのだが、今に限って言うならティリティアを帯同してきて良かった。本当に良かった……。

 そう言うなりティリティアはヨアンナさんの腕の手甲を外し始める。チャロアイトの記憶が確かなら、左右どちらかの腕にウルカイザーで見た『呪印』とも呼べる様な紋様があるはずだ。

 当事者の俺が上手く動けないのに、話を伝え聞いただけのティリティアが何とも手早く動いてくれている。本当に(以下略)。

「これです! この紋様は『人を操る邪悪な魔法使い』による邪法であり、わたくし達はその警告の為にやってきたのです…」

 ヨアンナさんの左手首、ちょうど腕時計を内側に向けて付けているみたいな感じで、直径2cm程の小さな入れ墨があり、ティリティアはそこを指し示す。

 ウソじゃ無くて良かった、本当にあったよ紋様。ウルカイザーで見たものと同じかどうかは断言できないけど、よく似ているのは間違いない。
 まぁヨアンナさんが俺を視認してからの不可解な行動は、まさに「何者かに操られている」と言って過言では無かったろう。

 ちょうどその頃、騒ぎを聞きつけた衛兵が武器を手にワラワラと走り寄ってくる。

 足元に血溜まりが出来る程に出血して倒れているヨアンナさんとそれに縋るミア王女。そして王城に居るのが相応しくない俺達ふしんしゃ2名。

 どう贔屓目に見ても俺がミア王女に狼藉を働こうと城に潜入し、王女様を守ろうとしたヨアンナさんを刺殺したシーンだよな。
 そしてヨアンナさんを殺されてショックを受けた王女様を殺すべく、俺とティリティアの2人で手を下そうとしている場面にしか見えないだろう。

 もう夜と呼んで良い時間、俺達は招かれて正面から入った客では無く、裏の秘密の通路から侵入してきた。ヨアンナさんが叫んだ様に、端から見たら俺達は『賊』としか表現しようがない。

 どうする? どうする? どうする…? 目の前の人達はみな味方で、城で暴れるのはどうやってもNGだ。かと言って「実はヨアンナさんが操られてて、ミア姫を助けに来たんすよ…」等と言っても通じそうな雰囲気じゃない……。

 王女様はティリティアの言葉を理解しきれていないのか「???」という顔を隠さないし、ティリティアは王女様を説得しようと更に何やら説明している。

 俺が何を言っても、その言葉に衛兵達は耳を貸さないだろうし、衛兵は男ばかりで俺の『魅了』も役に立たない。

 チャロアイトは城の外での活動の指揮を執っているだろうからこちらに助け舟は出せない。
 城の中には魔法使いのリーナさんや大司教のライクさんも居ない。

 こりゃ完全に詰んだか…? まさかガドゥはここまで読んで、ミア姫を暗殺する機会を放棄してまで俺を罠に掛けたとでもいうのか…?

「おぉ? よりにもよって貴様か小僧! どういうつもりか申し開きがあるなら、この俺が聞いてやらんでも無いぞ?!」

 狭まる包囲網に絶望して剣を抜きそうになっていた俺を助けてくれたのは、久々の登場である城の衛兵隊長にして王族の親衛隊隊長である鬼族オーガのゴルツさんだった……。
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