魔王と呼ばれた勇者、或いは勇者と呼ばれた魔王 〜最強の魔剣で自由に生きる! 金も女も、国さえも思いのまま!! …でも何かが違うみたいです

ちありや

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第48話 勝利の果てに

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「ベルモっ!」

 倒れたベルモにクロニアが駆け寄って、ティリティアらのいる後方へと引きずって行く。それを黙って見送るしか出来ない自分に腹が立つが、今は蛇への対処が最優先だ。他のパーティのうち何人かは蛇に殴りかかって、ベルモ同様のダメージを受けている様だった。

「おい、デブッチョ! マジでこの蛇には剣や弓はおろか、火や毒も効かねぇ! 一旦退いた方が良くないか?」

 アンバーさんの悲痛な叫びが耳に痛い。本来は威力偵察的に探りを入れつつ『ダメージを与えるには何が効果的か?』を見出す作戦だったのだが、俺自身が功名心から突撃して囚われてしまい、結果ベルモを始めとした仲間達の損害に帰結してしまった。

 この戦いが始まる直前までは頭も冴えて、各種細かい作戦まで脳内にプロットできていた。しかし今ではそれら作戦は全て頭から消え去り、次に打つべき手が全くイメージ出来ないでいた。

 なぜだ? これはどうした事だ…? まるで聖剣の『知恵の加護』が消え失せてしまったかの様な感覚、愚図でノロマな昔の俺に戻ってしまった様な感覚に襲われる。

 茫然自失で立ち尽くす俺を早々に見限ったのか、アンバーは自分の仲間を集めて退避し始めた。 
頭は働いていないが、それをされると戦線の維持が出来なくなって全体が瓦解する事は理解できた。

「っ!」

 戦列を崩されると部隊が一気に崩壊する。とは言うものの俺達は軍隊ではなく、独立部隊が4つ集まっただけの急造品に過ぎない。元から連携などは求めていなかったが、このままでは全員が蛇に呑まれてお陀仏だ。
 頭では「踏みとどまって戦え!」と檄を飛ばしたいのだが、既に崩壊から混乱しつつある面々に効果的な言葉を思いつく事が出来なかった。
 
「風よ!」

 俺の後ろからくぐもった声がした。勇者のパーティにいた仮面ローブの人物が言葉と同時に右手を前に向けると、その手から突風が吹き出しガス体の蛇を煽り始めた。
 
 恐らくは魔法で作られた風によって、蛇は体を散らされて前進を阻まれていた。かなり強い風なのは見ていて分かるのだが、それでも蛇の体を霧散させるまでには至らない。風に削られた蛇の体は、後方に流されてもまた体を構成する本体と合流している。

 これでは足止めにしかならない。しかし足止めですら今までまともに出来なかった事を考えると、これは大きなチャンスだ。俺は急いで部隊全体に撤収を伝えるために口を大きく開けた。その瞬間……。

「うぉぉぉぉっ!!」

 勇者ショウが、先程の俺よろしく聖剣を大上段に構えて蛇に向け飛躍、そのまま一気に振り下ろした。

 あれでは先程の俺と同様に蛇のガスに飲み込まれて、ベルモの二の舞いになるだけだ……。

 だがそうはならなかった。

 淡く光を帯びた勇者の剣は蛇のガスの体を細々と切り裂いていく。勇者の剣の触れた所にはみるみるうちにガスが消されていくのだ。
 勇者の剣さばきは素人そのものだったが、蛇に対する効果は覿面てきめんで、勇者1人の働きで瓦解寸前だった戦況をまるごと逆転させてしまった。

 何故だ…? 俺の聖剣はあの蛇に対して全くの役立たずだった。しかし勇者の剣はやすやすとガスの体を切り裂いて、蛇の体はもう3割程しか残っていない。
 俺の剣と奴の剣、どちらも同じアイトゥーシアから賜った聖剣のはずだ。一体何が違うと言うのだろうか…?

 周りのパーティの反応も一様に、勇者の聖剣の動きに注視されたまま動きを止めている。
 勇者パーティの残りの2人、仮面ローブはずっと風を起こして、先程とは逆に風向きを絞る事でガスが飛散しないようにまとめている。その塊を勇者の剣が次々と消滅させている。もう一人の僧侶に向けて何度も法術をかけている。回復か解毒か、その辺りだと思われる。つまり勇者の剣はあの蛇の毒ガスについての耐性は無いって事なのかな…?

 やがて蛇は勇者の聖剣によってほとんどを消滅させられ、討伐も目前となった時に異変は起きた。

 《ワガハラカラヨ、あどもんげるんヲタカクカカゲヨ!》

 突如俺の頭の中に響いてきた声がある。先程聞こえた蛇の声だ。
 同胞はらからとは…? そしてアドモンゲルンってのは俺の持っている聖剣の事だよな…? それを高く掲げる…?
 
 未だはっきりしない思考の中で、罠をいぶかしむ自分の声も聞こえる。『やめろ、これは敵の罠だ』と。

 《ナンジガチカラヲホッスルナラワレトゴウイツセヨ…》

 蛇の声は徐々に細くなっていく。このままでは勇者パーティに美味しいところを全て掻っ攫われて俺の良い所が全然アピール出来なくなってしまう。
 
 それは困る。俺はもっと成り上がって最強の冒険者になりたいんだ。いや、冒険が落ち着いたら貴族になって領地の経営もしたい。もう2、3人ならハーレム要員を増やすのも良い。とにかく俺にはまだまだこの世界でやりたい事がある。自由に楽しく生きる為には失敗は許されないんだ……。

 無力だった自分への絶望感、そして華々しい活躍を見せた勇者への嫉妬、これが切っ掛けになって俺は無意識に手にしている聖剣を高く掲げた。

 すると勇者の周りで切り裂かれていた小さなガスの塊が俺のもとに集まり、俺の聖剣に吸収されていったのだ。ガスが聖剣に吸収されるたびに、これまで以上に力が体の奥から湧き出てくる気がする。

 これまでも聖剣の力によって恐怖に打ち勝つ力、困難に挑む力は与えられてきたと思う。だが今感じている高揚感はそれらとは別次元の感覚だ。
 まるでこの世の『力』が全て俺に集まり凝縮しているような、無敵の力を手に入れた様な、とにかくこれが蛇の言っていた『合一』なのか、と感動すら覚えている。

「ふっ… ふふっ、はぁーっはっはっはっ!!」

 クロニア達を含む皆が不思議そうに俺の事を見つめる中、俺は1人幸福感に包まれながら、怪我に倒れ伏したベルモの事すら忘れて高笑いを続けていた……。
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