魔王と呼ばれた勇者、或いは勇者と呼ばれた魔王 〜最強の魔剣で自由に生きる! 金も女も、国さえも思いのまま!! …でも何かが違うみたいです

ちありや

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第113話 推理

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 ガドゥがウルカイザーを出た、という情報に一瞬思考が止まる。ここで対応を誤ると取り返しの付かない事になる。
 「ガドゥの目的は何なのか?」を冷静になって考えるんだ……。

 まずチャロアイトの受けた報告は「ガドゥと思しき全身包帯を巻いた風体の人物が3人同時に北、東、西の門から街を出て行った」という物だった。

 ガドゥは俺達が奴を追ってウルカイザーに入った事を何らかの方法… 恐らくはイクチナ(チャロアイト)を対応した役人経由で知り、俺のトラウマを抉るべく新井をけしかけてきた。

 さすがに新井がウルカイザーに召喚されたタイミングは偶然だとは思うが、その場で使える物は何でも使う機転と柔軟さがガドゥにはある。それが地味に怖くもある……。

 そして俺達が今いる、奴の隠れ家に関する情報が、新井から漏洩する事も想定した上で罠を仕掛け、部下に待ち伏せさせて襲ってきた。

 今にして思えば、新井の取り巻き連中も偶然新井がチンピラを集めたのではなく、最初からガドゥの兵隊だった可能性もある。まぁそれはもう良いか。

 仕組んだガドゥの目的は間違いなく『時間稼ぎ』と『俺達の足止め』だ。その間にガドゥはウルカイザーを離れて別の場所の仕事に向かったのだろう。

 問題は『どこ』に『何を』しに行くのか? これを見極めたい。

 まずガドゥらが向かった『北』『東』『西』だが、ウルカイザーの北には俺達の拠点であるバルジオン王国が。西にはウルカイザーの同盟国クライナー王国が。そして東には魔物の巣窟である虚無ヴォイドが広がっている。
 ちなみにウルカイザーの南は海であり、その海の先の大陸等はまだ発見されていない。

 このうち本物のガドゥが向かうとするならば北か東だろう。西のクライナーは正規の外交ルートで話すべき相手であり、ウルカイザーから見てもガドゥの様な隠密テロリストが赴く理由は無い。

 北のバルジオンは先ほどから危惧している通り、ヨアンナさんを使ってミア王女を暗殺する作戦が可能かも知れないし、俺が戦ったゴブリンみたいな連中を増やしてテロ行為を働く算段かも知れない。

 そして東の『虚無ヴォイド』も、魔物であるゴブリンを使役していたガドゥが、更なる大規模な戦力を整える為に向かう可能性は大いにある。
 
 異世界系最弱クラスのモンスターであるゴブリンですらあれだけ手古摺らされた。会った事は無いが、ここでもし更なる上位タイプのヒューマノイドモンスター(トロールとか巨人族とか)が出てきて暴れられたら、いくら俺でも止められる自信が無い。

 川辺りの洞窟で、俺は10匹に満たないゴブリンに苦戦させられた。その時にゴブリンどもを教練したか、或いは例の闇の邪法で操作していたのがガドゥだった。

 ただ仮にガドゥが『虚無ヴォイド』へ向かって戦力増強をしたとしても、すぐにはバルジオンへ攻め込んで来る事は無いだろう。
 それに軍勢となればその動きは遅くなるし、観測の目も『虚無ヴォイド』には多くいる。
 
 そして、ここで「替え玉を使って捜査を撹乱させる」なんて雑な手法を使っているのは、ガドゥ自身もあまり余裕が無い証拠だと思う。

 つまりガドゥがバルジオンに向かっていた場合が最も危急な事態を引き起こす可能性が高いという事だ……。
 
「どこへ行くか決まった?」

 チャロアイトの問いに、俺はスッキリしない渋面のまま頷くだけだった。

 ☆

「済まんが俺はウルカイザーこちらの後始末だけで手一杯だ。これ以上の支援は期待しないでくれ…」

 街を離れる俺達にゾビルが上質な馬を無期限で貸してくれた。俺達の乗ってきた馬は国境の手前で置いてきたし、それらはティリティアの実家であるガルソム侯爵家が回収したはずだ。
 まぁ俺の乗ってた馬は元々侯爵家の所有物で借り物だしね。

 ゾビルもゾビルで事件の隠蔽や、亡くなった部下の埋葬をしなければならない。次に会う機会があるかどうかは分からないが、ここでお別れという事になる。
 いつか馬を返す日までお互いに生きていたい物だよな……。

 ☆

「問題はガドゥが使うとされる『人を操る魔法』よね。どのくらい射程があって、一度に何人操れて、どれだけ正確な動きをさせられるのかが全く不明だから手の打ちようが無いのよね…」

 馬で駈歩かけあししながら国境を目指す俺達。途中でチャロアイトがボヤく様に呟く。

「とにかく『分からない事』は常に最悪を想定しておくべきだな。射程は『無限』、一度に『何万人』も操れて、『操られた全員がガドゥと同じ体術を使いこなす』…」

 まぁもし本当にそんな事が出来るのであれば、とっくの昔にバルジオンは滅ぼされているはずだ。つまりそこまでの効果は有り得ない、と考えて良い。
 
「それだと本当にお手上げね… ただバルジオンで同様の事件が起きていない事、ガドゥが恐らくバルジオンに向かっている事から…」

 チャロアイトも俺と同じ考えの様だ。

「あぁ、その射程は長くても数百mから数kmだろうな。国を跨ぐほどの射程があるならとっくにやっているだろうし…」

 ガドゥはバルジオン近郊でゴブリンの訓練をしていた。あの洞窟と王都とは10kmも離れていない。
 ヨアンナさんに紋様が刻まれたのがいつなのか知り得ないけれど、魔法の射程が10km以上であるなら、あの時点で王女を襲うテロは行えただろう。
 
「そして『一度に複数操れる』なら、私たちを待ち伏せした時に偽ガドゥを3人出せば良かったはずよね…」

 そうだな。あの時に出てきた偽ガドゥは1人だけで、他の2人は弓を撃ってきた。つまり……。
 
「あぁ、一度に操れるのは恐らく『1人』、そしてその精密さは、先ほどの『偽ガドゥ』の動きから、ガドゥ本人には遠く及ばないレベルだと思う…」

 偽ガドゥの攻撃は本物と比較しても遅くて軽く、しかもガドゥの得意技である『魔功』も使用していた形跡は見当たらなかった。

 とは言うものの、偽者の貫手ぬきてによってゾビルの護衛は一撃で殺されてしまった訳で、俺の様なチート持ちでなければ十分に脅威となる力を持っている。

 ヨアンナさんの実力がどの程度なのか試す機会は俺には無かったが、仮にも王女の近侍を任されているのだから弱いはずはない。少なくともクロニアよりは強いと思う。

 ミア姫本人に戦闘力は無いし、そんな人が刺客として襲ってきた時に、王城の中で迅速に的確な対応を取れる人物は何人も居ないだろう……。

 嫌な予感が止まらない。手綱を握る手の汗が増した気がする。

 俺は逸る気持ちが漏れ出る様に走る馬の横腹を踵で打ち続けた。
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