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【よん・Ⅳ】

乙女ゲーム・第二王子様が!転生者編⑫

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 あの騒がしく終了したミラクルマスターの定例会とパーティー。あれから約三ヶ月が経ちました。結局最後は国を跨ぐ問題となってしまい、すべては王家預りの処分となりました。

 私は城勤めとなり、午前中は成長した体に慣れるための訓練を行い、午後からはミラクルマスターとしての事務仕事をしています。その合間にテクテクテクと……貴族街を歩いて、実務のお仕事もしています。しかし貴族街ってハンパないのよ……

 とにかくウザいです。これは本当にイラつきます。お陰さまで、かなり身体能力の向上になりました。最初は私も真面目にお相手していたんです。お年寄りに道を聞かれたり、迷子の子供が泣いていたり。さらには荷物をお届けするお屋敷が見つからなかったり。困っているそんな方々のために頑張っていたのに!

 みーんなウソっぱちだったの。貴族街の入口では厳しい審査があり、道が解らないような人物は通れないんですって!または日中に道を歩いている人もいない。外出する際は馬車だし、ましてや子供や老人は外へは出ないの。誘拐の危険があるし、どのお屋敷にも立派な庭園がある。通常ならお庭でお茶会をしたりで、日中に出歩いてるのは私たちくらい。つまり……

 みーんな必ずお礼にと屋敷に引き込もうとするの。最初迷子の子供を家まで連れていったら、キンキラピカピカなイケメンたちが、門前にズラーリとお出迎え。入口で即サヨナラしました。あのね?人間は顔じゃないの。正直私は王子たちやキングやエースたちで、イケメン耐性がついてる自信があるよ。魔力量が多いと、顔面偏差値が上昇する傾向にあるみたい。魔力が体内を活性化させるからだろうと、長寿になることと同時によく知られている。だからバレバレなの!!そんな見え見えな餌に誰が釣られるか!諜報なのかストーカーなのかよく解らないのもワラワラいるから、すべて振り回してダウンさせちゃった。おかげで今の体にもなれたし、気配探知や身のこなしもバッチリよ。

 第二王子様の体調もすっかり良くなり、私が悪役令嬢だとのお話も聞きました。でも聞いてビックリよ。真のヒロイン決定戦の四名が既にいたとか……

 まずは先の自称ヒロイン。お次が今回の姫様。学園の魔方陣研究クラブには、地味っ娘メガネ女子が。学園では無かったけれど、先日第四王子様の寝室に間者が忍んだらしい。……あわれ間者……死ぬことはないでしょうが、きっと死にたくなるくらいのことを……ブルブル。そして……

▪才色兼備な男爵家の養女。(もとは高位貴族令嬢。訳ありで男爵家の養女となる。才色兼備で王子たちの目に止まる。自力でお家復興を成し遂げた)

 これがたぶん私では?とのことなの。もし私が兄と共に、男爵家に引き取られていたら、このような未来があったのかもしれない。まあ。結局は皆違う未来を歩いているの。だから真のヒロインなんて関係ないよ!いつかは誰かの唯一のヒロインになれれば良いじゃない。悪役令嬢だって要らないわ! 皆幸せになりたいに決まってるじゃない。悪役になんてなりたいはずがない。

 乙女ゲームのことを未だに心配する第二王子様。ゲームはこれで終了!私は悪役令嬢にはならないわ。皆が助けてくれたのよ。なんて一生懸命説明してるのに……過保護全開中……

 病み上がりのくせに、私の仕事場にちょこちょこ出現するの。しかもジーッと見てるだけでなにもいってこない。正直者うっとうしい。なにか喋りなさいよ!

 あーあ。そろそろお城を出たいかも……

 そんな中宰相様に呼ばれてしまいました。あーたぶんあのことだよね。そろそろ一週間経つし、無視は不味いよねぇ……

 案の定そうでした。ちーん。第二王子様までいるし、めちゃ気まずいんですけど?でもどうしてみんなして手紙の内容を知っているのよ!貴方たちは見たの?読んだの?開封したわけ?でも封はキチンと……

 「フローラ嬢? その疑心暗鬼な顔はやめて欲しいですね。魔法検査で安全性は確認しましたが、誓っても手紙は開封していません。差出人から、返事を欲しい。出来れば第二王子と一緒に訪ねてくれと言われているのです」

 宰相様……やはりバレましたか。疑ってごめんなさい。

 「本人はさすがに王太子だから国を簡単には開けられない。お詫びとお礼を渡したいそうだ。そのお礼の件で私も一緒にきて欲しいと呼ばれているんだ。あいにく第三王子は仕事で出ているが、転移スキルを予備にも入れて貰った。私のと君のもあるから、なにかあったとしても大丈夫だろう。心配はいらない。フローラの意思を尊重する。だからいこう」

 そうよね。返事をしない訳にはいかないし。

 「フローラ嬢。かの国は王太子様が立太子する前から、貴女を第一王子の妃に迎えたいと、我が国へ再三打診してきていました。我が国は貴女が旅をしながらの仕事を楽しんでいらしたので、それをお伝えしお断りをしていました。もちろん成長のこともありました。だからこそ貴女から、本当の気持ちを伝えてあげて下さい。でないとたぶん諦めきれませんよ」

 たしかに私は命の恩人になるかもしれないけど……なんで私が?見た目幼女だったし……妃にって信じられないんですけど……

 「宰相……フローラでは無理。どうせなんで私が? とか、信じられないとか、幼女趣味なの? とか考えてるよ。自己評価が低すぎるのも困りものだよ。だからとりあえず行ってくる。来賓室に飛べば良いんだよな? 」

 ちょっと!幼女趣味って!そんなことまで考えていないわよ!第二王子様のバカ!宰相様は胡散臭げな顔をして私を見てるし……

 「そのようですね。第二王子様に任せます。フローラ嬢を、むざむざ手渡したりはしませんように。王子もハニートラップにはくれぐれもお気をつけて! 先日のは貴方の寝室と間違えたそうですよ。あなたを蹴落としたい輩は多いのです。なのにこのヘタレは……どんなに乞われても、日帰りでお願いします」

 宰相様?今ヘタレって……

 見送る宰相様の前で、第二王子様と手を繋ぎ転移する。こら!指を絡めるな!その繋ぎ方は恋人どうしがするんです!抱きつくな!変なとこ触らないで!くっつかないと離れて飛ばされてしまう?それは理解しているけれど、こんなに密着する必要は有りません!なんてわちゃわちゃしてるまに到着です。見慣れた室内。以前万能薬の依頼の際に、何度もお邪魔したお部屋です。

 私はひっつき虫状態になっている第二王子様をヒッペリがし、しこたま足を踏みグリグリしてみる。私の顔を恨めしそうに見る第二王子様。

 可哀想なんて思いませんから!

 到着したお部屋には、既に王太子様が待っていました。他に王太子様の国の宰相様と、護衛の方でしょう。私たちは互いに挨拶をし、すすめられた席に腰をおろします。すると直ぐに温かいお茶とお菓子が運ばれて来ました。

 「フローラ嬢。お久し振りです。その節はお世話になりました。お陰さまで体も良くなり、無事に立太子出来ました。しかしそのことで今回は多大なご迷惑をおかけしてしまい……本当に申し訳なく……」

 「王太子様。今回のことは貴方も被害者ではありませんか。だからもう気になさらないで下さい。私的にはすべてをさっさと忘れ、元気で立派な王様になって貰いたいです」

 「……それは……フローラ嬢のことも? 私の気持ちはそちらに伝えていましたが……旅に出られているからとお断りをされていました。しかし今は城つとめだとか。また旅に出たい気持ちにかわりはないのですか?」

 ごめんなさい。やはりあやふやで濁すのは駄目だよね。私も覚悟を決めるよ!

 「王太子様。素敵なラブレターをありがとうございます。あんなに情熱的なお手紙を、初めて貰ったので本当に嬉しかったです。でもごめんなさい。私には王太子様の妃はつとまりません。次代の王妃になる勇気も資格もありません。我が儘ですがまだまだ旅をし、世の中を見て回りたいのです」

 私は一生懸命説明をしました。王太子様が嫌いなわけではないこと。しかしまだまだ結婚を考える気持ちにはなれないこと。そして一番の懸念。幼い頃の度重なる魔力枯渇による成長障害。魔力を量による一般的な人との寿命の違い。子供を無事に産み育てられるかの懸念。皆は考えすぎだとは言ってくれるけど、麻世継ぎを必用とする、王太子様との結婚ならなおさら考えてしまう。

 「フローラ嬢……私はどんな姿の貴女でも構わない。子供は養子でもよい。しかしこれは私のエゴだな。私と結婚したのなら周囲は貴方のどんな小さな粗でも探しだし、己の所業を棚に上げて口汚く貴女を貶めるたろう。それを庇いきれぬだろう私が、無理やり貴女を王室へ迎えたなら、貴女は貴女でなくなってしまいそうだ。私は貴女の羽をもぎたくはない。貴女がまだ知らぬ愛を教え、その怯えと弱さを払拭させ、その身を抱き締めることが出来る男が羨ましい。私ではまだまだ頼りないな……」

 王太子様……

 「では振られ男は潔く引こう。しかし綺麗になったな。以前は可愛らしかったが、今は綺麗という言葉がピッタリだ。私は国が落ち着くまで結婚する予定はない。今回のことで、かなり国が傾いてしまった。暫し国の復興に全力をかけたいと思う。フローラ嬢も、ミラクルマスターの仕事を頑張ってくれ」

 「ありがとうございます。王太子様も……」

 「だが恋愛も少しは頑張れよ。周囲がかなりヤキモキしているようだ。己から腕に飛び込みたくなる相手が出来るとよいな。もちろん私の腕は常に空いている。遠慮はいらないぞ」

 まったくもう……隣で第二王子様がムッツリしてるし……でも和やかに済んで良かった……

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