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27 これから(最終話)
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結局私の発情期は、11日間続いた。
前回より短い。
まだ発情期を迎えたのはこれで2回目だから、しばらくは長さが安定しないらしい。でも最終的には大体3~7日間ぐらいでほぼ安定する、期間の長さの違いは個人差とパートナーとの相性による、のだそうだ。
今日には出発しようと決めた最後の日の朝、私たちはこれからのことを話し合った。
『マヴェーラ大陸で暮らしても良い』と言うヴィーオの申し出は嬉しかったけど、多分私もヴィーオも、マヴェーラに居るとこれからもあの“にぎにぎ”に悩まされ続けることになるのが目に見えてる。
それに私は色々な土地に行くのが好きだし、新しい土地で暮らすことにも抵抗が無い。だから。
「私はアースラ大陸に行ってみたい。そして、居られる限りヴィーオとずっと一緒に居たい。・・・ヴィーオは、私に縛られちゃうのは、イヤ?」
そう告げると、ヴィーオは真っ赤になった顔を手で覆ってしばらく俯いていたけど。
不意に顔を上げると、改まった様子で姿勢を正し、彼の両手で私の両手を握りしめて真剣な表情で
「・・・アリーシャ。ふたりのこの気持ちが続く限り、オレだけをあなたの熱夜のパートナーと定めてくれますか?」
と訊いてきた。
“熱夜“とは、発情期を示す古語だ。
そしてこのセリフは、確かアースラ大陸でのプロポーズ的な言葉だったはず・・・。
「ありがとう。もちろんよ、ヴィーオ!
・・・あなたもこの気持ちが続く限り、私だけの熱夜のパートナーで居てくれますか?」
感動のあまり、ぽろりと涙をこぼしながら私が返すと、ヴィーオも満面の笑顔で
「もちろんだよ!」
と言いながら私を抱きしめ、何度もキスしてくれて・・・。
結局、宿を出るのが丸一日伸びてしまった。
翌日、港へと続く道沿いの市場を冷やかしつつふたりで歩いていると、ひとりの少年に声をかけられた。
彼は、私たちが先日ギルドでイルザの件を報告していた際にその場に居合せ、話を聞いていたとのことで、その後のことを教えてくれた。
いわく、
あれから1週間ほどしてギルド員数名で様子を見に行くと、イルザとオークはすっかり”仲良し“になっていて、ひとときも離れたくないと言った状況になっていた。
「解放してやる」と言っても出て来ず、「オークを捕獲する」と言うと泣いてイヤがる。
その上、「このままふたりでここに住む」と言って聞かない。
すっかりしおらしくなっているイルザを見て、もしかして今までの彼女の問題行動はその性欲の強さを持て余していたからなんじゃなかろうかと推測し、とりあえず今はこのまま放置してしばらく様子見することにした、
とのことだった。
「イヤガラセのつもりだったのに、オレはあの女に最高のパートナーを与えてしまったのか、そうなのか・・・」
ヴィーオが、がっくりと項垂れてしまった。
それを見た少年は、茶色いタレ目を細めて苦笑いしながら
「でもおかげでポルトノルドのみんなが安心してるよ。あなたにはみんなホントに感謝してるんだ。ありがとねっ!」
そう言って、「また是非この街に寄ってよ~!」と大きな声で手を振りながら去って行った。
はああぁ・・・、とどんよりとしたため息をついているヴィーオの袖をグイグイと引いて、私は話の間中ずっと気になっていたことを訊いた。
「ねぇねぇ、今の男の子、鑑定したら父親の名前が“カペロ”になってたんだけど、もしかして?」
「・・・あぁ、うん。それなら多分、アイツの息子だね。
12年ぐらい前にカペロはこの街にしばらく住んでたから、その時の子じゃないかな?」
「そうなの? カペロって、いろんな人の相手をしている割には子供が出来たって話を聞かないから、作れない体質の人なのかと思ってたんだけど・・・」
「あぁ、それはね」
この大陸の人間の体質として、近隣に住む人間との交配では子供が出来にくく、遠く離れた土地の人間との間でなら妊娠率が上がるとのこと。
性におおらかすぎるが故の弊害らしい。
みんなそれを知っているから、通常発情期には手近な誰かに相手を頼むけど、本当に子供が欲しいと思えた時には街に立ち寄っている行商人や冒険者に相手を頼んだり、いろんな人間が集まる大都市に行って相手を見繕うとのこと。
そう言った人の為のマッチングを得意とする人が居て、仲人のようなことをしてもくれるらしい。
「前回と今回、アリーシャを抱いた時は、ゴメン、キミのナカにも洗浄魔法をかけさせてもらってた。これからもしばらくはふたりの時間を楽しみたいからそうするつもりだけど・・・。
でもいつかちゃんと拠点を定めて、子供を作れる環境になったら、その時は・・・、よろしくね」
そう言って蕩けるような笑顔を浮かべながら、ヴィーオが私の額にキスをする。
私には、真っ赤になりながらうんうんっと頷くことしか出来なかった。
ポルトノルドの港から、アースラ大陸のエスタスラに向かう昼過ぎの定期船に私たちは乗り込んだ。
乗り込む前に、母さんとカペロにアースラ大陸に行く旨と、ヴィーオと会えた旨を記した伝書を飛ばした。
初めての船旅。
とは言えアースラ大陸はポルトノルドからも見える程度の距離で、エスタスラの港には夕方には着くらしいので、案外短い船旅だ。
髪をなぶる潮風を楽しみつつ、若干船酔いしつつ。船尾近くの甲板で、太陽の光を受けて輝く海面や広がる景色を見て楽しむ。
新天地では、一体何が待ち受けているのだろう?
アースラ大陸での生活は、マヴェーラ大陸とはかなり違うのかな?
慣れるまでしばらくは、ヴィーオにあちこち連れて行ってもらおう。
不安とそれ以上の期待を胸に、私はヴィーオに抱きつく。
そんな私を、ヴィーオは優しく優しく抱きしめてくれる。
何があっても、この腕の中なら安心。
ヴィーオと一緒なら、何処までだって行けそう。
前世の常識に近い関係も築けそう。家庭も持てそう。
そんなふうに思わせてくれるヴィーオと、今こうして共に居られる幸せを噛みしめながら、私はありったけの溢れる想いを唇に乗せて、彼にキスした。
辿り着いたエスタスラの街で、“カペロの弟子“と認識された私が大歓迎されることを、その時の私たちはまだ知らない・・・。
《 完 》
∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞
最終的に「私だけ(ただし“死がふたりを分かつまで“とは限らない)」を手に入れることができたアリーシャなのでした♡
(“死がふたりを分かつまで”とは限らない、とは言え、このふたりならなんだかんだずっと一緒に居そうな気がする・・・)
拙い物語に最後までお付き合いくださり、本当にありがとうございました。<(_ _)>
前回より短い。
まだ発情期を迎えたのはこれで2回目だから、しばらくは長さが安定しないらしい。でも最終的には大体3~7日間ぐらいでほぼ安定する、期間の長さの違いは個人差とパートナーとの相性による、のだそうだ。
今日には出発しようと決めた最後の日の朝、私たちはこれからのことを話し合った。
『マヴェーラ大陸で暮らしても良い』と言うヴィーオの申し出は嬉しかったけど、多分私もヴィーオも、マヴェーラに居るとこれからもあの“にぎにぎ”に悩まされ続けることになるのが目に見えてる。
それに私は色々な土地に行くのが好きだし、新しい土地で暮らすことにも抵抗が無い。だから。
「私はアースラ大陸に行ってみたい。そして、居られる限りヴィーオとずっと一緒に居たい。・・・ヴィーオは、私に縛られちゃうのは、イヤ?」
そう告げると、ヴィーオは真っ赤になった顔を手で覆ってしばらく俯いていたけど。
不意に顔を上げると、改まった様子で姿勢を正し、彼の両手で私の両手を握りしめて真剣な表情で
「・・・アリーシャ。ふたりのこの気持ちが続く限り、オレだけをあなたの熱夜のパートナーと定めてくれますか?」
と訊いてきた。
“熱夜“とは、発情期を示す古語だ。
そしてこのセリフは、確かアースラ大陸でのプロポーズ的な言葉だったはず・・・。
「ありがとう。もちろんよ、ヴィーオ!
・・・あなたもこの気持ちが続く限り、私だけの熱夜のパートナーで居てくれますか?」
感動のあまり、ぽろりと涙をこぼしながら私が返すと、ヴィーオも満面の笑顔で
「もちろんだよ!」
と言いながら私を抱きしめ、何度もキスしてくれて・・・。
結局、宿を出るのが丸一日伸びてしまった。
翌日、港へと続く道沿いの市場を冷やかしつつふたりで歩いていると、ひとりの少年に声をかけられた。
彼は、私たちが先日ギルドでイルザの件を報告していた際にその場に居合せ、話を聞いていたとのことで、その後のことを教えてくれた。
いわく、
あれから1週間ほどしてギルド員数名で様子を見に行くと、イルザとオークはすっかり”仲良し“になっていて、ひとときも離れたくないと言った状況になっていた。
「解放してやる」と言っても出て来ず、「オークを捕獲する」と言うと泣いてイヤがる。
その上、「このままふたりでここに住む」と言って聞かない。
すっかりしおらしくなっているイルザを見て、もしかして今までの彼女の問題行動はその性欲の強さを持て余していたからなんじゃなかろうかと推測し、とりあえず今はこのまま放置してしばらく様子見することにした、
とのことだった。
「イヤガラセのつもりだったのに、オレはあの女に最高のパートナーを与えてしまったのか、そうなのか・・・」
ヴィーオが、がっくりと項垂れてしまった。
それを見た少年は、茶色いタレ目を細めて苦笑いしながら
「でもおかげでポルトノルドのみんなが安心してるよ。あなたにはみんなホントに感謝してるんだ。ありがとねっ!」
そう言って、「また是非この街に寄ってよ~!」と大きな声で手を振りながら去って行った。
はああぁ・・・、とどんよりとしたため息をついているヴィーオの袖をグイグイと引いて、私は話の間中ずっと気になっていたことを訊いた。
「ねぇねぇ、今の男の子、鑑定したら父親の名前が“カペロ”になってたんだけど、もしかして?」
「・・・あぁ、うん。それなら多分、アイツの息子だね。
12年ぐらい前にカペロはこの街にしばらく住んでたから、その時の子じゃないかな?」
「そうなの? カペロって、いろんな人の相手をしている割には子供が出来たって話を聞かないから、作れない体質の人なのかと思ってたんだけど・・・」
「あぁ、それはね」
この大陸の人間の体質として、近隣に住む人間との交配では子供が出来にくく、遠く離れた土地の人間との間でなら妊娠率が上がるとのこと。
性におおらかすぎるが故の弊害らしい。
みんなそれを知っているから、通常発情期には手近な誰かに相手を頼むけど、本当に子供が欲しいと思えた時には街に立ち寄っている行商人や冒険者に相手を頼んだり、いろんな人間が集まる大都市に行って相手を見繕うとのこと。
そう言った人の為のマッチングを得意とする人が居て、仲人のようなことをしてもくれるらしい。
「前回と今回、アリーシャを抱いた時は、ゴメン、キミのナカにも洗浄魔法をかけさせてもらってた。これからもしばらくはふたりの時間を楽しみたいからそうするつもりだけど・・・。
でもいつかちゃんと拠点を定めて、子供を作れる環境になったら、その時は・・・、よろしくね」
そう言って蕩けるような笑顔を浮かべながら、ヴィーオが私の額にキスをする。
私には、真っ赤になりながらうんうんっと頷くことしか出来なかった。
ポルトノルドの港から、アースラ大陸のエスタスラに向かう昼過ぎの定期船に私たちは乗り込んだ。
乗り込む前に、母さんとカペロにアースラ大陸に行く旨と、ヴィーオと会えた旨を記した伝書を飛ばした。
初めての船旅。
とは言えアースラ大陸はポルトノルドからも見える程度の距離で、エスタスラの港には夕方には着くらしいので、案外短い船旅だ。
髪をなぶる潮風を楽しみつつ、若干船酔いしつつ。船尾近くの甲板で、太陽の光を受けて輝く海面や広がる景色を見て楽しむ。
新天地では、一体何が待ち受けているのだろう?
アースラ大陸での生活は、マヴェーラ大陸とはかなり違うのかな?
慣れるまでしばらくは、ヴィーオにあちこち連れて行ってもらおう。
不安とそれ以上の期待を胸に、私はヴィーオに抱きつく。
そんな私を、ヴィーオは優しく優しく抱きしめてくれる。
何があっても、この腕の中なら安心。
ヴィーオと一緒なら、何処までだって行けそう。
前世の常識に近い関係も築けそう。家庭も持てそう。
そんなふうに思わせてくれるヴィーオと、今こうして共に居られる幸せを噛みしめながら、私はありったけの溢れる想いを唇に乗せて、彼にキスした。
辿り着いたエスタスラの街で、“カペロの弟子“と認識された私が大歓迎されることを、その時の私たちはまだ知らない・・・。
《 完 》
∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞・∞⌘∞
最終的に「私だけ(ただし“死がふたりを分かつまで“とは限らない)」を手に入れることができたアリーシャなのでした♡
(“死がふたりを分かつまで”とは限らない、とは言え、このふたりならなんだかんだずっと一緒に居そうな気がする・・・)
拙い物語に最後までお付き合いくださり、本当にありがとうございました。<(_ _)>
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