【完】箱庭の王妃はモフモフに包まれ真綿の夢を見る~婚約無効からの真実~

桜 鴬

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 素肌に触れるシーツが気持ち良い。そろそろ微睡みから抜け出せそうな気分だけど、またすぐに意識が眠りの中へ落ちて行く。肌寒くて背中を丸めて上掛けに潜り込む。背中側はモフモフで温かい。でもダメ……足先が冷たい……。少しでも暖めようと、縮こまりながら両足を擦り合わせた。
 「!?!?!?」
 擦り合わせた足の隙間をなにかがモゾモゾと動いている!慌てて上掛けを捲ると、私の太ももの隙間をまるで擽るように上下しているモフモフの尻尾!驚いてソロソロと首を後ろに回すと、モフモフの壁に顔が埋まってしまう。プハー。安心感のあるいつもの温もり。モフモフはやはり最高ね。でもいつもとなにかが違う。苦しいけれど首を上に向ければ案の定のモフモフお顔。良かった。ではもう眠り…………って違うー!せっかくモ一フモフに包まれて寝ていたのに!これは違うー!なんで私が裸なのー!肌触りは最高だけどさすがに寒いわよ!しかもパンツまでない!許すまじレッド!
 「起きろ!服を返してー!このドスケベトラー!しかもどこに尻尾挟んでるのよ!やぁんっ!そんな所を撫でないで!上下しちゃいやーー!もうやだぁ。くすぐったいってば!尻尾でイタズラするな!こら!いい加減にしてーー!!」
 私は上掛けを引き剥がし洋服代わりに体に巻き付け、モゾモゾと動き出した不埒なモフモフ尻尾を鷲づかみにし、本体をベッドからぐくいと転がり落としました。
 「レッド!早く服を頂戴!」
 のっそりと動き出す大きな黒いトラ。白じゃないのよ。真っ黒なの。よく見ないとわからないけど、キチンとトラがらもあるのよ。毛を刈っても肌にトラ柄はあるのかしら?気持ちの良いモフモフがなくなっちゃうと悲しいからしないけど、ぜひとも一度見てみたいわー。
 「なんだよ乱暴だな!なんならこちらがよかったのか?俺は遠慮してモフモフにしたんだぞ。我慢したんだ!誉めて欲しいくらいだ!」
 レッドがクルリと人型になりこちらに振り向きポーズをとる。なぜすっぽんぽんなのよ!でも尻尾がまだあるし、夜は明けていない。外は薄暗いから無理してるのね。まぁ。裸でくっついてたことでバレバレだけど。
 「…………ふーん……そんなに裸が良いの?ならお風呂に行きましょうか?綺麗に毛を剃ってあげる。お腹側はモフモフ出来なくなるから、やはり顔かしら?でも顔がモフモフでないのも変よね?可愛くなくなるし、日中にチビになれなくても困るし。ならやはりそのお尻ね!そのシマシマ模様が、肌にもあるのか気になってたのよ」
 ビクリと後退するレッドをジッと睨み付ける。ジリジリとお風呂場に追いつめてゆく。まあこんな私の脅しなんて、レッドからしたら赤子の足掻きみたいなものでしょう。でも私だってやられてばかりじゃありませんよ。さあ行くわよ!とう!
 「よし!尻尾取ったわよー。さあモフモフに!モフモフにチェンジよ!まだ朝には早いわ。モフモフでお風呂よ!」
 「……………………俺は役得だが?」
 はい?騙されないわよ!ほらはよモフモフにチェンジよ!今人型を保つのはキツいんじゃないの?だから私からエネルギーを貰ってたんでしょ?
 「はよモフモフに戻れー!エネルギーを私からえていたのは多めにみましょう。でも私が裸になる必要はないわよね?起きたら怒られるのにあえて服を剥いだ!つまり人型を保つのは厳しいのではないの?」 
 「…………バレてたか……そうだよ!その方が効率が良いんだ。四つ足では喋れんし、屋敷に戻ってからの準備がはかどらない。普段は東谷で寝てるがエルもいたら、さすがに今晩はそうはいかなかっただろ?」
 確かにいくらモフモフでも、一晩外で寝てたら風邪を引くわね。それにいくらフレッド様の許可を得ても、朝になれば一応捜索はされるわよね?早目の逃走が吉だったと…………
 でもパンツまで脱がせる必要はない!
 …………つまりレッドは移動途中私からエネルギーを貰い、このお屋敷に戻り人型で私を迎える準備をした。しかしやはり洋服ごしでは補填がギリギリ。なんとか用を済ませて、効率が少し前に寝たばかり。しかしこのままで悪いと、私の服も脱がしたと?本当なら己も人型同士で裸の方が、接触面が増えるから効率が良い?体液ならさらに良いし、なんならいたせば一発?でも途中で私が起きたら驚くだろうと、モフモフで我慢してくれたの?
 「まあな。それに人型だと効率よく一発で補充したくなるからな。なんなら今からするか?」
 …………すっかり開き直ったわよね。さりげなくお下品でエロいことを突っ込んでくるし!黒ちゃんは素直なよいこだったのに、すっかりエロエロトラになってしまって……。
 「ならとにかく寝なさいよ!朝日が上れば大丈夫なんでしょ?」
 「ああ。だがせっかくだから風呂に入ろう。途中で縮んでネコになるかもしれんが、俺はトラになる。虎刈りはごめんだが、一緒に入って洗ってくれるんだろ?さあさあ!」
 …………なんだかあやしい…………
 でも確かにお風呂は入りたいかも。なんだか体がベタつく感じがするし、髪の毛のお飾りは外されてるけど、セットはされたまま。それにすっぽんぽんだからか寒くなってきたわ。
 「あのね?レッドの身ひとつで来てよいって言葉に甘えてね?私ってば本当になにも持ってきていないの。お金は着てきたドレスとお飾りを売って作るわ。それまでレッドのものでも良いから、なにか用意して貰えるかしら?」
 レッドが無言で歩き出したので、私はその後をついて歩く。しかしこのお部屋は広いわね。あら?あの扉はなにかしら?
 「このクローゼットとタンスなどに、すぐにでも必要な品は用意してある。部屋の家具類もエルをイメージした。嫌ならいってくれ」
 …………嫌な訳がないじゃない。個人のお部屋まであるなんて、至れり尽くせりよ。そしてあのドアがレッドの部屋へ繋がっている……あっちが主寝室ね。主寝室の先にリビングがある。つまり夫婦の間取りな訳ですね?
 「レッド?少しばかり気が早いんじゃないかしら?」
 「早くない。こうでもしないとエルに逃げられそうだからな。もう諦めろ。黙って俺に囚われとけ。ほら。いつまでその格好でいるんだ?」
 そうね。早く準備してお風呂に入らないと、寒くて風邪をひいてしまいそうだわ。私はレッドに先の説明を促した。
 *****
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