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 黒ちゃんがいなくなってしまった……なんて落ち込む私に、簡易版の王家の呪いの本が手渡された。ざっと読んでくれといわれ……ちょっと!
『めでたし。めでたし』じゃないわよ!これが今回の元になる王家に伝わる秘話っ……て!秘話じゃないわ。悲話じゃないの!なぜこんなに大事な話を隠しているの?
 国民に知らせたら、混乱を招く恐れがある。さらには真実の愛も探しにくくなると……
 だからって!結局私を騙したんじゃない!騙したつもりはない?獣姿を先に知られているし、色彩が違うだけで本来の人としての姿は見せていると……
 「ふーん。ならば先ずは貴方の自己紹介をして貰おうかしら? 私の中では確定しているけど、納得はしていないわ!それに女の子に、王家の色彩は同時に出ないはずよね? しかもなぜ、今真実の姿が見えたの? 」
 私の旦那様。王家の色彩に変化した、黒髪黒眼だったレッドに私は問う。私には王家の鑑定眼も継承されている。これが神眼とやらに進化したの?しかしあの悲話が真実ならば、なぜこんなに進化が遅かったの?あの姫様は半年。私は一年近くも……。あのしつこさはきっと、白虎の王子からの遺伝なのね。でも私の場合は夜もしっかりされたわ!なのになぜ進化が遅いのよ!
 レッド改めフレッド様が、申し訳なさそうに説明をしてくれました。

 *****

 愚王は己の命を代償に、悪魔に呪いを願いました。その呪いは……
 『白虎の王子を人型にとどめ、二度と聖獣界に戻れなくすること。そして己の意のままにならなかった女性たちには、獣の耳と尻尾のある赤子を産む呪いを……』
 白虎の王子は聖獣です。ほぼ不老不死であることを知っていた愚王は、王子の獣姿を封印することにより、聖獣界に戻れなくしたのです。
 また後宮に閉じ込められた沢山の女性たち。彼女たちは心までは、愚王の意のままにはならなかったのです。それを逆恨みした愚王は、彼女たちのこれからの未来に誕生するであろう子孫に、獣耳と尻尾の呪いをかけたのです。本当は獣姿にしたかったようですが、悪魔に貴様の命が代償では、さすがにそこまでは不足だと罵られ……

 そして後宮は廃止され……市政では耳と尻尾がある赤子が誕生し始めたのです。しかし愚王の跡を継いだ姫と王子は、産まれた子供たちをしっかりと保護しました。やがて王家には、黒髪黒眼の王子が誕生します。王子は自力で真実の愛をみつけ、無事に呪いを解きました。そして伴侶と子供たちとともに、専用の領地を運営したのです。王家と獣耳と尻尾の産まれる可能性のある家系と、それに理解を示す人々だけを集めた楽園を……

 それ以降王家に黒髪黒眼の子が誕生すると、その子はこの箱庭の領主となりました。やがて沢山の子孫たちにより、王家に混じった白虎の王子の血と、領地の人々の血が混じりあってゆきました。愚王の呪いは月の女神の慈悲にも助けられ、徐々に薄まってゆきます。やがて王家にも領地にも、ほぼ誕生することは無くなったのです。

 しかしすっかり呪いが忘れさられたころに、フレッド様が誕生しました。やはり黒髪黒眼で、夜になると黒い獣姿になります。夜に獣姿に戻れるのは、月の女神の慈悲によるものです。完全なる先祖がえりなのでしょう。しかし聖獣の血の薄れたフレッド様では、獣姿であれ、聖獣界にはゆけません。

 フレッド様は、呪いを解除する決意をしました。己のすべてを愛してくれる人を、必ず手に入れると……

 「つまり私はフレッド様に、なにも知らされずに、その楽園に監禁されてた訳ね。だからこのお屋敷の人々も、私が産んだ双子の色彩を不思議に思わなかった。フレッドの正体を知っていたからよね? ならお城で貴方に監禁されてるはずの女性は私なわけ? 」
 「…………そう。今の姿の私が、本来のフレッドだよ。だから今準備している結婚式は私たちの式なんだ。アリエルのご両親も父王もご存知だ。ここは君を納得させ、呪いを解除するための箱庭だったんだ……」
 ……箱庭…………私はまったく納得してませんけど?質問の答えもまだですが?
 「私は耳と尻尾がある人と出会ったことがないわよ。黒髪黒眼の人にもね。そういえばフレッドも、いきなり成長したわよね? なにか魔道具的なものがあるの? 」
 やはり!領地内部では、広域魔道具で、認識阻害魔法をつねに伝播しているという。耳と尻尾がある赤子をが誕生したさいには、王家より赤子個人に同じ認識阻害魔法のネックレス型魔道具が与えられる。これで不便はないそう。だから外では会わなかったのね。
 「私はアリエルにとって弟分だったから、魔道具で成長した姿を見せなかった。君は兄上の婚約者だったしね。でも互いに好きあっているわけではないことも知っていた。奪う気満々だったからね。バレないように、ずっと安全牌の可愛い弟を演じてたんだよ」
 世間ではそれを腹黒と言うのでは?
 「さらには私を王座につけようとする派閥もいたんだ。そのときはまだ、兄上が聖女様を好きだとは知らなかった。私は要らぬ争いはしたくない。だから幼さを強調していたんだ」
 それってあざといと言うのでは……
「あともう気づいたと思うけど、アリエルの鑑定眼は神眼に進化した。それですべてが真実のもとにさらされた。ちなみにまだ認識阻害の魔道具は働いているよ。だから屋敷の人たちには、私はまだ黒髪黒眼に見えているはずだ。認識阻害は耳と尻尾を隠すのみ。色彩はかわらない。アリーは神眼で真の王家の色彩が見えてるけど、まだ私の姿は黒髪黒眼だよ。箱庭では隠していなかったからね」
  私の神眼が見ている、王家の色彩を纏うフレッドが本来の姿……ならば黒髪黒眼の姿は呪いの影響……つまりまだ完全には解除されていないのね。
 「そう言えば時おりレッドの瞳が赤く見えた気がしたの。あれは……」
 「興奮したり緊張状態だったりすると赤くなるんだ。白虎の色彩の先祖返りだよ。獣姿になるのが、あの赤い瞳の力らしい。黒かったから目立たなかったけど、夜の獣姿の時は赤くなっていたみたいだな」
 たしかに赤を黒で上書きされてるなら、目立たなくて気付かなかったのかもしれない……。
 「それから神眼への進化が遅かったのは、秘話の姫は王家直系だったから。でもアリーも王家に近いから早い方なんだよ。普通は何年もかかるんだから! 私の愛の力だよね。それに鑑定眼を持たない女性の場合は、完全に呪いが解けるまで、真実の姿は見えないからね」
 ポカリ!フレッド様を小突いてみる。しつこすぎる愛の力はいりません!

 つまり纏めると……

 フレッド様は、獣姿で怪我をしていた所を私に助けられ、私を好きになったという。日中に人型にならない位の重傷で、暫しお城の庭の隠れ家に住んでいた。既に私に獣姿を知られてるから、モフモフにメロメロにして、人化しても嫌われないようにと考えた。可愛さをアピールしてたんですって。あざとすぎるわ!これはもちろん王様も知っていたのね!ついでにモフモフで私を籠絡しようとしていたらしい。私と接触しつつ己の傷を癒し、魔力を貯めていた。いやにスキンシップが激しいとは思っていたのよ。顔中舐めるし、スリスリしてくるし!でも!でも……

 モフモフがいけないのよーー!

 確かに人化してもあまり驚かなかったわね。黒ちゃんがレッドならって感じで、かえって安心したというか……

 完璧にほだされちゃってるじゃない!

 しかし呪いはほぼ解除されてしまった。フレッドはもう、モフモフにはならないのね……黒ちゃん……

 「でも愚王の呪いはこれですべてが終わったんだ。もう王家には、黒髪黒眼で夜に獣姿になる子供は誕生しない。そしてあの箱庭の魔道具も必要なくなった。箱庭の人々には解除を依頼し、既に現状を確認した。獣の耳と尻尾が消失したそうだよ。黒髪黒眼の王家縁の方々も、伴侶との絆で本来の色彩に戻ったそうだ。皆高齢の方々ばかりだったけど、いきなりのことに驚いていたそうだ」
 どうして?今までは王子の呪いは解除されても、薄れつつも先祖に続いていたのよね?いったいなぜなの?
 「不思議そうだね。僕たちの双子ちゃんのおかげだよ。女の子にも王家由来の色彩が受け継がれた。これが呪いが解けた証なんだ」
 まだ私が知らないことがあるのね。
 「アリエルに読んで貰ったのは簡易版なんだ。正式版は倍以上の厚さがある。その中には月の女神様の話も詳しく書かれている。白虎の王子に慈悲を与えた時はまだ、愚王の執念と悪魔の力が大きすぎて、呪いのすべてを無効にすることが出来なかった。だから白虎の王子と姫の子が産まれる際に、王家に連なる姫たちに、呪いをわけて散らし薄める仕掛けを組み込んだんだ」
 呪いをわけて散らした?
 「姫たちから王家の色彩を奪ったんだよ。だから王家の女性の髪と瞳には、同時に王家の色彩が遺伝し表れることはない。王家の呪いは元は白虎の王子にかけられたもの。本人がいない今、本来なら呪いは無効になるはずなんだ。なのに愚王の執念が、永く根強く王族に絡みついている。その執念の元凶が王家の色彩らしい。愚王は髪の色が王家の色彩では無かった。それがコンプレックスだったんだろうね」
 だからって酷い……

 「特に髪色に特に固執していたんだ。手に入れようとした女性たちは、ほとんどが美しい金髪だったそうだよ。女神様は朱金の髪色とロイヤルブルーの眼の色を、姫たちに同時に与えないことにより、愚王の妄執を散らし薄めた。そしてすべての呪いが薄まり消失したとき、王家の女性にその色が戻り、我々は愚王の呪いから解放される……そう神託をしたそうだよ」
 私たちの赤ちゃんが……あら?ならなぜフレッドは、未だ真実の姿に戻らないの?
 「フレッドはまだ黒髪黒眼なのよね? 」
 「私はまだアリエルからの、愛の絆を貰っていないからね」
 「愛しているという言葉とキスで、呪いは解除されたのよね?」
 「そうなんだけどね? あのチューじゃ駄目なの。ラブラブで一発変換なんだけど、さすがに産後のアリエルに無理は禁物だよね。明日の早朝には回復魔法師を呼んでるから! 今日はしっかりと休んで体液交換をよろしく! 双子ちゃんは乳母が見てるし、体力回復のために滋養のある食事も用意してるから! 」
 「…………」
  翌日の夜には……本来の色彩に戻ったフレッドが、私の隣に寝ていました。
 どうせ神眼で見えてるんだから! 回復魔法師を呼んでまで急ぐ必要はないじゃない!しかもいきなりドレスの採寸までしたのよ!疲れてる所を襲われるし!出産後だから弛んでるし嫌だといったのに!恐るべし回復魔法……
 産後の体型まで元通り。妊娠前より元気ってどうよ……しかもすぐに二人目を出産しても大丈夫とのお墨付き。
 ただしこの回復魔法は、健康な状態に戻す治療とのこと。だから病気には効果がないそう。やはり病気には薬が必要だそうで……
 魔法を使用して作る魔法薬が、かなり効果を出しているみたい。聖女様にも良いお薬が見つかりますように。

 さあ……三ヶ月後には子連れ結婚式です。私はフレッドを許したのかって?だって許すしかないじゃない。
 
 私も愛してますからね。フレッド大好きよ。でも今晩はしっかり寝かせて貰います。隣の部屋にベッドを用意して貰ってるの。抜き足差し足でトンズラよ!ではでは皆さま、お休みなさーい。

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