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【よん・Ⅳ】
乙女ゲーム・第二王子様が!転生者編⑩
しおりを挟む第四王子様の【完全保存】で、当時のまま維持されている従者の遺体。
第三王子様の【週間移動】で、連れて来られた国王代理の姫様の国の宰相様と護衛らしき人。
第一王子様が数種の魔道具を、兵士たちに運ばせて来た。我が国の魔道具は優秀なのよ。あの魔道具職人のおじさんみたいな、頑固な職人さんが頑張ってくれてるからね。私と同じくらいの体格の侍女と、第二王子様と似た体格の兵士が、事件当時の私たちを再現する。
「それでは現場検証をおこなう。これは手品ではない。貴様らにも理解しやすい様に、今回は先のリバースを早送りし、再リバースをしてやる。これが事実の流れだ。目を見開いてよく見るとよい。雑魚どもには冥土の土産だ」
第一王子様が、従者の遺体に近より【リバース】の行使をおこなう。皆はまるで息を止めているかの様に、静かに固唾を飲んで食い入るようにみつめている。
従者はすでに死んでいる。もちろん【リバース】により命の巻き戻りは不可能。しかし魂の抜けた遺体は、まるで息を吹き替えしたかのように術に反応する。目を閉じたままムクリと立ち上がる遺体。スローモーションの様にノロリと動き出す。しかし突如腹部のナイフが手に戻ると同時に、当時姫様たちといた場所に向かい、高速で走りだす。ここまでが早送りの高速リバース。到着するなり、ナイフをかまえ走り出す従者。ここからが再リバース。戻したものを再度戻す。皆の視線は従者に集まり、事実を逃さぬようにと凝視する。
従者がナイフを振りかぶる。しかしなにかにぶつかるように吹き飛ぶ。しかしすぐに体制を立て直して走り出す。そうね。たぶんこの辺りで私が結界をはり応戦したのだろう。その最中に第二王子様が私を庇い吹き飛ばされた……きっと従者が纏った雷が、こちら側の結界に接触し破壊。破壊された結界の力で、走り来る従者のナイフから庇ってくれた王子ごと、私は吹っ飛び壁に打ち付けられた……
従者は壁際に向かい王子の代わりの兵士にナイフを突き刺す。もちろん身代りの彼等は怪我をしないように、防護服を着込んでいる。そのままそのナイフを抜きとり、次はお前だとばかりに、私の身代わりの侍女にその切っ先を向けた。
あ……やはり第二王子様を先に刺していたから、私が見たナイフは赤く染まっていたのね。あの時私は失神していたの?皆に助けられてばかりで……情けないし悔しい……
しかし私には刃は届かず、従者は後方に吹っ飛んだ。なぜかしら?
あ!弾かれたのね。身に纏わせた雷の魔道具を操作していた者を、もふ白ちゃんが捕獲したからたぶん効果が弱まって……そこに第二王子様が結界を……己が刺されながらもとっさに、私にだけ結界をはってくれたの?毒にまで侵されてるのに!魔力が足りないなら、私なんて器にせずに先ずは己れを守ってよ!
従者は再度私の身代わりの侍女へと向かいナイフを突き立てようとする。人々の悲鳴に混じり、姫様の怒号も響き渡る。しかし結界が阻むのか……やがてその動作は止まった。従者はその場に佇みただ一方に体を向けたまま……両手に持つナイフを高く掲げ……己の腹部に深々と突き刺した……
どうして?なぜ自ら命を断ったの?
役目を終えて崩れ落ちる従者。手首の鎖がキラリと光る。開かないはずの従者の目蓋の裏に、悲しげな瞳が見えた気がした。
パンパン!第一王子様が手をたたき鳴らし、皆の意識を集める。
「これが真相だ。スキルや魔法は目には見えない。なので詳細は本人たちにしか解らないだろう。しかし真実は一つ。我が国の第二王子を刺したのは、そちらの国の姫付きの従者。その従者はさらにはミラクルマスターであるフローラを殺害しようとした。この点だけは揺るぎのない事実だ。理解したなら即刻我が国から退去し、二度と顔を見せるな!あとは宰相を信用しよう。国王にもよろしく伝えてくれ」
宰相様が頭を下げ、自国の者を下がらせようとする。しかし姫様は言うことを聞かず、人びとの制止の手を振り切り、第一王子様に責め寄ってゆく。
「私の従者は? なぜ死んだのですか? なぜ自殺の原因を明らかにして貰えないのですか? 彼は自殺なんて! 自殺なんてしないわ!」
姫様……第一王子様はたぶん、これ以上国際問題を大きくしないように配慮して……
「我が国の第二王子を刺した犯人は証明された。フローラの無罪は明確だ。しかも冤罪だぞ! 私はこれ以上大きな国際問題にならぬように配慮したつもりだが? 」
「兄上。姫様が知りたい様なら、現実を教えて差し上げたらいかかですか? 私がすでにもふ白が捕らえた、給仕に扮していた魔道具使いを尋問し、真相を聞き出しています。魔道具使いは姫様の護衛の一人です。その父親は第二王子派閥の公爵で、今回の黒幕の一人です。従者は手首にはめているブレスレットで、姫の従者になったときから、強い精神支配を受けていました」
第四王子様がニヤリと笑う。ちょっと……ううん。かなり恐いかも……
「そんなはずない! そのブレスレットは普通のお守りよ。ほら! 私も同じのをしてるわ。従者がまだ兵士見習いのとき、私を庇い怪我をしたの。その功績で私付きになった。そのとき私を助けてくれたその場にいた人たちに、守ってくれたお礼にとお揃いであげたのよ! 従者は肌身離さずしてくれてたし、ブレスが入れ替わるはずもない! 魔道具でもないし、変な仕掛けなんてしていないわ!」
姫様は己の腕を上に上げ、手首のブレスレットをみせた。どうやらあのブレスレットは、姫様が従者に与えたもの。しかし……
「そのブレスの製作先は、黒幕の公爵家縁の工房です。姫はお揃いのブレスを救助の場にいた護衛たちにも贈るからと、纏めて護衛の一人の公爵家の息子に頼みましたね。しかも従者の分には怪我をしたからと、特別に治癒を込めた魔石をプラスするように頼んだ。しかしその魔石には治癒ではなく、精神支配による絶対服従が刻みこまれました」
つまりはじめから……姫様がお礼にと特別にしたことが仇になってしまったの……
「従者の主人は二人。公爵の五男であり護衛である自白した魔道具使いと……姫様……あなたですよ。可哀想に自殺した従者はお二人の命令には従わざるを得なかった。姫様を身を挺して出世したはずが、公爵家に利用され捨て駒とされてしまったんです。しかも自殺の引き金は……」
「だって……護衛の一人が素敵なブレスをしていたからほめたら……皆でお揃いにしたらどうかと言われたの。自分の所で作っているからと、凄く安くしてくれて……」
姫様はうなだれ一生懸命に、真実を導きだそうと考えているようです。しかし第一王子様は、さらに姫様に残酷な言葉を続けます。
「君の従者は君の命令には絶対服従だ。つまりだ。君が彼に死ねと言ったから……彼は自殺したんだよ。あの時の従者の絶望的な顔をみたかい? 己が心酔する主にいらないと言われたんだ。絶望して死んでいっただろうね」
姫様はなにも言わず……いえ、たぶんなにも言えずにうつむいている……
宰相様が姫様を促し退出させようとしている。姫様は振り返り、すでに後ろ手に拘束されている、給仕に扮し縄を打たれたままの公爵家の息子を見つめた。
「私を騙したのですね……あなたは私ならば、誰にでも愛されると言ったわ。だからどんなことを願っても、私の願う結果にならないはずがないと! ても嘘じゃない! ぜんぜん願う結果にはならないし、私は従者の死を願ってなんていなかったわ! 」
姫様が護衛の男性を責め立てる。
「はっ! 頭の足りない第二王子と姫様はお幸せだよな。私は第一王子の近衛だったんだ! 公爵家の息子といえ五男だ! 近衛になるのにどれ程の苦労したか解るか! なのに貴様らの母親が親父に要らぬ知恵を吹き込みやがって! お陰で私は泥舟の船頭だ! たとえ病弱とはいえ、貴様らに明晰な王太子様を廃せるものか! 親父もゲスな側妃に乗せられやがって! うっ、うぐぅあぁぉ……ぁぁ……」
男性がその場に崩れ落ちる。
「親父と側妃が今回の黒幕だ……すべてはお見通しだろうが……証拠は彼のインベントリの中に……王太子様と正妃様を頼みます……私は彼を殺すつもりはなかった。まさか姫様が! 本気でないとしても……彼に死ねと言うなんて……彼は魅了の力と関係なく姫様を……うぐぅ……」
己の首を苦しげにおさえ血反吐を吐きなからも……とぎれとぎれになりながらも……彼は最後まで思いを……言葉を紡いでゆく。
「クソッタレが! 駄目だ……もう時間ぎれだ。頼む……証拠を……私と……死んだ従者の努力の結晶だ……もしもの場合の開封料金は、手紙と共にインベントリの中に……た……のむ……」
苦悶に満ちたその顔が、私を視認し瞳をとらえた。命尽きてまでも、その瞳が伝えたい真実とはいったい……気づくといつの間にか、キングが彼を支えていた。
「どの面下げて言うのかと言われそうだが……開封はフローラ嬢に頼みたい。貴女は我が国の―天使で希望―だった。王太子様は貴女を愛していた。しかし貴女は自由を望んでいる。羽ばたく翼を手折りたくはない。そう封印した思いを、愚かな父と側妃が! うぐぅ……ぅぅ…… 」
彼は大量の血を吐き崩れ落ち、今はキングの腕の中にいた。原因は奥歯に仕込まれていた毒薬が体内に浸透したため。その毒薬は我が国の第二王子様を刺したナイフにぬられた毒と同じもので、致死量を軽くこえていたという。彼はそんな猛毒に苦しみもがき耐えてまで、自身が伝えるべきことを伝えきった。
自殺にしては……それに時間切れとは?
彼は公爵子息ではあるが、母が身分の低い側室の息子の上に五男。幼い頃から家を出され一兵卒として働いていた。公爵家の息子とはいえ、ろくな後ろ楯を見込めない彼が……近衛までになるには、並大抵の努力ではなかったでしょう。しかしその努力を己れの父親が踏みにじった。彼は妹を出産し体の弱った母親と、産まれたばかりの妹を人質として脅されていた。
側妃と公爵の陰謀。側妃と公爵は親戚筋にあたる。また体の弱い王太子様は正妃様の子供であり、第二王子と姫様は側妃の子供。私が万能薬の錬金レシピを発見するまで、体の弱い第一王子様には、立太子は無理だと言われていた。そのためきっと、公爵と側妃は野望を持ってしまったのでしょう。
第二王子を王位につかせたいと……
しかし叶わぬ夢になりそうだとしると、無駄な足掻きを試みた。私を自営に取り込み、姫様を我が国に嫁がせ、我が国を味方につけようとした。しかし私が靡かないとなると、邪魔だからと排除に回る。これは姫様の我が儘にも通じ、公爵側もやりやすかったみたい。しかし……
従者はその犠牲になってしまった……
「ではフローラ! ご指名だから開封しよう。側妃と公爵も連れてきたから! しかし公爵ってば情けないよねー。いきなり瞬間移動で飛ばされたたけで腰抜かしてんの。こっちの化粧ババアの方が胆がすわってるよ」
第三王子様が両腕に、男女を抱えて突然現れた。今さっきまでいたじゃない。早すぎよ。
第一王子様が場を仕切り、ミラクルマスターの儀式をしやすいように整えてくれます。はいはい。儀式は決定事項なのね……
なぜ私が顔を出すとオマケのように、ミラクルマスターの儀式が付いてくるのかしら?でもやるしかないわね。今回のインベントリは最低マスだから、具現化に力を注ぎましょうか?
「ではミラクルマスターのお仕事をお受けいたします。魔力を集め始めますのでお静かに! 」
私は急きょ整えられた場所へと歩き出す。テーブルに敷かれた毛布の上には、無言で冷たくなった従者の遺体。即死でなければ……
しかしこれだけはどうにもならないの。だから私はミラクルマスターとして頑張りたい。インベントリに隠された、ロストマスターの思いと真実を知りたいから……
さあ……みなに真実を伝えて……
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