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第九章 Feed The Machine
真実—㉝—
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三条 千賀子は、内心驚いていた。
“祭壇”と言われる場所で浮いている自分の姿を、この場にいる者たちの眼が映し出す。
彼女に向けられる視線は、様々だった。
驚愕と困惑は、“政市会”と“政声隊”――それぞれの構成員たち。
青白い光と青緑の光に覆われ、機械の大地の上で苦しんでいる。
畏怖を込めた視線は、着流しを纏う好々爺から。
三条は、極右団体“大和保存会”の一員の菅原 辰雄というのは聞いていた。
彼の抱く憧憬は、彼女の存在と言うよりは、その背後で見え隠れしている“スターマン”――厳密に言うと、その中にいる“ヘルター・スケルター”――に首ったけに見える。
ただ、彼の隣にいる胴田貫 剛介は、“スターマン”から醸し出される幽玄とも言える空気の中に潜むものに恐怖していた。
同じような視線を“政市会”の代表の尾咲 一郎も向けている。
ただ、老獪よりも若いからか、顔と声が恐怖を隠しきれていない。
敵対する“政声隊”の山土師 靖は鍔なし帽子を、“スターマン”の出現の威圧感に飛ばされない様に、右手で抑えている。
顔には恐怖があるが、好奇心が働き眼を剥き出しにして見入っていた。
彼らから伺える、異質な存在に対する反応としては、恐怖――あるいは畏怖――が主に垣間見える。
他方で、“スターマン”から溢れる力を狙う視線もあった。
象牙眼の鍛冶 美幸――というよりは、“ホステル”の“サロメ”――と彼女を護る様に立つ、ポンチョの男――“コロンバ”――と赤いマントと杖を持つ男――“ケンティガン”という二名。
まるで、死肉を狙う禿鷹を思わせる狡猾さが見えた。
そして、どちらでもない視線もあった。
ただ、三条 千賀子を見据える強い意志の視線。
背後の存在にも屈しないと無言で訴えるのは、“紅き外套の守護者”と言う二つ名を持つ青年――ロック=ハイロウズを中心とした少年達。
彼らの不屈とも言える姿勢は――不思議なことだが――三条の中で嫌悪感は皆無だった。
極端な話だが、同じ志を持っていた筈の“電脳左翼”よりも感銘を覚えている。
しかし、それ故に、彼女が目を逸らすほど眩しいものも感じていた。
――河上 サキ……。
蒼白い刃の“命導巧”を持つ、空色のキャミソールを纏う少女。
彼女の黒真珠を思わせる輝きの眼が、三条の心を震わせる。
――これは、不快過ぎる!!
彼女だけでなく、“望楼”の活動員の少女――名前は、シャロンと聞いている――にも同じものを感じた。
彼女たちを見る度に、三条の中で不快感が燃え上がった。
それは、彼女を覆う温もりにも現れる。
――この温もりは……気持ち悪い!!
“政市会”だった青年の堀川 一と“政声隊”――というよりは“S.P.A.E.R.”――
だった少女の秋津 澄香を通した“ヘルター・スケルター”の熱力には懐かしくも、欲していたものを、三条は感じていた。
しかし、今、彼女を覆うのは、生温かさ。
かつて、肌を重ねていた男からのそれだった。
――何で……私は……。
弁護士だった時に、その男と普通に出会った。
同じ事務所で、心を通じ合い、結婚もした。
しかし、二人の人生に致命的なことが起きた。
――何で、私の身体は……子供が――!?
男女が避妊なしの性生活を行う場合、9割が1年以内に妊娠する。
不妊とは、それに至らない状態を指す。
子宝を授かる予兆が無かったので、三条は夫と共に検査を受けた。
この時、彼女は30歳。
医師から三条への診断は、“着床障害”だった。
妊娠の成立は、主に三段階である。
精子と卵子が出会い受精卵となる第一段階目。
第二段階としては受精卵の細胞分裂で子宮へ移動する“分割・胚発育”を迎え、第三段階目の着床に至る。
しかし、三条の子宮は“着床”することが出来なかった。
着床障害については、治る場合もある。
母体のストレス、生活習慣に他の婦人科疾患も関係している場合があるからだ。
だが、先進医療として保険適用外――つまり、多大な費用が掛かった。
三条は子どもを得るために、治療に臨んだ。
当然、夫との性生活も続けた。
一般的には、女性は20代前半が出産適齢と言われている。
35歳を過ぎると、妊娠率は急激に低下する。
当然、不妊の判定も、避妊なしの性生活で半年以内となり、成功率も下がる。
しかし、二人が子どもを授かることは無かった。
ただ、二人の間で金が浪費され、時間が流れるだけだった。
夫婦の重ねた体温は、生理的嫌悪感となる。
弁護士と言う勝ち取った社会的地位と、結婚をした三条 千賀子。
しかし、女性という彼女を構成する要素で、子どもを作れないという致命的な矛盾を家族や周囲が見逃す筈もなかった。
夫婦としての性生活は、義務に変わった。
肌のぬくもりはおろか、同じ空間で空気を吸うことの嫌悪感も芽生えた。
地位と見栄と普通であることを良しとした両家庭の重圧も増えた。
なにより、三条の中で許せなかったものがあった。
――何で、周囲は女性を――。
出るところが出て、凹んでいるところが凹んでいる女性たち。
それを取り上げる情報媒体の数々。
創作はおろか、情報誌に受視機に電脳空間に流れる健康な女性らしさが、三条に圧し掛かった。
情報媒体に出る女性たちは、誰もが子どもを生めそうな健康な肉体に覆われている。
“ブライトン・ロック社”の“命熱波”使いと弁護士の二重生活を送っている彼女も、肉体は鍛えていた。
だが、子どもが生めない。
財政学によると、福祉国家は男女が子どもを作ることを想定しているという。
その為に、財政は使われるとも。
その一面から見れば、三条と彼女の伴侶は、普通とも言える国家の規範から外れていた。
三条の中で芽生えた劣等感が、周囲への反発の原動力となるのに時間は掛からなかった。
弁護士で護憲派という地位による、アニメ、漫画にゲームだけでなく、女性性を損なうという意図で性産業も攻撃した。
胸の大きい女の子の絵で献血を呼びかけるものにも、槍玉に挙げた。
しかし、医療行為に向けた彼女の批判は、良識者からの反発を招いた。
それで、収まるには彼女の秘められた攻撃性は、余りに獰猛過ぎた。
――憎い……憎い!!
“政声隊”の雑賀 多恵の夫との生活と、子宝を授かることを嬉しく話す度に、腹を裂きたかった。
奇しくも、“チキンブロウ”の発掘と共に、ロック=ハイロウズが“政声隊”と“政市会”関係者を平等に叩きのめしたおかげで、雑賀 多恵を前線に送り出せた。
振志田たち“ワールド・シェパード”社と“紅き外套の守護者”には、感謝しても仕切れないほどだ。
ついでに言うなら、彼女の獰猛な逆恨みは、秋津 澄香にもあった。
――“S.P.A.E.R.”の代表なのに――!!
漫画が好きなのは、しょうがない。
秋津の好き嫌いに、三条が無理に合わせようと思わなかった。
ただ、彼女は“政声隊”を辞めた。
それだけなら良い。
――何で、“政市会”のクソガキと一緒に!?
“白光事件”で生贄にされた双子の姉妹のいた場所で、浮かぶ二人の男女。
その二人の仲睦まじさが、三条の癪に障った
三条は、かつて同じ団体にいた少女が、青緑の光の中で衰弱する様子を見る。
彼女の眼に映る三条は、泣き笑いに似たものを浮かべていた。
「三条さん……聞いても良い?」
凛とした耳障りな声が、三条の中で響く。
顔は平静を保ちながら、下にいる河上 サキを見下ろした。
「あなたの“ヘルター・スケルター”の召喚の目的……それは何?」
サキの一言が、阿鼻叫喚に包まれる“祭壇”の中で覆われることなく聞こえた。
「……話しても理解できるかは、わかりませんが――」
「子どもでしょ?」
もう一人の少女の声が聞こえる。
薄桃色のトレーナーと同色の毛糸帽を被るシャロンという、“望楼”の少女だった。
「『どうしてそんなことを!!』と言いたい顔をしているね。あんな数字をいきなり出されたら、そうとしか思えないでしょ?」
自分の半分と満たない少女が肩を竦める。
彼女の眼の中で、三条は驚きのあまり、大きく目を見開き、顔色が失せていた。
「シャロン。つまり、三条はバカはバカでも……教科書が読めるだけのバカ……ということ?」
ロック=ハイロウズの双子の弟のサミュエルが、凍える湖面の瞳がピンクのパンツスーツの女の全身を捉えた。
それと同等の温度の散弾銃型の“命導巧”に掛かる大鎌の刃が月の砂を纏っている。
「……三条さん、それはあなたの子どもじゃない!! ただの“命熱波”よ!!」
サキの凛とした声と共に、“ブライトン・ロック”社と“ワールド・シェパード”社の共同開発した“命導巧”:“フェイス”の蒼白い刃の表面が、三条を映す。
「無駄だ。目の前にいる“破宴の乙女”は“白光事件”で、既に“ヘルター・スケルター”に乗っ取られていた……」
ため息を吐いたのは、“ソカル”という擬獣と“エクスキューズ”の一団を束ねる赤髪の男――“パトリキウス”だった。
彼の眼に映る三条の後ろに、純金の頭と銀の両肩の魔人が現れる。
「“パラノイド”の真名……“ライティングス・オン・ザ・ウォール”……だが、身体が!!」
“紅き外套の守護者”と言う二つ名を持つ、ロック=ハイロウズが見開いた眼で三条を見た。
彼女の守護者の魔人の全身が、青白く染まっていく。
その光の色は、巨大な扁桃頭の人型――“スターマン”から放たれているものと同じだった。
「さて、河上 サキさん……平和な国家とは……一体何でしょう?」
三条は自分でも意識していなかったが、笑顔を河上 サキに向けていた。
黒真珠の瞳と黒髪の少女は、質問の意味――あるいは意図――が分からないのか、窮する。
しかし、サキの鋭い視線が、三条の心の底を暴かんと突き刺さった。
「子どもを作れることです……子どもを産めて、子どもをすくすくと育てさせることができる!!」
三条の頭の中が“ドーパミン”で満ちていたのかわからない。
だが、歓喜と愉悦に崩れた顔が、ロック=ハイロウズと河上 サキの目に映る。
「“ヘルター・スケルター”が言うの……『生まれたい!』って、私の頭の中で囁き続けるの!!」
「三条、お前は“ヘルター・スケルター”に乗っ取られている……例え、全てを委ねても、子どもを作ることは出来ない!! 何より、お前の言った熱量を直に受けたらタダでは――」
「黙りなさい!! あなたたちは、父、兄弟姉妹、恋人や子どもでいられても……母親にはなれない!! 平和の女神“アイレーネー”になれない!!」
ブルース=バルトの声が聞こえなくなると、周囲の喧騒も三条の耳に届かなくなった。
ただ、神威や啓示という“言葉では語れない”と言えるものに、身も心も包まれていく。
自らの視界を支配する“青白い光”に向かって、三条は声高に叫んだ。
「さあ、“ヘルター・スケルター”!! 戦争を齎す二頭の牛を贄に、私に宿り平和たる一歩をこの大地に刻むために、生まれなさい!!」
“祭壇”と言われる場所で浮いている自分の姿を、この場にいる者たちの眼が映し出す。
彼女に向けられる視線は、様々だった。
驚愕と困惑は、“政市会”と“政声隊”――それぞれの構成員たち。
青白い光と青緑の光に覆われ、機械の大地の上で苦しんでいる。
畏怖を込めた視線は、着流しを纏う好々爺から。
三条は、極右団体“大和保存会”の一員の菅原 辰雄というのは聞いていた。
彼の抱く憧憬は、彼女の存在と言うよりは、その背後で見え隠れしている“スターマン”――厳密に言うと、その中にいる“ヘルター・スケルター”――に首ったけに見える。
ただ、彼の隣にいる胴田貫 剛介は、“スターマン”から醸し出される幽玄とも言える空気の中に潜むものに恐怖していた。
同じような視線を“政市会”の代表の尾咲 一郎も向けている。
ただ、老獪よりも若いからか、顔と声が恐怖を隠しきれていない。
敵対する“政声隊”の山土師 靖は鍔なし帽子を、“スターマン”の出現の威圧感に飛ばされない様に、右手で抑えている。
顔には恐怖があるが、好奇心が働き眼を剥き出しにして見入っていた。
彼らから伺える、異質な存在に対する反応としては、恐怖――あるいは畏怖――が主に垣間見える。
他方で、“スターマン”から溢れる力を狙う視線もあった。
象牙眼の鍛冶 美幸――というよりは、“ホステル”の“サロメ”――と彼女を護る様に立つ、ポンチョの男――“コロンバ”――と赤いマントと杖を持つ男――“ケンティガン”という二名。
まるで、死肉を狙う禿鷹を思わせる狡猾さが見えた。
そして、どちらでもない視線もあった。
ただ、三条 千賀子を見据える強い意志の視線。
背後の存在にも屈しないと無言で訴えるのは、“紅き外套の守護者”と言う二つ名を持つ青年――ロック=ハイロウズを中心とした少年達。
彼らの不屈とも言える姿勢は――不思議なことだが――三条の中で嫌悪感は皆無だった。
極端な話だが、同じ志を持っていた筈の“電脳左翼”よりも感銘を覚えている。
しかし、それ故に、彼女が目を逸らすほど眩しいものも感じていた。
――河上 サキ……。
蒼白い刃の“命導巧”を持つ、空色のキャミソールを纏う少女。
彼女の黒真珠を思わせる輝きの眼が、三条の心を震わせる。
――これは、不快過ぎる!!
彼女だけでなく、“望楼”の活動員の少女――名前は、シャロンと聞いている――にも同じものを感じた。
彼女たちを見る度に、三条の中で不快感が燃え上がった。
それは、彼女を覆う温もりにも現れる。
――この温もりは……気持ち悪い!!
“政市会”だった青年の堀川 一と“政声隊”――というよりは“S.P.A.E.R.”――
だった少女の秋津 澄香を通した“ヘルター・スケルター”の熱力には懐かしくも、欲していたものを、三条は感じていた。
しかし、今、彼女を覆うのは、生温かさ。
かつて、肌を重ねていた男からのそれだった。
――何で……私は……。
弁護士だった時に、その男と普通に出会った。
同じ事務所で、心を通じ合い、結婚もした。
しかし、二人の人生に致命的なことが起きた。
――何で、私の身体は……子供が――!?
男女が避妊なしの性生活を行う場合、9割が1年以内に妊娠する。
不妊とは、それに至らない状態を指す。
子宝を授かる予兆が無かったので、三条は夫と共に検査を受けた。
この時、彼女は30歳。
医師から三条への診断は、“着床障害”だった。
妊娠の成立は、主に三段階である。
精子と卵子が出会い受精卵となる第一段階目。
第二段階としては受精卵の細胞分裂で子宮へ移動する“分割・胚発育”を迎え、第三段階目の着床に至る。
しかし、三条の子宮は“着床”することが出来なかった。
着床障害については、治る場合もある。
母体のストレス、生活習慣に他の婦人科疾患も関係している場合があるからだ。
だが、先進医療として保険適用外――つまり、多大な費用が掛かった。
三条は子どもを得るために、治療に臨んだ。
当然、夫との性生活も続けた。
一般的には、女性は20代前半が出産適齢と言われている。
35歳を過ぎると、妊娠率は急激に低下する。
当然、不妊の判定も、避妊なしの性生活で半年以内となり、成功率も下がる。
しかし、二人が子どもを授かることは無かった。
ただ、二人の間で金が浪費され、時間が流れるだけだった。
夫婦の重ねた体温は、生理的嫌悪感となる。
弁護士と言う勝ち取った社会的地位と、結婚をした三条 千賀子。
しかし、女性という彼女を構成する要素で、子どもを作れないという致命的な矛盾を家族や周囲が見逃す筈もなかった。
夫婦としての性生活は、義務に変わった。
肌のぬくもりはおろか、同じ空間で空気を吸うことの嫌悪感も芽生えた。
地位と見栄と普通であることを良しとした両家庭の重圧も増えた。
なにより、三条の中で許せなかったものがあった。
――何で、周囲は女性を――。
出るところが出て、凹んでいるところが凹んでいる女性たち。
それを取り上げる情報媒体の数々。
創作はおろか、情報誌に受視機に電脳空間に流れる健康な女性らしさが、三条に圧し掛かった。
情報媒体に出る女性たちは、誰もが子どもを生めそうな健康な肉体に覆われている。
“ブライトン・ロック社”の“命熱波”使いと弁護士の二重生活を送っている彼女も、肉体は鍛えていた。
だが、子どもが生めない。
財政学によると、福祉国家は男女が子どもを作ることを想定しているという。
その為に、財政は使われるとも。
その一面から見れば、三条と彼女の伴侶は、普通とも言える国家の規範から外れていた。
三条の中で芽生えた劣等感が、周囲への反発の原動力となるのに時間は掛からなかった。
弁護士で護憲派という地位による、アニメ、漫画にゲームだけでなく、女性性を損なうという意図で性産業も攻撃した。
胸の大きい女の子の絵で献血を呼びかけるものにも、槍玉に挙げた。
しかし、医療行為に向けた彼女の批判は、良識者からの反発を招いた。
それで、収まるには彼女の秘められた攻撃性は、余りに獰猛過ぎた。
――憎い……憎い!!
“政声隊”の雑賀 多恵の夫との生活と、子宝を授かることを嬉しく話す度に、腹を裂きたかった。
奇しくも、“チキンブロウ”の発掘と共に、ロック=ハイロウズが“政声隊”と“政市会”関係者を平等に叩きのめしたおかげで、雑賀 多恵を前線に送り出せた。
振志田たち“ワールド・シェパード”社と“紅き外套の守護者”には、感謝しても仕切れないほどだ。
ついでに言うなら、彼女の獰猛な逆恨みは、秋津 澄香にもあった。
――“S.P.A.E.R.”の代表なのに――!!
漫画が好きなのは、しょうがない。
秋津の好き嫌いに、三条が無理に合わせようと思わなかった。
ただ、彼女は“政声隊”を辞めた。
それだけなら良い。
――何で、“政市会”のクソガキと一緒に!?
“白光事件”で生贄にされた双子の姉妹のいた場所で、浮かぶ二人の男女。
その二人の仲睦まじさが、三条の癪に障った
三条は、かつて同じ団体にいた少女が、青緑の光の中で衰弱する様子を見る。
彼女の眼に映る三条は、泣き笑いに似たものを浮かべていた。
「三条さん……聞いても良い?」
凛とした耳障りな声が、三条の中で響く。
顔は平静を保ちながら、下にいる河上 サキを見下ろした。
「あなたの“ヘルター・スケルター”の召喚の目的……それは何?」
サキの一言が、阿鼻叫喚に包まれる“祭壇”の中で覆われることなく聞こえた。
「……話しても理解できるかは、わかりませんが――」
「子どもでしょ?」
もう一人の少女の声が聞こえる。
薄桃色のトレーナーと同色の毛糸帽を被るシャロンという、“望楼”の少女だった。
「『どうしてそんなことを!!』と言いたい顔をしているね。あんな数字をいきなり出されたら、そうとしか思えないでしょ?」
自分の半分と満たない少女が肩を竦める。
彼女の眼の中で、三条は驚きのあまり、大きく目を見開き、顔色が失せていた。
「シャロン。つまり、三条はバカはバカでも……教科書が読めるだけのバカ……ということ?」
ロック=ハイロウズの双子の弟のサミュエルが、凍える湖面の瞳がピンクのパンツスーツの女の全身を捉えた。
それと同等の温度の散弾銃型の“命導巧”に掛かる大鎌の刃が月の砂を纏っている。
「……三条さん、それはあなたの子どもじゃない!! ただの“命熱波”よ!!」
サキの凛とした声と共に、“ブライトン・ロック”社と“ワールド・シェパード”社の共同開発した“命導巧”:“フェイス”の蒼白い刃の表面が、三条を映す。
「無駄だ。目の前にいる“破宴の乙女”は“白光事件”で、既に“ヘルター・スケルター”に乗っ取られていた……」
ため息を吐いたのは、“ソカル”という擬獣と“エクスキューズ”の一団を束ねる赤髪の男――“パトリキウス”だった。
彼の眼に映る三条の後ろに、純金の頭と銀の両肩の魔人が現れる。
「“パラノイド”の真名……“ライティングス・オン・ザ・ウォール”……だが、身体が!!」
“紅き外套の守護者”と言う二つ名を持つ、ロック=ハイロウズが見開いた眼で三条を見た。
彼女の守護者の魔人の全身が、青白く染まっていく。
その光の色は、巨大な扁桃頭の人型――“スターマン”から放たれているものと同じだった。
「さて、河上 サキさん……平和な国家とは……一体何でしょう?」
三条は自分でも意識していなかったが、笑顔を河上 サキに向けていた。
黒真珠の瞳と黒髪の少女は、質問の意味――あるいは意図――が分からないのか、窮する。
しかし、サキの鋭い視線が、三条の心の底を暴かんと突き刺さった。
「子どもを作れることです……子どもを産めて、子どもをすくすくと育てさせることができる!!」
三条の頭の中が“ドーパミン”で満ちていたのかわからない。
だが、歓喜と愉悦に崩れた顔が、ロック=ハイロウズと河上 サキの目に映る。
「“ヘルター・スケルター”が言うの……『生まれたい!』って、私の頭の中で囁き続けるの!!」
「三条、お前は“ヘルター・スケルター”に乗っ取られている……例え、全てを委ねても、子どもを作ることは出来ない!! 何より、お前の言った熱量を直に受けたらタダでは――」
「黙りなさい!! あなたたちは、父、兄弟姉妹、恋人や子どもでいられても……母親にはなれない!! 平和の女神“アイレーネー”になれない!!」
ブルース=バルトの声が聞こえなくなると、周囲の喧騒も三条の耳に届かなくなった。
ただ、神威や啓示という“言葉では語れない”と言えるものに、身も心も包まれていく。
自らの視界を支配する“青白い光”に向かって、三条は声高に叫んだ。
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