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第50話 森の中の会談

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 モンモンから聞いた通り、松明たいまつを片手に野営地の西門から出て例の魔術師を探す。門衛の言葉によると「そのまま真っすぐ進んで行って不意に消え失せた」らしい。明らかに怪しい。『蛇』の討伐に手を貸してくれた以上、敵ではないのだろうが、純粋に善意で行動しているとも思えない。ま、俺も他人ひとの事は言えないけどな……。

 俺は職業クラス的な分類をするなら『戦士』であって、探索系の仕事ははっきり言って不得手だ。本来ならモンモンも連れてきて魔術師の追跡を任せるのが正解なのだろう。しかし今のモンモンはベルモに寄り添っていたいだろうし、今回の動きが俺をおびき寄せる魔術師の罠だった場合、モンモンを無駄に危険に晒す事になる。
 魔術師との戦い方は今ひとつよく分からない。そんな状況に仲間を巻き込むのは避けたい。

 それに何だか予感めいた物もある。『この場面は俺が1人で行くべきである』という謎の確信だ。例の魔術師が俺にとって不都合な言動をする様であれば、始末するのもやむ無し、という流れになる可能性はある……。

 ☆

 林道から外れて獣道を通る。何故だかは分からないが、俺には進むべき道が淡い燐光みたいなもので照らされている様に見えたのだ。
 きっとこの先で件の魔術師が俺待っているのだと確信できた。

 やがて獣道は直径20mほどの狭い広間に出る。松明の灯りに照らされた薄暗い広間の中央に、見覚えのある仮面とローブを纏った魔術師風の人物が佇んでいた。
 そいつは俺の手にした明かりに気が付くと、ゆっくりとこちらを向いて話しかけてきた。

「思っていたより早かったな、『偽りの勇者』よ…」

 仮面の中で声がくぐもっているのか、或いは変声機の様な物が付いているのか、その声は相変わらず性別のはっきりしない声だった。
 
「言うに事欠いてひとの事を偽物扱いとは失礼にも程があるぞ。第一俺は『勇者』だなどと自称した事は無いんだが?」

 険悪な雰囲気で始まってしまった。確かにティリティアはずっと俺の事を『勇者様』と呼んでいるが、俺はそれに気を良くして勇者を自称するほど馬鹿でも無いし自惚れてもいない。何より『世界を救う』なんて大層な使命を背負いたくはない。

「お互いに聞きたい事がたくさん有るのでは無いか? 誰にも邪魔されずに貴様とゆっくり話をしたくて、こんな所に誘わせてもらった。貴様の波長に合う誘導虫を使ってな…」

 なるほど、道中に見えた淡い燐光はその『なんとか虫』の光か……。

「そう言えばお互いに自己紹介すらもしていなかったな。私の名は『チャロアイト』、所属や目的はまだ伏せさせておいてくれたまえ。あぁ、君の自己紹介は不要だよ。粗方の素性は調べがついている…」

 俺の素性…? ラモグの町で指名手配されているのを知られているならちょっとヤバいかもな。或いは俺が異世界転生してきた事も知られているのか? 魔法とやらで知らぬ間に記憶を読まれたりしているのかも知れない。

「まず問おう。君が常に、そう寝る時ですら片時も離さないその立派な大剣は一体何処で手に入れた?」

 お? 俺自身の事じゃなくて、俺の聖剣に用事があるのか? うーん、これは正直に答えて良いものなのかな? 『女神が出てきて剣をくれた。あと童貞も卒業させてもらった』なんて話をしたら正気を疑われる可能性が高い。ここは様子見も兼ねて、奴の言葉尻をとらえて返答してみるか。

「俺の素性に調べが付いてるなら、剣の出処も察しが付いているんじゃないのか?」

 魔術師… チャロアイトは俺の答えにしばし沈黙したあと、体を小刻みに震わせてきた。怒っているのか笑っているのか、外からでは判別できない。

「くっくっくっ… 確かにすんなり答えられる質問では無かったかな…? よろしい、では君からの質問を受け付けよう。君も私に聞きたい事が多数有るのではないかな? ここからは互いに一問一答形式で質問しあい、疑問を解消していこうではないか。私は女神アイトゥーシアに懸けて嘘は言わないと誓おう。君も誓ってくれると嬉しい…」

 チャロアイトは笑っていた。そして俺とのこのやりとりを楽しんでいる様にも見える。問題は魔術師こいつの目的だよな。
 今回の国と教会の連名で行われた超難易度任務に、チャロアイトが全身全霊で臨んでくれたのは間違いない。勇者ショウを上手く導いて、『蛇』退治のMVPにまで持ってきたのはチャロアイトで間違いない。

 ならば『悪い奴ではない』のかも知れないが、顔と体を隠して暗躍する様はヒーローとして相応しくないと思える。こんな怪しい風体の奴に『目的は世界平和です』等と言われても、「ハイそうですか」と納得できない。

 とりあえず俺からの質問、質問… と。たくさんありすぎて迷うなぁ……。
 ベルモの病状は気になるが、まずはチャロアイトが何者なのかを探らないと、この先聞ける話も聞けた物ではない。

「えっと… まずは俺がワイバーンと戦っていた時に魔法で援護してくれたのは何故だ?」

 ここで「援護してくれたのはアンタか?」と聞くのは悪手だ。理由が知りたいなら先に理由を聞くべきだろう。でないと質問数が無駄になる。そもそも俺を援護したのがチャロアイトでなかったならば、それはそれで質問が無駄になりそうだが、逆に『同じ様な奴がまだ他にもいる』という情報にもなるのだ。

「ほぅ、なかなか目聡めざといな。理由か… ふむ… 君の力を見極める為だな。ラモグの町に突如現れた豪傑無双の若者がどれだけ出来るのかを見たかったからだ」

 この言い方、本当に俺の素性は大体探られていると思った方が良さそうだな……。
 
「ではこちらの番だ。先程の質問に答えてくれたまえ。その剣、『アドモンゲルン』は何処で出に入れたのか? をな」

 この聖剣の名前まで知っているのか…? 俺はこの世界に来てから聖剣の名を誰かに教えた事はない。なんなら俺自身が剣の名前を忘れていた、というかちゃんと覚えていなかった。
 つまりチャロアイトは異世界転生や神の創った聖剣の存在を知っているという事になる。もしかしてチャロアイト自身が転生の先輩という可能性すらある。

 それならば、少なくとも神だの聖剣だのと現実離れした話をしても一笑に付される事はないかも知れない。全部ぶちまけても良いのかなぁ…?

 「こ、この剣は女神アイトゥーシアから貰った… 俺は一度別の世界で死んでしまって、この世界でやり直しの人生を送るためにこの聖剣と共にやって来たんだ…」

 俺のその答えに、チャロアイトが仮面越しですらはっきり態度を硬化させた様に感じ取れた……。
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