私が悪役令嬢だからって、乙女ゲームに関わると思ったら大間違いよ?

たなか

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きっとこれが幸せ

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重たい身体を動かして、何とか笑みを浮かべて振り向く。
ちゃんと出来てるかは分からないけど。
大丈夫。
もう日は落ちた。
暗いから大丈夫。
見えないよ。
落ち着いて。

こわくない。
こわくない。

「フラム。」
「………何…でしょうか?」
「どうしたの?」
「…………いえ。」
「具合が悪そう。」
「……!……………気のせいですわ。」

早く帰ろう。
寝て全て忘れよう。
リセットだ。

「私、少し疲れてしまいましたの。失礼致しますわ。」

そう言って脇を通り抜けようとしたけれど。

「フラム。待って。」
 
すかさず手を掴まれた。
咄嗟に掴むのが腕ではなく手であるところは紳士の鑑ね。

「何かあったの?」
「……いえ。」
「何か嫌なことでもあったの?」
「……………いえ。」
「何か嫌なことでもされた?」
「……………いえ。」

早く帰らなければ。
ボロが出てしまいそう。

「………夕焼けを見たの?」
「…!!」

やっぱり殿下には敵わないな。
何でもお見通しみたい。

「……部屋で休もうか。」
「……!…どうして……。」
「そんな顔してたら放っておけないよ。」
「そんな顔………。」

笑顔を浮かべたはずなのに。 
どんな酷い顔をしているのかしら。
泣いてなかったことが幸いね。
泣いてメイクが流れたら大惨事だもの。


連れられて入ったのはソファとベッドがある一室だった。

来客用のお部屋かしら。

「ここならゆっくり出来ると思うよ。」
「……ゆっくり………?」
「うん。ゆっくり。好きなだけいていいよ。今夜は泊まっていってよ。ハーブティーを淹れようか?」
「あ、あの。」
「ん?」
「私、帰りますわ。ご迷惑ですし。」
「迷惑じゃないよ。」
「でも………。」
「大丈夫。大丈夫だから。」
「…!!」
「ほら、座って?」
「………はい……………。」

殿下の大丈夫の言葉は、私の大丈夫よりも安心感があった。
今まで何度も言ってきたけれど、そのどれよりも安心出来た。
ソファに腰かける。



「………昔、二人で夜に抜け出したよね。」
「…昔……。」
「覚えてないかな。幼い頃のことだったからね。」
「…いえ。覚えていますわ…。」

忘れられるわけがないわ。
あの時に私は殿下に恋をしたのだから。



「二人で星を見たよね。」
「……はい。」

そう。二人で星を見たの。

「綺麗だったね。」
「…はい。」

とてもとても綺麗だったわ。
今でも思い出せる。
この世のものじゃないみたいな空だった。
夢みたいに綺麗で、そんな空を殿下の隣で見ていることが本当に本当に嬉しくて、これが幸せなのかな、なんてぼんやり考えていたわ。
でも本当は、殿下の瞳に映る夜空が一番綺麗だったの。
殿下の銀色の瞳がキラキラしていて、それが何よりも素敵で、それまで考えていたことが何もなくなったの。
真っ白な頭で、ただただ好きだなって思ったの。

それが私の初恋で、最初で最後の恋。

この気持ち。
伝えたいな。
伝えてもいいのかな。
私なんかでいいのかな。


 


「あの時、実は僕は夜空よりも君に見とれたんだ。」
「…え?」

今なんと…?

「あの時に僕は君に恋をしたんだ。」
「……………………………う…そ………。」

そんなの、そんなの。


「はは、信じてもらえないのかな?これでもちゃんと伝えてきたつもりなんだけどな。」
「………だっ…て…………。」
「だって?」
「……そんなの…いっしょじゃない………。」
「……いっしょ?………!!!そうなの!?本当!?」

ああ、本当に敵わないわ。
どうして貴方は私が伝えたいことを先に言うのかしら。
いつも私は反応しかできないじゃない。

私だって伝えたいの。

「本当よ…。」
「そ、そうなん…だ…。」

あら?
殿下が下を向いてしまったわ。

「殿下?」
「……………あ…ちょっと……待ってね…………。」

顔に手を当てていらっしゃる。
もしかして………。

「照れてるの…?」
「…!!!……だったら何……。」


わー。照れてる!
殿下が、照れてる!!
それに言葉がぶっきらぼうになってるわ!!
珍しい珍しい!!!

それもなんと私の言葉で!!!


「ふへへ。」
「……!!…何その顔。」
「懐かしいねえ。その喋り方久しぶり。」


ニヤニヤしちゃう。
ふふ。嬉しい。

「そっか……。うん。」
「何。」
「嬉しいの。」 
「照れてることが?」
「それもだけど、一緒だったのよ……!!」
「…!本当にフラムには敵わないな……。」

あら。

「それも一緒だ!私も敵わないって思ってた!」
「くす。昔に戻ったみたいだね。」
「そうだね。」

二人で笑い合う。
そうか。
私たちは両思いだったのか。
嬉しいな。
私は愛されているんだ。
愛してもいいんだ。

心が溶けていくみたい。
幸せで悩みが解けていく。


今なら伝えてもいいのかな。
「ねえジェニー。」
「何?フラム。」
「前世って信じる?」
「前世?輪廻転生の?」
「うん。」
「別に気にしたことなかったけど…。」
「私ね、前世の記憶があるの。」
「前世の記憶……?」
「信じなくていいよ。ただの夢かもしれないし。」
「いや、信じるよ。」
「……ありがとう。」
「わたしね、多分、前世で親に虐待されて育ったの。」
「……虐待………!?」
「あ、暴力とかは振るわれなかったんだけどね。」
「…。」
「毎日毎日……夕方になると…箱みたいなものに閉じ込められてね。……………箱には穴が空いていたんだけど、そこから、毎日…毎日……夕焼けが……………見えてね。」
「フラム。無理に話さなくていいんだよ。」
「ううん。わたしが話したいの。」
「それで、夕焼けを見ると………怖いの。また閉じ込められちゃうんじゃないかって。
そんな事ないのにね。」
「フラム……。」
「………昔は…お母さんも優しかったの。皆でご飯にも…行った。
でもお父さんが死んじゃって……それからお母さんが……変になっちゃって………あんたのことなんか大嫌いって。……………産まなければよかったっ…て。あんたのことを愛せるやつなんて…絶対に………いな……い………。」
「そんなことないよ!!!」
「ふふ。うん。そうだよね。
……お母さんのこの言葉はずっっっと心に残っててね。私を愛してくれる人なんていないんじゃないか。お母さんみたいに、愛しててくれてても嫌いになっちゃうんじゃないかって思ったら怖くて。愛されることが怖かったの。」
「フラム……。」
「そんなに悲しい顔をしないで。」
「でも……。」 
「今は大丈夫。わかってる。私は愛しても愛されても良いの。………そうだよね…………?」
「…!もちろん。たとえフラムがまた分からなくなっても誰かがフラムを傷つけても絶対にそばにいて、愛を伝えるから。
……だから。








泣かないで?」


「……え…………?」

そう言われて頬に触れた手に雫がつくのをみて、初めて泣いていたことに気がつく。

そうか………。
わたしはずっと…。

「泣きたかったんだね。」
「……っ!」
「でも泣けなかったんだね。」
「……ぅ。」
「泣かないことは偉いことじゃないよ。泣くことはダメなことじゃないんだよ。ほら。おいで。」

殿下が腕を広げるから。
殿下の腕の中で泣いてしまう。
いえ。

やっと泣けた。


──ありがとう──
どこかで誰かが言った気がした。



泣けなかった涙を。
言えなかった言葉を。
消費するかのように慟哭した。

愛する人の胸の中で。

きっとこれが幸せだ。
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