前世で魔神だった男、嫁と再会して旅をします。

明石 清志郎

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2章

41話:思惑と玉砕

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 周平に続き、尾形が脱走したことにより召喚された勇者達の監視はより厳しくなった。どこにいるかわかるように発信器機能のついた腕輪をつけなければいけなくなったのだ。クラスメイトの一人菱田隼人はご立腹だ。

 「こんなんで俺達を監視しやがって……まったく尾形の野郎やってくれたな……」 
 「まぁまぁ隼人君、抑えて抑えて」

 取り巻きの秋山と大野が菱田を一生懸命なだめていた。

 「菱田落ち着けって」

 二人に続きクラスのリーダー的存在の嶋田も菱田をなだめる。
 
 「しかしこれはなんとも落ち着かない感じだな」
 「まぁこれ以上脱走されてもたまんないだろ?それに他の街への遠征の時はこれをつけるのを義務つける予定だったみたいだしよ」

 嶋田の親友である木幡が言う。

 今の所クラスでは周平と尾形を除いた三一人が残っていて、迷宮も二五〇層までの攻略を果たした。昔召喚された初代勇者は三〇〇層をクリアしたことで、迷宮クリアとなりそこにある転移装置で入り口に戻ったという話だ。もっともこれは三〇〇層をある条件でクリアすれば、さらなる下層にいけるが、その条件を満たしてないだけである。世間一般的なクリアは三〇〇層なのだ。

 「三〇〇層のクリアを持って外に遠征されるってわけね……」 
 「頑張ろうね美里ちゃん」

 部屋にいた雪と美里は少し楽しみな反面、怖い気持ちもあった。周平との事は隠しており、三〇〇層攻略戦には参加しないからだ。二人は三〇〇層のボスのソロ攻略こそが深層への道というのは周平から聞いているが、当然それをクラスメイトには言っていない。

 「尾形君はなぜあのタイミングで脱走なんかしたんだろうか……」

 雪は不思議な顔を見せる。周平にも言ったが尾形の脱走の理由がわからなかった。

 「おそらく尾形君はこの国からでたかったらだと思う。それでたまたま好機がやってきてそれで抜け出したんじゃないかな?」
 「おそらくそうだと思うけど……一体誰が協力を……」
 「周平君もそれは予想がつかないなんて言ってたからね~」

 過去に脱走を試みた生徒は過去に何人かいた。もちろん未遂だったりほんの出来心だったりで、牢屋行き等にはなってないが、その度に警戒レベルを上げてきたし注意もされてきた。そんな中周平は例外として、脱走を成功させるには協力者がいないと無理だろう。

 「今は気にしてもしょうがないわ」
 「そうだね!とりあえず行こうか」


 二人はこの後、木幡と嶋田と共に街でご飯の予定だった。というのも嶋田から明日の作戦会議も兼ねて今日は城をでて外でご飯を食べようという話を持ち掛けられていた。

 「二人とも待たせてごめんね~」
 「大丈夫だよ」

 嶋田は優しく声をかける一年生の時から女子に人気があり、サッカー部のレギュラーであった嶋田が落とせない女子などほとんどいないだろう。

 「行こうか」

 内心張り切る木幡。寡黙だが女子から抱かれたいランキングでは嶋田を上回り、一位だった。だが彼は一年生の時から狙いは杉原一人だった。傍から見れば、美男美女のダブルデートとのような構想だ。

 「こういったリフレッシュも必要だね」
 「そうね、たまにはこうやって街を歩くことも大事ね。基本迷宮攻略とトレーニングの、毎日だからね」
 「ふふっ、嶋田君も美里も疲れてるね」
 「笑っているがそういう月島だって疲れているはずだ。俺も色々あってくたくたさ……」

 四人は特に王様達から期待を寄せられている。召喚された者たちの中ではトップクラスの才能と力を持っているからだ。周平や菱田も期待株であったが、周平は脱走、菱田は態度がデカく、イメージがあまり良くない。それだけにクラスのみんなからの期待も大きい。

 「今日はちょっとでもリフレッシュするのに集まってもらったんだ。最近竜也と見つけたいい店があるんだ。案内するよ」

 四人は男女で二対二となって歩く。

 「なぁ杉原、あの時の答えってのはいつ聞かせてくれるんだ?」
 「こないだの告白ね。あなたって寡黙な割に結構大胆よね」

 美里は二五〇層の攻略を終えた後に木幡から告白されたのだ。突然だったので返事はしていないし、彼女は周平との関係がある。そろそろ断ろうと考えていた。

 「好きな相手には当然だ、昔からお前のことが好きだったからな」
 「知ってるわ。あなた私のことずっと見ていたもんね。陣君と周平君と雪と私が話している時とか特にね」
 「だから神山にはあんまりいい印象がなかった。あいつがクラスで外されてからはそれをよかれと思ってしまったしな」
 「あんた、それ私に言わなくてもいいことよ」
 「お前が好きだからこそ正直にいくさ。俺は神山に嫉妬していたからな……」

 美里は木幡の言葉にため息をつく。正直今こんなことを言われても困ると考えていたからだ。だが今周平と付き合っているともいえないので頭を悩ませていた。

 「あんたの気持ちは嬉しいよ。でも今私はあんたの気持ちに応えられないわ」
 「やはりお前も神山が……」
 「まぁね……周平君何処に行ったか分からないけど、また戻るって言ってたから」

 その言葉に木幡はイラついた表情は隠せないようだ。彼は周平に嫉妬しているから当然ではあるが、今こうしていない相手に振られる気持ちのいい話ではない。

 「あんたや嶋田と周平君の差って何だと思う?」
 「差?」
 「あんたたちクラスがさ……周平君を妬んで外したことについて私はとってもイラついてるの。それと周平君ってさ、向こうにいる時もこっちに来てからも凄く強かったわ。それこそ口だけ威張ってる菱田なんかたぶん軽くボコせたと思う」
 「まぁ確かにそれに見合う能力は持っていたと思う」

 周平は能力を隠していたが、常に一番高いステータスにしていた。木幡もそれは理解していた。

 「昔私と美里と陣君と周平君がゲーセンで不良に絡まれたことがあったんだけどさ……」

 それは一年生の秋ぐらいの話だ。四人でゲーセンで遊んでいたら私と雪が絡まれた……でもその時周平と陣は見事に不良を撃退した。

 「でもそしたら今度はそのやられた数人が二十人ぐらい引き連れて、二人を囲んだんだ……でも二人はその二十人軽くボコボコにしたよ。すんごい強かった。戦慄したし惹かれたよ」

 美里はその話を楽しそうに語る。そんな美里を見て周平に対する嫉妬心が増大する。しかし木幡はこの話を聞いて疑問を感じた。そんなに強いなら昔から絡んでくる菱田なんぞ簡単に倒せたのだろう?どうして何もしなかったんだと。

 「なぁなんで神山はそんな強いのにクラスであんな目にあっても何もしなかったんだ?」
 「私や雪も言ったんだよ。あんな奴ボコボコにしちゃえってさ。そしたら周平君はそんなことしても意味はないってさ。クラスメイトの本質を見たし仮にあいつをボコボコにしてもあいつらと真の友達にはなれない。それにお前らは気にせずこうやって話しかけてくれるだけで俺は充分だってね。あんたたちは同じ状況でも周平君と同じこと言えるかしら?」

 木幡は何も言えなかった。そしてどこか自分が周平に負けているということを実感する。前からわかっていたけど認めたくなかったそれを……この話を通じて認めざるを得なかったのだ。

 「まぁあんたもさ別に悪い人じゃないんだし、モテるんだから私と雪以外なら誰でもいけるわ。何度も言うけど私も雪も周平君を外したクラスメイトに少なからず悪い感情を持っているわ。あんたや嶋田は周平君が外されて見て見ぬふりをした側だけど外れるきっかけとなったあの事件の首謀者を私は許さない!」

 あの時の事件とは、周平が濡れ衣を着せられ、クラスで外された事件。もしかしたらその犯人こそが周平君を迷宮に落としたのかもしれない。美里はそれを薄々感じ取っていた。

 「あれはたしかに神山ではないというのは俺もうすうす感じてはいる。だが犯人の目星はついていないのも現状だ。あれに関しては浩二と一緒に犯人を捜していたからな」
 「そうだったわね、あれに関しては結果として周平君の助けになる行動をしていたもんね」

 その時は二人が、周平を犯人と決めつけるのには待ったをかけた。結果周平は犯人という事にはならなかった。

 「俺は杉原が好きになってくれるような人になれるよう頑張るから、これからもよかったら見ていてほしい」

 諦めないこの発言には頭を悩まされる。早く本当のことを言いたいと内心で叫んでいた。

 「あまり期待はしないでほしいかな……」

 それ以上は何も言えなかったがそれでも彼は諦める気はなかった。

 「神山にそんなエピソードがあったんだね」
 「うん」

 当初二人は世間話をしていたが後ろの二人の話の告白のくだりを聞いてから後ろの話を聞こえる範囲で密かに聞いていた。

 「菱田を簡単に倒すところを個人的に見たかったかな。それとあの事件に関しては、竜也と一緒に調べていたし、神山は無実だと勝手に結論つけているよ」

 嶋田もまた、あれは周平が犯人でないことは理解していた。あの事件の犯人が周平ではないのは調査していてわかっただけに、真犯人を見つけられず悔しい思いをしていた。

 「ふふっ、私もそれは正直見たかったね。あの事件は、周平君は何も関係ない……ほんと真犯人は許せないんだから!」
 「神山も月島や杉原にそういう風に思ってくれてて嬉しかったと思うよ。やっぱり月島は神山のこと好きなの?」

 嶋田もこれを聞いた。彼のいない今、月島がどう思っているか…それを確かめる必要がある。

 「うん。好きだよ!とても大事な人」

 そのストレートな答えにメンタルにダメージを受けたが、それは何となく予想していたこと。何とか顔色を変えずに話を続ける。

 「君にとって神山はとても大事な存在なんだね」
 「うん、周平君がいなきゃ私死んでいたかもしれないからね。それぐらい周平君には感謝してるの!」

 嶋田もまた、前から雪の心にここまで入り込んでいる周平に嫉妬していた。そしてそれを感じる度に悔しさにじみ出ていた。悔しかったが何度もそれを押し殺して接してきた。平静を装いクラスのリーダーをして雪を振り向かせるために色々してきたのだ。

 「でもそんな君を放ってどこかに行ってしまったのはな……俺としても残念だよ……」
 「うん……でもきっと戻ってくるはずだから」
 「そうだといいけどね……でももし神山が戻ってこないなら俺の事も見て欲しい」
 「えっ……」
 「前にも気持ちを伝えていたけど変わらないから」

 嶋田はこの世界に来る前に雪に告白して振られている。だが諦めきれる彼ではなく周平がいないうちに距離を縮めようと考えていた。

 「そうだね……もし周平君がいなくなったらその時は考えるかな」

 雪もまた本当の事を言えずはぐらかせざるを得なかった。
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