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【本編4・search for my roots】
鳥籠の中の美しい小鳥達。
しおりを挟むここは何処?私は誰?なーんて冗談を言っても意味は無い。現在私、湿った薄暗い洞窟の様な所を歩いております。護身用に殺っておしまい棒・改を握りしめ、何かの気配と音のする方へ進んで行く。この洞窟はどうやら地下に潜るダンジョンの様で、私は途中で下る階段を見付け下りた。つまり現在地は多分2階層。
しかし油断してたわー。まさか女の嫉妬がここまで凄いとは…。何が安心して後宮入りよ!大人しく入ってたら、多分いびり殺されてたわね。しかし後宮内部での女の戦い?壮絶なバトルが皇帝の知らぬ所で繰り広げられている。悪いけど全く興味ないから!凄まじいキャットファイトに巻き込まないで下さい。何てブツブツ言いながら先へと進む。
この先更なる恐怖を味わうとは、今の私は考えもしなかった。
*****
今朝はシンプルな朝ごはん。昨晩の食べ過ぎたお腹にも優しくと、消化の良い品々がお膳に並ぶ。真っ白い白米のお粥に、薄茶色の玄米のお粥。薬味が色々揃えられ、味を変えながらついついお代わりまでしてしまう。帰りには沢山のお土産を貰い、後ろ髪引かれながらもお城へ向かう。
到着次第、皇帝達とのお茶会。はい。案内された庭園はとても美事でした。しかし昨晩の告白より、皇帝と宰相の遠慮が全く無くなった。兎に角口説く。断っても、話題を変えてもまた口説きに戻る。流石に将軍とやらも呆れた顔で見ていた。ルイスは呆れと怒りをぶっ飛ばして、まるで悟りの極致に入った様な真っ白な顔してた。王子は終始外交用スマイル。しかし目は笑ってなかった。正直これも怖い…。
昼食まで自由時間との事で、私はルイスと庭園を散策してた。途中でルイスが男性に話しかけられ私と離れる。まるでその隙を狙ったかの様に、私はきらびやかな女性陣に取り囲まれてしまう。
多分仕組まれてたんだろうね。まあ私も戦う気の無い女性を傷付けるつもりもない。逃げようと思えば直ぐに飛べる。そんな余裕から、黙って皆様のお話を聞いてた。お話じゃないね。正直罵倒だよ。己達をどれだけ素晴らしいかを延々とのべる。皇帝様の閨の事まで詳細に…。更には私を貶める。
魔物を食べる様な野蛮な国の、ちんちくりんな山猿。化粧もお洒落もしない様な原始的な国の田舎者。
確かに魔物も食べますけど?
化粧は薄いけどしてますよ?王宮のプロに習ったんです。厚塗りは必要無し。素材を生かすそうですよ?
お洒落はしてると思いますけど…。流石にこれは自信が無いので、ライラとルイスにお任せしてる。今回の親善での滞在中は、全て2人のコーディネート。だって国の顔だからね。失礼にならぬ様、恥をかかぬ様、私も国で特訓して来たの。ダンスレッスンにマナー講習。お辞儀の角度から微笑み方までして来たんだから!全てお墨付きを貰ったのに、私にはそんな風に貶められる謂れは無いの!
気付かぬ内に、どんどんとルイスと離される。そろそろトンズラしようかと思ったその時、突如後ろから突き飛ばされた。前のめりに転び、起き上がりながら振りかえる。
すると1番の寵姫だと言う女性が、鬼の様な形相で意味の解らない罵倒を繰り返してきた。これは不味いかなと考えながら彼女を見ていたら、他の女性に更に突き飛ばされた。
「あ・・きゃあぁぁぁー。」
私は地面に手をつく事無く、何故か落下していた。地面から落下?
気付いたら暗闇でした。グレイが肩にとまってました。落下時の傷は治癒してくれてました。油断してるからだよ!と、呆れられちゃいました。取り敢えず、リターン アドレスで脱出しましょう。今晩泊まる予定のお城の客間をホームにしてます。
あれ?
・・・・・。
「ごめん。グレイ先に戻って皆に私の無事を知らせてくれる?」
グレイが人型になり、呆れた顔て返事をくれます。
「またー?このダンジョンはお城の地下だよ。まだ存在を知られてないみたい。大神殿の裏のダンジョンタイプだからグロくは無いし、難易度も低い。アリー1人でも制覇出来るかも。でも1人は危険だよ。先に進むの?このまま戻ろうよ。」
心配かけてごめんね。でも私の気配察知が働いてる。第六感だけど、これは無視したら取り返しがつかなくなると感じる。
「グレイ…。心配してくれて有難う。でも行かないと後悔しそう。多分この下の階層だよ。この気配の元を確認したら、直ぐに客間に飛ぶから。皆で待っててくれる?お願い。」
「もー。アリーのお願いじゃダメだと言え無いじゃん。確かに何かの気配を感じる。でも嫌な気配じゃ無い。霊獣の僕がそう感じる気配。この気配そのものは清浄だね。でも絶対に無理しない。僕も直ぐに戻るからね。」
うん。頑張る。グレイと別れ歩き出す。2階層への階段は直ぐに見つかった。更に道を進む。一本道の洞窟なので、迷いようがない。
*****
テクテクテクテク延々と歩く。段々と目標の気配に近付いてくる。しかし不思議だ。魔物が1匹も出現しない。どんなに難易度の低いダンジョンでも、スライム位は出現する筈。
更に進むと、ほんのりと発光する扉を発見。感じる気配はこの扉の奥に有る。私は扉に手をかけた。
扉を開くと薄い膜の様な物に進行を妨げられる。これは結界?それにしては…。戸惑いながらも先へと進む。私はスルリとその膜を抜けた。
やはり結界では無い。鑑定!
【聖域の繭】
仮の聖域と俗界を隔てる膜。術者を中心に結界の役目を果たし、術者を守る為に害意有る者を弾く。術者本人の神通力を吸い上げ常時展開。本人の命にも危険が及ぶ術の為、最終奥義とされている。
つまり中心に術者が居る!私は気配の強くなる方へ駆け出す。膜の内に入ると、随所に白骨が散らばっている。それらを避けながら奥へと進む。
居た!部屋の1番奥。うず高く積み上げられた白骨。更には不法投棄された様な品物があちこちに散らばる。白骨に吹き抜けになった地上からの光が照射した。室内がふと明るくなる。その中1つの骸骨に寄り添う様に眠る少女。いや少女じゃ無い。多分私より年上の女性だ。
痩せてやつれてるだけ。
でも!
・
・
・
・
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女性はお腹を庇う様に眠っている。そのお腹がふくらんでいる。
痩せ細り骨と皮だけの様な彼女。だからか膨らんだお腹が異様に目立つ。
まさか…。
彼女は妊娠してるの?
*****
昨晩は料亭の女将さんと盛り上がってしまいました。実は女将さんはくノ一だったの!勿論スキル持ちって事もだけど、実はそれだけじゃ無い。
本物のくの一!先先代、つまり今の皇帝の父上。私の父の腹違いの兄にあたる人ね。この皇帝直属の忍び部隊に属していた。皇家の血筋で忍者やくノ一のスキルを持つ者は、皇室直属の諜報として取り立てられる。そこで功績を上げ、引退後に料亭を立ち上げた。
「女将さんは天井裏の人達に気付いてたんですね。」
当然とばかりに頷く。
「当たり前じゃない。この料亭は、先先代の隠れ宿だったの。多忙な皇室の仕事場以外で、ゆっくりとして貰う為に私が建てたの。密談も安心して任せて貰える様にね。天井裏のザコは泳がせてたのよ。全て牢屋行きだから心配しないで。」
ザコ扱いの隠密達は、3方から放たれてた。
1つは前皇帝派の派閥からの隠密。既に前皇帝は処刑されているが、運良く処分を免れ生き残った人々の派閥になる。これが1番危険分子の為、特別製の牢で寝ずの拷問になる。
次は宰相が敵の隠密を探る為に忍ばせてた隠密。つまり現皇帝派の派閥。私達に危険は無い。
でも中には私が、正妃とか言われてるのが気に入らない人達も居そうだよね?しかし女将さんは、それは無いと言う。帝国は一夫多妻が認められている。特に皇帝の嫁は多い程よい。義務で娶る場合も多いので、正妃だけは皇帝に選ばせてくれるそうだ。皇帝に特に希望が無ければ、側妃の中で1番寵愛が深い者がくりあがる。それも無ければ、1番始めにに男児を生んだ側妃へのご褒美になる。
世継ぎを生んだ褒美が正妃の地位ね。なら望んで迎えた正妃が子を孕まなかったらどうなるの?それより今まで世継ぎが出来なかった。つまり後宮の側妃様方は、正妃の位を争ってるんじゃ無い?
皇帝が正妃を娶らない。だから世継ぎを生んだら正妃の位を貰える。多分そう考えているのだろう。
しかしもし私が正妃になったら、側妃達の正妃への道は閉ざされる。
つまり宰相を含む現皇帝派に危険が無いとは言うが、娘や孫を側妃に出してる人達は?自分達が次代の祖父としての力を欲しないの?また娘を邪険に扱われて怒らないの?
「大丈夫よ。現皇帝派は結束力が高いの。皇帝位を取り返すまでに、かなりの苦難をしいられたからね。しかも親は親。子は子だと割りきってる。政略結婚だからね。でもそう割り切れないのが女心よ。心配なのは側妃達の独断ね。」
また正妃は外交的なもの。国の顔で有り、皇帝の妃の代表みたいなもの。その為正妃に子が出来なくても大丈夫。世継ぎは実力制。資本長子が継ぐが、素質が無ければ交代も有り得る。最終決定権は皇帝に有る。
とにもかくにも、女達の争いは醜いそうだ。しかも後宮は1度入ったら出られない。出られるのは皇帝か自分が死んだ時のみ。
後宮は綺麗な女性を囲う鳥籠のよう。大空を飛ぶ翼を失った美しい小鳥達は、囚われた籠のなかでしか羽ばたけない。その羽ばたく術を得る為に他者を蹴落とす。蹴落とされ羽ばたく羽さえもがれた小鳥達は…。
では最後の諜報の依頼者は…。
朝方、天井裏で捕縛された諜報の1人が自白した。やはり犯人は後宮内の側妃だった。但しまだ、誰が薬を皇帝に盛っていたのかは判明していない。諜報は側妃の侍女から、結果を確認してくれと頼まれただけ。フリーの諜報だった。
毒消し草を側妃に渡していた商会も捕縛された。商会には錬金術師がおり、多種多様な薬を錬金して販売していた。この錬金術師は、後宮に薬品を卸しに週2回訪問。その場で錬金し手渡していた。避妊薬は側妃が閨の番の時、部屋に炊くお香に混ぜていた。お香には媚薬成分も含まれている。それを気にいった皇帝は、その側妃を週1回のローテーションに必ず組み入れていたそうだ。
それじゃもう犯人は割れたも同然だよね。後はお任せ。私は後宮には入りませんよ。何が媚薬よ!
*****
眠っている女性にそっと近付く。するとグレイが飛んできた。
「僕が運ぶよ。客室に寝かせよう。かなり衰弱してる。後で僕が癒すよ。でもお腹の子は強いね。死ぬまいと母体にしがみついてるよ。早く休ませて栄養を与えなきゃ。アリー行こう。」
うん。でもこの骨は…。
グレイの雨での中の女性がピクリと動く。うっすらと目を開け、震える腕で1つの骸骨と傍らの箱を指差す。
「彼女を一緒に…。」
私は頷き、女性が寄り添い寝ていた骸骨を抱え箱を手に取った。女性は安心して目を閉じた。
しゅるるるる…。
聞き取れない位の音が聞こえてくる。何かが巻き取られる様な…。
突如複雑に編まれた糸が解される様に、女性を守っていた聖域の繭が解され消失した。それと同時に沢山の白骨も、サラサラと静かに崩れ消えて行く…。
最後には跡形も無くなった。白骨だけで無く、散らばったゴミさえも…。
しかし良く見るとポツポツと何かが落ちている。
「あれは魔物のドロップ品だよ。聖域の繭が解けて、ダンジョンが正常に戻ったの。だから魔物の骨はダンジョンに吸収された。暫くしたら、魔物も復活するよ。アリー行くよ。」
でも山積みだった白骨の山にはドロップ品が無い。何故?
「あれは人間だからね。吸収はされても、ドロップはしないよ。」
沢山の人の白骨の山。こんな所に何故?それに彼女は何故ここに?
行き着く答えに、私はゾクリと戦慄した。
客間に戻ると、渋面をした2人。でもこれは私が悪いんじゃ無い!
怒ってる訳では無い。1人で行くなと叱られた。はい。ごめんなさい。
*****
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