54 / 69
二期 三・五章
暗雲
しおりを挟む
「こいつらの見ている方向に何があるか全くわからん!暗すぎて視界も頼りにならない…!」
確かに爆音が聞こえたが、森の中が暗すぎて方角がわからない。
「くそ!とりあえずこいつらを蹴散らさなければ!」
依然、目線を変えず襲いかかるボアの群れをどうにかしなければならない事だけは明白であった。流石にこの数の好戦的な魔物を放置しておく訳にはいかない。
「ちょっと、急ぐぞ。」
クレイスはその場に仁王立をした。ボアアークがそこに突撃してくる。
ドガァ!
ボアアークの突進により、岩と岩がぶつかったかのような音がなる。
常人や並みの冒険者なら即死であろうその突進にクレイスは微動だにしなかった。
「全力の四分の一を出してやろう。」
剣を突き上げたクレイスは呪文を唱えた。
「鎌鼬!」
そう唱えたクレイスの周辺に鎌鼬が吹き荒れる。
鎌鼬は木々を切り倒し、ボアを切り刻んでいった。
ズシンズシンとボアの巨体が地に倒れ、木々もそれに続いて倒れて行く。
「うむ、やはり威力がありすぎる…。今仕方ないが、木々を無駄に切り倒してしまったな。」
しかし、見晴らしは良くなった。先ほどまで見えなかった空が見えるようになった。
「な…んだ…!?」
空を見上げたクレイスはとんでもないものを見た。
クレイスの視界に写ったもの…それは…
「なんだこの…黒い…雲は…!?」
世界を覆い隠しているのではないかと思えるほどの暗雲が広がっていた。
「…この雲のせいで、この森が真っ暗になってしまったのか。」
クレイスが気にしていた森の異変の正体であった。
暗雲はクレイスがボアの群れに遭遇するタイミングで現れた。
「つまり、仕組まれた…?」
ここで気づいた。
ボアの群れが見ていた方向。それは…
「アルケイデスが危ない…!」
急いで戻らなければ…、街が…!
~アルケイデス~
「動けるものは早く逃げて!!C級以上の冒険者は戦闘に回って!!」
シルキーは東奔西走していた。受付嬢として、また、実力者として街を守るため戦っていた。
闘技者の街であるアルケイデスに歴史上二回目となる魔物の襲撃であった。
晴れ渡っていた空に突如暗雲が立ち込め、その矢先に街の東西南北の門から多種の魔物が攻め立ててきていた。
「一匹一匹が強い…!HからD級の冒険者じゃ歯が立たないほどに…!この街にC以上の冒険者が集まっていると言っても、これじゃあジリ貧よ!!」
驚いたことに、H級であるはずのボアですらE以上の強さがある。一匹ずつならなんとかなるが、彼らは群れるうえ、体力はもともと高い。
シルキーが南門についたとき、目の前には地獄が広がっていた。
「パッと見ただけでも数えきれない程…!しかも…」
ボアだけならまだよかった。
シルキーの視界に移っているだけでも、ボアアークやサンダーベア、さらに…
「アウェークドラゴンまで…!」
アウェークドラゴンとは、龍種に似た魔物である。
龍種ではないが、トカゲのような顔や鱗、翼から龍種の弱亜種として扱われている。体躯は人間の五倍以上。
シルキーの目の前にいる個体に至っては7、8倍はある。
弱亜種と言っても、ドラゴンの名を付けられたその力は伊達ではない。
おそらく、燃え盛っている家々は奴の火炎息の仕業だろう。
「あんな奴倒せるわけないじゃない…、ただでさえB級なのに…強化されてるなんて…!」
シルキーは願う。
クレイス、早く帰ってきて…!
「きっとすぐ帰ってくる。それまでは私達だけでやるしかない!!」
「そうだ。やるしか…ない!!」
声が聞こえたと思えば、目の前のサンダーベアが前のめりに倒れた。背中には大きな傷が付いている。
「ダイン!!」
馴染みの友人冒険者が助けに来た。
「他の場所も人数不足。二人でここは守り抜くしか無いみたいだな…。」
剣を高く振りかざし、ダインはそう呟く。
足元には魔物に壊されて飛んでくるレンガ。火の粉が舞い、仲間たちが死ぬ覚悟で剣を握る。
この状況は…一体なんなんだ、とシルキーは嘆く。
(かの勇者もこんな気持ちだったのだろうか…。)
目から涙が溢れる。どうしようもない。
絶望の淵に立たされたシルキーにさらに追い打ちがかかる。
ダインが空を指してこう叫んだ。
「上を見ろ…!ガーゴイルの群れだ…!」
その叫びは余りにも惨いものだった。
『ガーゴイル』
悪魔の使い魔として古くから恐れられてきた魔物であり、大量の魔力を有している。その魔力量はもはや悪魔にも匹敵する。
もちろんこのガーゴイルを使役する悪魔よりは弱いが、基準が悪魔基準であり、もはや人間が太刀打ちできる相手ではない。
この時代においてガーゴイルと戦えるのは、クレイスだけであった。
「…もう、終わりよ…!こんな状況、覆せるわけがない…。」
頭上でキィキィと泣き声をあげ飛び回るガーゴイル。その中で五匹、地上にいるダインとシルキーに向けて指を立てた。
指先に黒い炎のようなものが集まってくる。
そしてキィキィとしか鳴かなかったガーゴイルたちが大きく口を開け、
『ヘルファイア』
と唱えた。
無機質でひどく冷たいその声は喧騒の中でもはっきりと聞こえ、背筋を凍りつかせた。
指先から真っ黒で巨大な火の玉が放たれ、ダインとシルキーに向かって飛んでゆく。
見た目だけでも危険だと察したが、シルキーは信じられない光景を目の当たりにした。
その火の玉に向かって飛んできたレンガが、燃えるわけでも、焦げるわけでもなくただ…
消えた
跡形もなく消えてしまっていた。
「あれは…、まずい…!」
「感心してる場合じゃない…!もうここはダメだ、逃げるんだシルキー!」
その火の玉は着実にこちらに近づきながら、ものを消してゆく。おそらく消滅ではなく、炎が暑すぎて触れたものが溶けている。
証拠に、逃げようとしたときにはすでに最初の倍ほどに膨らんでいた。
「無理!間に合わないわ!早く逃げて!!!!」
ドォオオオオ!!
決して遅いわけではないその火の玉はダインの目の前でシルキーを捉え、そして爆発した。
「シルキーーーーーーーーー!!!」
ダインは爆発範囲に寸前入らず一命をとりとめたが…
「南門どころか…何もかも…無いじゃないか…!」
シルキーを含め、爆発した一帯が跡形もなく消え去っており、大きく空いた穴の底には溶岩のようなものが見えていた。
確かに爆音が聞こえたが、森の中が暗すぎて方角がわからない。
「くそ!とりあえずこいつらを蹴散らさなければ!」
依然、目線を変えず襲いかかるボアの群れをどうにかしなければならない事だけは明白であった。流石にこの数の好戦的な魔物を放置しておく訳にはいかない。
「ちょっと、急ぐぞ。」
クレイスはその場に仁王立をした。ボアアークがそこに突撃してくる。
ドガァ!
ボアアークの突進により、岩と岩がぶつかったかのような音がなる。
常人や並みの冒険者なら即死であろうその突進にクレイスは微動だにしなかった。
「全力の四分の一を出してやろう。」
剣を突き上げたクレイスは呪文を唱えた。
「鎌鼬!」
そう唱えたクレイスの周辺に鎌鼬が吹き荒れる。
鎌鼬は木々を切り倒し、ボアを切り刻んでいった。
ズシンズシンとボアの巨体が地に倒れ、木々もそれに続いて倒れて行く。
「うむ、やはり威力がありすぎる…。今仕方ないが、木々を無駄に切り倒してしまったな。」
しかし、見晴らしは良くなった。先ほどまで見えなかった空が見えるようになった。
「な…んだ…!?」
空を見上げたクレイスはとんでもないものを見た。
クレイスの視界に写ったもの…それは…
「なんだこの…黒い…雲は…!?」
世界を覆い隠しているのではないかと思えるほどの暗雲が広がっていた。
「…この雲のせいで、この森が真っ暗になってしまったのか。」
クレイスが気にしていた森の異変の正体であった。
暗雲はクレイスがボアの群れに遭遇するタイミングで現れた。
「つまり、仕組まれた…?」
ここで気づいた。
ボアの群れが見ていた方向。それは…
「アルケイデスが危ない…!」
急いで戻らなければ…、街が…!
~アルケイデス~
「動けるものは早く逃げて!!C級以上の冒険者は戦闘に回って!!」
シルキーは東奔西走していた。受付嬢として、また、実力者として街を守るため戦っていた。
闘技者の街であるアルケイデスに歴史上二回目となる魔物の襲撃であった。
晴れ渡っていた空に突如暗雲が立ち込め、その矢先に街の東西南北の門から多種の魔物が攻め立ててきていた。
「一匹一匹が強い…!HからD級の冒険者じゃ歯が立たないほどに…!この街にC以上の冒険者が集まっていると言っても、これじゃあジリ貧よ!!」
驚いたことに、H級であるはずのボアですらE以上の強さがある。一匹ずつならなんとかなるが、彼らは群れるうえ、体力はもともと高い。
シルキーが南門についたとき、目の前には地獄が広がっていた。
「パッと見ただけでも数えきれない程…!しかも…」
ボアだけならまだよかった。
シルキーの視界に移っているだけでも、ボアアークやサンダーベア、さらに…
「アウェークドラゴンまで…!」
アウェークドラゴンとは、龍種に似た魔物である。
龍種ではないが、トカゲのような顔や鱗、翼から龍種の弱亜種として扱われている。体躯は人間の五倍以上。
シルキーの目の前にいる個体に至っては7、8倍はある。
弱亜種と言っても、ドラゴンの名を付けられたその力は伊達ではない。
おそらく、燃え盛っている家々は奴の火炎息の仕業だろう。
「あんな奴倒せるわけないじゃない…、ただでさえB級なのに…強化されてるなんて…!」
シルキーは願う。
クレイス、早く帰ってきて…!
「きっとすぐ帰ってくる。それまでは私達だけでやるしかない!!」
「そうだ。やるしか…ない!!」
声が聞こえたと思えば、目の前のサンダーベアが前のめりに倒れた。背中には大きな傷が付いている。
「ダイン!!」
馴染みの友人冒険者が助けに来た。
「他の場所も人数不足。二人でここは守り抜くしか無いみたいだな…。」
剣を高く振りかざし、ダインはそう呟く。
足元には魔物に壊されて飛んでくるレンガ。火の粉が舞い、仲間たちが死ぬ覚悟で剣を握る。
この状況は…一体なんなんだ、とシルキーは嘆く。
(かの勇者もこんな気持ちだったのだろうか…。)
目から涙が溢れる。どうしようもない。
絶望の淵に立たされたシルキーにさらに追い打ちがかかる。
ダインが空を指してこう叫んだ。
「上を見ろ…!ガーゴイルの群れだ…!」
その叫びは余りにも惨いものだった。
『ガーゴイル』
悪魔の使い魔として古くから恐れられてきた魔物であり、大量の魔力を有している。その魔力量はもはや悪魔にも匹敵する。
もちろんこのガーゴイルを使役する悪魔よりは弱いが、基準が悪魔基準であり、もはや人間が太刀打ちできる相手ではない。
この時代においてガーゴイルと戦えるのは、クレイスだけであった。
「…もう、終わりよ…!こんな状況、覆せるわけがない…。」
頭上でキィキィと泣き声をあげ飛び回るガーゴイル。その中で五匹、地上にいるダインとシルキーに向けて指を立てた。
指先に黒い炎のようなものが集まってくる。
そしてキィキィとしか鳴かなかったガーゴイルたちが大きく口を開け、
『ヘルファイア』
と唱えた。
無機質でひどく冷たいその声は喧騒の中でもはっきりと聞こえ、背筋を凍りつかせた。
指先から真っ黒で巨大な火の玉が放たれ、ダインとシルキーに向かって飛んでゆく。
見た目だけでも危険だと察したが、シルキーは信じられない光景を目の当たりにした。
その火の玉に向かって飛んできたレンガが、燃えるわけでも、焦げるわけでもなくただ…
消えた
跡形もなく消えてしまっていた。
「あれは…、まずい…!」
「感心してる場合じゃない…!もうここはダメだ、逃げるんだシルキー!」
その火の玉は着実にこちらに近づきながら、ものを消してゆく。おそらく消滅ではなく、炎が暑すぎて触れたものが溶けている。
証拠に、逃げようとしたときにはすでに最初の倍ほどに膨らんでいた。
「無理!間に合わないわ!早く逃げて!!!!」
ドォオオオオ!!
決して遅いわけではないその火の玉はダインの目の前でシルキーを捉え、そして爆発した。
「シルキーーーーーーーーー!!!」
ダインは爆発範囲に寸前入らず一命をとりとめたが…
「南門どころか…何もかも…無いじゃないか…!」
シルキーを含め、爆発した一帯が跡形もなく消え去っており、大きく空いた穴の底には溶岩のようなものが見えていた。
0
あなたにおすすめの小説
R・P・G ~女神に不死の身体にされたけど、使命が最低最悪なので全力で拒否して俺が天下統一します~
イット
ファンタジー
オカルト雑誌の編集者として働いていた瀬川凛人(40)は、怪現象の現地調査のために訪れた山の中で異世界の大地の女神と接触する。
半ば強制的に異世界へと転生させられた凛人。しかしその世界は、欲と争いにまみれた戦乱の世だった。
凛人はその惑星の化身となり、星の防人として、人間から不死の絶対的な存在へとクラスチェンジを果たす。
だが、不死となった代償として女神から与えられた使命はとんでもないものであった……
同じく地球から勇者として転生した異国の者たちも巻き込み、女神の使命を「絶対拒否」し続ける凛人の人生は、果たして!?
一見頼りない、ただのおっさんだった男が織りなす最強一味の異世界治世ドラマ、ここに開幕!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる