【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイドー紅黒の翼ー

アイセル

文字の大きさ
233 / 257
第十章 Pedal to the Metal

祭禍―①―

しおりを挟む
                   ”私は世界を終末へと導く強大な時間である。
                     今や諸世界を破壊することに着手した。
                    たとえ君がいなくても、
             敵軍に配置されている戦士たちは全員存在しなくなるであろう”

            バガヴァット・ギーター 11章32節(同詳解 藤田 晃版より)

4月15日 午後8時6分 是音台高等科学研究所 地下施設 “祭壇”


 ロックの目の前で激昂する三条 千賀子の身体が、青白い光に包まれた。

 三条の石碑型“命導巧ウェイル・ベオ”:“パラノイド”が、青白い炎に覆われた純金の頭と銀の双肩の魔人の腹に埋め込まれる。

 三条の背後に佇む巨大“ウィッカー・マン”――“スターマン”の扁桃の首が動いた。

 黒い扁桃の双眸で“祭壇”のアーチ型の天蓋から、地表を見回す。

 “スターマン”の眼が、紅い外套コートと翼剣を持つロックヲ捉えた。

「あれが……“アイレーン”?」

 凛としているが辛うじて絞り出したことが伺える、サキの声色。

「同時に“天之御中主神アメノミナカヌシノカミ”だ……」

 ロックも内から来る震えと共に、吐き捨てた。

 青白い後光に覆われた、“政声隊”側と“政市会”側のそれぞれの“へルター・スケルター”の別名。

 それらに魅入られた者達から得た光で、“祭壇”を食い尽くさん勢いで巨人が輝く。

 ロックの中で思い浮かんだ言葉が一つあった。

 

 人の命を種火に、死の世界を雅に灯す。

 禍々しい輝きを放っていた。

「でも……こんなの、も無いね!!」

「スミちゃん……」

 弟のサミュエルが、強く握りしめた散弾銃型“命導巧ウェイル・ベオ”:“パラダイス”に付いた大鎌を起立させる。

 シャロンの眼に映るのは、“へルター・スケルター”復活の為に利用された、少女――秋津 澄香だった。

 円形の“祭壇”の中心にいる三条を挟むように、男子の堀川 一と共に不可視の力で向かい合わせに括りつけられている。

 “”という刻まれた文字の下で、生贄として青白い炎に包まれる様に今すぐ駆け出したい衝動を、シャロンは抑えきれない。

「確実に言えるのは……こいつ、“”じゃねぇよ……」

「ああ、これでは……だ……」

 橙の前髪とお揃いのパーカーを着た一平が、引きつった。

 龍之助も眼鏡の中の鋭い眼の中に徐々に輪郭を現した“へルター・スケルター”を収め、立ち尽くす。

 矛槍型“命導巧ウェイル・ベオ”:“セオリー・オブ・ア・デッドマン”を握る力が、目の前の存在で抜けそうになるのを、龍之助が耐えているようだった。

「それは……、正解だ」

 苔色の外套コートの青年――ブルースが翠眼で、“スターマン”を睥睨する。

「ブルース、どういうことだ?」

 龍之助が首を傾げると、

「ギリシャ神話の“平和の女神”の“アイレーン”自体、死んだ魂を鳩にして迎え入れるという話がある。また、“天之御中主神アメノミナカヌシノカミ”、は別名を“妙見みょうけん”と言って北極星を司り、これも人の運命――つまり、

 ブルースの言葉に、龍之助が眼を見開く。

 一平が息を吞む音も聞こえた。

「ついでに言うなら……ローマ神話の最高神でローマ帝国建国の祖の王である“ロムルス”が死んだ後の神の“クィリヌス”もで、別の側面はの“マルス”
 とも言われている」

「つまり、“政市会”も“政声隊”も……“、“ってこと!?」

 サミュエルがブルースの講釈を、で締めた。

「そして、に、現時点での問題は……その“死神へルター・スケルター”に!!」

 ロックは翼剣型“命導巧ウェイル・ベオ”:“ブラック・クイーン”を逆手に構えた。

 巨大“ウィッカー・マン”:“スターマン”に宿る“死神へルター・スケルター”の青白い炎の勢いは、留まることを知らない。

 巨人は首だけでなく、両手も動かし始める。

 それに呼応するように、青白い業火の餌食が増えていった。

 “祭壇”へ続く道にひしめく、ロック達を捕えんとした“政市会”と“政声隊”の構成員たちの列は、階段まで続く。

 ただし、彼らの何れもがに魂を奪われていた。

「徐々に、動き出している……つまり、熱力エネルギーを得始めているな」

 ロックの背後で、“パトリキウス”が見据える。

「住民たちの意識の中にいる“へルター・スケルター”も、こちらに集い始めている……復活すれば、上万作あまんさく症候群の当事者たちは寛解する」

 冷徹だが、どこか満足な響きで観察する元“七聖人”の赤毛の男――“パトリキウス”。

 ロックは彼を睥睨する。

 その視線に気づいたのか、

「だが、その前に――」

 炎を思わせる赤毛の残像が揺れる。

「おっと……これは一体――」

 肉迫する“パトリキウス”の振りかざす大鉄槌を、銀鏡の玉の“命導巧ウェイル・ベオ”で防ぐポンチョの男――“コロンバ”。

からな……!!」

「おいおい……とか、……無いの?」

 “パトリキウス”の燃え滾る赤毛を映す、“コロンバ”が“仮面舞踏会マスカレード”の“笑み”で“七聖人”のを強調した。

 しかし、“パトリキウス”が言葉なくを放つ。

かよ!!」

 “コロンバ”が後退すると、彼の顎を狙って跳ね上がった大鉄槌が空を切った。

「確認するが……“へルター・スケルター”は“命熱波アナーシュト・ベハ”だったな……ブルース?」

 “七聖人”同士の戦いの傍らで放たれた龍之助の言葉に、ブルースが曖昧に頷くと、

「わかった……、下がれ!!」

 龍之助が三条と“へルター・スケルター”の宿った“ウィッカー・マン”の元へ走り出した。

 ロックは彼の横顔の右側――特に、右眼から放たれる蒼い輝きを見る。

「まさか……“愛されし者の右眼ザ・アイ・オブ・ザ・ビラブド”か!?」

 ブルースが叫んだ。

「今一番強い“命熱波アナーシュト・ベハ”に反応するなら、アイツしかいない!!」

 矛槍型“命導巧ウェイル・ベオ”を右手に持つ龍之助の眼に、少しの揺らぎもなかった。

「龍之助……三条の貰っている熱力エネルギーですら、なんだぞ!? 生身で済むはずが――」

 ブルースの抗議に、背中を向ける龍之助。

 矛槍型“命導巧ウェイル・ベオ”を右手に、蒼い輝きが龍之助から出てくると、ブルースが、

「よし……龍之助を護――!?」

 ロックの前に、赤いマントの突風が吹く。

 颶風は、苔色の外套コートの前に、止まった。

「“ケンティガン”!!」

「ブルース=バルト……立ちはだかるか!!」

 禿頭の戦士の突き出した杖を、ブルースの交差させた二振りのショーテル型“命導巧ウェイル・ベオ”が止めた。

「サミュエル、シャロン、“ライト”、“バイス”!! お前らは、三条の方を止めてくれ!!」

 ロックに言われた四名が駆ける。

 空中に浮いていた三条と石碑を埋め込んだ魔人の二人が、機械の大地に下りた。

 サミュエルの散弾銃型“命導巧ウェイル・ベオ”:“パラダイス”の鎌を覆う黄金の風が、三条の頭を狙う。

 三条の前を覆う様に、魔人が躍り出た。

 ブルースの眼前の“ケンティガン”の背中に向けて、順手にした翼剣:“ブラック・クイーン”を振う。

 ロックの振るった翼剣は、空を切る。

 彼と眼を合わせたブルースの翠眼に映るロックの背後に、瞋怒を刻んだ男が降り立った。

「ロック、!!」

 サキの声に言われるまま、右脚を蹴って左へ移動する。

 蒼白い指向性熱力エネルギーの鏃が三発、ロックのいた場所を駆け抜けた。

 サキの“命導巧ウェイル・ベオ”:“フェイス”から放たれた攻撃が、赤マントと杖の男の前で、爆散する。

「……“プロジェクト”:“信念フェイス”。既存の“命導巧ウェイル・ベオ”を作り変えるとはな」

 “ケンティガン”の瞋怒の刻まれた顔の奥の眼が、輝く。

「……“ラハブ”と“アンチ”リリスの“命熱波アナーシュト・ベハ”を持つ娘に、“蔵書子の天使エンジェル・イン・アーカイヴ”の“風の担い手”……、これは!!」

 歓喜に満ちた“ケンティガン”の戦叫と共に、マントが舞い上がる。

 マントから垣間見える銀色の甲冑が、ロック、サキとブルースを映した。

 そして、その背後の一平も映すと、

「よし……俺も――!?」

 親友が“へルター・スケルター”を眼に植え込まれた“命導巧ウェイル・ベオ”で止めようとする姿に一平も奮起する。

 “命導巧ウェイル・ベオ”:“ライオンハート”を構えるが、“へルター・スケルター”の宿る“スターマン”の眼を見て呆然とした。

 “スターマン”の左右に吊り上がった扁桃の双眼。

 それらに映る

 動く炎の群れの正体は、“政市会”と“政声隊”の構成員。

 眼から生気は無く、、彼らがこちらに向かう。

 団体の違いに関係なく、機械の大地を叩き、靴を引きずる音がロック達を包み込んだ。

 ロックは、真っ青になった一平を見て、一言吐き捨てる。

「全く……これが、“”ってヤツかよ!?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

ネクスト・ステージ~チートなニートが迷宮探索。スキル【ドロップ★5】は、武器防具が装備不可!?

武蔵野純平
ファンタジー
現代ファンタジー(ローファンタジー)です。ニート主人公のスキルは【ドロップ★5】――ドロップ確率が大幅上昇し、ドロップアイテムの品質も大幅上昇するチートスキルだった。だが、剣や盾などの装備品が装備出来ない欠陥があり、攻撃力、防御力に問題を残す。 ダンジョン探索をする為に冒険者となりパーティーメンバーを募集するが、なぜか【ワケあり】女性ばかり集まってくる。

ルピナス

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の藍沢直人は後輩の宮原彩花と一緒に、学校の寮の2人部屋で暮らしている。彩花にとって直人は不良達から救ってくれた大好きな先輩。しかし、直人にとって彩花は不良達から救ったことを機に一緒に住んでいる後輩の女の子。直人が一定の距離を保とうとすることに耐えられなくなった彩花は、ある日の夜、手錠を使って直人を束縛しようとする。  そして、直人のクラスメイトである吉岡渚からの告白をきっかけに直人、彩花、渚の恋物語が激しく動き始める。  物語の鍵は、人の心とルピナスの花。たくさんの人達の気持ちが温かく、甘く、そして切なく交錯する青春ラブストーリーシリーズ。 ※特別編-入れ替わりの夏-は『ハナノカオリ』のキャラクターが登場しています。  ※1日3話ずつ更新する予定です。

処理中です...