魔王と呼ばれた勇者、或いは勇者と呼ばれた魔王 〜最強の魔剣で自由に生きる! 金も女も、国さえも思いのまま!! …でも何かが違うみたいです

ちありや

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第104話 新作戦

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 町中の路地裏。6~7m程の間隔で向かい立つ俺と新井。2人のケンカを察知してか、町の人は離れるか、遠巻きに事態の成り行きを見守っている。
 中には何人か騒ぎを聞きつけて野次馬的に集まってきた奴もいるみたいだが、いちいち判別している暇はない。

「おらどうした? かかってこないのか? お前も『何とかパワー』を貰ったんじゃねーのかよ?」

 新井が俺を挑発する。自分の力に絶対的な自信を持っている印象だな。実際素手で殴り合ったならば、三種混合の俺よりも『暴虐の神様』単品の加護を受けた彼の方が力が強い可能性があり、純粋なパワー勝負だと勝てないかも知れない。

 ここでちょっとカマをかけてみるか……。

「その技… ガドゥって奴から習ったんじゃないの…?」

 敢えてここで『ガドゥ』という名前を出してみる。新井がガドゥを知っているなら何らかのリアクションが見られるはずだ。

「あ? 加藤? 誰だよそれ? 知らねーよ」

 聞こえなかったのか、或いはわざとすっとぼけているのか、新井はヘラヘラと鼻で笑いながら答えた。

鬼族オーガのガドゥだよ。似た技を使う奴を知ってる…」

 更にオーガという追加情報を出してみたが… 新井の顔色は変わらない。

「はん! いちいちそんな奴の名前なんて覚えてねーし、おめーにも関係ねーよ! そっちが来ないならこっちからもう一発行くぜ!」

 ふむ、これで新井から聞き出す事はもう無いかも知れないな… ガドゥの名前すら知らない(覚えてない)という事は、新井はガドゥと無関係か、接触があって技を伝授されていたとして、それ以上の関係にはなっていない、という事だろう。

 こんな有様ではガドゥの居場所など知る由も無いだろうし、ここで俺と彼がケンカする意味も利点メリットも無い。
 何よりトラブルはチャロアイトから固く戒められているし、相性も悪い相手だし正直戦いたくない……。

 だがしかし、新井の目的は俺の持つ魔剣だ。ここで逃げ出しても知らない土地で逃げ道も分からない上に、後でチャロアイトと合流する事も困難になる。

「行くぜぇっ!」

 わざわざ宣言してから殴り掛かってくれる新井。本当にケンカばかりで『命のやり取り』をしてきて無いんだろうなぁ。その太平楽な所が少し羨ましくもある。

 さっきは敢えて受け止めたけど、わざわざこちらから食らってやる義理はない。
 新井のケンカパンチは振りも大きく、回避に専念すれば全弾避ける事は難しくは無いだろう。

 それでパンチを打ち疲れて撤退してくれれば良いのだが、『暴虐の神』の加護でどれたけ新井のスタミナが底上げされているのかが読めないのが辛い。

 2時間も3時間も攻撃し続けられたら、さすがの俺も回避出来なくなる可能性もある。

 そして俺は正面の新井に気を取られて、周囲への警戒が薄れていた様だ。新井が攻撃を仕掛ける為に動いた瞬間、俺は何者かに強く左手を掴まれた……。

 ☆

「何っ?!」

「消えた?!」

「野郎、どこへ行った?!」

 手を掴まれて引っ張られてからの新井達のリアクションに理解が追いつかなかった。俺はまだ新井の数メートル手前に居て、見えなくなる様な距離や角度じゃない。

 そして俺の手を引いている人物はそのままの勢いで俺を路地裏から往来に連れ出した。

「もぉ、何やってんのよ…? 騒ぎを起こすなって言ったでしょ?」

 お相手はもちろんチャロアイト。そのまま手を引かれて、3ブロック程離れた別の食堂へと連れ込まれた。

 いやまずはあの場で何が起こったのか知りたいんだけどな……。

「一時的に他人の認識を阻害して、影に紛れ込みやすくなる魔法を使ったのよ。まったく、世話の焼ける…」

 チャロアイトはブチクサ文句を言っているが、俺は一方的に絡まれただけの被害者で、極力穏便に済ませようとしていたのは間違いない。
 
 現に俺が新井に反撃していたらもっと騒ぎになっていたはずだし、もう少し詳しくガドゥに関する情報を得られていたかも知れない。

 俺は新井の正体も含めて、上記の事をチャロアイトに説明した。俺としては可能な限り『穏便に』やっていたんだよ…?

「新しい『転生者』って事なのかしら? 今まで半信半疑だったけど、不思議な事が本当にあるのねぇ…」

 チャロアイトお前、この期に及んでも俺の転生を信じてなかったのかよ? 魔法使いのくせに『不思議な事もあるのねぇ』じゃないっつーの。

「それはそうと、ガドゥの手がかりには違い無いわね…」

 チャロアイトの視線が少し遠い。これは多分、チャロアイトの方の聞き込みは空振りに終わったのかも知れない。
 
 どうにも愚痴を聞いて欲しそうな顔をしていたので、それとなく「そっちはどうだったんだ?」と質問してやる。

「それがね、聞いてよ。冒険者匠合ギルドの設立に関しては、興味なさげに『内々で審議します』で終わり。ガドゥの… って言うか『ウルカイザーに出入りする謎の鬼族オーガ』の話題を出した途端。露骨に不機嫌そうな顔になって、そのまま追い出されたのよ。酷くない?」

 チャロアイトへの対応が酷いかどうかはともかく、ウルカイザー側にはガドゥに関して何か心当たりがあるのは間違いなさそうだな。そしてそれをバルジオン側に絶対に知られたくないらしい。

「するとやはりガドゥがウルカイザーで何かを企んでいて、それを国家ぐるみで隠蔽している。って事で良いのかな、…?」

「そうね… しかも邪神の加護を受けた転生者を引き込んで、恐らくは新しい手駒にしようとしている… って所かしら? もう一度そのアライとかいう人と出会ったら、貴方は戦えるの?」

 最後に見透かす様な瞳で質問してきたチャロアイト。さっきは不意打ちに驚いてしまったせいで体が萎縮してしまったが、新井が改心せぬまま敵になるなら、ぶっ飛ばすのに躊躇いは無い。

「そうじゃなくて、『昔の知り合いを殺せるの?』って聞いてるのよ…?」

 俺の視線だけで返答を読み取った様なチャロアイトが、本当に俺の心を見透かして更に聞いてくる。
 口元は笑っているが、目は真剣そのものだ。チャロアイトは今ここで、俺の『覚悟』を問うている。

「で… 出来るさ! 別に人を斬ったのだって初めてじゃないし、何より新井あいつは俺を殺した殺人犯なんだ。復讐して… やんよ…」

 最後まではっきり言えなかった。別に新井を許した訳では無い。ただ彼に対する『怒り』よりも、結婚や出産を控えた今の生活を守りたいという気持ちの方が強い。『もう忘れたいから関わってこないでくれ』という気持ちの方が強いんだよな……。

「ふうん…? どうも自信無さそうね… まぁああいうタイプは貴方よりも私の方が相性良さそうだから、私が新井かれに直接聞いてきてあげるわ…」

 チャロアイトが再び立ち上がる。俺たちが奴らを撒いて10分くらいの時間が経っている。新井達はまだあの酒場にいるか、移動していても遠くには行ってないはずだ。

「おい、チャロアイト! 聞いてくるってまさか…?」

「心配しないで。貴方と比べたりしないから。今度こそ大人しくしてて頂戴」

 チャロアイトは絵に描いた様な女スパイだ。仕事の為には男を誑かすなんて日常茶飯事。完全に仕事と割り切っているので、アイトゥーシア教会の様に男女の睦事を神聖視していない。

 チャロアイトは女の色香で新井から情報を聞き出そうと考えているのだろう。
 チャロアイトは美人でスタイルも抜群、男好きしそうな仕草や表情を完全に身に着けている。

 生前の新井には彼女が居た形跡は無かったし、ウルカイザーでの彼の連れにも女性は居なかった。新井周りに女は居ない。
 つまりチャロアイトは簡単に新井を籠絡できる可能性が高い、という事だ。

 う~ん、これは俺と新井が『穴兄弟』になる可能性もあるって事だよな? 何だかそっちの方がイヤだなぁ……。
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