魔王と呼ばれた勇者、或いは勇者と呼ばれた魔王 〜最強の魔剣で自由に生きる! 金も女も、国さえも思いのまま!! …でも何かが違うみたいです

ちありや

文字の大きさ
46 / 120

第47話 蛇

しおりを挟む
「これが世界を跨ぐ蛇ヨルムンガンドって奴かな…?」

 さすがにそこまで大きくはないが、ついつい思ったことを口に出してしまう。クロニア達には意味が通じていないみたいだが、まぁ別にいいか。
 蛇とは言うが、その正体は紫色のガス状の細い塊だ。確かにあれでは普通の剣や弓の攻撃が通るとは思えない。新調したクロニアやべルモの武器でもそれは然りだ。

 蛇の体を構成しているガス状の気体は毒性が強いらしく、奴の通った跡は植物が枯れ、人間がそのガスを吸い込むと肺が灼けて胸を患うそうだ。現に奴と戦ったベルモの部下のうち何人かは、肺炎に近い症状で伏せっているらしい。
 話を聞くだけでどれだけ厄介な相手か想像できる。
  
 奴への攻撃に魔法か、或いは魔法を付与した武器が必要ならば、俺達のパーティならば奴にダメージを与えられるのは俺だけになるし、他のパーティでも全員がダメージソースになれるかどうかも極めて怪しい。
 最悪何も出来ずに敗退、または全滅まであり得る作戦だ。
 
「そんじゃあ司令官様、一発子宮に響く様なカッチョいい号令を頼むよ」

 ベルモのからかうような声に背中を押され、盟下の3パーティに指令を下すべく振り返った。
 慣れない指揮官仕草が地味に疲れる。大体『子宮に響く』ってどういう意味だよ?

「各自作戦指示通りの動きを期待する。あいつを倒して大宴会だ!」

 俺の檄に他のパーティから歓声や拍手、口笛が飛んでくる。多分に冷やかしだが、今のところは彼らも俺の指示で動いてくれるようだ。

「攻撃開始!」

 ティリティアを含む各パーティの神官職が仲間達に強化の法術をかける。その後俺達A班とアンバーパーティのB班が、蛇の頭を中心に左右に展開する。

「良いか? ベルモの報告通り、あのガスの化け物が剣や弓のといった通常攻撃を受け付けないとしたら、恐らくあいつに攻撃が通るのは俺達のパーティでは俺だけだ。攻撃は俺が担当するから、他の皆はティリティアを重点防御。ティリティアは俺への支援を頼む」

 仲間へ指示を飛ばし、蛇の方へ向き直る。その時、俺の全身が淡い光に包まれた。

わたくしの力では気休め程度にしかなりませんが、護りの法術をかけました。決して無理はなさいませんよう。ご武運をお祈りしております…」

 ティリティアも思い詰めた顔をしている。一筋縄ではいかない強力な相手だと理解しているのだろう。

「助かる…」

 長々とお礼や挨拶を交わしている時間は無い。俺はそれだけ答えると聖剣を構えて蛇を睨みつけた。

 ☆

 まずは野伏レンジャーであるアンバーさんの先制攻撃。身長程もある大弓をぶっとい腕で引き絞り、「はぁっ!」という裂帛の気合とともに矢を撃ち出す。
 やじりに細工がされているのか、或いは魔法的カラクリなのか発射されると同時に矢の先端に火が点いた。

 火矢は一直線に蛇の頭へと飛んでいき、普通の蛇なら右目のある位置に見事命中した。
 …命中はしたのだが、矢はそのままガスの体の中へと飲み込まれてしまった。ダメージがあったのかどうかすらも、外からではうかがい知れない。

「あの感じは全く効いてねぇな…」

 アンバーさんの呟きが空気を重くする。彼の額に小さく脂汗が浮かんでいるのは、今の攻撃がそれなりに本気だった証だろう。
 更に蛇は己が攻撃されたのを察知したのか、こちらへ向けて頭(?)を持ち上げて方向転換してきた。

「近接用ぉー意っ!!」

 蛇の突進に備えてクロニアが全体に号令をかける。それに応じてB班とC班の盾役タンクがクロニアを挟んで前に出てくる。B班は男、C班は女だが共に巨躯のオーガ族が大盾を構えて立ちはだかる。本来別パーティなのに息ピッタリで雷神風神の像みたいでカッコいい。

 蛇の頭が俺達に迫りくる。蛇の軌道から逃げられる位置にいる素早い奴らは早々に避難し、盾役の後ろはC班の聖女たちとD班の勇者たちだ。

 蛇が攻撃をするべく持ち上げた頭を一度後方に振りかぶる。その隙を突いて盾役の後ろから飛び出して、蛇に一撃を加えた奴がいた。俺だ。
  
 一番槍はアンバーさんに譲ってやったので、此処から先は遠慮なく斬り込める。大きく吶喊とっかんし、そこからの斬撃。俺と同時に3人ほどが蛇に斬り付けようと突撃していた。
 
 しかし、今までなら相手を切り裂く手応えが両手に伝わってきた物だったが、今回はまるで手応えが無かった。
 俺の攻撃はベルモから聞いていた通りに、空を切る様に素通りし俺は蛇の体を構成するガスの中に体ごと飛び込んでしまったのだ。
 まさか手応えすら全く無いとは思わなかったから、俺の行動はただ単に毒ガスの溜まり場に無防備に飛び込んだだけの形になった訳で、間抜けな事この上ない。
 
 全身を紫色のガスに包まれるが、今のところ被毒の兆候は無い。意外と無害なのか、聖剣によるバリアのおかげか、ティリティアの護法のおかげかはまだ分からないが……。

 いずれにしても長居して良い場所ではない。俺はガスの体から離脱するべく再度飛翔したが、数十m先まで跳んでもガスの外に出られなかった。外から見た蛇の大きさから言うと、これはかなり不自然だ。
 …そして奇妙だ。ガスに飛び込んだ瞬間から一切の音が消えた。俺から数mも離れていない場所で、他班のアタッカーが蛇への攻撃をしているはずなのに、武器を振るう音や戦いの怒号すらも聞こえてこない。これは一体…? 蛇の中に別の空間があって閉じ込められたか…?
  
「ナゼワレトアラソウ…?」

 突然頭の中に全く感情の籠もっていない、人工音声の様な声が響いた。誰だ? まさかこの蛇なのか…?

「だ、誰だ? 何者だ…? 俺に話しかけているのか…?」

 体感10秒程の長い沈黙の後、再び謎の声が頭に響いた。

「ワレラハトモニ『ガラド』ノシトナリ… ワレラハトモニキズツケルコトアタワズ… ワレトゴウイツシ、トモニセカイノハメツヲムカエン…」

 使徒…? 合一…? 世界の破滅だと…? 全く話が見えない。こいつの言葉は分かるものの、その示す意味はまるで分からない。『ガラド』という単語もまるで記憶にない。聖剣による『知識』を持ってしてもだ。

 考えているうちに徐々に視界が歪んでくる。頭にももやが掛かった様に思考が判然としない。
 このまま目を閉じて体を横たえたら気持ちよく寝られそうだ。そう、この紫色のガスに身を委ねて……。

「大将ーっ!!」

 女の声に我を取り戻す。ぼやける視界の中で俺は何者かに腕を掴まれて引っ張られていた。

 数秒後、俺はガスの外まで連れてこられ、そこでようやく今がまだ戦闘中である事を思い出した。

「俺は一体…?」

 周囲を見渡すと、仲間の3パーティが懸命に蛇と戦っていた。やはり有効打を与えられる戦力がほとんどおらず、指揮官不在のまま連携が取れずに徐々に押されている状況だった。

 そして俺の足元には、今まさに多量の血を吐き出しながら前のめりに倒れていった人物がいる。それは誰あろう、先程まで力強く俺の手を引いて、彷徨える俺をガスの海から救ってくれたベルモだった……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流@3/19書籍発売!
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ

のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
 リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。  目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

処理中です...