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第90話 招聘
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俺はティリティアを伴って… 逆だな、俺がティリティアのお付きという形で三度王城へと赴いたのだが、今回案内されたのはあの大きな正門では無く、裏手の隠し通路の様な分かりづらい入り口だった。
「あまり公にはしたくないお話みたいですね…」
不穏な内容が予想されるにも関わらず、ティリティアは楽しそうだ。この辺の扱いも含めて、彼女の予想通りに事が進んでいるのだろう。
ティリティアはここからの通り道を知っているらしく、薄暗い通路をずんずんと迷い無く進んで行く。
足元が苔むしていて滑りやすいから、身重のティリティアが転びやしないかと気が気ではない。
ティリティアの女心的な考えはまるで分からないが、彼女の今温めているであろう陰謀については俺にも大方予想出来ていた。
俺の持つ魔剣に込められた神の力は、例のアイトゥーシアを名乗る女神から『力』と『知恵』と『愛』だと教わった。しかしその実態は『暴虐』『策謀』そして『淫奔』であるらしい。
その中の『策謀』の力によって、答え合わせこそしていないが、ティリティアの『策謀』を我が身の様に理解しているのだ。ティリティアの策に乗るとして、何ならもっとえげつない作戦立案も出来そうな気がする。
左様に俺の魔剣の力はかなり偏っているようだ。現に周りの女達を『淫奔』で淫らな気分にさせる事は出来ても、『愛』で彼女らの心を操る事は出来ない。
魔剣の力で冴えていた様に思えた知力も、ブーストされるのは悪巧みや軍事的な打算の様な物ばかりで、例えばこの世界での生活の役に立ちそうな知識はほとんど無かったと思う。
残る『暴虐』の力はまだ発現していない… と思う。単純に戦闘力だけの話で済むなら、俺はそのおかげで今日まで生き残って来れたのは確かだ。
まだ『暴虐』が暴走した事は無いとは言ったが、『蛇』の欠片を吸い込んだ時に感じた無敵感や高揚感が暴発したと考えたら、それはかなりヤバい状況だとは思う。ラモグの町くらいなら俺一人で殲滅させられそうだし。
発動条件はまだ分からないが、俺がこの『暴虐』に呑み込まれたら、この世界の数え切れない人達が不幸になるのは確定的だ。くれぐれも注意が必要だな……。
そんな事をとりとめもなく考えながら城の通路を歩き、程なく俺達は見覚えのある王女様の私室に辿り着いた。
☆
「お待ちしておりました…」
ミア王女の部屋に通された俺とティリティアは、わずか1日で憔悴し切った顔に変貌した王女様を前に絶句するしか無かった。
王女様の横には前回も彼女に付き従っていた護衛の女騎士が、無表情で直立不動のまま俺達を睥睨している。彼女が何を考えているのかはまるで分からない。
「ミア姉さま、お加減が優れない様にお見受け致しますわ… 私たち、出直した方がよろしいのでは…?」
「誰のせいだと思っているの…? 全く、一晩で私の人生観を丸ごと変えてくれた事、恨みますよティア…」
イタズラっぽく話すティリティアを睨みつける様な視線で刺す王女様。王女様に何があったのか? そして俺達を呼んだ理由も聞きたい所だが……。
ティリティアは慈愛に満ちた表情で王女様に近付き彼女の手を取る。
「お姉様のお気持ちはとてもよく分かります… ですが私も私なりにこの国の為を思って考えての行動です。それで誰も何一つ失わないし、皆が幸せになれると信じていますわ…」
ティリティアの考える『俺を王にする』計画の内容については、俺も何ら詳しい話を聞いてはいないが、その大筋は予想出来るし、その過程で「誰も一つも失わない」なんてのが嘘っぱちだとも分かる。
「ええ、今日は『その事』を含めて改めて話をしたいと思って、この場にお呼びしました… ヨアンナ…?」
言葉の終わりに王女様は、隣にいる女性近衛騎士に目を遣る。ヨアンナさんって言うのか……。
「部屋から出てください。今からの話にこれ以上関わると、貴女個人ではなく貴女のお家ごと巻き込みかねません…」
「しかし殿下、私は…」
「命令です…」
王女様の言葉には有無を言わせぬ圧力があった。その圧力に気圧されたのか、ヨアンナさんは口を噤んで俯いてしまう。
「仰せのままに、我が主…」
そう言うとヨアンナさんは素早く踵を返して部屋から退出していった。納得度はゼロだけど、王女様から命令されたら逆らえない、そんな感じだ。
「姉様はヨアンナを大切に思っていらっしゃるのね… 少し羨ましいですわ」
「4年前からずっと私の為に身を砕いて来てくれた人です。これ以上の迷惑はかけられません…」
確かに俺たちがやろうとしている事は大雑把に言って『簒奪』に他ならない。下手したら国を割る内戦になりかねない。
「彼女も『お仲間』にして差し上げれば良かったのに…」
「冗談でもそんな事を言わないでちょうだいティア… ヨアンナにまでこんな胸の苦しい思いをさせるのは忍びありません…」
やっぱり王女様も苦しんでいるのかなぁ? 『作戦』としては王女様にフル稼働してもらう必要があるんだけど、俺の個人的な心情としては王女様が「かわいそう」にも思える。
小さい体で国の将来を背負って、これまで進もうとしていたラインを捻じ曲げようとする奴が現れた。
勿論俺とティリティアの事だが、王女様自身はその新しいラインを承服しかねている。そこで追加の説明を求めるべく今回の招聘があった、という事だろう。
「ではお話しを始めたいのですが、その前に…」
王女様は胸が苦しいのか、少し表情を歪ませて俺達を見る。大丈夫なのかな…?
ティリティアが俺に顔を寄せ耳元に囁きかける。
「お話しの前に、姉様を抱きしめて差し上げて…」
ティリティアに言われるままに立ち上がり、王女様を抱きしめる。
一瞬身を強張らせる王女様だったが、それは本当に一瞬で、直後に俺達は強く抱擁し熱い口づけを交わしていた……。
「あまり公にはしたくないお話みたいですね…」
不穏な内容が予想されるにも関わらず、ティリティアは楽しそうだ。この辺の扱いも含めて、彼女の予想通りに事が進んでいるのだろう。
ティリティアはここからの通り道を知っているらしく、薄暗い通路をずんずんと迷い無く進んで行く。
足元が苔むしていて滑りやすいから、身重のティリティアが転びやしないかと気が気ではない。
ティリティアの女心的な考えはまるで分からないが、彼女の今温めているであろう陰謀については俺にも大方予想出来ていた。
俺の持つ魔剣に込められた神の力は、例のアイトゥーシアを名乗る女神から『力』と『知恵』と『愛』だと教わった。しかしその実態は『暴虐』『策謀』そして『淫奔』であるらしい。
その中の『策謀』の力によって、答え合わせこそしていないが、ティリティアの『策謀』を我が身の様に理解しているのだ。ティリティアの策に乗るとして、何ならもっとえげつない作戦立案も出来そうな気がする。
左様に俺の魔剣の力はかなり偏っているようだ。現に周りの女達を『淫奔』で淫らな気分にさせる事は出来ても、『愛』で彼女らの心を操る事は出来ない。
魔剣の力で冴えていた様に思えた知力も、ブーストされるのは悪巧みや軍事的な打算の様な物ばかりで、例えばこの世界での生活の役に立ちそうな知識はほとんど無かったと思う。
残る『暴虐』の力はまだ発現していない… と思う。単純に戦闘力だけの話で済むなら、俺はそのおかげで今日まで生き残って来れたのは確かだ。
まだ『暴虐』が暴走した事は無いとは言ったが、『蛇』の欠片を吸い込んだ時に感じた無敵感や高揚感が暴発したと考えたら、それはかなりヤバい状況だとは思う。ラモグの町くらいなら俺一人で殲滅させられそうだし。
発動条件はまだ分からないが、俺がこの『暴虐』に呑み込まれたら、この世界の数え切れない人達が不幸になるのは確定的だ。くれぐれも注意が必要だな……。
そんな事をとりとめもなく考えながら城の通路を歩き、程なく俺達は見覚えのある王女様の私室に辿り着いた。
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「お待ちしておりました…」
ミア王女の部屋に通された俺とティリティアは、わずか1日で憔悴し切った顔に変貌した王女様を前に絶句するしか無かった。
王女様の横には前回も彼女に付き従っていた護衛の女騎士が、無表情で直立不動のまま俺達を睥睨している。彼女が何を考えているのかはまるで分からない。
「ミア姉さま、お加減が優れない様にお見受け致しますわ… 私たち、出直した方がよろしいのでは…?」
「誰のせいだと思っているの…? 全く、一晩で私の人生観を丸ごと変えてくれた事、恨みますよティア…」
イタズラっぽく話すティリティアを睨みつける様な視線で刺す王女様。王女様に何があったのか? そして俺達を呼んだ理由も聞きたい所だが……。
ティリティアは慈愛に満ちた表情で王女様に近付き彼女の手を取る。
「お姉様のお気持ちはとてもよく分かります… ですが私も私なりにこの国の為を思って考えての行動です。それで誰も何一つ失わないし、皆が幸せになれると信じていますわ…」
ティリティアの考える『俺を王にする』計画の内容については、俺も何ら詳しい話を聞いてはいないが、その大筋は予想出来るし、その過程で「誰も一つも失わない」なんてのが嘘っぱちだとも分かる。
「ええ、今日は『その事』を含めて改めて話をしたいと思って、この場にお呼びしました… ヨアンナ…?」
言葉の終わりに王女様は、隣にいる女性近衛騎士に目を遣る。ヨアンナさんって言うのか……。
「部屋から出てください。今からの話にこれ以上関わると、貴女個人ではなく貴女のお家ごと巻き込みかねません…」
「しかし殿下、私は…」
「命令です…」
王女様の言葉には有無を言わせぬ圧力があった。その圧力に気圧されたのか、ヨアンナさんは口を噤んで俯いてしまう。
「仰せのままに、我が主…」
そう言うとヨアンナさんは素早く踵を返して部屋から退出していった。納得度はゼロだけど、王女様から命令されたら逆らえない、そんな感じだ。
「姉様はヨアンナを大切に思っていらっしゃるのね… 少し羨ましいですわ」
「4年前からずっと私の為に身を砕いて来てくれた人です。これ以上の迷惑はかけられません…」
確かに俺たちがやろうとしている事は大雑把に言って『簒奪』に他ならない。下手したら国を割る内戦になりかねない。
「彼女も『お仲間』にして差し上げれば良かったのに…」
「冗談でもそんな事を言わないでちょうだいティア… ヨアンナにまでこんな胸の苦しい思いをさせるのは忍びありません…」
やっぱり王女様も苦しんでいるのかなぁ? 『作戦』としては王女様にフル稼働してもらう必要があるんだけど、俺の個人的な心情としては王女様が「かわいそう」にも思える。
小さい体で国の将来を背負って、これまで進もうとしていたラインを捻じ曲げようとする奴が現れた。
勿論俺とティリティアの事だが、王女様自身はその新しいラインを承服しかねている。そこで追加の説明を求めるべく今回の招聘があった、という事だろう。
「ではお話しを始めたいのですが、その前に…」
王女様は胸が苦しいのか、少し表情を歪ませて俺達を見る。大丈夫なのかな…?
ティリティアが俺に顔を寄せ耳元に囁きかける。
「お話しの前に、姉様を抱きしめて差し上げて…」
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