コード・エデン

かりん

文字の大きさ
13 / 17
第一章 邂逅

艦橋 対峙

しおりを挟む
ブリッジの扉が静かに開く。
その先に広がっていたのは、薄暗く無機質な、艦の中枢。

視界の奥。

艦長席に座っていた男が、ゆっくりと脚を組み替えた。

義眼の男、デリン・マルゴ。

鋭い白髪に、左目の義眼は淡く赤い光を放つ。

その視線が、レイナをまっすぐに捉える。

「やっと来たか」

レイナは何も答えない。
ゆっくりと一歩を踏み出し、ブリッジ中央へ進む。

「ミーナも、ボムも抜いてきたんだな。すごいじゃねぇか」

マルゴは立ち上がり、コートの裾を払う。

艦橋のクルーたちはすでに退避していた。

この場は、二人だけの戦場。

「……」

レイナの右手がブレードに触れる。

「会話はいらねぇか」

マルゴの口角がわずかに上がり、ゆっくりと上着を脱ぐ。

「……気に入ったぜ」

上着の下から現れたのは、筋肉質で傷だらけの上半身。

義眼が赤く輝き、右腕の皮膚の一部には戦闘用義肢のパーツが内蔵されていた。

レイナの目が細くなる。

(……近接特化、義手……格闘戦。間合いが近いほど危険)

「来いよ、レグザの弟子」

「……ッ!」

レイナは一歩踏み込み、ブレードを抜く。

ギィィィィンッ!!!

刃と拳がぶつかり、艦橋の床にひびが走る。

マルゴが笑う。

ギィィィィンッ!!!

刃と拳がぶつかり、艦橋の床にひびが走る。

マルゴが笑う。

「いいじゃねぇか……その目……」

「きもい…」

レイナが低く返し、ブレードを振ろうとした瞬間。

ドォォォン!!

艦橋の壁の一角が轟音と共に吹き飛んだ。

装甲パネルが弾け、煙の中から姿を現したのは2メートル超の金属装甲をまとった巨体。

肩に担がれたのは、船一隻を粉砕する重力ハンマー。

「団長準備整った。ターゲット見つけた。排除開始」

スカルノヴァ団の副団長バシル。

マルゴがにやりと笑いながら言った。

「おっと、紹介が遅れたな。こいつが俺の用意しておいた最終兵器ってわけだ」

レイナは視線だけでマルゴを睨む。

「……最初から一騎討ちのつもりなんてなかったって事?」

「 当たり前じゃねぇか。俺は負けたくねぇからな。バシルにはあのハンマーの準備を命じてたのよ」

バシルの右腕がわずかに動き、ハンマーが床に当たってドン……!と重く響く。

「調整完了済み。重力出力120%…対象の粉砕を開始する」

マルゴは楽しげに言う。

「こいつな、ずっと整備室でハンマーの重力核の再調整してたんだよ。一発で艦橋が潰れねぇようにな。お前だけ、きれいに潰すためにさ」

レイナの目が細くなる。

(……最初から仕組まれてた。距離を詰めさせ、戦闘に集中させた上で、背後からの重撃…)

「いくらお前が強くても叩き潰せば死ぬ。ただそれだけの話だ」

バシルが前進を始めた。

ドン、ドン……!

バシルが走るだけで艦橋が軋む。

「ぶっ潰す…!」

レイナは静かにブレードを構え直した。

「二人まとめて……やる」

レイナが呟くとバシルが歩き出す。

バシルが一歩踏み出すたびに、艦橋の床が軋み、沈む。

その質量と重力制御が生み出す圧力は、空気の密度すら変えてしまうような錯覚をもたらす。

「ぶっ潰す!!」

その口癖と共に、ハンマーが振り下ろされる。

ガァァン!!!

重力ハンマーが床を薙ぎ払い、レイナの立ち位置を襲う。

レイナは咄嗟に横へ跳ねる。

直後、床はえぐれ、鉄骨がねじ曲がる。

「おいおい、避けんなよ」

マルゴが腕を組みながら笑う。

「避けてもいいが、どこへ逃げてもいずれ潰されるぞ?」

レイナは着地と同時に、バシルとマルゴの両者を視界に収める。

(……デカイ男の一撃に合わせて、マルゴが隙を狙ってくる…)

再びバシルが突進してくる。

ズン……! ズン……!

ブレードを抜きながらレイナが再び横へ跳ぶ。

その背後に、マルゴがいつの間にか回り込んでいた。

「甘いぞ」

マルゴの義腕が唸りを上げて伸びる!

「……っ!」

レイナはブレードで受け止めるが、義腕に内蔵された電磁装置が炸裂する。

ガガガッ!!

衝撃波に吹き飛ばされ、レイナは艦橋の壁
へ叩きつけられる。

「ぐっ……!」

バシルはその隙を逃がさない。

重力ハンマーが、今度は真上から。

「ぶっ潰す」

ドゴォォォン!!

粉塵が巻き上がり、艦橋の天井すら振動した。

「終わったな」

マルゴが低く呟く。

だが、

ガンッ!

その粉塵の中から、バシルのハンマーが跳ね返されるように弾かれた。

煙の中、レイナの影がゆっくりと立ち上がる。

コートは破れ、血がにじんでいる。

それでも、その目には曇りがなかった。

「どういうことだ?」

「重力制御の範囲……半径1.8メートル…弱点はタイミングと、足元」

レイナが足元に、小型のEMPスティンガーを転がす。

パシュッ!

微弱だが、重力制御に干渉できる周波数にチューンされたEMP。

バシルの足元の重力フィールドが一瞬、揺らいだ。

レイナが疾走する。

目指すはマルゴの義腕。

その刹那、レイナの脳裏を横切るのは、数分前、艦橋に向かう通路で届いた一通のメッセージだった。

ショートコードによるハッキングメッセージ。

件名もなく、暗号化されていたが、短くこう書かれていた。


『バシルくんに注意してね。バシルくんは重力ハンマーが大好きな男の子。M』


レイナは何も返信しなかった。

ただ、その文面を記憶に焼き付けて、EMPスティンガーのチューニングを数秒で済ませていた。

(……あの猫耳女に借りを作らされた)

煙の中、疾走するレイナの口元に、ごくわずかに笑みの影が浮かぶ。

一瞬の重力乱れ。

その隙にレイナはマルゴの死角へ跳び込んでいく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...