13番目の神様

きついマン

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二期 三・五章

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「これが加護…?」

 クレイスは自分の攻撃の威力が信じられないといった表情で立っていた。
 
 その様子を見たダインは、
「なぜお前がそんな反応なんだ…?」
 と訝しんでいた。

「いや…なんでもない…。」

 まさかガーゴイルの放ったヘルファイアをこうも容易く打ち消し、さらに威力を残したまま敵を焼くまでするとは…恐ろしい。

 が、これで悪魔の加護と言うものがどれほどの力を発揮するかがわかった。

「戦える。」

 呟いたクレイス。
 シルキーはじっと見ていた。

「クレイス…大丈夫…?」

「ああ、任せてお…け!!」

 話終わるや否や、クレイスは強く地面を蹴り宙へ舞った。まっすぐと空を飛ぶガーゴイルの群れの中へと跳んでゆく。
 ガーゴイルは向かってきたクレイスを握りつぶそうと、掴みかかる。

 その際の力は膨大な魔力を使用した身体強化魔法によってとんでもないほどに強化されている。

「掴むがいい!」

 空中で身動きの取れないクレイスはわざと腕を差し出し、掴ませた。
 
 クレイスはそのガーゴイルを支点に空中で回転をはじめた。
 
 普通の人間であれば掴まれた時点で、その部位はぐちゃぐちゃになってしまう。しかし、クレイスはもともとの強さの上、悪魔の加護で自らを強化しているためダメージにはならなかった。

「うらっ!!」

 回転しながら剣を振り、周りで飛び回っていたガーゴイルを4体、一瞬のうちに一刀両断した。

「ちっ!剣が折れちまった…無駄に固え奴らだな。」

 腕を掴んでいるガーゴイルを引き剥がし、地面へと思い切り叩きつけた。

 ガーゴイルは猛スピードで地面へと叩きつけられ、肉塊となった。

「…」

 粉々になるガーゴイルを一瞥したクレイスの感情に変化があった。
 今まで芽生えたことのない感情。

ー楽しい。ー

 試合形式の戦闘、つまり命の駆け引きではない場合は楽しいと感じることはあった。
 しかし、命の駆け引きがある場合、クレイスは常に真剣だった。

 だが、今は

 無残に散らばるガーゴイルを見てニヤニヤが止まらない。

「はっ!脆いな!!」

 笑い飛ばすクレイス。
 クレイスは自然落下しながら魔力を溜めた。そして着地と同時に溜めた魔力を解放し、鎌鼬を放った。

 着地した先は、ボアやベアの群れの中。
 放ったれた鎌鼬はクレイスを中心に半径五メートル程を切り裂いた。

 魔物の叫びと血肉が飛び交う。

「脆すぎるぞ…!」

 鎌鼬から逃れた魔物を次々に切り倒しながらクレイスは笑う。

 そんな彼を見ていた二人は思った。

 悪魔。

 昔の大戦のことを書いた本に出てきた悪魔の話によく似ていた。
 残虐で非道。戦闘においてよく…笑う。

 今見ている彼は…一体誰なのだろう。

 人…なのであろうか…。

「クレイス…どうしちゃったの…?」

 シルキーが聞く。

「分からない。分からないが。いやに心地がいい。開放的だ。」

 剣についた血を振り払いながら答える。

 彼は隙だらけであった。
 悪魔の加護は彼を傲慢にした。もはや用心などない。

 その隙をアウェークドラゴンはつく。

 アウェークドラゴンは知能が高く、基本は無闇に攻撃をしてこない。

 交戦中の時、どうするかと言えば…

 ただ、じっと相手を見る。
 アウェークドラゴンは動体視力が高く、交戦相手の一瞬の隙も見逃さない。

 もし交戦中に気を抜けば、命はないだろう。

 また、こちらの攻撃は基本的には当たらない。これも観察故である。

 従ってアウェークドラゴンを討伐するには、肉を切らせて骨を断つ精神を持って挑むか、二人以上のパーティを組むことが条件である。

 ガーゴイルほど群もせず、魔力もないが、そもそものステータス自体は高い。ステータスだけで言えばガーゴイルを上回る。

「クレイス!!」

 ブォオ!ドゴッ

 シルキーが叫ぶが間に合わず、気を抜いていたクレイスは頭にアウェークドラゴンの尻尾攻撃を受けた。
 
 アウェークドラゴンの尻尾攻撃はあまりにも速く広く、周りの魔物や瓦礫を巻き上げながらクレイスへと到達した。
 速さにより舞った煙幕のような砂埃でシルキーとダイン、二人の視界からクレイスの姿が見えなくなってしまった。


 クレイスは砂埃の中一人思った。

 人間の心を捨て、ただ力に身を任せ…

「バカだなぁ…俺は…」

「!?」

 砂埃の中でも一瞬も目を離さずクレイスを見ていたアウェークドラゴンは自分の元へと尻尾を戻そうとしていた。
 その尻尾に強烈な痛みを感じ、驚いた。

「バカだが、楽しいことには変わりねえ。」

 クレイスが尻尾の一部を握りつぶしていた。

「こんなバカでけえ尻尾、普通には掴めねえから掴みやすくさせてもらったぜ。」

 なんとクレイスは、本当の龍種ほどでは無いにしろ剣をも通さないアウェークドラゴンの尻尾の一部をあろうことか握りつぶし、血が溢れ出る中そこに手を突っ込んで骨を握った。

「オラっ!!」

 握った骨を思い切り引っ張る。

「グルルアァ!?」

 凄まじい力で引っ張られ体が宙うくアウェークドラゴン。一瞬でクレイスの元へ引っ張られる。

 その時生じた風で、砂埃が徐々に消えてゆく。

 シルキーとダインの視界も良くなり、クレイスの姿が見えてきた。

 二人は衝撃的な瞬間を見た。

「アウェークドラゴンを!?」

 クレイスが引っ張ったアウェークドラゴンの頭を殴り飛ばした瞬間だった。

 殴られた頭は粉々になり、首からは血が噴水のように吹き出し血の雨を降らせた。

「お前も脆い。俺は無傷だよ。」

 そこには血まみれの男が立っていた。

「…誰なの!貴方はクレイスじゃない!!!」

 シルキーは叫んだ。
 自分の知っているクレイスじゃない。優しかったあの人ではない。
 
「俺は、クレイスだよ。」

 静かにそう言った。

「……」

 シルキーは何も言わない。
 茫然自失、そんな彼女に魔物達が襲いかかる。

「シルキー!!ボサッとするな!!」

 ダインがシルキーをかばう。

「少し雰囲気が違うがあれはクレイス、味方だ!敵じゃない!俺たちは俺たちのできることをするぞ!!」

 こうしている間も被害は増えるばかりだ、とダインは続ける。

「………」
 
 シルキーは動かない。

「シルキーッ!!!!」

 交戦中のダインが喝を飛ばす。

「……わかったわ…、今はクレイスを頼るしかないわね…!」

 クレイスが背を向け手をひらひらと振る。

「南門は俺一人でやる。他を手助けに行け、これ以上俺の姿を見るな。」

 どこか寂しそうにそう言うクレイス。

「…信じてるわよ。」

「シルキー!早く行くぞ!!」

 二人は他の門へと走っていった。

「さて、残りの雑魚と使い魔ども!!血を見せてくれるか!!!!」

 後ろからクレイスの声が聞こえた。




 この後、西門、北門、東門の手助けに行った二人は南門が異常だったことを知った。

 交戦中ではあったが、見当たる魔物はボアやベア等の普通のものばかり、アウェークドラゴンは全箇所にいたが強化はされておらず、高位の冒険者の四人パーティーの前に倒されていた。
 南門では私たち以外全滅だったというのに、他の門での戦闘員の死亡者は居なかった。

 それでも非戦闘員の被害や街の破損はとんでもなく、殆どの冒険者は救助に回っていた。
 
 南門に一体何が起こっていたのか、一抹の不安が残る。
 



 南門に一人残ったクレイスは残ったガーゴイルや魔物の群れを駆除していた。

 クレイスは盾も捨て拳だけで闘った。武器も何もいらなかった。

 殴れば散りになる。煽げば突風が吹く。

 魔法も必要なかった。




 自分が人間だと分からなくなる頃、クレイスの周りには死体だけが残った。

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