魔王と呼ばれた勇者、或いは勇者と呼ばれた魔王 〜最強の魔剣で自由に生きる! 金も女も、国さえも思いのまま!! …でも何かが違うみたいです

ちありや

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第112話 紋様

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「キェェェェッ!」

 包帯男が奇声を発してゾビルに襲いかかる。見覚えのある貫手がゾビルに届こうとした瞬間に、ゾビルのお付きの剣士が間に入り攻撃を受け止めた。

「がぁっ?!」

 だが包帯男の攻撃は剣士の防御を掻い潜り、彼の喉元は貫手で貫かれていた。

「こいつがガドゥなの?」

 非近接タイプのチャロアイトが後退しつつ聞いてくる。

「多分…」

 魔剣を抜きつつ戦闘態勢に入る。目の前の包帯男がガドゥならば、ゾビルでは手に余る相手だ。

 俺は剣士に組み付いている包帯男に向けて魔剣を振るった。その斬撃は部屋の反対側の壁に及ぶ程だったが、包帯男はその軌道を見切っているかのように、俺の攻撃を避けてみせた。

 ガドゥならば俺の剣の射程が通常の剣よりも長い事は身を以て知っているはずだ。避けられても不思議では無いのだが……。
 
 だがしかし何だろう、この違和感は…? 物凄く見覚えのあるキャラクターなのに、微妙にパチモノ感があるようなのだが、うまく口で説明出来ないんだよね。

 そうか、「足」だ! 前回の戦いで俺はガドゥの左足を切断した。だが目の前の男体は五体満足の様に見える。
 ガドゥ本人が精巧な義足を使っている可能性はあるが……。

 あとは初手の雄叫びだな。ガドゥは無駄に声を張り上げる奴じゃない。静かに黙って淡々と仕事をこなすタイプの陰気な男だ。

「多分違う!」

 目の前の男はガドゥじゃない。ただガドゥじゃないなら誰なんだ? という話になる。ガドゥと同等の体術を使って襲ってくる奴が、ウルカイザーには何人も居るのか? それはあまり考えたくないぞ…?

 とりあえずこれ以上は考えても仕方がない。誰だか知らんが包帯男にガドゥ並の戦闘力があるのなら、相手をする担当は俺だ。

 更に踏み込んで突きの攻撃をみまう。だがそれも当然の様に躱され、反撃の回し蹴りが飛んでくる。

 魔剣でガードしてダメージを受け流すが、やはりこいつ、俺の戦い方を熟知している。あとガドゥよりは少し遅くて威力も軽い。
 
 しかしこいつは何者なんだ…? ガドゥに及ばないにしても、新井などよりもよほど強い相手だ。新井と戦っていた時にこいつに乱入されたら、まず間違い無く死んでいたのは俺だった。

 この場所にガドゥが居ないのならば、こいつはガドゥの影武者なのだろう。影武者に行動させて本体は別の場所で密かに作戦行動を起こす、くそっ、見事に裏をかかれたよ。

 きっと今頃ガドゥ本人は別の場所、別の国で… 例えば『俺やチャロアイトの居ない手薄なバルジオンで、カーノ王やミア姫を暗殺する』なんて事が出来るのではないか…?

 いや俺ならそうする。ガドゥが策謀神ドゥルスの神官であり、俺と同系統の加護を受けていた場合、俺に思いつくレベルの企みはガドゥも思いつくはずだ。

 嫌な予感が俺の中でだんだん大きくなってくる。こんな紛い物に構っている暇は無いんじゃないのか…?

「Θωχφν」

 後ろで微かにチャロアイトの声がした。意味は分からないが恐らく魔法の詠唱だろう。
 オイオイ、魔法なんか使ってゾビルにバレたらヤバいんじゃなかったのかよ? 俺の魔剣のエフェクトだとか言って誤魔化すのも程度があるからな。

 俺の攻撃をピョンピョン跳んで躱していた包帯男だったが、このタイミングで床に付いた足を滑らせてバランスを崩した。
 もちろんその隙を見逃す俺じゃない。そのまま一気に詰め寄って横薙ぎで首を切り落とす。

 何だか不自然なコケ方をしていたから、チャロアイトが使ったのは「足を滑らせる魔法」とかなのかな? 地味だけど一瞬の失敗が命に直結する今みたいな場面では、恐ろしく有効な戦術だな……。

 飛んだ首が壁に当たり、跳ね返ってこちらに転がって来る。俺の攻撃か壁の衝撃かは分からないが、顔に巻いてある包帯が半分取れて顔が判別できた。

「こいつ新井の取り巻きの1人じゃないか…」

 そう、新井が倒された後、最初に腰を抜かして逃げ帰って行った新井の取り巻きその1だ。

 だがおかしいよな。こいつがそんなに強かったのであれば、新井と一緒に攻撃してくれば良かったし、情けない叫び声を上げて逃げ出す必要も無い。

 どうにも腑に落ちない。不自然な事が多すぎる……。

 ゾビルが包帯男の体をまさぐっている。全身包帯でポケットや小袋を持っている訳でも無く、金目の物がある様には見られないけどね。
 
「これを見てくれ。この胸の紋様…」

 ゾビルが包帯男の包帯をほどいて、その素肌を露わにする。男の首無し死体の胸元なんて欠片も興味が無いのだが、何か手掛かりがあるのなら見ておかないとだよな……。

 確かに直径20cm程の一見魔法陣の様な入れ墨が、男の胸元に描かれている。これが何だと言うのかな…?

「以前、ガドゥの隠れ家に攻め込んだ際に押収した書物の中に、これに酷似した紋様があった。これは魔術で人を強制的に操る邪法だよ」

 ほほぅ、つまりガドゥはこの魔法でチンピラの1人を操って偽ガドゥに仕立て上げ、俺達がやって来るのを見越して罠を仕掛けていた、という訳か……。

 しかし、そんな便利な魔法があるのか。ゾビルが余所見している間にチャロアイトに視線を送ってみたが、彼女は軽く首を振り返してきた。どうやら知らんらしい。

 一口に魔法と言っても色々な源流や派閥があって、各々が秘術を門外不出にしているから魔法のバリエーションは無限にあるとか、そんな事を以前にチャロアイトから聞いた気がするな。

 この状況から考えられるのは、ガドゥはついさっきまでこの現場にいて罠を用意し、今は何処かに逃亡したという事。
 
 ガドゥに似せた紛い物を作っても所詮は新井の取り巻き、大した時間稼ぎにもならない事はガドゥも理解しているはずだ。

 ならば奴の次の一手はどうくる…?

 ここで先ほどのイヤな予感が現実味を増して俺の胸を侵食してくる。イヤな予感のゾワゾワが止まらない。
 
 隣にいたチャロアイトがこめかみを押さえて何やら凄く難しい顔をしている。頭が痛いというよりも何かを思い出そうとしているみたいな… 何事だ?

「この紋様に見覚えがあるような気が… どこだったかしら…? 確か王宮の誰かの腕に… そうだわ、シシュー嬢の腕に似た模様の入れ墨があった… 『貴族の子なのに珍しい』って思って…」

 シシュー嬢… って、ミア王女の近侍の金髪お姉さん、ヨアンナさんの事か?!

 ヤバいじゃん! もしチャロアイトの記憶通りヨアンナさんに紋があったなら、ガドゥは簡単に王女様を殺せるぞ……。

 俺やチャロアイトが外国にいて、王城の警護隊長のゴルツさんがまだ現場に復帰していない今のタイミングは、王女暗殺のまたと無いチャンスだ。

 証拠は無い。無いが俺の胸の警鐘がずっと鳴り続けている。すぐにバルジオンに帰ろう!

「待って、『ガドゥと思しき人物が街の門を出た』という報告が部下から来たわ。しかも北、東、西の3つからほぼ同時に…」

 あの野郎、ここで更に撹乱してきたか……。
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