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4章
87話:コートマーシャルの街にて
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ファラリス連邦へと潜入した立花は九兵衛と共に首都ファラモンドへ潜入しようとしていた。ギルド総長として連邦に掛け合った結果、連邦内に入ることができたものの首都ファラモンドへ入ることだけは見送られてしまったのだ。馬車に乗りギャラントプルームからラグーサの大森林を北東に向かって進むと、ファラリス連邦の国境にして旧獣人王国領であるコートマーシャルの街に入った。
「はぁ~」
ついため息をついてしまう。
「立花ちゃん顔色が優れないね~」
隣で九兵衛さんが暢気な顔で言う。私の不満は一つだ。
「周平も一緒だったらね……」
少しの間とはいえ離れるのは辛いものがある。それに踏まえて一緒にいるのがこの若作りをしたおっさんではテンションも上がらないのだ。
「まぁまぁとっとと任務を終わらせよう~」
ここで一泊する予定だが首都まで三日から五日あればつくことができるだろう。
「とりあえずどうする、飯でも食べるかい?」
「そうね」
獣人族がウエイトレスをしている酒場に入った。ここいらは連峰の領土といえど、旧獣人族領だけに獣人族が多い。
「確かここは旧獣人族領よね?」
「うん」
九兵衛さんが複雑な表情になる。
「そういえば獣人族の国が滅んだ時、あなたは何をしていたのかしら?」
反ダーレー教の象徴たる境界騎士団の一員として獣人族を助けなかったとは考えにくいが……
「助けてやれなかったんだ……」
九兵衛さんの表情は暗い。
「どういうことかしら?巨人王たるあなたなら助けることなど造作もなかったのでは?」
「理由を話そうか……」
九兵衛さんは話始めた。
獣人族の国であるダルシ国が滅んだのは三十年前。九兵衛さんはその時妖精の国に行きロードリオンと会見していたという。連邦は冒険者ギルドに邪魔をされないように、九兵衛さんの留守を狙い侵攻し、確証はないがあわよくばギャラントプルームも征服しようとしていたとか。
「俺もそれがわかりリオンとともにギャラントプルームに向かったんけど遅くてね……」
歯がゆそうに言う。
「なるほどね。ギャラントプルームは大丈夫だったの?」
「レダ達を置いておいたからね~森林内に入ってきた奴は大虐殺さ」
「そこは抜け目ないか……まぁそれがかえって仇になったわね」
その時ギャラントプルームが侵略されていれば攻める大義名分ができたはず。
「侵略されておけばよかったと考えたかもしれないけど、もし侵略されてたら連邦領内においていた冒険者ギルド支部のメンバー全部が危険にさらされていたからね」
「助ける道があったとしたら九兵衛さんやレダさんが変装して撃退する以外に道はなかったわけね」
うまいことやられたわけだ。酒場で働く獣人族のウエイトレスはみな腕か首に隷属の輪を付けている。これが侵略と制服の証という事だろうか。全く虫唾のはしる話だ。
「連邦内にギルドを進出させていた時点で負けだったのさ。獣人族の中でも、冒険者の身分であったものとその家族はなんとか奴隷にするのを防ぐことができたけど、大半は奴隷さ……」
九兵衛さんはお通夜顔だ。
「ごめんなさい。そんな顔にするつもりはなかったの……」
九兵衛さんだってそんな状況が歯がゆくて、それでも私達が来るのをずっと待っていたんだったわね。流石に責めるのはよくないわね。
「いや、いいんだ。それももうすぐ終わるからね」
九兵衛さんは果実酒をグッと飲み干す。
「しかし美味しいね~ウエイトレスもかわいいしいいお店だ~」
「そうね」
するとウエイトレスが話しかけてくる。
「あら、みない顔ね」
「どうも」
軽く会釈した。
「あなたは?」
「私はリエンダ・エンペリーよ」
リエンダと名乗るウエイトレスは短い銀髪の猫耳でなかなかのスタイルだ。
「私は立花よ、そしてこちらは……」
「女性の味方の九ちゃんで~す」
いつの間にか随分飲んでるわね。
「ふふっ、面白い殿方ですね」
「そうかしら?私の夫の友達なんだけどどうにも女癖が悪くてね~」
誤解されると腹が立つので予め言っておく。すると私の男じゃないのがわかったからか、リエンダは九兵衛さんに近づく。
「フフッ、駄目じゃない。せっかくのイケメンが台無しよ~」
「これは……いい匂い……九ちゃん吸い寄せられちゃう……」
九兵衛さんはヴィエナの胸に触れようとする。
「むぎゅっ」
リエンダは九兵衛さんの顔をそのまま胸に押し当てる。
「フフッ、不思議な方ね」
リエンダは顔を赤くしながら言う。
「九ちゃん幸せ~」
それを見て、ついため息をついてしまう。ザルちゃん連れてくればよかったわね。駄目男九ちゃんモードになったこの男は女からすると見るに絶えないのだ。だが気になるのは彼女が奴隷の腕輪とは別に着けている魔道具にあった。
「入るぞ!」
大きな音共に酒場に入って来たのは偉そうな男だった。すると客はみな席を立ち横に避け、店主はごまするかのように下手にでている。
「二人ともここから離れて……あいつはこのコートマーシャルの領主であるマラケートよ」
偉そうなデブ男は店主に向かって言う。
「ここのウエイトレスはなぜ我を見て逃げるのじゃ?」
「これはこれはようこそマラケート様。滅相もございません、みな後ろの兵に驚いているだけです」
店主は精一杯の営業スマイルで言う。あんなデブが来たらみんな逃げるだろうし無理ないわね。
「ふむ、そうか。では私も食事にするとしようかのう」
マラケートはこちらを見ると私達の所まで来る。
「おい、そこの二人。何故私が来たのに平然と座っておる?そこに座るからどけい!」
「ひっく、席なら他が開いてるよ~ほら帰った帰った」
九兵衛さんは酔っているからか状況を把握しておらずいつも通りの口調で言う。確かにどく理由なんてない。私もクスクスと笑ってしまう。
「貴様、わしが誰だかわかってないようじゃのう……」
マラケートは怒り心頭だ。
「なぁに言ってんの~あ、そっか一緒に飲みたいんだな~」
すると九兵衛さんはマラケートと肩を組み酒を無理やり飲ます。
「うまいだろ~複数で飲むお酒は最高だね~」
それを見た店主やウエイトレス、避けた客はみな目を点にして絶句している。怒りに耐えられなくなったマラケートは九兵衛さんの頭をもって無理やり机に押し付ける。
「ぐふぇっ」
「こ、こやつ死刑じゃ!わしにこんな無礼を働いて生きていられると思うなよ……」
「ま、待ってください!この方々は旅の方でこの街のことをわかってないんです……だから勘弁してあげてください……」
リエンダは頭を下げて言うが、リエンダを見たマラケートは獣人族と分かり、さらに激昂する。
「なんだ、貴様愛玩具の分際で私に物申すと言うのか!」
マラケートはリエンダの髪の毛を掴み怒鳴る。
「申し訳ございません……」
「誰のおかげでここで働けていると思うっておるのじゃ!」
リエンダは委縮し、周りの獣人族のウエイトレスも恐怖に怯えている様子だ。ここは思った以上に腐った街みたいね……
「貴様達愛玩具の立場をもう一度わからせる必要があるのう。どれその胸をここでさらけ出して揉んでやろう……」
「ひっ……助け……て」
リエンダは涙目となり目を閉じる。マラケートがリエンダの胸に手をかけようとした時だ。
「ぐっ……いてっ……」
「えっ?」
九兵衛さんがマラケートの腕をつかみ止めた。どうやらスイッチが入ってくれたようだし害虫駆除の始まりかしらね。
「はぁ~」
ついため息をついてしまう。
「立花ちゃん顔色が優れないね~」
隣で九兵衛さんが暢気な顔で言う。私の不満は一つだ。
「周平も一緒だったらね……」
少しの間とはいえ離れるのは辛いものがある。それに踏まえて一緒にいるのがこの若作りをしたおっさんではテンションも上がらないのだ。
「まぁまぁとっとと任務を終わらせよう~」
ここで一泊する予定だが首都まで三日から五日あればつくことができるだろう。
「とりあえずどうする、飯でも食べるかい?」
「そうね」
獣人族がウエイトレスをしている酒場に入った。ここいらは連峰の領土といえど、旧獣人族領だけに獣人族が多い。
「確かここは旧獣人族領よね?」
「うん」
九兵衛さんが複雑な表情になる。
「そういえば獣人族の国が滅んだ時、あなたは何をしていたのかしら?」
反ダーレー教の象徴たる境界騎士団の一員として獣人族を助けなかったとは考えにくいが……
「助けてやれなかったんだ……」
九兵衛さんの表情は暗い。
「どういうことかしら?巨人王たるあなたなら助けることなど造作もなかったのでは?」
「理由を話そうか……」
九兵衛さんは話始めた。
獣人族の国であるダルシ国が滅んだのは三十年前。九兵衛さんはその時妖精の国に行きロードリオンと会見していたという。連邦は冒険者ギルドに邪魔をされないように、九兵衛さんの留守を狙い侵攻し、確証はないがあわよくばギャラントプルームも征服しようとしていたとか。
「俺もそれがわかりリオンとともにギャラントプルームに向かったんけど遅くてね……」
歯がゆそうに言う。
「なるほどね。ギャラントプルームは大丈夫だったの?」
「レダ達を置いておいたからね~森林内に入ってきた奴は大虐殺さ」
「そこは抜け目ないか……まぁそれがかえって仇になったわね」
その時ギャラントプルームが侵略されていれば攻める大義名分ができたはず。
「侵略されておけばよかったと考えたかもしれないけど、もし侵略されてたら連邦領内においていた冒険者ギルド支部のメンバー全部が危険にさらされていたからね」
「助ける道があったとしたら九兵衛さんやレダさんが変装して撃退する以外に道はなかったわけね」
うまいことやられたわけだ。酒場で働く獣人族のウエイトレスはみな腕か首に隷属の輪を付けている。これが侵略と制服の証という事だろうか。全く虫唾のはしる話だ。
「連邦内にギルドを進出させていた時点で負けだったのさ。獣人族の中でも、冒険者の身分であったものとその家族はなんとか奴隷にするのを防ぐことができたけど、大半は奴隷さ……」
九兵衛さんはお通夜顔だ。
「ごめんなさい。そんな顔にするつもりはなかったの……」
九兵衛さんだってそんな状況が歯がゆくて、それでも私達が来るのをずっと待っていたんだったわね。流石に責めるのはよくないわね。
「いや、いいんだ。それももうすぐ終わるからね」
九兵衛さんは果実酒をグッと飲み干す。
「しかし美味しいね~ウエイトレスもかわいいしいいお店だ~」
「そうね」
するとウエイトレスが話しかけてくる。
「あら、みない顔ね」
「どうも」
軽く会釈した。
「あなたは?」
「私はリエンダ・エンペリーよ」
リエンダと名乗るウエイトレスは短い銀髪の猫耳でなかなかのスタイルだ。
「私は立花よ、そしてこちらは……」
「女性の味方の九ちゃんで~す」
いつの間にか随分飲んでるわね。
「ふふっ、面白い殿方ですね」
「そうかしら?私の夫の友達なんだけどどうにも女癖が悪くてね~」
誤解されると腹が立つので予め言っておく。すると私の男じゃないのがわかったからか、リエンダは九兵衛さんに近づく。
「フフッ、駄目じゃない。せっかくのイケメンが台無しよ~」
「これは……いい匂い……九ちゃん吸い寄せられちゃう……」
九兵衛さんはヴィエナの胸に触れようとする。
「むぎゅっ」
リエンダは九兵衛さんの顔をそのまま胸に押し当てる。
「フフッ、不思議な方ね」
リエンダは顔を赤くしながら言う。
「九ちゃん幸せ~」
それを見て、ついため息をついてしまう。ザルちゃん連れてくればよかったわね。駄目男九ちゃんモードになったこの男は女からすると見るに絶えないのだ。だが気になるのは彼女が奴隷の腕輪とは別に着けている魔道具にあった。
「入るぞ!」
大きな音共に酒場に入って来たのは偉そうな男だった。すると客はみな席を立ち横に避け、店主はごまするかのように下手にでている。
「二人ともここから離れて……あいつはこのコートマーシャルの領主であるマラケートよ」
偉そうなデブ男は店主に向かって言う。
「ここのウエイトレスはなぜ我を見て逃げるのじゃ?」
「これはこれはようこそマラケート様。滅相もございません、みな後ろの兵に驚いているだけです」
店主は精一杯の営業スマイルで言う。あんなデブが来たらみんな逃げるだろうし無理ないわね。
「ふむ、そうか。では私も食事にするとしようかのう」
マラケートはこちらを見ると私達の所まで来る。
「おい、そこの二人。何故私が来たのに平然と座っておる?そこに座るからどけい!」
「ひっく、席なら他が開いてるよ~ほら帰った帰った」
九兵衛さんは酔っているからか状況を把握しておらずいつも通りの口調で言う。確かにどく理由なんてない。私もクスクスと笑ってしまう。
「貴様、わしが誰だかわかってないようじゃのう……」
マラケートは怒り心頭だ。
「なぁに言ってんの~あ、そっか一緒に飲みたいんだな~」
すると九兵衛さんはマラケートと肩を組み酒を無理やり飲ます。
「うまいだろ~複数で飲むお酒は最高だね~」
それを見た店主やウエイトレス、避けた客はみな目を点にして絶句している。怒りに耐えられなくなったマラケートは九兵衛さんの頭をもって無理やり机に押し付ける。
「ぐふぇっ」
「こ、こやつ死刑じゃ!わしにこんな無礼を働いて生きていられると思うなよ……」
「ま、待ってください!この方々は旅の方でこの街のことをわかってないんです……だから勘弁してあげてください……」
リエンダは頭を下げて言うが、リエンダを見たマラケートは獣人族と分かり、さらに激昂する。
「なんだ、貴様愛玩具の分際で私に物申すと言うのか!」
マラケートはリエンダの髪の毛を掴み怒鳴る。
「申し訳ございません……」
「誰のおかげでここで働けていると思うっておるのじゃ!」
リエンダは委縮し、周りの獣人族のウエイトレスも恐怖に怯えている様子だ。ここは思った以上に腐った街みたいね……
「貴様達愛玩具の立場をもう一度わからせる必要があるのう。どれその胸をここでさらけ出して揉んでやろう……」
「ひっ……助け……て」
リエンダは涙目となり目を閉じる。マラケートがリエンダの胸に手をかけようとした時だ。
「ぐっ……いてっ……」
「えっ?」
九兵衛さんがマラケートの腕をつかみ止めた。どうやらスイッチが入ってくれたようだし害虫駆除の始まりかしらね。
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