【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイドー紅黒の翼ー

アイセル

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第九章 Feed The Machine

真実―⑦―

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 復讐への悲願と言う飢餓感に支配された、エヴァンスの両眼が向かってくるロックと一平を見据えた。

 ロックは、不意に後ろに引かれる感覚を覚える。

「兄さん、!!」

 飴色のジャケットとお揃いの金髪のポニーテールを揺らせる、双子の弟――サミュエルの声が右隣りにあった。

 理由はおろか、サミュエルの一言を、ロックに浮遊感が襲い掛かる。

 周囲が飴色の砂嵐に囲まれていることに気づくと、首が不意に絞まった。

報復の車輪クウィレ・ド・イーオラウ”による砂嵐の中心のサミュエルに、左手でコートの内側に着ていた灰色のトレーナーのフードを掴まれている状態であることを、一平の眼から知る。

「シャロン……お前、!?」

 ロックの姿を映す一平だが、シャロンの左腕が彼の膝裏の下にあった。

 加えて、彼女の右腕が肩甲骨を支えている。

「考えなしに突っ込むから、助けてあげてんの!!」

 シャロンが一平の抗議――所謂、“――をぴしゃりと拒絶して、滑輪板スケートボードを疾走させた。

 戸惑いと怒りに満ちた一平の声が、サミュエルの砂嵐に掻き消える。

 砂嵐にロックに向かった“アンダー・プレッシャー”が、青白い光を反射させながら吹き飛んだ。

 もう一つの“アンダー・プレッシャー”は、一平を抱えるシャロンが滑輪板スケートボードで飛び越える。

雷命の蔦フィオナイン・ジャラナイク”は、獲物のいない大地を駆けた。

 ロックへの復讐心で立ちはだかる、オーツとエヴァンスの二対の眼が、砂嵐に覆われる。

「下がるぞ、エヴァンス!!」

 オーツが舌打ちして、ロックから見て左側に避ける。

 エヴァンスも口から、息と絶え絶えの言葉を吐きながら、右側に移動。

 サミュエルの“報復の車輪クウィレ・ド・イーオラウ”の進行方向にいるのは、

「子供騙しが」

 地獄の門に立つ石像の様に泰然としている“ケンティガン”が、左腕の杖を突き出す。

 サミュエルの駆る砂嵐の縁が、“ケンティガン”の杖に触れた。

 熱力エネルギーの衝突が、サミュエルと“ケンティガン”の間で起きる。

 暴風を起こしながら、

「サミュエル、俺が行く!!」

 サミュエルがロックに応える様に左手を離す。

 ロックは跳躍し、斥力の発生源の“ケンティガン”へ順手で翼剣を構えた。

“怒れる親父の一撃”を、“ケンティガン”の頭に振り下ろす。

 サミュエルの砂嵐を消し、“ケンティガン”は左腕の籠手でロックの攻撃を受け止めた。

「ロック、そのまま抑えてろ!!」

 地面に付く寸前で、前かがみで滑走するブルース。

 彼は胸元で交差させた、ショーテル型“命導巧ウェイル・ベオ”:“ヘヴンズ・ドライヴ”の双刃を“ケンティガン”の胴へ放った。

 すれ違いざまに、ロックは禿頭の男から離れる。

“ケンティガン”のいた位置で、ブルースの奏でたエメラルド色の斬閃が空を刻んだ。

「浅知恵だな、ブルース」

 赤いマントを翻しながら、夜空を後退する“ケンティガン”。

 彼は泰然として、紅い外套コートのロックと苔色の外套コートのブルースを見下ろした。

 しかし、瞋怒しんぬの顔が僅かに歪む。

 蒼白い光が、“ケンティガン”の両眼に走った。

「“ライラ”、!!」

 着地地点に合わせ、サキが肉迫した。

 水色のキャミソールの両袖が風に揺れ、彼女の片刃の“命導巧ウェイル・ベオ”:“フェイス”の蒼白い一閃を“ケンティガン”の赤いマントに刻む。

 “ケンティガン”の顔に焦りはなく、天を舞う羽毛の様に軽やかに後退した。

 マントは傷つかなかったが、

『任せて、サキ!!』

 項の見える程の短髪で円らな瞳をしたサキの“守護者”の“命熱波アナーシュト・ベハ”、“ライラ”が間に現れる。

 光の剣と化した“ライラ”の右手が、“ケンティガン”の顔に向かって刺突。

 眉を顰めた“ケンティガン”は左手の杖で、“ライラ”の攻撃を受けた。

 “ケンティガン”の眼の前で、光の奔流が生じる。

『貫きなさい!!』

 “ケンティガン”の眼前で、奔流に混じる小さな結晶――“フォトニック結晶”――から、鶏冠の兜ガレアの女戦士――“ヴァージニア”が顕現。

 右手の弓が輝き、“ケンティガン”を閃光が一斉に貫いた。

 右腕の籠手ガントレットが、収束する光を受け止める。

 “ケンティガン”の“磁向防スキーアフ・ヴェイクター”が、展開。

 “ヴァージニア”と“ライラ”の攻撃を打ち消し、

「小賢しいわ!!」

 怒号と共に発生した熱力エネルギーの暴風が、サキの“守護者”たちをかき消した。

「そんな!!」

 驚くサキに、“ケンティガン”から発生した熱力エネルギーの旋毛風が襲った。

 サキの華奢な身体が、“ケンティガン”の気迫で宙を舞い、

「サキを頼む!!」

 龍之助に言われるまま、ロックの身体はサキに向かった。

 翼剣の微細機械ナノマシンの刀身をかき消し、柄と“籠状護拳バスケットヒルト
 だけの“ブラック・クイーン”をロックは紅い外套コートの腰のベルトに固定。

 彼女の背を、彼は両腕全体で受け止める。

 ロックは両脚で踏ん張り、慣性力従うまま後退した。

 ただロックに抱えられたサキの眼は、龍之助の背を追う。

 “セオリー・オブ・ア・デッドマン”の蒼い穂先が、“ケンティガン”を捉えた。

 “ケンティガン”の突き出した銀の籠手ガントレットが、龍之助の眼鏡の奥の双眸が、敵意と討滅の意思を反射する。

 しかし、二人の間に影が乱入。

 鏡面の球体が、龍之助の矛槍の一撃を受け止めた。

「おいおい、楽しそうだな……混ぜてくれよぉ?」

 ポンチョを纏う“コロンバ”の口の端まで吊り上がる笑顔が、龍之助の双眸に刻まれる。

「龍之助、避けろ!!」

 一平の切迫とした声が響いた。

 ロックも目の前の光景に、背筋が酷く凍り付く。

 “コロンバ”の得物と言える“ピンボール・ウィザード”から、放たれる黒い粘質を含んだ光。

 隣のサキも異様さに、眼が強張り、薄桃色の口元から生気が奪われていく。

 舌打ちをしたブルースにサミュエルが、龍之助に加勢しようと構えた。

 ロックは、龍之助と“コロンバ”の肉迫している位置が遠いことに気づく。

 極めつけが、

「“ケンティガン”!!」

 龍之助と“コロンバ”を背にした“ケンティガン”が、ブルースの進路に立ちはだかる。

 ケンティガンの――ブルースから見て――左眼が、彼自身を。

 右眼が、サミュエルとシャロンの奇襲を把握している。

 ロックは“ブラック・クイーン”の柄から“イニュエンド”を取り出した。

 引き金に右の人差し指を掛け、“コロンバ”に照準を定める。

 龍之助の蒼い光を秘める“セオリー・オブ・ア・デッドマン”が、“ピンボール・ウィザード”の放つ、黒とも言える灰色の煙に覆われていた。

 龍之助を獲物としていた、“コロンバ”の嗜虐の笑みを浮かべる。

 彼が禍々しき輝きを孕んだ“ピンボール・ウィザード”に、ポンチョに隠していた右手を延ばした。
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