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しおりを挟む煌びやかな会場で踊る男女。曲が終わり次の曲のスタンバイが始まる。するとさきほど退場していた王子と公爵令嬢が、手を取り合いダンスホールの中心に現れた。それにあわせて音楽が奏でられる。
二人の息の合った素晴らしいダンスに、踊っている人々まで目が引き寄せられてしまう。さきほどの言い合いは痴話喧嘩だったのだろうと、誰もが二人の仲を疑わなかった。曲が終わると宰相から、重大な発表があると伝えられた。王の前にはいつの間にか、王子と公爵令嬢が並び立っている。
「皆のもの! 今宵は重大な発表が三つほどある。まずは我が息子の第三王子と、公爵令嬢との婚約を撤回する! そして二つ目…… 」
「ほらやっぱり! 王子様は私を愛しているのよ! 邪魔ものは国外追放よ! 嫌がるなら不敬罪で斬首にしちゃいなさいよ! 」
縄で拘束されているにもかかわらず、国王の話をぶった切る、口だけは達者な侯爵令嬢。己こそ不敬罪だろう。
「斬首は困ります。彼女は邪魔したりはしません。これで私との愛が認められるのですから」
こちらも拘束されているにもかかわらず、口だけは達者な侯爵子息。
「王よ! ならばやはり我が子たちとの婚約をぜひに! 」
二人の父親も負けてはいない。似た者親子の様だ。
「はあ……まさかこれほどの愚者とはな……警備兵! この者たちの口をふさげ! 」
警備兵が三人の口に布切れを突っ込んだ。椅子に縄で拘束され口も塞がれた二人は、体を捩りガタガタと椅子を揺らし暴れている。
「皆のものすまん。話を切られたわ。二番目は第三王子は隣国の王となる。そして三番目だが、公爵令嬢は隣国の公爵家の養女となる。そのための婚約の撤回だ」
会場がざわめく。隣国の内情と王制に詳しいものは、この王の三つの発表で理解した。しかし理解できないものも多かった。
「私から簡単に説明をします」
宰相が話し始めた。
「先月隣国で内乱が起こったことは、皆さんも記憶に新しいと思います。我が国も鎮圧に援軍を送りました。なぜなら隣国は、第三王子の母君の祖国であるからです」
第三王子の母君は、隣国の王の妹君。国内がキナ臭かったため妹姫は、避難による血筋の保護と友好のため、王の側室としてこの国に嫁いできていた。そしてその不安は的中し、一部の貴族による内乱が起きてしまう。王と王妃は助かったが、王太子以下子供たちは殺されてしまった。
「王は内乱を防げなかった責任をとり退位します。しかし後継者がいない。そのため我が国の第三王子に白羽の矢が立ちました」
第三王子は現王の甥にあたる。
「つまり第三王子は隣国の王となります。そして現在の婚約者である公爵令嬢を王妃に迎えたい。そのための婚約の撤回なのです」
隣国では王妃になる者の条件として、自国に籍をもち、かつ二年以上その地に住んでいることが必要とされている。昔他国から嫁いだ王妃が間者を招き入れ、国を混乱させようとしたことあり、正室には自国の者と定められた。側室はその限りではない。
「本来ならば王子が王になり、隣国の令嬢を正妃に迎えねばなりません。もし現在の婚約者である公爵令嬢を、このまま我が国の者として伴うのならば、彼女は側室となってしまいす。しかしそれは……」
「宰相! それ以上は私が説明する! 」
第三王子が宰相を制して話し出す、
「私は公爵令嬢を愛している。彼女は側室でも構わないと言ってはくれた。しかしそれは私が嫌なんだ。たしかに我々は政略的な婚約だ。しかし長年互いに愛情を育ててきた。しかも苦しい王子妃教育をこなしてくれた……」
会場中の人々が、固唾を飲んで見聞きしている。
「さらには我が身に突如もたらされた王位。詰め込む様に学ばされる帝王学。その苦労は並みならぬものだ。それを同じく突如隣国の王妃になるという重圧にも耐え、ともに学び私を支えてくれた。そんな素晴らしい心根の彼女を、今さら側室になどできはしない! 」
王子は公爵令嬢を抱きしめ熱弁を振るう。
「彼女は優秀だ。我が国の学園を飛び級で卒業し、政情が不安定にも拘らず、隣国に約二年ほど留学していた。そのため王妃の条件である在住期間も、あと一ヶ月ほどで満たすことができる」
政情が不安定にも拘わらず、公爵令嬢は自国のために留学を決意した。隣国の内情を調べ危険度を予測し、内乱が勃発した際の対応や対策をこうじていた。
「しかも隣国ではあちらの内情を調べ対策を練るばかりか、歴史や文化を学び、貴族年鑑までをも網羅したという。両国の学園からは、王妃教育は必要がないとのお墨付きだ。まあ私は彼女しかいらない。彼女を認めないのなら、王座などいらないと脅してやったがな! ならばせめて形だけでもと、彼女を隣国の公爵家の養女にしてくれと、隣国の貴族たちから泣きつかれたんだ 」
ニタリと笑う第三王子。もしかしなくても、王子はかなりの腹黒なのかもしれない。
「王子……惚気はこの辺で……つまり公爵令嬢は隣国の籍に入ります。つまり我が国の王が認めた婚約は、白紙撤回となります。二人は隣国に渡り、二ヶ月後に正式に婚姻いたします」
理由は理解しましたが、二ヶ月後に婚姻は早すぎでは?
「私の即位と婚姻を同時に行う。なぜなら私に女性を宛がおうとする、小癪な連中が多いからな。まあ彼女を知れば誰もが認めるだろう。素晴らしい新国母を盛大に披露する。これらの日程は、すでに隣国で調整済みだ。彼女には一刻も早く隣国へ渡って欲しい。家族と離すのは忍びないが……愛しているんだ。私とともに歩んで欲しい……」
「はい。喜んで……」
二人がキツく抱きしめ合う。会場は拍手の渦に巻き込まれた。
「ブッ、ブハァー! 冗談じゃないわよ! そんな性悪が王妃になったら、とたんに国が滅びるわよ! 目を覚まして王子様! 人をいじめる様な奴に、王妃なんてつとまるわけがないじゃない! 」
侯爵と侯爵子息は未だにもがいているのに、侯爵令嬢は口の拘束から逃れた様だ。
「うるさい! 誰が貴様の発言を許した? 貴様は不敬罪で処刑だ! 公爵令嬢はいじめなどしておらん! 貴様はいったいどこでいじめられたと言うのだ! 」
王の怒声が飛ぶ。
「学園でよ! 罵声を浴びせられたり私物を隠されたり、しまいには暴漢に襲われそうになったんだから! 」
「どうしようもないな。話を聞いていなかったのか? 公爵令嬢はこの国の学園を二年も前に卒業している。その後隣国へ留学していた。しかし国内が慌ただしくなり、さすがに危険だと、少し前に帰国したばかりだ。いつ貴様をいじめたと言うのだ! 」
「え? だってたしかに……あれ? 」
侯爵令嬢はなぜか考え込んでしまった。
「ブッ、ブハァー! ならばなぜなのです! なぜ夜会の始まりに、お二人は喧嘩をなされていたのです! 二人は別れたがっていたのではないのですか? 」
侯爵令息が口の拘束から逃れた様だ。
「そうよ! 私もたしかに聞いたわ! お互いに国を出ていけと、罵りあっていたじゃない! 」
王子と公爵令嬢は、互いに顔を見合わせている。
「ああ。あれは君たちを誘きだすための芝居だよ」
「それは! 王子が嘘をつかれるなんて! 」
「侯爵令息? 私は嘘はついていない。もちろん公爵令嬢もだよ。少し演技に力が入ってしまい、二人とも本音が出てしまった。しかし私たちは互いの欠点も認めあっている。ときには吐き出して喧嘩もするけど、すぐに仲直りするよ」
「あなたたちは私たちの話のすべてを、キチンと聞き取れていたのですか? 」
王子と公爵令嬢の言葉に、侯爵子息と令嬢は返す言葉もない。たしかに会場内の音楽と騒音で、二人は会話のすべてを聞き取れてはいなかった。
***
「私は君との婚約を早く撤回したい! 君は気が強すぎる! だが (婚姻すれば) 少しは落ち着くだろう」
「まあ。先に言われてしまいましたわ。私こそあなたとの婚約を早く撤回したいのです。 あなたは弱腰で私の顔色を伺い拗ねてばかり。でも (婚姻すれば) 少しは強気になれるのではなくて? 」
「私は弱腰ではない! (照れて) しまうだけだ! 君は (早く) この国から出ろ! そして (婚姻準備を!) 」
「あら? 私も (照れて) しまうだけですわ。ならばあなたも (早く) 国を出たら宜しいのでは? そして (婚姻準備を!) 」
「少しでも早く (婚姻) しよう」
「そうね。少しでも早く (婚姻) したいですわ」
***
「そんな……少しでも早く婚約破棄したいのではなかったのですか? 」
「……」
侯爵子息と令嬢は……とうとううなだれてしまった。今までの自信は何処へ?
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