【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイドー紅黒の翼ー

アイセル

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第九章 Feed The Machine

真実—③―

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 ライトに言われて、ロックはドアをスライドさせる。

 彼を出迎えたのは、熱波と怒号だった。

「始まっていたか……」

 ブルースが、ロックの隣で言った。

 背後を見ると、後続のバイス車に乗っていた、サミュエル、シャロンに龍之助が駆けつける。

 ライト車に同乗していた、サキ、一平に堀川と秋津も合流した。

「しかし、激しいな……」

 龍之助が眼鏡の奥の視線を、更に鋭くした。

 是音台高等科学研究所自体が、3階建て。

 夜の帳に覆われ、その全貌は暗がりで見えない。

 しかし、目の前で繰り広げられる激闘による閃光で、その輪郭が時々浮かんだ。

「でも……誰も研究所に入ってないみたい……」

 サキが黒真珠の瞳を凝らせて、言う。

 ロックは眼前で繰り広げられている戦いに目を向けた。

 “立ち入り禁止”と書かれた札と物々しい、有刺鉄線。

 それらを照らす閃光の担い手は、二つ。

 “政市会”のメンバーが放つ“スウィート・サクリファイス”と、“政声隊”のトルク――“コーリング・フロム・ヘヴン”――の三色の人型。

 それぞれから放たれる攻撃だった。

 それを受けているのは、

「“バタリオン・ピース”!! 何とか、守り切っていた!!」

 安堵とし、勝利を信じるライダースーツを着たライトの声が響いた。

「駅前と是音台高等科学研究所……二手に分けていたからな。渋滞もあって遅れたが……」

 バイスが腕を組みながら、見据える。

 彼の声は何処か震えている様に見えた。

 恐怖ではなく、嬉々として沸く闘争心によって。

「さて、バイス……俺たちも加勢に行くぜ!!」

 ライトが犬歯を伸ばしながら、自陣へ駆けだした。

 彼の言葉に答えず、バイスも続く。

 二人の後ろ姿を、ロックは見送ると、

「だけど、守ってんの“バタリオン・ピース”だけだよな……」

 一平が両手に付けた手甲型“命導巧ウェイル・ベオ”:“ライオンハート”を付けて言った。

じゃないね」

 サミュエルが言いつつ、大鎌と散弾銃の付いた命導巧ウェイル・ベオ:“パラダイス”を構えた。

 安心は出来るという反面、警戒色を眼に宿すポニーテールの青年。

 “政声隊”の赤色の人影――“ブレイザー”――の炎を出す集団の前に、透明な人影が躍り出る。

 透明な人影の拳が、氷の礫と共に弾けた。

 “政声隊”の炎の担い手の顎に、透明な人影の右直拳撃ストレートが入る。

 その勢いで左と右の氷の連打が、二人ほど地を舐めさせた。

「“ブライトン・ロック社”のアンナ!?」

 シャロンが驚いて声を上げた。

 炎の一団で、閃光で透明な液体で出来た人影――“水妖ウンディーネ”――が浮かぶ。

 その影に隠れる、ベリーショートの女性――和泉守 杏菜。

 彼女の右翔拳撃アッパーが“水妖ウンディーネ”の乱入に戸惑う、“政声隊”メンバーの男の意識を奪う。

 背後を捕らえる“政声隊”には、杏菜が彼の土手っ腹に右肘鉄エルボーで迎撃した。

 しかし、“政声隊”の氷を作る人影――フロスト――を召喚する一団が離れた位置で、氷を上空に待機させている。

 その標的は、和泉守 杏菜。

 しかし、フロストの作る氷が、彼女を潰すことは無かった。

 氷は一斉に落ち始め、フロストの担い手の視線の前を過る。

 刹那、氷がいきなり爆発。

 氷の礫と衝撃で、フロストを呼ぶ一団が吹っ飛んだ。

「……“ベネディクトゥス”」

 ロックは、杏菜の前で出る男に目を向けた。

 切り揃えた髪に、“インヴァネス・コート”を纏う男。

 彼の持つ時計を模した“籠状護拳バスケットヒルト”の剣から、陽炎が出ている。

「“ザ・ミーネスト・オブ・タイム”……」

 ロックは最強の“命熱波アナーシュト・ベハ”使いの持つ命導巧ウェイル・ベオに目を向けた。

 その剣の表面が、青緑のトルクを纏う集団を映す。

 電撃を操る人型――アンペア――が、一斉に並んだ。

 彼らが電撃を右手に集めると、黒い風が吹く。

 “政声隊”の一団の眼の前で、黒い爆発が起きた。

 駆け抜ける“ベネディクトゥス”を誰も、認識は出来ない。

 ただ、彼の振るった剣閃の呼ぶ爆撃に、“政声隊”が倒れていく。

「……なんだ、あれは!?」

「粒子加速だ」

 龍之助の驚愕した叫びに、ロックは答えた。

 あまりにも場違いな言葉だったのか、眼鏡を掛け鋭い眼をした青年がぽかんと口を開けている。

「全ての物質を構成する物として粒子がある……“ベネディクトゥス”の片手剣型の“命導巧ウェイル・ベオ”:“ザ・ミーネスト・オブ・タイム”は、粒子……つまり、原子や光子や陽電子を加速、あるいは遅くすることができる」

 ロックの言葉に――ブルースを除いて――周囲が、声を失った。

「そして、空気中の粒子を加速することで、氷の中心の粒子を爆破させた。同じように、周囲の空気に熱を加え、破裂させた衝撃波による斬撃を繰り出した」

 ロックの目の前にいる“ベネディクトゥス”が剣を振るうごとに、“政声隊”の人数を減らしていく。

 微かに剣の表面が、顔色を失ったサキ、一平、龍之助、堀川と秋津を映し出した。

 サミュエルの視線が“ベネディクトゥス”を射ぬかんとし、シャロンが微かに戸惑う。

 ロックはサミュエルの反応に疑問を抱きながら、“ベネディクトゥス”の行動に視線を戻した。

「……ロック」

「大丈夫だ、

 苔色の外套コートと同じ色であるブルースの眼に映るロック。

 、自分の眼にあふれていた。

のは分かっている」

 ロックの言葉に、ブルースが肩を竦める。

 殺意を抑えつつ、ロックは“ベネディクトゥス”へ改めて目を向けた。

 “政声隊”のトルクの戦士たちが人数を減らしていく中、何人かの“政市会”会員が杏奈と“ベネディクトゥス”を狙う。

 “バタリオン・ピース”からの反撃を逃れたのだろうか。

 両腕に装備した羊の頭蓋から、青白い敵意が放たれる。

「危ない!!」

「いや!!」

 サキが叫ぶが、ロックは制止する。

 “ベネディクトゥス”が杏奈と視線を交わした。

 杏奈が舌打ちをして、“ベネディクトゥス”の背に移動。

 “インヴァネス・コート”の青年が、左腕を突き出した。

 “スウィート・サクリファイス”の青白い矢が、“ベネディクトゥス”の前で爆発する。

 “ベネディクトゥス”の前で立て続けに放たれた、青白い弾丸が不可視の壁に遮られた。

 行き場を失った“政市会”の攻撃が、青白い弾幕を張る。

 当然、杏奈はもちろん、“ベネディクトゥス”も無傷だった。

「……顔色一つも変えてない……?」

「あれ、もしかして――!?」

 龍之助が息を呑み、一平がロックに振り向くと、

「“磁向防スキーアフ・ヴェイクター”だ……」

 ロックも、“磁向防スキーアフ・ヴェイクター”を集団からの攻撃を防ぐために出したことはあった。

 しかし、損傷ダメージは避けられない。

 だが、目の前の“命熱波アナーシュト・ベハ”使いは、

「これが、“七聖人”……最強の“命熱波アナーシュト・ベハ”使いだ」

 ロックの目の前の、“ベネディクトゥス”の前で漂う青白い矢の残滓が消え去る。

 “政市会”は呆然としていた。

 攻撃を全て潰し、疲れや溜息すら見せない“インヴァネス・コート”の青年に、立ち尽くす。

 そして、彼らが背後を見せたために、“バタリオン・ピース”の馬型の擬獣エミュレータによる突進で吹っ飛ばされる。

 同じような恐怖が、“政声隊”にも伝染した。

 彼らには、“エクスキューズ”の集団の放った土礫の大海嘯かいしょうが出迎える。

 ロックは、“バタリオン・ピース”、杏奈と“ベネディクトゥス”の攻撃に戸惑う各政治団体の構成員たちの向こう側を見た。

 鍔なしビーニー帽を被った“政声隊”の創設者である山土師 靖が、立ちはだかる者たちを眼に歯ぎしりをしている。

 彼らの荒事担当の別動隊である黒いシャツに白抜きの“力”の一文字を刻んだ“力人衆”の間崎も集団の中で顔中に皺を寄せていた。

 同時に、“政市会”も敵対団体と同じ憂き目に遭っている。

 “政市会”の首魁である尾咲 一郎、“大和保存会”の菅原と広島県のフィクサーとも言える胴田貫 剛介も、“政市会”が是音台高等科学研究所への道を切り拓けないことへの、不満が彼らを覆う。

 両陣営の眼が、ロック=ハイロウズを捉えた。

 彼らの視線と交差し、ロックはその中で違和感を覚える。

「って、あんた等!?」

 杏奈が振り向いて、叫んだ。

それに気づいた“ベネディクトゥス”も視線をこちらに向ける。

呼ばれて、ロック達は杏奈たちに合流した。

ロックの殺意を向けた視線に、“ベネディクトゥス”は動じた様子を見せない。

「アンナ先生、どうしてここに!?」

「あんたの姉さんに言われてね……そして、“バタリオン・ピース”とも合流をしてから研究所を守っていた」

 一平の疑問に、杏奈が応える。

 かなりの人数を相手にしていたようだが、傷一つ付いていない。

 しかし、ノースリーブの白シャツとスリムフィットの赤いパンツに纏った女“命熱波アナーシュト・ベハ”使いの顔には、疲労の色がにじみ出ている。

「“ベネディクトゥス”もいるから、楽させてもらっているけど……」

 ロックの視線に気づいた杏奈が、“政市会”と“政声隊”の陣営に目を向ける。

 杏奈のため息が、どこか安堵を感じさせた。

「ただ……相手側の“七聖人”と“命熱波アナーシュト・ベハ”使いの三条がいないのがね……」

 ロックの感じた違和感の正体だった。

 “政市会”のホステルに与していた“ケンティガン”の姿が見えない。

 加えて、“政声隊”で“ウィッカー・マン”を扱える三条の姿もなかった。

「もしかしたら、こちらを消耗させてから、襲撃するのかも……」

「全く笑えないな……」

 “ベネディクトゥス”の近未来予想に、ロックは吐き捨てる。

 そんな彼を見た杏奈の視線が、堀川と秋津を捉えた。

「あんたら……」

 杏奈の安堵と苦労に満ちた口調に、冷気が籠った。

 彼女の眼が、堀川と秋津の抱える種類が異なるものの“電子励起銃”を切り刻まんと鋭さを増す。

「……先生、僕達も戦います!」

「私たちの団体を止めないと!!」

「……ブルース、あんたが?」

 杏奈の視線の返し刃が、ブルースに向いた。

 苔色の外套コートの戦士が、首を横に振る。

 彼の回答を見た杏奈が、

「……“ベネディクトゥス”、“

 言葉と共に彼女は拳型の“命導巧ウェイル・ベオ”を構える。

 堀川と秋津が困惑していると、

「……アタシは、生徒が傷つくのを見たくない……例え、

 杏奈の剣の視線がロックも映す。

「……分かりました」

「龍之助!?」

 白いシャツとスリムフィットジーンズを纏う龍之助が、驚く一平を脇に、杏奈の前に立つ。

 得物の矛槍型“命導巧ウェイル・ベオ”:“セオリー・オブ・デッドマン”の穂先が、和泉守 杏奈の全身を映した。
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