上 下
27 / 35

隣国の都合=母さんの都合では無い。

しおりを挟む


母さんはそんな隣国の都合を知らなかったんだよ。俺も戦争をしてた事は知ってたけど、そんな悲劇は聞いてなかった。だから母さんは何気無く宰相さんに、ソバを食べたいから隣国に行くのに口を利いて欲しいと頼んだ。お隣の違う国に有る、ダンジョンへの口利きをしてあげると言われてたからね。

しかし口利きも何も無かった。隣国は鎖国状態だった。普通には隣国に入れないのだ。現在隣国は酷い食料難に喘いでいる。ソバは作られてはいるが、通常は小麦がメイン。ソバは痩せた土地や、連作対策に作られていた。その為食用としても、茹でて雑炊やスープにして食べる位。ほぼ家畜の餌になる。自国民もあまり食べぬので、備蓄されるばかりで倉庫に眠っている。小麦と交換して欲しいと訴えられているが、ソバの実を食用としない他の国々には需要がない。

また他国の商人等を国に入れぬ為、お金は有れども食料が手に入らない。他国の商人にお金を落とす位なら、復興の為に王家に貢げ。援助食料や輸入される食料は、全て王家に流れ買い上げられる。つまり国内に食料が流通してもバカ高い。近隣諸国はその内情を知り、王家を富ませるつもりは無い!と激怒。態度を改めぬ限り、近隣諸国からの援助は打ち切られてしまった。

ソバ粉は確か、焼酎やお茶にも加工できた筈よ。それに何故小麦粉が有るのに、ソバ粉は作らないの?母さんは唸っていた。倉庫に眠っているソバは、母さんにとってはお宝の山なのだ。

本当に飢饉ならば、小麦だソバだと選ばずに食べなさい!私だってお米の方が主食だし毎日だって食べたいわ!でも今はお米が手に入りにくいから我慢してる。給料日近くに教材費の支払いとか来るとね!削るのは食費よ。お米は我慢して、粉もん料理よ。うどんにすいとんにお好み焼き。下手すりゃネギだけのチヂミ擬きよ。ソバは不味いだ?美味しく食べる努力をしろ!異世界じゃ雑草の天ぷらが日常の有名人も居たぞ!流石に毒があったら怖いから、雑草は免除しよう。しかしソバだ!ソバは旨い。更には家畜の餌にしてるなら、毒の心配もないだろうが!

延々と説教を垂れる母さん。慌ててソバを配給しようとするお偉い方。

それを慌てて止める母さん。何で?

「不味いなら私が食べる!貴重なソバを不味く食べられるのが嫌!小麦と交換する。他の食材も沢山有るから、取り敢えずはソバに手をつけるな!勿体無いだろうが!」

母さん…。欲望丸出し…。

母さんは何せうどんより、ソバ好きだったからな!俺はどちらかと言うとうどん好きだ。残り物のカレーを出汁で割る。あの母さんのカレーうどんが好きだ。でも母さんは何時もカレーソバだった。

普通はカレーうどんじゃないの?何て事は今は良い。

兎に角母さんは…。

お蕎麦が食べたくてどうにもならなくなったのだ。食べられぬとなると、どうしても欲しくなる。母さんの思考はもう止まらない。俺と母さんとの、恐ろしい数日が始まった。

*****

さて。隣国へ乗り込む前の母さん。小麦と交換ならOKなのね!と、本当に単純に考えた。つまりは食料援助よね!と、母さんは手に入るだけの小麦を入手した。ついでにお米も用意した。何故にお米?ご飯の旨さを広め、小麦だけで無く米も作りたいと思わせる?米は食材の神様なの?

・・・・・。

確かにご飯は腹持ち良いし非常食にもよいよね。お粥に雑炊は胃にも優しい。仕方ないな。母さんの考えに俺も1票入れとくよ。

お次は生産者の農家等に直接出向いた。そこでは売り物にならず廃棄する様なキズ物野菜等を、激安で買い集めた。後は調味料等を買い揃えた。それらを全てインベントリにしまう。

ここまで約丸3日。過酷な国内巡業だった。母さんがせっつくから、俺らは夜通し移動だからな!そして後は解りますよね?そうですよ!肉です!お肉!安いお肉と言ったら?

勿論魔物のお肉ですよ。しかも母さんのインベントリは優れものですからね!兎に角狩る!狩りまくる!

我が国側の魔の森に3日隠りました。魔物倒しまくりました。玉子もゲットしまくりました。暫く我が国側の魔の森は安心でしょう。

ん?んー?

もしかして原因ってこれじゃ無いの?でも森が煩くて、湖が静かなんだよね?魔物を討伐したからなら、森も静かになる筈だよね?やはり違うの?

まあ良いや。

どうせ行くんだし、考えるだけ無駄だよね。

てな感じで俺と母さんは、大量な食料を一週間かけて調達しました。これで隣国中で炊き出しをしました。配給をする為の人材は、城から隣国の王族に貴族様達を強制確保。何故なら自国民が危機に瀕してるのに、貴様らは城で飲み食いしてた。しかも食料を寄付に来てるのに、そこに置いてけとのお言葉ですよ?信じられます?

それに母さんがブチ切れたのよ。

しかも奴等の言い訳がね?

「城に居るものは重要な役職の者ばかり。怪我を押してまで働かせる事は出来ない!これ以上健康を悪化させたら、国自体が立ちゆかぬ!」

だって!

これ王様が言ったの。でも誰も彼も大した怪我してないみたいだよね?皆さん元気そうじゃん。この言葉を聞いた母さん。一気にバーサーカーモード発動。どす黒いオーラ満開で恐ろしかった。兎に角怖かった。お偉いさん方は、かなりビビって腰抜かしてた。皆さま俺らを童顔だからと、余計に馬鹿にしてるんだよな。

だから余計な怒りを買う。

「ならば貴様らを今すぐ!更に健康にしてやる。健康なら働くんだな!古傷からかすり傷まで全て治してやるから働け!年寄りだから腰が痛いとか言うなよ?行け!パーフェクトヒール!」

何だ何だとざわめく人々。徐々に会場は騒乱の場とかす。

「傷口にはしみる消毒液をゴシゴシすりつけてあげてねー。打撲はゴリゴリ擦ると良いかも。骨折はしっかりくっつく様に、何度か確認してはめると良いかもー。ゴーリゴリのバキンボキンってね。ほーら回復したかなー。元気もりもり働けー!」

会場はカオスだった。最後には皆さま気絶してた。起きたら大人しく着替えて手伝いを始めた。

「ん?まだ解らない人が居るの?あ!貴方達は頭が悪いのね?可哀想だけど、流石に馬鹿は治療出来ないわ。でも脳みそを洗浄してみたらどうかしら?多分脳が疲労してるのよ。疲労を取り除く様に、脳ミソのシワの隙間までキレイキレイにしましょう。歯ブラシで擦る感じかしら?それとも塩を刷り込んで消毒してみる?シワはのばしちゃ不味いから気を付けるわね?」

頭を抱えて転げ回る人々…。

母さんが恐ろしい…。

更にはオラオラと王様をけしかけてる、母さんの笑顔が黒過ぎる…。

母さんの治療は素晴らしい。しかし恐ろしく苦痛を伴う。しかしそれは当たり前だ!自然に治るものには、薬品を使おう。城では急遽薬師を呼出し、薬品の製造を始め食事と共に配り始めた。自然治癒力と言う物を舐めてはいけない。

母さんは食料配給をしながら、重傷者の治療も始めた。最初はカオスだった。しかし効果はてきめんだ。皆さん納得してくれた。世の中優しい事ばかりでは無いのだ。

その代表が顔に傷を負った王子だった。傷口は大して深くはない。数年すれば徐々に消える。そう診断されていたのだが、母さんの事を聞きやってきた。何度も痛いと説明してもダメ。

後悔先に立たず…。

母さんってば、遠慮なくゴリゴリとゴシゴシと治療致しました。王子は絶叫しもんどり打ちながら、最後には泡吹いて失神しました。

それはやがて噂となり流れ…。

聖母様の治療は重傷者のもの。戦争中の聖女様方は、治療をし続け己を犠牲にした。聖女様方だけに任せてはいけなかった。我々も己達で治療出来る様にしよう!と、薬やポーション作りが盛んになった。

実際は…。

恐ろしく苦痛を伴う治療と、その苦痛が我慢できるかの戦いである。

顔にキズを負った王子は、傷が残らずよろこんだという。しかし巷では、失失禁王子と渾名を付けれてしまった。

折角の色男が台無しである。

こうなるとぶっちゃければ、我慢できるなら治療したくない!である。

「ちょっとしたケガでも、直ぐに頼るから駄目なの!痛みは等価交換だと思いなさい!私だって治療の痛みで人殺し何てしたくないわ。だから治療を受けるか止めるかは、必ず己で考えて下さいね。ニッコリ。」

患者も患者なら、母さんも母さんだった。

隣国は近隣諸国の力をかり、瞬く間に復興して行く。その影には最強な母さんありけり…。

【サディスティックな聖母様】

大降臨である。

しかしながら沢山の犠牲を伴い、母さんの治癒の魔法がかなり上達した。しかし今だにトラウマは根強い様で…。

「利き腕じゃ無いから良いです!私は文官ですから!嫌です!お願い止めて下さい!悪霊退散!来ないで!近寄らないで!嫌だー!助けてー!」

・・・・・。

・・・・・。

「祐太郎?私って悪霊なの?」

「ふざけるな!こんな奴は無視しろ!」

「お願いします!こんな軟弱ものでも大事な息子なのです!腕が無いだけならまだしも、傷口が膿んでるそうで…。下手したら半身不随になると言われました。皆押さえろ!聖母様の治癒は確かに痛い。しかし死なぬ!結果が伴うのだ!痛みは対価だ!しかと支払え!バカ息子め!」

・・・・・。

「母さん良かったね。結果が伴ってるって。認められてるよ。」

・・・・・。

「でもここまで言う?」

・・・・・。

「だね。母さんの治療も上手くなったよね。子供やお年寄りには優しいじゃん。つまり痛みは心の持ちようなんだよ。素直なら痛くない。母さんに余計な邪心を持たせない。これが己の身も守るのだ。」

「祐太郎それ誉めてないから!」

文官さんは元気になった。元気になり仕事に励んだ。沢山の治療院に薬草園を併設した。国中の治療院の無い地域に、新規に建立し薬草園を配置した。皆が辛い思いをしなくて済む様にと…。

これらも全ては。

【サディスティックな聖母様】

のお陰との事。

「治療院と薬草園が増えるのは良い事よ!でも皆が辛い思いをって言葉に、何か含んでる感じがするんだけど?奥歯に物が挟まった様な話し方をするなー!」

「奥歯に物って…。多分皆さん意味が解らないよ。」

勿論母さんだけは、納得していない。

*****
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:198pt お気に入り:9,283

じい様が行く 「いのちだいじに」異世界ゆるり旅

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:362pt お気に入り:11,583

転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:11,090pt お気に入り:24,900

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:631pt お気に入り:16,454

処理中です...