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第一章 邂逅
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しおりを挟むマルゴがゆっくりと目を開ける。
義眼は砕け、左目だけで視線をゆっくり動かした。
「……クソッたれ……」
隣でバシルも目を覚まし、無言で辺りを見回している。
その顔はやはり無表情だが、口元がほんのわずかに裂けていた。
「ぶっ……潰された……」
「おう、目覚めたか」
拘束されたマルゴとバシルは壁にもたれながら沈黙していた。
マルゴが唸るように言った。
「てめぇ……レグザ……。いつからそんな芸当できるようになったんだ……?」
「昔からできてた。ただやる気がなかっただけさ」
レグザがコーヒー缶を空にして、ぽいと足元に放り投げる。
「なぁ、マルゴ。ひとつだけ、ちゃんと話しとこうと思ってな」
「……あ?」
「今回の依頼…カティーシャから預かった荷物の中身だ」
マルゴは苦々しげに顔をしかめる。
「なんだよ、軍用デバイスか? 金塊? それとも、宇宙怪獣でも詰まってたか?」
「違うな」
レグザが淡々と答える。
「中身は…十歳前後の女の子だった。名前はイヴ」
マルゴの目がわずかに見開かれた。
「……は?」
レグザはレイナを見やった。レイナは静かに頷き、一歩前へ出る。
「中身が人間の子供だと知った時点でカティーシャに渡すのはやめた」
マルゴは言葉を失ったまま、バシルの方に視線を送る。
バシルもまた、口を開いた。
「少女。生身。戦闘能力……低。荷物の中身にしては……不自然」
「だろ?」
レグザが肩をすくめる。
「俺だって驚いたさ。最初は普通のコンテナだと思ってた。だがちょっとしたトラブルでコンテナが割れて、中身を覗いてみたら中に入ってたのは……生きてる女の子だった」
しばらくの沈黙。
マルゴがゆっくりと息を吐く。
「……おい、ふざけんなよ……人間の子供をあんな密閉カプセルに詰め込んで運搬依頼……?」
レグザの表情から、皮肉が消える。
「俺も、そう思った」
レイナが静かに言葉を重ねる。
マルゴは、鼻を鳴らした。
「……そういうことなら、せめてもっと早く言いやがれ……こっちは高値で取引できる特殊兵器だとしか聞かされてなかった」
「言い出すタイミングを完全に見失ってな……」
レグザがジト目でレイナを見る。
レイナは、わずかに眉を寄せ、気まずそうに視線をそらした。
「……ごめん」
「いや、俺がもっと早く言うべきだったんだけどな? でも火に油注ぐんだもん、お前が」
バシルがぽつりと呟く。
「……女の子……売られなくて、よかった」
レグザは、ふっと笑った。
「バシル、お前ってたまにまともなこと言うよな」
やがて、マルゴが深く座り直し、吐き捨てるように言った。
「……まったく……人間の子供なんぞに手を出す趣味はねぇよ」
その声には、わずかな疲労と苛立ちが混じっていた。
しかしその直後、マルゴがじろりとレグザに目を向ける。
「で、レグザ。お前に貸してる金はどうすんだ?」
レイナが一瞬、ちらりと視線を向ける。
レグザはというと、目を泳がせながら、首をポリポリとかいた。
「……あー、どうしようか……なー……」
「今すぐ答えろ。利子込みでかなり膨れてるぞ」
「……もうちょっと返済待ってくれない?」
「ふざけんな。俺がどれだけミーナのゲーム代を肩代わりしてると思ってんだ」
「それ関係ある!?」
バシルが小さく付け加える。
「……高額ゲームソフト…四本同時購入…」
「おいミーナ、またまとめ買いしてたのか!?」
レグザの声に、通信機越しにミーナの明るい声が返ってきた。
『うん!だって深夜の通販番組で今しか買えないパッケージ限定版がさぁ~!』
「今しかが何回あると思ってんだこの猫耳ハッカーは……!」
レグザががっくりとうなだれると、マルゴが咳払いしながら、ふいに言った。
「……じゃあ、特別に一つ提案をしてやる」
レグザとレイナが同時に顔を上げる。
マルゴは拘束されたまま、片目を鋭く光らせた。
「とある惑星、クズガルドって名の無法地帯に超大型の宇宙怪獣が棲んでる。そいつの素材を持ち帰れたら、借金はチャラにしてやる」
「……素材、って。狩り前提かよ」
レグザが引きつった笑みを浮かべる。
バシルが補足するように呟く。
「……怪獣コードネームダストハウル。一部のハンターは一瞬で蒸発。現在、生きて帰還した報告はゼロだな」
「お前ら、借金チャラにする気ないだろ絶対!!」
マルゴは肩をすくめて言った。
「逃げ癖のあるお前にはちょうどいい目標だろ?それに、その素材……高く売れる。俺も欲しい」
レイナが静かに口を挟む。
「……師匠、それやるの?」
レグザは天を仰いで、数秒黙ったあと。
「……逃げても無駄なのはもう分かってるからな……」
そして、にやりと笑った。
「行くか。宇宙怪獣退治ってのも、久々に燃えるしな」
マルゴがニヤリと口角を上げた。
「取引成立だな」
マルゴは拘束された腕を組むように動かしながら、薄く笑った。
「ちなみに俺たちも同行するからな」
「……は?」
レグザの顔が固まる。
「ちょ、まって、俺とレイナで行く前提だったんだけど?」
「お前がまた逃げたら取り立てに行くのが面倒だしな。監視ついでだよ」
「いやちょっと待て、あんたらスカルノヴァ団だぞ? ついさっきまで俺にハンマー振り下ろしてたヤツが一緒に狩りに来るとか――」
「借金帳消しのための共同作戦だ。俺らにとっても回収は重要なんだよ」
バシルが無言で頷く。
「……潰す対象が怪獣に変わっただけ。命令に従う」
レグザが頭を抱える。
「……最悪なパーティ構成すぎる……」
レイナが静かに言う。
「“火力は高い”。問題ない」
「いや、その火力、絶対味方ごと焼けるタイプだろ……」
すると通信端末からミーナの声がまた割り込んできた。
『やったぁー!久々の全員出撃!?しかも怪獣!?え、アタシも行っていい!?』
通信端末の向こうで、ミーナがにこにことピースサインをしていた。
『後方支援なら任せて!現地の気象データ、ドローンマッピング、ぜーんぶリアルタイムでサポートするよ!あと、レグザくんの生体反応もちゃんと監視してあげるから安心してね~!』
「なんか嫌だなおい!!」
レグザが叫ぶように返すと、通信の向こうでミーナがさらに笑顔を強めた。
『え~、だってレグザくんの心拍数とか見るの面白……いや、心配だからさ~?ちゃんとデータ取っておきたいし?』
「今面白いって言いかけただろお前!!」
『はーい、気のせい気のせい!じゃあ現地での通信環境、強化しておくね~!またね~!』
ピッと音を残して通信が切れた。
レグザはうなだれ、静かに言う。
「……なんで俺、あの猫耳娘にストーカー行為されてんだろ……」
「監視のためじゃないのか?」
バシルが首を傾げる。
レグザが頭を抱える横で、マルゴが短く咳払いした。
「茶番はそのへんにしろ。……こっちのブラック・ドリフター号も、艦橋周りがボロボロだ。移動どころか、ジャンプもできねぇ」
レグザが思わず肩をすくめる。
「そっちは俺が突っ込んだのとバシルのせいだけどな……」
「うるせぇよ。元はといえばお前が悪いんだからな?」
「う……」
「とにかく討伐しに行かなきゃお前の借金は永遠に返済されねぇんだ。それが嫌なら準備しやがれ。お前の船も損傷が激しいだろーがよ」
レイナが淡々と確認を入れる。
「機関部の外装は、第三層まで溶けてる。装甲パネルは取り換えが必須」
「ほら見ろ」
マルゴが指を鳴らす。
「つまり、どっちの船もこのままじゃ長距離航行は無理だ。共通の目的地に向かうにも、まずは修理用のパーツと補給資材を揃える必要があるってことだ」
バシルが手元のデバイスを操作しながら、続ける。
「……この宙域から最寄りの補給コロニーは、ディラック・ノード。傭兵船向けのブラックマーケットあり。素材とパーツの調達は可能」
レグザが眉をひそめる。
「あそこか……治安最悪で、交渉も全部“銃口”でやるとこだぞ」
マルゴがにやりと笑う。
「だったらちょうどいい。俺たち、そういうの慣れてる」
レイナが小さく呟く。
「…力で押せば、交渉成立」
「怖っ……言い方が完全に悪党側……」
レグザはため息をついて、両手を広げた。
「……仕方ねぇ。船の修理、物資補給、装備の整備…怪獣狩りの前に整備遠征ってわけだな」
マルゴが頷く。
「準備が整ったら、ダストハウルの縄張り座標を渡す。そこで正式に共同作戦開始だ」
レグザは渋い顔をしながらも、どこか楽しげに言った。
「まったく……借金返すために、宇宙怪獣と戦うとか……俺の人生どこで間違えたんだろうな」
バシルがぽつりと答える。
「……たぶん、最初から」
「うるせぇよ!!」
奇妙な借金返済兼狩猟遠征隊の準備が、静かに始まろうとしていた。
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