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⑲・完結
しおりを挟む月の女神は白虎の王子と姉姫の結婚に、空から祝福を贈りました。さらにこれは呪いではありませんと前置きをし、二人の間に産まれる赤子から……そして続く王家の女児たちの、朱金の髪色とロイヤルブルーの瞳が揃うことを禁じました。これは特に王家の色彩に囚われた、愚かな王の呪いと妄執を、永い時を経て散らし薄める役目を果たしたのです。
『真実の愛が愚王の呪いを打ち砕いたとき、再び王家に朱金の髪とロイヤルブルーの瞳を併せ持つ女児が誕生するでしょう。また真実の愛のみが、偽りの姿を打ち破ります。そのときには国に、祝福を贈りましょう』
月の女神は神託として、この言葉を残していました。
*****
お城の広大なバルコニーに、ズラリと王族が並びます。その中心には、新郎と新婦の二人。その脇には乳母に抱かれた赤子が二人。
開放されたバルコニー下の中庭には、沢山の人々で溢れています。宰相様が私たちの結婚と出産の報告をします。続けてフレッド王が、民に向けて挨拶をしました。挨拶の終了とともに、わぁっと沸く観衆の声。広場にはたくさんの花吹雪や紙吹雪が舞い上がります。
そんな中大きな白い虎たちが、真っ青な天空をを駆けてきます。やがて数頭で、巨大ななにかを掲げて空から舞い降りて来ました。
『祝いだ。受け取れ』
裏庭の方で地響きが聞こえてきます。どうやら巨大なドラゴンが投げ込まれたようです。既に死亡していまましたが、本物のドラゴンなど、誰もが滅多に拝めるものではありません。フレッド様は慌てて警備の兵を裏庭へ向かわせました。ドラゴンを投げ込んだ白虎たちは暫し中庭の上空を旋回し、やがて帰路につこうとしていました。しかし突如空が暗くなり、黄色い三日月が顔を出したのです。その三日月から地上に向かい、キラキラと宝石のような光が降り注いできます。光に触れると暖かく、とても幸せな気持ちになります。突然の暗闇に慌てふためきパニックになりかけていた観衆も、その光の美しさと心地よさに身を委ねていました。
『完全なる呪いの解除が完了しましたね。私からも真実の愛に敬意を表し、国全体に祝福を贈りましょう』
月の女神様でしょう。あの本の神託を実行してくれたんですね。私もあのあとしっかり読みました。美しい声音がフワリと風に乗り、空から舞い降りてきました。
やがて上空が明るく戻り、白虎たちは帰り始めます。しかしなにかが空から降ってきます。あれはなんだ?!皆の視線がその一点に集り集中します。
「…………」
なぜ私のの胸もとに?
「こら! 離れろ! どこにくっついてるんんだ! 爪を立てるな! 保護者は早く引き取れ! こんなエロ野獣は邪魔だ! 」
新婦である私の純白のウェディングドレスの胸元に、爪を立てて引っ付いているシマシマな毛玉は……
フレッド様が怒りながらその首もとを掴み、まるでペリッと剥がすように引き離します。そしてそのまま白虎たちのいる上空に投げ込みました。唖然とする私に人々。しかし今度は大きな白虎がやって来て、口に加えた小さいシマシマを、私たちの足元に落とします。
『これも祝いだ。聖獣は国を守り潤す。王よ。そんなに邪険にするな。まだ赤子なだけだ。双子の遊び相手にも最高だぞ。月の女神が、ドラゴンだけとはケチだと言うのだ。聞けば王妃はモフモフ好きだと聞く。コイツも気に入った様だからな』
双子の子供たちは、近くにいるシマシマに手を伸ばし笑っています。やはりこの小さなシマシマ仔猫は、白虎の赤ちゃんなのですね。
「黒ちゃんの小さい姿にソックリね。白シマちゃんだけど」
「すぐに大きくなって可愛くなくなる。だが…… 」
フレッドがチラリと双子ちゃんたちを見ます。どうやら気に入ってしまったようです。こんなに仲良しでは、もう返品はできませんね。私もモフモフは嬉しいです。
「白虎たちよ。素晴らしい祝いを感謝する。大事にしよう」
フレッド様の返答を聞き白虎の一団は、安心して帰ってゆきました。
「フレッド王様万歳! アリエル王妃様万歳! お二人の治める我が国に、素晴らしい祝いをいただきました。白虎様! 女神様に感謝を! 我が国に末長い栄光と幸福を!! 」
人々の拍手と喝采。お祝いの言葉が心に染み入ります。実は私たち、今日から王と王妃になりました。私たちの結婚式と同時に先王が退位し、フレッド様に王位を委ねました。実は箱庭でのご両親は、先王のお兄様。フレッド様は箱庭の統治を任され、王としての手腕を試されていたのです。箱庭でのあの発展具合は、すべてフレッド様発案だそうで……凄いです……
箱庭の認識阻害の魔道具は、総てが外されました。差別は無かったとはいえ、やはり閉塞的な世界ではあったのです。箱庭は全面的に解放され、他の地方より進んだモデル地域として、技術の先端を歩むことになります。
箱庭には貧富の差がなく、福祉が充実していました。私たちが見学したあの繊維工場が、その地盤を担っていました。徐々にあのように国を発展させてゆきたい。私たちはそう決心したのです。
あの箱庭での約一年間。私にとって有意義な時間でした。もちろん監禁は許せませんよ?しかしフレッド様は、あの小さな世界の中でも、私に王妃としての仕事を与えてくれていたのです。今さら気付いたんですけど……
私が繊維工場の皆さんと、考案したり作成していた品々は……この結婚式のための品々だったのです。あれらはロイヤルブランドとして、これから大々的に売り出します。私のウェディングドレスや夜会用ドレス。双子ちゃんのベビードレスにグッズ。そして女性用のランジェリー。すべてを今日の晴れの日に、私たちがモデルとして着用しているのです。私たちは広告塔ですね。夜会では近隣諸国の方々に宣伝しなくてはなりません。
私たち祝福してくれる人たち。はじまりは婚約破棄を演じるという、間違いを起こしてしまった私とエドウィン様。それをフレッド様に見破られ、搦め手を使われてしまったけど……
幸福そうに腕を絡め寄り添う、エドウィン様と聖女様。婚約破棄をした日。もう二度と会えないと……会わないと決心した家族。箱庭でお世話になったお義父様にお義母様。繊維工場で出会った人びと。
考えなしで突っ走ってしまいごめんなさい。そしてありがとう。祝ってくれてありがとう。
私はフレッド王を、生涯支えて生きてゆきます。だからね?
「隣国の王妃様主催の婦人会へ行くだけです。我が国の繊維を他国の知己に紹介してくれるの。女性の噂は広がるのが早いから、ぜったいにためになるわよ! 私はいくからね! 」
「だが……双子も寂しがるぞ……」
「ならつれてゆきます。転移門があるから大丈夫。皆様も子供連れでくるそうよ。子供たちのお見合いがてらどうかと誘われてたの。でもこれは嫌がると思い断ったのだけど……」
さあどう?私は仕事をしているの!
「解った……なら子供服ブランドも頼む。子供たちにも新製品を着せて連れていけ。しかし見合いは駄目だ。まだ早すぎる。転移門を使うなら、日帰りできるよな? 」
……いくらなんでも日帰りは無理よ……
「さすがに見合いはさせないわ。仲良しになるのは仕方ないわよね? あと日帰りは無理よ。二泊三日で申請書を出したはず。隣国の織物工場と、職業供給所というところを見学する予定なのよ」
「ぐぬぬぬぬ……」
「たまには離れているのも新鮮よ。私が外に顔を出さなきゃ、監禁されていると噂になっちゃうわよ。国を騒がしたら駄目じゃない。お土産買ってくるわ」
フレッド様は相変わらずだけど……
ヤンデレを発動させなければ、立派な賢王なの。だから王妃の私か頑張らなくちゃね。
箱庭の王妃はモフモフに包まれ真綿の夢を見る。~婚約無効からの真実~
王妃は真綿の夢から覚め、真実の愛を知り現実の世界を歩み始めました。
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