【完】箱庭の王妃はモフモフに包まれ真綿の夢を見る~婚約無効からの真実~

桜 鴬

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【王&フレッドside】

 あーあ。いっちゃった。僕も甘いよねー。ついつい良いところ見せようとしちゃったよ。でも無理やり従わせても、事後承諾でも結果は同じだから……お互いの秘密は仕方ないよね。

 一年後の結婚式まではおままごとに付き合ってあげる。僕も本腰いれなきゃ本当に逃げられちゃうな。でも絶対に逃がさないよ。ってかどう足掻いても逃げられないよねぇ……さてとそろそろ行こうか…………

 「あ…………父上…………」

「おい!お前はなにをしとるのだ!折角の権限譲渡を無駄にしおって!わざわざ猶予などやる必要はなかろう。無理矢理事をなしても結果は同じことだ。その方が深夜も楽に動けるだろうに。暗闇に紛れてしてしまえば、魔道具でいくらでもなる……事後では納得させる自信がないのか?」
「父上ですか……まだ覗いていらしたのですか?」
 「貴様がポカをするからだ!ミルキィとかいう小娘だが、お前の瞳の力を知っとったぞ。私が覗いていたから気づいたが、もし話されていたら一騒動だ。小娘は既に記憶を改ざんし修道院へ送った。処刑よりはマシだろう。悪いが一生だせん。王家の秘密をばらそうとしたからな」
 「それは申し訳ございません。どうせなら処刑なされては?もうなんの役にもたちませんよ?」
 「お前も無慈悲だな。散々利用したらポイか?あの娘を調子に乗せたのはお前じゃないのか?何度か密会していたらしいじゃないか。まあよい。お前には期待している。エドウィンは甘すぎる。王には非情さも必要だ。ああ。もちろんアリエル嬢にも期待しているぞ。あれだけ優秀な王妃の器を失うのは辛い。好きならばどんな手を利用しても捕まえろ!なんとしてもだ!ヘタレに王位はやれん!」

 *****

 はいはい。腹黒父王は妹のアリエル嬢の母上と共謀して、侯爵令嬢だった母上を手にいれたんですよね。 母上には前世の記憶というものがあり、妹姫である悪役令嬢に虐められたくはないと、王太子である父上との婚約には消極的だった。
 そんな時に母上に公爵子息のアリエルの父上との婚約話が浮上した。母上は出来れば公爵子息と婚約したい。しかしここにアリエルの母上になる王女の登場だ。お城でも学園でも母上になにかと世話を焼き、悪役令嬢になるどころか虐めをことごとく阻止し制裁した。アリエルの母上は父上の妹にあたる。王太子の妹にである彼女に敵う身分の者は、この国では王と王妃のみ。『私の親友に手を出すな!』この言葉と態度で、母上は王女のお気に入りと周知され、父上はそこにつけ入り自身をアピールした。そしてなしくずし的に婚約へ持ち込み、それでも尻込みをしていた母上を押し倒し既成事実を作り結婚した。その翌年王女は、件の公爵子息の元へ降嫁した。
 『実は王女は公爵子息と婚約したかった』
 だから兄に協力して計ったのだ。当時王女の身分に釣り合う子息は、国内では公爵子息と侯爵子息の二人しかいなかった。母上がアリエルの父上と結婚したならば、王女は侯爵子息と婚約しなければならなかった。しかし……
 『脳筋は嫌!マッチョ嫌い!暑苦しいのは嫌!』と、中々の我が儘だったという。ちなみにアリエル嬢の父上は、スラリとした美丈夫だ。侯爵子息は騎士団長てあっただけはあり、かなりの筋肉マッチョだった。なまじ精巧すぎる見合いの絵姿がいけなかったのだろうか?
 しかし拒否なしの高位貴族の政略結婚。王家が率先して実行すべきでは?婚約は王家直系男子から順に、身分の釣り合う貴族の息女が宛がわれてゆく。しかし実は王家には特別に、最後の選択肢だけはあった。
 『王家の血筋は絶やせない。身分は絶対だが容姿だけでも好みでなければ、子孫繁栄は無理だろう』
 かなり酷い言い分だがこの甲斐もあるのか、王家の血筋は過去現在とも、まったく心配されたことがない。

 私と兄上は……兄上が王太子であったため、また病弱な聖女との兼ね合いで、お互いに選ぶことが出来なかった。長子が王太子になる。一夫一妻制の我が国では、側室や愛妾腹による後継争いはない。しかし兄弟での争いを避けるために、必ず長子が家督を継ぐ。後継が愚鈍な場合は、兄弟でサポートしあう。王家の場合もこれに準じる。つまり私たちの場合は兄上がやがて王になる。兄上は外交や政治の駆け引き面が苦手だ。その部分を私がサポートする予定だった。現在身分的に一番王妃として相応しい地位をもつ女性。それが聖女と公爵令嬢であるアリエル嬢になる。しかし聖女は体が弱い。子を望めぬ訳ではないが、可能性がないとは言えない。そして二つの血統眼を有するアリエル……当然ながら、時期王妃はアリエルになる。
 アリエルと結婚したいならば、私は王にならねばならない。その決心さえつけば……
 兄上が平和的に相談してくれれば、内々にどうにでも出来た。つまるところ、私たちの立場が入れ替わればよいだけ。しかし高位貴族たちに完全なる政略結婚を強いている手前、婚約者を変えたいからと、簡単に王太子を入替える訳にはいかないのです……。そのために私は色々と考えていたのです。今回の婚約無効の茶番劇は、本当にナイスタイミングでした。お二人ともにお疲れ様でした。

 *****

 ヘタレだなんて言葉をよく知っていますね。しかし父上のいうことにも一理あります。その辺は早々に実行する予定ですよ。一年後を楽しみに、まだまだ現役で往生してください。ボケたらめんどくさいですから……
 しかし本当に面倒です。私はアリエル嬢だけで良いのです。
 「はぁ………………王位はアリエル嬢にくっついてきただけで…………」
 「いらぬとかいうなよ?アリエル嬢も王妃は嫌らしい。お前たちが逃げたら、この国はどうなる?エドウィンでも賢王となるだろう。しかしそれはアリエル嬢が王妃として寄り添った場合だ。聖女が王妃でも外面は騙せる。だが内政と世継ぎはどうなる?お前もよく考えろ。私も先は長くないんだ。頼むぞ」
 「父上…………」
  父上の後ろ姿を見送り暫し考えるが……やはり考えても仕方がない。
 
 よし行くぞ!未来はなるようにしかならない。私はパチンと指をならしバルコニーから身をなげる。暗闇の中で視界が低くなる。アリー……僕こそあざとくてごめんね。弟の僕は君に警戒をさせないための姿なんだ。本当の俺は……

逃がさない……いや君は逃げられないんだ……

 …………夜は俺のテリトリーだからね……
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