【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイドー紅黒の翼ー

アイセル

文字の大きさ
116 / 257
第三章 Obstacles

敵対―⑧―

しおりを挟む
 サミュエルに視線が集中した時、桃色の風が彼の前をよぎった。

 シャロンが滑走板スケートボードに乗り、跳躍。

 滑走板スケートボードの車輪部分が、炎を発した“力人衆”の男の顔面を蹂躙する。

 体重に乗った滑走板スケートボードの横殴りの一撃で、男は吹っ飛んだ。

 残りの“力人衆”の視線を見ると、シャロンが対処した三人の“政市会”会員が、土瀝青アスファルトの上で倒れていた。

「サミュエル、私がこいつらを倒すから――!!」

 サミュエルとシャロンの間に、雷撃が炸裂。

 二人が跳躍すると、

「間崎さーん、助けに来たわよー!!」

 中年女性の声が響く。

 衝突した車に阻まれた国道を、残りの“力人衆”と政市会に追われていた“中年三人組”の“政声隊”が横切ってきた。

 シャロンが政市会を退けた様に、事故で塞がった道路の向こう側の“政市会”会員たちは、政声隊が追い返したのだろう。

 雷撃は中年三人組の黒一点の、黒縁眼鏡の肩幅と腹が広い方からだ。

 集まる“政声隊”側の人間に、サミュエルの心臓の鼓動が高まる。

「カンタ、撃ち方に気を付けなさいよ!!」

 肥満太りの女のリカコが、カンタと言う黒縁眼鏡の男に怒鳴る。

「リカコ、あんたはいつも間崎さんのことしか頭にないの!?」

 中年三人組のマキナがリカコに呆れる。

 中年三人組が色々言い合っていた。

だが、彼らの視線に、間崎を傷つけたサミュエルへの怒りが孕んでいた。

――マズいな……。

 間崎の周囲に“力人衆”が集まり始めた。

 間崎は二人に抱えられ、なんとか立ち上がった。

 “力人衆”が彼を囲み始め、彼らの敵意がサミュエルに向き始めた。

 サミュエル自体は、“命熱波アナーシュト・ベハ”使いや、それに類する“政市会”や“政声隊”の対処はある程度は可能だ。

 だが、

――こんな時に発作か……。

 集団にいじめられ、死に瀕した過去。

 それが、サミュエルの今を苦しめていた。

 シャロンが左隣に戻ると、

「サミュエル……あと4分だよ、仲間が来るまで」

 シャロンから時間を聞いた途端、サミュエルは眩暈を覚える。

 “政声隊”である中年三人組と、間崎達の敵意の足音がサミュエル達を覆い始めた。

「下がってください!!」

 凛とした声が、サミュエルの背後から聞こえた。

 声の主に振り返る間もなく、サミュエルはシャロンの正面からのタックルによって下げられた。

 サミュエルに向かう、中年三人組と“力人衆”の足元の土瀝青アスファルトが弾け飛ぶ。

 サミュエルとシャロンの前で、歩みを止められ狼狽する黒シャツ軍団。

 その群れの中にいる、中年三人組の黒縁眼鏡――カンタ――の眼に進路を妨害する存在が映る。

 サミュエルとシャロンと入れ替わるように、“力人衆”と“政声隊”のトルクを纏う集団に立つ人影。

 黒いパンツスーツを纏い、薄紫のシャツを着た女性。

 細くしなやかな肉体をした者の顔は、眼以外の部分を覆うマスク――特殊部隊や軍隊で使われるバラクラバ――で見えない。

 しかし、目元は小太刀を思わせる凛とした鋭さがあった。

 カンタが青緑の“コーリング・フロム・ヘヴン”を召喚し、彼女に向け電撃を帯び始める。

 しかし、青緑の人影は消失。

 同時に、カンタの額を覆った影が巨体を吹っ飛ばした。

 サミュエルは薄紫の女性を見る。

 彼女の左肩のストラップから掛かる携帯型騎兵銃アサルトカービン

 その銃口の下に付けられた30㎝長の擲弾発射機グレネードランチャーから硝煙が微かに上っていた。

 仰向けに倒れたカンタの傍には、掌大のゴム弾が転がっている。

――暴徒鎮圧用のゴム弾!?

 非殺傷兵器ではある。

 だが、プロボクサーのパンチに匹敵する威力で、打ち所によっては失明や死に至るとも言われていた。

 カンタは二人の中年女性に支えられながらも、立ち上がる。

 眼鏡が衝撃でどこかへ飛び、戸惑っているところから見ると、死んではいないようだ。

「これはいったい!?」

 サミュエルとシャロンを、ヨメダ珈琲店の入り口で出迎えたハチスカ。

 布製の携帯演算器コンピューターを抱え、不安な表情を浮かべていた。

「大丈夫です! 味方ではありませんが、“政声隊”と“力人衆”を抑えてくれています!」

 サミュエルが、困惑するハチスカを店舗裏の駐車場へ誘導する。

「あの人はいったい……!?」

 サミュエルの後ろで戸惑うハチスカを挟むように、バラクラバの女性が後退。

 彼女は、携帯型騎兵銃アサルトカービンに付けられた擲弾発射器グレネードランチャーに掌大の擲弾を入れ、発砲した。

「“薄紫の牙ヴァイオレット・ファング”。この街で活躍している自警市民……ですよね!?」

 サミュエルがバラクラバの女性に問うと、彼女は次弾を擲弾発射機グレネードランチャーに装填。

 返事に応えるように、撃つ。

 閃光混じりの爆発音とともに、“力人衆”の絶叫が聞こえた。

 彼女が撃ったのは、閃光弾フラッシュグレネードに違いないだろう。

「サミュエルさん、“望楼ヴェルヴェデーレ”の方たちは、道路の状態で来ることが困難でしょう……連絡をした方が良いかと思います」

 “薄紫の牙ヴァイオレット・ファング”に言われ、携帯通信端末スマートフォンを手にする。

「待ってください……彼女はあなたの組織の方ではないのですか!?」

 ハチスカの戸惑う声が、サミュエルを遮る。

 登録していた番号に電話を掛けると、

「いや、彼女はさっきも言ったように……ノーサイドです。私たちと共通の敵がいるから、味方が来るまで行動を共にしているだけです」

 サミュエルが携帯通信端末スマートフォンからの応答を待っていると、ハチスカの向こう側にいた薄紫の牙ヴァイオレット・ファング小型騎兵銃アサルトカービンを流す様に撃っていた。

 視覚を奪われつつも、“力人衆”はサミュエル達への歩みを止めない。

 シャロンは滑走板スケートボードで跳躍。

 滑走板スケートボード越しに、一人ずつ蹴り上げていく。

「シャロンさん、離れて!!」

 薄紫の牙ヴァイオレット・ファングの声と共に、シャロンが引き下がる。

 彼女は小型騎兵銃アサルトカービン擲弾発射器グレネードランチャーに擲弾を込め、シャロンの背後に向けて撃った。

 閃光で目を奪われながらも、炎の“コーリング・フロム・ヘヴン”を召喚する、中年太りのリカコ。

 彼女の攻撃がシャロンに迫る

 しかし、炎はシャロンを焼かず、

 戸惑うリカコだが、それを他所にサミュエル達に近づこうとした“力人衆”が悶える。
 何人かは目と口から出るものが全部出て、またある者は火達磨になっていた。

 薄紫の牙ヴァイオレット・ファングの撃ったのは、催涙弾だ。

 その成分はクロロアセトフェノンで、世界各国の警察が暴徒鎮圧用に使用している。

 無論、催涙スプレーも例外ではない。

 そして、この成分の発火点は88℃。

 数年前のポーランドのサッカーの試合で、スタジアム警備を担当していた機動隊の放った催涙スプレーが、熱狂したサポーターの焚いた発煙筒に引火。

そして、火達磨となった事故が報告されている。

 リカコの炎を司る“コーリング・フロム・ヘヴン”の攻撃の無策さに目を付けた、薄紫の牙ヴァイオレット・ファングに軍配が上がったということだろう。

 サミュエルは珈琲店の裏に回りながら、携帯通信端末スマートフォンが繋がったことを確認した。

「攻撃を受けている。合流地点はヨメダ珈琲店の駐車場――」

 サミュエルは、携帯通信端末スマートフォンにその後の言葉を告げられなかった。

「…………?」

 後ろから来たハチスカの問いに、サミュエルは答えない。

 いや、目の前の存在から放たれるが言葉を遮っていた。

 携帯通信端末スマートフォンを切ったサミュエルの視線の先に立つ男。

 歳としては、サミュエルと同い年の日本人の青年。

 ノンフレームの眼鏡に、鋭い眼。

 白いシャツに、青空を思わせるスリムフィットのデニム。

 全体的に細い印象だが、鍛えられていて、と例えた方が良い。

 彼の右手には、彼の背と同じくらい、突撃銃アサルトライフルと一体となった“矛槍”が握られている。

 サミュエルは、男の名前を知っていた。

「原田……龍之助……」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

レオナルド先生創世記

ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ネクスト・ステージ~チートなニートが迷宮探索。スキル【ドロップ★5】は、武器防具が装備不可!?

武蔵野純平
ファンタジー
現代ファンタジー(ローファンタジー)です。ニート主人公のスキルは【ドロップ★5】――ドロップ確率が大幅上昇し、ドロップアイテムの品質も大幅上昇するチートスキルだった。だが、剣や盾などの装備品が装備出来ない欠陥があり、攻撃力、防御力に問題を残す。 ダンジョン探索をする為に冒険者となりパーティーメンバーを募集するが、なぜか【ワケあり】女性ばかり集まってくる。

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2025.12.18)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

処理中です...