【完結】此処ではない何処かで《此処はフリーセックスが基本の世界(汗)》

天狼本舗

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21 Side ヴィーオ② (トラブルメーカー)

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故郷エスタスラの街に着いてから、オレは依頼されていた品を届けて回った。

マヴェーラ大陸特産の野菜や果物、産地指定のぶどう酒、カペロに魔法付与してもらった鉱石がいくつか(彼の作る魔法鉱石は、こちらでも人気があるのだ)、火喰い竜のツノ(受け取った友人は、泣いて喜んでくれた)などなど、などなど・・・。
中には“マヴェーラ大陸の慣習について、感じたことを聞かせて欲しい”という依頼なんかもあったので、全てを済ませるのには、それなりに時間がかかってしまった。


用事を終えて、旅に必要な糧食やら何やらを準備してマジックバッグに詰め込むと、オレは、ポルトノルドに向かう朝一番の定期船へと乗り込んだ。

アリーシャに早く会いたくて仕方がなかった。
時々飛ばしている伝書魔法鳩を、またアリーシャに向けて飛ばした。



マヴェーラ大陸の人たちは、驚くほど性にオープンだ。

恋人と言う概念は存在せず、発情期のパートナーですら毎回コロコロと変える。

一度“この人“と言う相手を見つけてしまったら離れられなくなるアースラ大陸の人間とは、そこが大きく違う。


ただ、“この人“と言うその相手を見つけるまでは、アースラの人間も何度か相手を変えて“試してみる“。
そこはマヴェーラと変わらない。

なので、なかなか見つけられずにパートナーを探して“試し続けている“人間も一定数存在する。
そんな人たちは“漂流者”と呼ばれている。
そんな漂流者たちも、大抵はどこかで妥協するけれど。

その点から言えば、アースラ大陸の人間から見ると、マヴェーラ大陸の人間は皆“漂流者“だ。
漂流することを心から楽しんでいる漂流者だけれども。


アースラ大陸の人間は、何故か総じて魔力保有量が少ない。
植生とか水や食料の質に違いがあるのではないかと推測されてはいるが、まだその原因は突き止められてはいない。

魔力保有量は少ないけれど、代わりに何故か、相手の持つ魔力を感じる能力は高い。
マヴェーラの人間のような“指を絡めての肌感チェック“をしなくても、そばに寄った時の魔力の質で、相性を判断することが出来る。

なのでオレも、相性が良さそうな相手と何度か“試した“ことはある。
だけど魔力がキレイに交わらない。
それではもっと相性の良さそうな魔力持ちの人を、と探しても、なかなか出会えない。

このままでは自分も漂流者になりかねなかったので、冒険者を生業とし、あまり人とは深く関わらない生活を心がけるようになっていった。

よほど惹かれる魔力にでも出逢わない限り、近寄らないことにしていた。
そもそも出逢えなかったけど。




若い頃、ギルドの海竜捕獲依頼に参加したことがあった。

それなりに大きく育ってしまった海竜が、定期船の航路を邪魔していて物流が滞りがちになって来たとのことで、その海竜を捕獲して元居た北海に放つ、と言うのがその内容だった。

この時臨時で結成されたのが、アースラ大陸とマヴェーラ大陸から参加した冒険者の合同チームだった。

そこで知り合ったカペラと意気投合した。
彼の魔法付与した鉱石に随所で助けられた。
混乱と困難を極めるかと思った海竜捕獲&放竜作戦も、みんなの団結力と魔法鉱石を使った頭脳戦で、予想されていたよりもすんなりと成功し終了したのであった。



そんなことがあり、カペラの魔法鉱石はアースラ大陸の、特にエスタスラの街に住む冒険者には、垂涎の品となった。
しかし、なんとか手に入れようとしても、物流の途中で大方引き取られてしまう為、なかなかエスタスラまでは届かない。


そこで白羽の矢が立ったのが、カペロと誰よりも親しくなったヴィーオだった。

いわく、「カペロの魔法鉱石を、なるべくたくさん手に入れてきて欲しい」と。

なかなかマヴェーラ大陸に渡ろうとする人が居ない中(理由は主に、“パートナーと離れがたい“からだ)、近々身軽なヴィーオが渡るらしいと聞いた街の人たちから、魔法鉱石以外の依頼も、ここぞとばかりに託されてしまった。

そうしてオレは数年ぶりにカペロに会いに行き、そこで『2階に居てさえ分かるほどの、圧倒的で魅力的な魔力』をまとう女性、アリーシャに出会ったのだった。


彼女の魔力との交わりは、パートナーを得た周りの人々から聞かされていたよりも、そして自分が想像していたよりもはるかに鮮烈で、美しくて、あまくて、ほわほわとやわらかくて、温かくて、激しくて、陶然となるものだった。
(↑多分もっとたくさんの形容詞を並べられる。これだけじゃ全然足りない。自分の語彙力の低さが情けない)
彼女は、「この人しかあり得ない」「離れられない」と、心から本当に思える相手だった。



離れられない、とは思ったけれど、自分にはまだ雑多で危険な依頼がいくつか残されていた。アリーシャを危険に晒すなんて、考えられなかった。連れては行けなかった。

だから、引き裂かれるような心の痛みを抱えつつも、「必ず戻るから」と言い残して、とにかく急いで依頼を片付けることにしたのだ。


その“危険な依頼“と思っていた最たるものが、“火喰い竜のツノの入手“だった。

実際に火喰い竜と対峙した時には、正直ツノを入手出来る喜びよりも、「アリーシャも連れて来ればよかった」と言う残念な気持ちが遥かに勝り、思わずめまいを覚えてしまった。
まぁ、面倒な魔物が居るらしいから、結果的に連れて行かなくて正解だったのだけど。




つらつらと色々思い出しているうちに、船がポルトノルドの港に到着した。
互いの大陸は、海岸からお互いの大陸が見えるぐらいには近いので、朝イチの船で出発すれば、昼過ぎには到着出来るのだ。


そこで勇んでファロヴェストを目指そうとしたところを、いきなり知らない女に腕に抱きつかれた。赤い髪と赤い瞳の色が強烈な、オレよりも少し年上と思われる女だった。

女の持つ赤い魔力は、ピリピリと刺すような攻撃的なもので、触れられるのすら不快だった。

「私の発情期の相手をしてほしいの。もう、すぐ来ちゃうの」

その女は抱きつきながら潤んだ目でしつこく言い募るのだが、勿論オレの方はそれどころではない。
一刻も早くアリーシャの元に帰りたくて仕方ないのだ。だから

「オレにはパートナーが居るから」

と、女を引き剥がしながらそう言い捨てたのだが、それでもしつこく

「嘘つき! パートナー持ちのアースラの男が、ひとりでこっちに来るワケないじゃない」

などと文句を言いつつ、なんとかオレの腕に抱きつこうとまとわりついてくる。

あまりに面倒なので、仕方なく女の腕を掴んで街の中心を目指すと、何を勘違いしたのか女はゾッとするようなイヤらしい笑顔を浮かべながらついてきた。


そんな女の期待に反して、オレが目指したのは街のギルドだ。
こう言う、街の人間が起こす厄介ごとの苦情もギルドで受け付けてくれるのだ。

オレの意図に直前で気がついた女は、体を捩って歩くのを拒否し、汚い言葉でオレを罵倒し始めた。
それでも構わずオレはギルドに突入すると、窓口に女を連行した。



窓口に居たかなり大柄のギルド員は、女を見てため息をつくと怒鳴った。

「イルザ、またお前か。面倒事を引き起こすのは止めろっていつも言ってんだろ。また謹慎させっぞ」

どうやら女は街のトラブルメーカーらしい。

「いやん、違うのよ、ラウル。この人、私の発情期のパートナーなの♡」

「違います」

オレが秒で否定すると、ラウルと呼ばれたそのギルド員がオレに代わって女の腕を掴み、奥の部屋へと無理矢理引きずって行ってくれた。
女の耳障りな叫び声も、奥へと消えていった。

女の腕を掴んでいた感触が残っていて気持ち悪くて、オレはしつこく腕と手のひらに洗浄魔法をかけた。


隣りの窓口の前で様子を見ていた冒険者が、

「災難だったな。あいつ、イルザって言う名の魔法使いなんだけど、魔法を悪用して男を宿に連れ込もうとする常習犯なんだよ。
あんたアースラから来たんだろ? 多分でアースラから来たって分かって、アイツにロックオンされちゃったんだと思うよ。何せアースラのヤツは“凄い”って、謎の伝説があるからな、ハハハ。
・・・あ、ごめん。まぁ、しばらくアイツは奥で謹慎か強制清掃奉仕活動にでもさせられることになると思うから、もう大丈夫だと思うけど。・・・まぁ、これからもイルザには気をつけろよ」

と教えてくれた。
周りの他の冒険者たちも、気の毒そうに「うんうん」とこちらを見て頷いている。

“謎の伝説“って何だ。迷惑にも程がありすぎる。




いつもなら海沿いの街道を行くところだったが、ギルドから近いという理由で今回は内陸側の街道を使うことに決めて、オレはギルドを出発した。


万が一イルザが追いかけて来た場合に備えて、街道横の木々を縫うように用心しながら進んだ。
・・・それがかえって失敗だった。

そこに張られていた動物用の罠に気がつかず、うっかりその罠に足を踏み入れてしまったのだ。

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