前世で魔神だった男、嫁と再会して旅をします。

明石 清志郎

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2章

49話:襲撃

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 「相変わらずね」

 砲撃の方向から女性がこちらに向かって歩いてくる。外見は朱色の長い髪に、眼鏡をかけ色気があるお姉さんといった感じだが、すごい殺気とただならぬオーラを感じとっていた。

 「あ、あなたは……」
 「まったくこんな砲撃も避けられないなんて情けないわ……躊躇と恐怖に打ち勝つ者……それがファーガス王国騎士団長の真の姿。あなたにその資格があるのか疑ってしまうわね」

 女はため息をつきタピットを見下したような目で見る。

 「エ、エミリアさん……」
 「久しぶりねタピット。元気かしら?」
 「あなたは何者ですか?なぜタピットさんにこんなことを?」
 「あなた達が噂に聞く勇者達ね。あなた達には関係ないから話す理由はないわ。引っ込んでてちょうだい」

 エミリアと呼ばれたその女性は、嶋田の問いかけに対して少し挑発気味に返す。

 「てめぇ……」

 菱田が攻撃破壊を付与した剣で攻撃しようとしたが、エミリアの手から放たれる見えない弾丸のようなものがぶつかりふき飛ばされた。

 「ぐはっ……」
 「隼人君!」

 菱田は壁にぶつかりそのまま気を失った。

 「はぁ~死にたいのかしら……雑魚はどいてなさい!私はタピットに用があるの」

 周囲が戦慄する。ウガルルムの戦闘後とはいえ、菱田に目もくれず一発でノックアウトさせる力をもつものに勝てる実力者はここにはいないからだ。エミリアはタピットの胸倉をつかみ持ち上げながら睨み付ける。

 「私があなたに言った言葉忘れてないわよね?」

 エミリアは鋭い視線をタピットに向ける。

 「わ、忘れていない……」
 「でもこの子たちは知らないようね……」

 エミリアは不機嫌な顔と声をあらわにする。

 「こ、この三〇〇層攻略が終わるまでは伏せておきたかったのだ……ここは勇者たちの育成のために使っている……だから……」

 エミリアはタピットの鳩に一発拳を当てる。

 「ぐっ……」
 「あなたにも立場はあるし同情はするわ。でもあなたは私の警告を無視したとるわ……わかるわね?」
 「それは……」

 エミリアはタピットに対し暴行を加える。容赦のない拳と足で何度も痛めつけるその姿は目に余る光景だった。

 「ぐはっ!」

 タピットは抵抗することなく殴られ何回か殴られたところで雪や嶋田が止めに入る。

 「やめないか!」
 「そうです、あなたのしていることはただの拷問だわ!」

 嶋田と雪の眼を見ると、エミリアは無表情のまま口を開く。

 「これはタピットと私の問題よ。あなた達は関係ないわ!」
 「そんな風にタピットさんを扱う輩を見て黙って見ているのは無理だ!」
 「そうよ、それにこの人数で私たちとやりたくはないでしょ?」

 嶋田と雪の言葉に大きな笑いを見せると同時に、フィールド全体に殺気を放つ。

 「聞こえなかったのかしら?死にたくなければなおとなしくしていなさい!」

 クラス全体はエミリアの言葉に委縮する。

 「一年前のこと覚えているかしら?」
 「ああ……」

 タピットは力のない声で答える。

 「先代のバスティノ団長みたいに殺してほしいのかしら?一年前どうして私があなたは殺さなかったのかしら……ねぇ……その条件は何だったかしら?」

 タピットは何も答えない。どこか後ろめたいのか目を背けている。そんな中、嶋田は見るに堪えられなくなり再び止めに入る。

 「これ以上はさすがに見過ごせない……」

 嶋田が間に入り、エミリアとタピットを引き離す。するとエミリアは浩二の鳩に一発いれて吹き飛ばす。

 「死にたいのかしら?ほんと馬鹿な坊やね。」
 「げほっげほっ……俺はあの人を見過ごせない……」
 「はぁ?」

 浩二は戦闘態勢に入り、元始の爪を発動した。

 「いくぞ!」

 嶋田がエミリアに向かって攻撃を始めるが、それを見たエミリアは鬱陶しそうに溜息をつくと魔法を発動した。

 「鬱陶しい……ルナティックフレア!」
 「くっ……」

 浩二は両腕でなんとか耐えようとするがエミリアが近づき浩二に蹴りをいれて吹き飛ばした。

 「ぐはっ」
 「ワイルドローズ!」

 暴れるバラのつるで相手を打ち付ける第七位階魔法だ。

 「ぐあぁぁぁ!」

 さっきのウガルルム戦もあり、嶋田はもうボロボロだった。疲れがあるとはいえ圧倒的な実力差があるのは明白だった。

 「まだやる気?邪魔するなら殺すわよ!」

 助けようにも圧倒的な力差の前に手を出せずにいた。でたら自分も殺されるんじゃないかという恐怖心が募っているからだ。だが嶋田はそれに臆さず、まだ立ち向かおうとしていた。必死に立ちあがろうとする嶋田を、エミリアは胸倉を掴んで持ち上げる。

 「こ、浩二!」
 「あなた鬱陶しいわ……死んどく?」

 エミリアは攻撃の構えをとった。
 
 「し、嶋田君……やめて!」

 周りが悲鳴を上げる中でも嶋田の目は死んでなかった。

 俺はこの人を助けたい……たとえ今ボロボロでかっこ悪くても……無意味な行動だったとしても……俺は助けてもらった人を見捨てはしない……

 そんな想いでボロボロになりながらも口を開いた。

 「お、俺はタピットさんにお世話になった。色々教えてくれたしこの世界にきてから世話になりっぱなしだ……そんな人を見捨てるわけないだろ?見捨てるなんて死んでも御免だ!」

 そんな嶋田の言葉に動けず見ていた者も口を開く。

 「浩二の言う通りだ俺もあんたと戦う!」
 「私も戦うわ!」
 「俺も!」
 「私も!」

 徐々にみんなの声が上がり歓声へと変わる。嶋田のまっすぐな目と、そんな周りの声を聞いたエミリアはため息をつくと攻撃をとめ、憐みの表情をだした。

 「あなた達は何も知らないだろうけど真実を知った時どう思うかしらね……」
 「えっ……」
 「何も知らないはほんと罪ね……」

 エミリアはまたため息をつく。

 「まぁいいわ。私は別にあなた達をどうこうしたいわけじゃないわ。その男も生かしてやった以上は、対価として償いをしてもらわないとだし。」

 エミリアは浩二の胸倉から手を放し離れると後ろから美里がエミリアに話かけた。

 「随分と偉そうだけど、果たしてあなたが私達全員と戦って勝てるのかしら?さすがに一対一じゃ難しいけどこの多人数ならあなただってきついんじゃない?」

 エミリアは余裕の表情崩さない。むしろそれを挑発と受け取りさらに殺気を放つ。

 「はぁ?小娘がずいぶんとなめたことを言うわね。その口を塞いで欲しいのかしら?」
 「ひっ……」

 エミリアは本気の殺気を美里にぶつけると、美里は委縮しその場で崩れ落ちた。

 「まぁいいわ。隠蔽魔法でステータス隠しているけどせっかくだから解除してあげるわ。それで少しはだまるだろうし」

 エミリアはステータスをオープンにしクラスメイトが覗いた。

 エミリア・ルーナ・アーバンシー
レベル:308
種族:人間
職業:最上級魔導士
攻撃:90000
防御:90000
魔法攻撃:120000
魔法防御:120000
素早さ:100000
魔力120000
コントラクトスキル:紅魔装
異能:空気圧縮(AA)
称号:紅の厄災、侵蝕の魔女

 エミリアのステータスを見た瞬間、周りは驚きのあまり言葉が出なかった。さっきの魔物を遥かに超える力の持ち主であることはわかっていたが、それでもこのステータスは予想外だったのだろう。そしてそれが目の前でこっちに敵意を向けているとなったら、改めて生きた心地はしないだろう。

 「何というステータス……嘘だろ……」

 嶋田も言葉をなくす。嶋田達も訓練や迷宮攻略を経てかなり強くなった。しかし目の前にいるのは、それでもまだ届かない存在だった。

 「さて私は帰るとするわ……」

 エミリアは転移装置に向かいながらタピットに語りかける。

 「ねぇタピット、たとえ国家が要求しても、良心に反することはしてはいけないと私はバスティノにもその前やその前の騎士団長にも言ってきた。でも結局、あなたの前でバスティノを殺したように、その前も同じように殺した。何世代にもわたって教え込んだつもりだけど、つくづく人は愚かね。あなたもそう思わない?」
 「あなたが歴代の騎士団長を監視し、殺めるその理由はいったい……」
 「それが私と元騎士団長ナシュワンと交わした約束だからよ……」

 エミリアは転移装置を使いその場から去った。エミリアがいなくなったことで緊張が解けたのか何人かの生徒は足がふらつき崩れ落ちる。

 「タピットさん大丈夫ですか?」
 「ああ、なんとかな……」

 だがタピットの言葉に力はない。

 「あの人はいったい?」
 「ああ、城で話そう。お前には全部話しておこうと思う……」
 「わかりました」

 その後はみんなで城に帰還した。エミリアの襲撃による不安が残ったが次の日の夜三〇〇層攻略が無事終わったことによる城での宴が始まり少し元気を取り戻していった。
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