【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイドー紅黒の翼ー

アイセル

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第一章 Grassroots

草の根―⑧―

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 警察と”ワールド・シェパード”社から逃げたロックは、駅前百貨店の支店の向かいにある路地に逃げ込んだ。

 銀行の駐車場とコンビニエンスストアの間の路地は、昼下がり時は影が入り込む。

 影に覆われた路地から、ロックは騒々しくなった駅前から離れようとした。

 冷たい空気をロックは感じ取る。

 彼の右頬に突きつけられた白刃が、獲物を捉える蛇の眼光を思わせた。

『動くな』

 機械加工された冷たい声から、老若男女の判断が付かない。

 “ワールド・シェパード”社と警察の監視の行き渡った広場を前に、陰に囲まれるビル街。

 陰に染まる路地の刃が夕陽を反射して、ロックの頬を照らす。

「その刀、“命導巧ウェイル・ベオ”……“モーニング・グローリー”か……」

『……動じないか?』

 ロックは、逆時計回りに左拳槌を放つ。

“モーニング・グローリー”を持つ襲撃者が、ロックの拳槌から逃れるために、一人分の間合いを取る。

 ロックは、その間合いを詰める。

 両腕で頭を守り、突き出た両肘による体当たりで踏み込んだ。

 深紅色の突進が、襲撃者の鎖骨に命中する。

 衝撃に揺れる襲撃者に、

「仮装パーティにはだ……それ寄越したら、パーティに行かせてやるが――」

 ロックの言葉に、答える素振りを見せない襲撃者。

 それどころか、暗がりから向けるロックへの鋭い眼光が揺るがない。

ってのは、よくわかった!!」

 ロックは、腰の革帯ベルト束に括りつけた鞄から、“ブラック・クイーン”をすかさず取り出す。

微細機械ナノマシン”:“リア・ファイル”を起動させ、鍔から刀身が生えた。

 ロックは、右の順手からの斬撃を放つ。

 襲撃者が右の逆手に“モーニング・グローリー”を持ち替えた。

 斬撃を防がれたロックは狼狽しながら、襲撃者の突き出した刀からの斥力に阻まれる。

 ロックも“ブラック・クイーン”を逆手に、腰の背後に構えた。

 襲撃者もロックを見据えて、右足を出して腰を低くする。

 刀身が正中線と地面が垂直になるように据え置いた。

 ――“正眼の構え”か……?

 攻守に優れた平均的な、剣術の構えとは聞いている。

 しかし、ロックは剣から放たれる空気から、一般的な評価以上の実力を感じていた。

 難攻不落にして、一撃必殺がいつでも繰り出せる

 ビル間の影に目が慣れ始め、襲撃者の姿が浮かぶ。

 ピンクと白色の鋼鉄に覆われている全身。

 無骨に組み合わされたわけではない。

 体型に合わせているからか、材質に関わらず軽量な印象が伺えた。

 何より目を引いたのは頭部だ。

 円形の鍔帽子が、一輪の花を思わせる。

『先ほどの身のこなし……だな』

 花鎧の人型機械がくぐもった声で、腰の鞘に刀を収める。

 居合の構えで、ロックを見据えると、

覚えはないが……まあ!!」

 ロックは、花型の機械鎧の抜刀を潰すために右膝蹴りを繰り出す。

 花鎧は居合の構えのまま、後退した。

 ロックは勢いを維持し、右手の“ブラック・クイーン”を突き出す。

 幅広の刀身が大きく揺れると、ロックは舌打ちをしながら後退。

 花鎧が上段の構えからの斬撃で、ロックに追撃を仕掛ける。

 ロックは、花鎧に向けて突進した。

 花鎧の一振りが、ロックの頭部に牙を剥いた。

 しかし、花鎧の兜。

 その隙間から覗く黒い瞳から、姿

“ブラック・クイーン”を構えた右手を、

 鍔から伸びる“籠付護拳バスケットヒルト”の一撃が、花鎧の兜の顎を掠る。

 花鎧は辛うじて避けるが、拳打の衝撃が花鎧の全身を顎から揺らした。

駆け抜ける疾風ギェーム・ルー”。

 神経強化を行うことで、常人以上の速さを得る“疑似物理現象”である。

 ロックは花鎧を上回る速さで、距離を縮めた。
 
“ブラック・クイーン”の籠状護拳バスケットヒルトから柄が伸び、左手で握る。

“怒りの親父の一撃”。

 西洋剣術――ドイツの方面――で言う順手による、上段からの斬撃である。

 花鎧は寸前でかわし、ロックとの間合いを一歩分の距離を稼いだ。

 しかし、火花が血飛沫のごとく花鎧からあふれる。

 くぐもった声を出しながら、花鎧が衝撃で仰け反った身体を立て直した。

 しかし、ロックは右の逆手に持った“ブラック・クイーン”で、花鎧の左ももから右肩に斬り上げる。

 軌道に沿って火花が走り、花鎧の胴にたすきに掛けた斬撃が刻まれた。

 斬撃で足を止めた花鎧に、ロックは跳躍。

 時計回りに、花鎧の右首筋へ左回し蹴りを見舞った。

 ロックの鎌首をもたげた左回し蹴りを、花鎧が右首筋で受け止める。

 ダメージを受けながら、花鎧の右手は“モーニング・グローリー”を手にしていた。

 打ち刀の形をした“命導巧ウェイル・ベオ”を、花鎧は鞘に収める。

 凍える剣気。

 ロックは花鎧からの、殺意の冷気を感じて一歩下がった。

 花鎧が“モーニング・グローリー”を抜刀。

 抜かれた剣が天を衝く。

 刹那、斬撃の軌道に沿った光の刃がロックへ放たれた。

 ――“モーニング・グローリー”を使だと!?

露の光ソラス・アン・ドルフト”。

“疑似物理現象”で、光を収束させた斬撃である。

微細機械ナノマシン”:“リア・ファイル”に溜めた“熱力エネルギー”を光に変換。

 “モーニング・グローリー”を振ることで、光の斬閃を敵に向けて飛ばす技だ。

 一撃目の光の斬撃をロックは逆手にして受け止める。

 慣性の力を感じつつ、ロックはそれを右側に薙ぎ払った。

 だが、花鎧は二撃目の体勢に入る。
 
 二撃目は縦波。

 ロックは右側に避ける。

 しかし、光の翼を担った花鎧が立ちふさがった。

 彼の右手の刀は、順手。

 光を担う剣が、ロックの左肩を狙う。

 ロックは逆手で持った“ブラック・クイーン”で、左肩を守った。

 双方の斬撃の衝撃が衝突。

 一帯に突風を巻き起こした。

 “頂砕く一振りクルーン・セーイディーフ”。

 リア・ファイルで構成された刃の電子配列を変えて、強靭な刃にする“疑似物理現象”。

 ロックは花鎧の強化された“モーニング・グローリー”の一撃を、強化した刃の強度の衝撃波を盾にして防いだ。

 衝撃波による突風に揺れる花鎧。

 彼が体勢を立て直そうとするところに、ロックはブラック・クイーンで追撃しようとした。

『“賢人計画”』

 花鎧の戦士から出た言葉に、ロックは足を止めた。

『または、“プロジェクト:アイオナ”と言った方が良いか?』

「テメェ……どこでその言葉を……?」

 思いもしなかった言葉にロックは、花鎧の戦士を注視する。

「それに、その“命導巧ウェイル・ベオ”を何故テメェが使える!?」

 ロックの知る限り、“モーニング・グローリー”を使える者は

 同時に起動方法もない。

 質問に答えず、

『“ワイルド・ハント”事件は、計画の一つに過ぎない。この上万作あまんさくを舞台にした“白光事件”もな……』

「何だと……お前は?」

 ロックの顔の戸惑いの色が、鉄でできた花鎧の兜の鏡面越しに露わになる。

『俺のことは“花葬”と呼べ』

 “花葬”という花鎧の戦士が一歩下がり、

『そして、お前は、全てを繋げる“失われた環”の、完全なる欠片にして、歯車だ』

 ロックは詰問しようとするが、花葬の足元の土瀝青アスファルトが爆散。

 花鎧が、十メートルほど翔んだ。

 脚部装甲に、跳躍装置が入っていたのだろうか。

 ビルの壁を蹴りながら、ロックから遠ざかっていく。

「何だってんだよ……」

 喧騒と夕焼けに照らされたビル陰が、ロックを覆う。

 彼の戸惑いの声も、黄昏に消えて行った。
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