【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイドー紅黒の翼ー

アイセル

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第二章 Ambush

混迷―⑩―

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午後1時36分

「……もう死んでいい?」

 一平がロックの右隣で、唐突に呟く。

「一平……大丈夫だよ……たぶん」

 後ろにいるサキが一平に言う。

 口調のぎこちなさと不安にさせる最後の一言に一平は、

「なあ……ロック、お前の家……一日泊まっても大丈夫?」

「なんでそうなる……」

 色々考えていたことの一つに一平の提案が入り、ロックは眩暈を覚える。

 頭を抱えているロックと目が合うと、

「姉貴に殺される……もう盛大に殺される……」

 先ほどの大立ち回りを見せた男には、背中を任せられるとロックは思った。

 しかし、今の雰囲気は――例えるなら――猫の兄弟の末っ子が、年上の兄弟姉妹の玩具か寝床を壊し、それがバレないか戦々恐々としている様に見える。

 そんなギャップに愛着を覚えないロックは、サキ、一平と一緒に学校からの帰り道を歩いていた。

 平日ではあるものの、彼らの早い帰路は、無論、朝の大乱闘が原因である。

 ロックの正体の情報が洩れ、“政市会”と“政声隊”という二団体が押し掛けることになった。

 しかも、その団体の中にも、それぞれ上万作あまんさく学園の生徒も含まれていたのが良くない。

 高校生で保障されている政治活動の自由から、明らかに逸脱していた。

 加害者でもあり被害者。

 “ワールド・シェパード社”と警察、上万作あまんさく学園が共同で、乱闘騒ぎの責任追及と生徒の心のケアに当たっている。

 加えて“UNTOLD”を使った騒ぎでもある。

 しかも、流血沙汰を白昼堂々に展開されたため、生徒の心に負った衝撃は余りに大きかった。

心身の不良を起こすものが――ロックとサキの激突を止めた和泉守 杏菜が危惧したように――出てきて、授業は困難。

 後日、生徒たちにスクールカウンセラーを設ける形にして、上万作あまんさく学園の上層部の決定で今日は休校という形となった。

「俺たち……1週間、停学だってさ?」

 ロックを中心に始まり、一平も加担したためである。

 ついでに言うと、サキも、その乱闘騒ぎの中心と言えるロックと立ち回りをして同罪だ。

「というか、私……何かが起きるたびに人に叱られているんだけと……」

 ロックの後ろで、サキはため息混じりに呟く。

「お前……からだけどな?」

 ロックは、“バンクーバー・コネクション”でその黒幕を捕まえたサキを思い出す。

「何それ、炎上案件?」

「いや、あの時は、“ウィッカー・マン”が、ナオトさんと共に護衛をしていたという理由だけどね」

 一平が食いつき、サキが説明する。

 その説明で、一平は合点がいったようだ。

「あくまで、……そして、“ウィッカー・マン”にぶっ放すものを?」

 ため息とともに吐き出すと、疲労感が出てきた。

「それどころか、サキが今日は命導巧ウェイル・ベオを持ち出せて、俺の乱闘がダメというのがどことなく腹立つ」

 一応、サキも停学と言われれば停学だが、少し違う。

 命導巧ウェイル・ベオの持ち出しも、騒動の中心のロック――加えて一平――を止めたということで、むしろ心身のケアを優先させる方のそれだった。

「それについては、先生が“ワールド・シェパード社”の社員から預かっていて、ブルースからは『ロックはタフで出来ているから、ぶっ放せ!!』と言われたから……」

「だからと言って、プロジェクトの肝いり作品である“ウィッカー・マン”用の武器を俺に放つなよ……サキ。百歩譲って持ち歩いても良いが、ほんの少しだけでも違和感に仕事させろよ……」

 ロックは眩暈を覚え、味方と言える大人たちの良識を疑った。

 考えれば考えるほど、彼らのそれが確実に人類一般共通と逸れているという帰納法的な事実しかない

 そんな彼の隣で大笑いする一平。

「お前ら……すげえ面白えな!!」

 腹を抱えてロックとサキを交互に見ると、

「姉貴のこと言っていたけど……大丈夫なのか……?」

 ロックの呆れた口調に、

「頼む……思い出させないで?」

「一平ったら……確かに大乱闘したけど、大勢で痛めつけたわけじゃないから、しっかりしなよ? リンカさん、むしろ……“政市会”と“政声隊”の様な団体に立ち向かったから、軽く済むよ」

「サキ、だよな……そうだよな!!」

 曇っていた一平の顔に晴れ間が訪れる。

 何故か、向かい合ってサキの両手を一平の両手が覆い、真摯に祈っている様だった。

 しかし、

「それより、ロック……顔が険しいよ?」

「というか、何か食い物にでも当たった様な顔をしているぜ?」

 ロックは青いというよりは、血の気が引いた顔になっているのが、彼らの眼に映る。

「いや……姉とリンカ……苗字は、サイトウなんだろうな……と思ったが……」

 ロックは内臓どころか呼吸器全体が締め付けられた感覚で、絞りながら言うと、

「まあ……斎藤に生まれたらそうだろうな……」

「腹違いや種違いで、苗字が違う場合もあるよね?」

 一平とサキが、怪訝な表情を浮かべるが、

「まあ……そうだよな」

「どうしたの?」

 サキが問うと、

「端的に言うと……で、

 ロックは振り絞って言うが、吐き出した隙間に恐怖が入ったように思った。

「随分とピンポイントだね……ロック?」

 サキの言葉に、ロックは頷いた。

 言葉にできない悪夢に、寒気と吐き気を催し、

「わかるぜ……その感覚!」

 一平の一言ともに、ロックの右肩に手が置かれた。

「そういうのって、同じ苗字でもビビるよな……わかるよ。斎藤の俺が言う一言でもないけど……」

「いや、斎藤全てじゃないが……お前の様な奴がいてくれるだけでも安心しているから、気にするな」

 ロックは一平に謝辞を入れつつ、

「斎藤というのは、日本だったら何処にでもある苗字だよな……まあ、リンカというのも別人だろう……」

 ロックは強制的に納得することにした。

 サキの呆れた、ロックと一平に注がれる視線を感じつつだが。

「悪い、俺はここから別だ」

 歩いていて、右手にガソリンスタンドと公園の並ぶ通りで、ロックは切り出す。

 サキは納得したが、

「なあ、ロック……“リーネア”繋がね?」

 一平の提案に面食らう。

「……別に構わないが?」

 ロックは携帯通信端末スマートフォンを取り出す。

 “リーネア”は会話やメッセージを送れる、素子アプリだ。

「そうだ、私、グループ入っているから、アカリとキョウコにも一言入れて、ロックも入れよう!」

 ロックはサキに同意しつつ、携帯通信端末スマートフォンに浮かべた素子アプリの招待用の二次元コードを一平に見せる。

 ロックと一平、相互が繋がったことを完了したことを確認した。

 そして、サキと一平をロックは見送った。

※※※

「随分な趣味をお持ちの様だな、“花葬”」

 ロックがサキと一平と別れてから、数分して声を出した。

 姿は見えないが、をロックは捉える。

 姿は見えない。

ただ、剣気や殺意というものに、ロックは囲まれていることを確認した。

昼の公園では木陰で昼食を取り、昼寝に興じる人の姿があった。

ロックはその中で大きな木の手前のベンチを陣取る。

『そういうお前は、友達を作るのが上手いようだな……』

 声はするが姿はない。

 ロックは周囲を見渡し、

や、方が良い……それがコツだ」

 以前、剣を右肩の上に剣を乗せられた感覚を頼りに、“花葬”の位置を割り出そうとする。

――光学迷彩のたぐいか?

 以前警戒したにもかかわらず、ロックは花鎧の男に駅前で背後を取られた。

不利にならないように訓練はしているが、それを上回る技術と技能で気配を消す男にはどうしてもロックは後手に出てしまう。

『参考にしよう……。ところで、その顔は“賢人計画”について調べたようだな?』

 姿を見せない“花葬”に、

「テメェ……何を知っている?」

 ロックの詰問に、“花葬”の回答はない。

「いや、わかって聞いたろ……

『どういうことだ?』

「とぼけるな……そもそも、“ブライトン・ロック社”でもないお前が何故、“賢人計画”という言葉を知っている……俺たちですらも“最高機密アンタッチャブル”だ……。知っていても容易に触れられない。だから外部に知られる余地もない。誰から存在を吹き込まれた?」

 ロックは少し前に、“ブライトン・ロック社”のネットワークに入った。

 “賢人計画”について調べたが、どれも権限のある者にしかアクセスが出来ない。

 しかし、ロックがそこにアクセスできないのが問題ではない。

「オマケに、や“”ととまで断言してやがる……俺たちですらアクセスできないものを、部外者のテメェがどうしてそれを知ることが出来る?」

 内容云々というよりは、全貌を知る者と所属不明の“花葬”が繋がっている。

 “花葬”が“ブライトン・ロック社”側の情報漏洩者という線を考えても、“ブライトン・ロック社”の情報漏洩の問題は免れない。

『中身を見る愚は犯さないか? 朝の立ち回りと共に、頭も切れる』

「不思議だな……そのという言葉、朝、見て来た様に聞こえるが?」

 ロックの剣呑な追及に、

『半信半疑だったが一目見て、安心はした……お前には素質がある。その様で安心した』

「“素質”か……自分には見えない何かを、しかも俺のことを知る誰かに吹き込まれた……ようにも聞こえるが……?」

 少なくともは、に触れないとできない。

 あるいは、そのを与えるという誘因トリガーも必要だ。

「そういうのが分かるやつなら、会わせてくれてもバチは当たらない気はするがな?」

『会うか会わないか、別にすれば……ロック=ハイロウズ、。その人は心底不思議がっていたよ……』

 ロックは訝し気にしていると、

『そんな筒抜けの情報を“ブライトン・ロック社”……それに対する疑問も抱いている様子もないからな』

 “花葬”の言葉に、ロックは息を呑む。

、以前にで言えば、そいつとは全く合わんな……お前とも」

『それでいい……俺にとって、お前は……しかし、同じ敵がいる……俺に殺されるまで、殺されるなよ?』

 殺意と剣気が消える。

 ロックの頬を、真昼の日光が照らす。。

 しかし、ロックの心は晴れない。

「……“賢人計画”」

 その秘密を知る“花葬”。

 それを隠す“ブライトン・ロック社”。

 彼らの秘めるモノの深さの闇が垣間見えたから。
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