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第49話 ベルモのために
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「おいどうした?! 何がおかしい? 一体何がどうなっているんだ…?」
クロニアの大きな声で正気に戻る。『蛇』のガスを吸収した所は周りの全員が見ている訳だが、それによって何らかの『力』がもたらされたのは俺にしか認識できてはいない。
周りからは俺が「蛇にとどめを刺した」様にも見えるし、「俺がどさくさに紛れて邪な呪法を行った」様にも見えただろう。各自がどう見えたかは俺に対する信頼度で変わってくるだろうな。
俺の横では新人勇者のショウが聖剣を杖代わりにして、体を預けながらゼエゼエ息を荒げている。わかるわかる、剣を振り回すのも体力が要るもんな。
アンバー達のパーティと聖女のパーティの面々は、動きを止めたまま不安げに俺とショウを注視している。『蛇を倒した』という確約を俺達に求めているのだろう。
ショウはまだ息が整っていない。ならばと俺は手にした聖剣を高々と掲げて口を開けた。
「ここに世に混沌をもたらす悪しき妖魔は消滅した! 諸君の健闘に感謝するとともに、この勝利を祝おうではないか!」
先程まで靄がかかっていたかの様にぼんやりしていた思考も次第にはっきりとし始めて、俺は一端の将軍よろしく戦友を称える言葉を恥ずかしげもなく宣言していた。
更にようやく息が整ったのか、膝をついたままこちらを見上げたショウに手を差し伸べて立ち上がらせる。2人並んだ『勇者』に他パーティの面々から拍手が送られる。
「今回の最高殊勲はこちらの戦士ショウ君だ! 彼の働きこそが武勇であり誉であった!」
俺はそのまま掴んだ彼の手を上に上げる。ショウは突然表彰された事に一瞬驚きの表情を見せたものの、周囲から送られる拍手の音に次第に笑顔を見せていった。
この様にショウに全てを持って行かせるやり方は、正直俺自身としては面白くない。ただ今回の作戦における俺の指揮はお世辞にも上等な物とは言えない代物だった。効果的な戦術を錬る事が出来なかったばかりか、無為に突っ込んでベルモその他を傷付けてしまったのだから。
俺の失態を糊塗しつつ、大成功に終わった作戦行動を持ち上げて喧伝する。そうする事で「事故もあったけど、まぁ終わり良ければ全て良し!」という空気に持っていく事には成功した様だった。
そうだ、ベルモは? 俺を助ける為にガスに飛び込んで来たベルモの容態はどうなっているのか…?
☆
「ベルモさんは聖女ホムラ様の法術で一命を取り留めました。しかし…」
野営地に帰還後、病室に運ばれたベルモに付き添っていたティリティアが、その後の経過報告をしてくれた。横たわるベルモの表情は穏やかだが、その息は細く顔色もあまり良くない。
ティリティアの隣りに座っていたモンモンが補足してくれた。
「ベルモ姐さんは毒を大量に吸い込んだ事で、肺腑を損なってしまったらしいんだよね… ティリティアねーちゃんや聖女様も頑張って治療してくれたんだけど、完全には治せなかったらしいんだ…」
つまりどういう事だ? 俺のせいでベルモの呼吸器に障害が残るという事なのか…?
「気にしないでおくれよ大将… アタイが勝手にやったってだけさ… アタイは大将を救えた事が嬉しいんだ…」
眠っていたと思われたベルモが苦しそうに話しかけてきた。あの元気な女頭目のベルモが重病人の様に弱々しい姿を見せている。申し訳無い気持ちでいっぱいになる。あの毒ガスは俺に対しては無害だったから尚更だ。せめて「俺には無害」という情報だけでも早めに共有出来ていたらこんな事にはならなかったのに……。
ベルモは上半身を起こそうとして弱々しく咳き込む。ティリティアとモンモンがベルモを介助し、丁度ベルモの清拭の為にお湯と手拭いを取りに行っていたクロニアも戻って来て、全員が揃った事になる。
「ふぅ… ご覧の通り、立って歩くのも息が苦しい有り様さ。傭兵団の仕事を放りだしてでも大将達と一緒に冒険の旅に行こうかと思ってたけど、これじゃあ まともに剣を振るう事もできないし、お荷物確定だね…」
「ベルモ姐さん…」
ベルモと付き合いの長いモンモンの顔が一際悲しそうだ。
「モンモン、アタイの代わりにアタイの剣を持って行ってくれないかい? 小剣サイズで凄く軽いからお前の護身用に使ってほしいんだ…」
そのまま無言で傍らの剣をモンモンに押し付ける。モンモンは戦える奴じゃないけど、何かあった際に自身の身を守る手段は持っていて欲しい。
「…分かった。でも預かるだけだからね? 必ず元気になって一緒に冒険しようね!」
ベルモからモンモンへ。魂の継承は恙無く行われた。
☆
「なぁティリティア、ベルモをこれ以上 良くすることはできないのか…?」
俺の唐突な質問で驚いた顔をするティリティア。口に指を当ててしばし考え込む仕草をする。
「法術で出来る事は全て行いました。聖女様でも不可能な治療は私にも叶う訳はありません。申し訳ありませんが私では…」
これ以上詰めてもティリティアを困らせるだけだろう。何か、法術以外の方法で… 例えば『薬』とか『魔術』とかで……。
そうか!
魔術師なら宛てがあるじゃないか! 勇者ショウの所の仮面とローブの変な奴。あいつは蛇との戦闘中に紛れもなく『魔法』を使っていた! たとえ『答え』が聞けなくても構わない。何かの『ヒント』だけであっても十分だ……。
そう考えた俺は、行き先も告げずにベルモの病室から飛び出した。
☆
「チャロアイトさんなら居ませんよ。どこで何しているのかは僕らでも分からないんです…」
勇者パーティの部屋に乗り込んだが、蛇の毒を少量だが吸い込んでいたショウは、聖女らの治療を受けて眠りについていた。静かな部屋に1人で何かの神様に祈りを捧げていた従者の僧侶に話を聞いたが、収穫はゼロだった。
この広いベルモの野営地の中と外を、当て所無く探すのも不可能だ。俺はすぐさま自室に戻り、モンモンに例の仮面ローブの居所を探させた。
ここはモンモンのホームタウンな事もあり、奴は驚くべき早さで情報を持って帰ってきた。
「西門から森の外に1人で出ていったらしいよ。何をしに行ったのかまでは分からないけど…」
なるほど、今はそれで十分だ。あの謎の人物からベルモの治療薬の情報が貰えたら御の字だし、それでなくてもあいつの正体にはとても興味がある……。
クロニアの大きな声で正気に戻る。『蛇』のガスを吸収した所は周りの全員が見ている訳だが、それによって何らかの『力』がもたらされたのは俺にしか認識できてはいない。
周りからは俺が「蛇にとどめを刺した」様にも見えるし、「俺がどさくさに紛れて邪な呪法を行った」様にも見えただろう。各自がどう見えたかは俺に対する信頼度で変わってくるだろうな。
俺の横では新人勇者のショウが聖剣を杖代わりにして、体を預けながらゼエゼエ息を荒げている。わかるわかる、剣を振り回すのも体力が要るもんな。
アンバー達のパーティと聖女のパーティの面々は、動きを止めたまま不安げに俺とショウを注視している。『蛇を倒した』という確約を俺達に求めているのだろう。
ショウはまだ息が整っていない。ならばと俺は手にした聖剣を高々と掲げて口を開けた。
「ここに世に混沌をもたらす悪しき妖魔は消滅した! 諸君の健闘に感謝するとともに、この勝利を祝おうではないか!」
先程まで靄がかかっていたかの様にぼんやりしていた思考も次第にはっきりとし始めて、俺は一端の将軍よろしく戦友を称える言葉を恥ずかしげもなく宣言していた。
更にようやく息が整ったのか、膝をついたままこちらを見上げたショウに手を差し伸べて立ち上がらせる。2人並んだ『勇者』に他パーティの面々から拍手が送られる。
「今回の最高殊勲はこちらの戦士ショウ君だ! 彼の働きこそが武勇であり誉であった!」
俺はそのまま掴んだ彼の手を上に上げる。ショウは突然表彰された事に一瞬驚きの表情を見せたものの、周囲から送られる拍手の音に次第に笑顔を見せていった。
この様にショウに全てを持って行かせるやり方は、正直俺自身としては面白くない。ただ今回の作戦における俺の指揮はお世辞にも上等な物とは言えない代物だった。効果的な戦術を錬る事が出来なかったばかりか、無為に突っ込んでベルモその他を傷付けてしまったのだから。
俺の失態を糊塗しつつ、大成功に終わった作戦行動を持ち上げて喧伝する。そうする事で「事故もあったけど、まぁ終わり良ければ全て良し!」という空気に持っていく事には成功した様だった。
そうだ、ベルモは? 俺を助ける為にガスに飛び込んで来たベルモの容態はどうなっているのか…?
☆
「ベルモさんは聖女ホムラ様の法術で一命を取り留めました。しかし…」
野営地に帰還後、病室に運ばれたベルモに付き添っていたティリティアが、その後の経過報告をしてくれた。横たわるベルモの表情は穏やかだが、その息は細く顔色もあまり良くない。
ティリティアの隣りに座っていたモンモンが補足してくれた。
「ベルモ姐さんは毒を大量に吸い込んだ事で、肺腑を損なってしまったらしいんだよね… ティリティアねーちゃんや聖女様も頑張って治療してくれたんだけど、完全には治せなかったらしいんだ…」
つまりどういう事だ? 俺のせいでベルモの呼吸器に障害が残るという事なのか…?
「気にしないでおくれよ大将… アタイが勝手にやったってだけさ… アタイは大将を救えた事が嬉しいんだ…」
眠っていたと思われたベルモが苦しそうに話しかけてきた。あの元気な女頭目のベルモが重病人の様に弱々しい姿を見せている。申し訳無い気持ちでいっぱいになる。あの毒ガスは俺に対しては無害だったから尚更だ。せめて「俺には無害」という情報だけでも早めに共有出来ていたらこんな事にはならなかったのに……。
ベルモは上半身を起こそうとして弱々しく咳き込む。ティリティアとモンモンがベルモを介助し、丁度ベルモの清拭の為にお湯と手拭いを取りに行っていたクロニアも戻って来て、全員が揃った事になる。
「ふぅ… ご覧の通り、立って歩くのも息が苦しい有り様さ。傭兵団の仕事を放りだしてでも大将達と一緒に冒険の旅に行こうかと思ってたけど、これじゃあ まともに剣を振るう事もできないし、お荷物確定だね…」
「ベルモ姐さん…」
ベルモと付き合いの長いモンモンの顔が一際悲しそうだ。
「モンモン、アタイの代わりにアタイの剣を持って行ってくれないかい? 小剣サイズで凄く軽いからお前の護身用に使ってほしいんだ…」
そのまま無言で傍らの剣をモンモンに押し付ける。モンモンは戦える奴じゃないけど、何かあった際に自身の身を守る手段は持っていて欲しい。
「…分かった。でも預かるだけだからね? 必ず元気になって一緒に冒険しようね!」
ベルモからモンモンへ。魂の継承は恙無く行われた。
☆
「なぁティリティア、ベルモをこれ以上 良くすることはできないのか…?」
俺の唐突な質問で驚いた顔をするティリティア。口に指を当ててしばし考え込む仕草をする。
「法術で出来る事は全て行いました。聖女様でも不可能な治療は私にも叶う訳はありません。申し訳ありませんが私では…」
これ以上詰めてもティリティアを困らせるだけだろう。何か、法術以外の方法で… 例えば『薬』とか『魔術』とかで……。
そうか!
魔術師なら宛てがあるじゃないか! 勇者ショウの所の仮面とローブの変な奴。あいつは蛇との戦闘中に紛れもなく『魔法』を使っていた! たとえ『答え』が聞けなくても構わない。何かの『ヒント』だけであっても十分だ……。
そう考えた俺は、行き先も告げずにベルモの病室から飛び出した。
☆
「チャロアイトさんなら居ませんよ。どこで何しているのかは僕らでも分からないんです…」
勇者パーティの部屋に乗り込んだが、蛇の毒を少量だが吸い込んでいたショウは、聖女らの治療を受けて眠りについていた。静かな部屋に1人で何かの神様に祈りを捧げていた従者の僧侶に話を聞いたが、収穫はゼロだった。
この広いベルモの野営地の中と外を、当て所無く探すのも不可能だ。俺はすぐさま自室に戻り、モンモンに例の仮面ローブの居所を探させた。
ここはモンモンのホームタウンな事もあり、奴は驚くべき早さで情報を持って帰ってきた。
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