【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイドー紅黒の翼ー

アイセル

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第七章 Apple of Discord

不和―⑧―

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「“”の……だと?」

 ロックはブルースの一言に、歯を食いしばる。

 彼の告白によって、励起される衝動を抑えるのに必死だった。

「“命熱波アナーシュト・ベハ”……なの、あれ?」

 サキが驚いたように言った。

 彼女の顔色は、思いもしない事実に蒼白となっている。

「ああ……“愛されし者の右眼ザ・アイ・オブ・ジ・ビラブド”に?」

 ブルースがサキにシニカルな笑みで応えると、

「……待て、ブルース……それだと、“ベネディクトゥス”との

 一平が考え込んでから、疑問を呈する。

「確か、“命熱波アナーシュト・ベハ”は“命導巧ウェイル・ベオと聞いたんだけど……」

「“”は……な……」

 龍之助が、一平の言葉を汲んでから、ブルースの語った内容を反芻している。

「ブルース、“命熱波アナーシュト・ベハ”を“”とも言ってたな……」

 一平が語る内容は、上万作あまんさく市役所での戦闘だろう。

 “政市会”と“政声隊”の戦闘に巻き添えになった者たちから、出て来た青白い何か。

「ちょっと待って……カナダでも、私……見たけど……」

 サキが戸惑い、ロックを見る。

 ロックが、サキとバンクーバーで初めて会った時。

 それは、彼女をロックが助けた時であり、バンクーバー市内に“ウィッカー・マン”が雪崩れ込んだ時でもあった。

 同時に“

「……一平、サキ……命熱波アナーシュト・ベハ”だ」

 ブルースが首肯する。

「“命熱波アナーシュト・ベハ”は……”させたものだ」

 ブルースのエメラルドの眼から語られる言葉に、龍之助の顔が蒼白になって、

「つまり……“リア・ファイル”によって、……ということか!?」

「その通りだ……、“”がと言っても良い……」

「どっちにしても……かなり、だね……」

 サミュエルが皮肉を吐き捨て、運ばれたマグカップを傾ける。

 彼がマグカップの底でテーブルを叩くように置いた。

 彼のマグカップの中で、ココアが水面を揺らす。

「ブルース……それだと、“命導巧ウェイル・ベオ”を使える……という部分はどうなるの?」

 サキがブルースから肯定された部分を指摘した。

「サキ……“命熱波アナーシュト・ベハ”は体内電気を励起したものだが、……」

 ロックはカナダで、自らの奥にいた存在を思い出す。

 彼の姿を見たブルースが、

「そう……お前等が、“命導巧ウェイル・ベオ”を使えるのは、“命導巧ウェイル・ベオ”に適合する――つまり、――“命熱波アナーシュト・ベハ”を移植されている」

 ロックの思い出すのは、“命熱波アナーシュト・ベハ”……“洗礼者”。

 そして、仮初めの肉体に入れられていた“命熱波アナーシュト・ベハ”、“アンティパス”。

 カナダでの戦いで“アンティパス”の語った言葉が、ブルースの言う“”と重なり、ロックの心の中で重く圧し掛かる。

「それは、俺たちの使う“命熱波アナーシュト・ベハ”の……ブルース、そういうことか?」

 龍之助の言葉に、

「正確には……、じゃないの……ブルース?」

 ブルースの言い回しに不満を覚えたのか、サミュエルが彼の言葉の先を促す。

 彼の眼には――敵意というよりは――ブルースの腹の底を抉り出さんという、義憤の鋭さが宿る。

 ブルースが感情的になることなく、一息吐き出し、

「サミュエル、その通りだ……お前達の“命熱波アナーシュト・ベハ”は、

 ブルースの言い方は、隠し事は無駄と悟ったのか、思い切ったように見えた。

 だが、ロックはから、

「ブルース……じゃあ、“?」

 “へルター・スケルター”が“命熱波アナーシュト・ベハ”とするなら、

「……ロック、“命熱波アナーシュト・ベハ”は何だ?」

 ブルースに面を食らったが、

「確か、”とも言える存在だが……?」

 ロックは引っ掛かりを覚えた。

「……待て、励起させるということは、……!?」

 ロックの言葉に対する反応は、

「待ってください……でしたよね、それって……“……こともあるんじゃないですか?」

 アカリが挙手して言うと、キョウコが驚嘆した。

「その通りだ」

 ブルースが称賛を送ると、

「事の始まりは、2009年……日本の広島県で発掘された“遺跡”で発生した」

 彼が言葉を紡ぎ始める。

「“遺跡”には“リア・ファイル”に限らず“UNTOLD”に関連した物が多く出土され、調査が行われようとしていた」

 ブルースの言葉に、ロック達が息を呑む。

「しかし、そんな時……その“”によって、という事態が発生した」

「……それが、“へルター・スケルター”……?」

 ロックが絞り出し、ブルースが首肯し、

「そうだ……しかも、“へルター・スケルター”を中心に世界中にある“遺跡”のコントロールすべてが掌握されてしまい、“ブライトン・ロック社”は混乱した」

 ブルースの口調は滑らかだが、その内容には重さがあった。

 ロックだけでなく、サキ達もその重さを噛みしめながら、

「当然、“UNTOLD”に関連した組織も混乱を極めた……敵対している“ホステル”、“ワールド・シェパード社”に“望楼ヴェルヴェデーレ”……いずれかの組織と協力関係にある、政府や行政機関も例外なく」

 ブルースが紅茶を飲み、口を潤している。

 その傍らにあるノートパソコンの中のナオトの顔色は、真実の痛みに曇っていた。

「調査を進めると“へルター・スケルター”は意思を持っていることがわかり、“ブライトン・ロック社”はコンタクトを試みた……」

 ブルースの額の脂汗が照り付ける。

「……それで、“へルター・スケルター”は?」

 龍之助が少し身を乗り出すと、彼の側にいる赤い少女――“アイ”の顔に苦痛の色が僅かに表れた。

「“へルター・スケルター”は、……」

 ブルースが紅茶の入ったマグカップをテーブルに置くと、

「“命熱波アナーシュト・ベハ”が、肉体の体内電気を励起しているモノから作られた……だから、と……」

 ロックはその内容に言葉を失った。

 サキの驚きは大袈裟ではないが、呼吸の方法を忘れたかのように、口を開閉させている。

 サミュエルとシャロンは、自分の組織が出てきたことに呻いていた。

「……肉体だと!?」

「シンプルに、肉体があって“命熱波アナーシュト・ベハ”がある状態だから、“命熱波アナーシュト・ベハ”に合う肉体が欲しいってやつだ」

 龍之助の抗議にも似た口調に、ブルースが肩をすくめる。

「……それで、提供したのか?」

 ロックは口を重々しく開いた。

……と同意した」

「ロック、止めて!!」

 サキの制止する声が、“アルティザン”に響く。

 気づけば、自分に向かって、龍之助と一平も椅子から立とうとしていた。

 ロックは呼吸を整えると、ブルースに先を促した。

「渡すつもりはない。だが、“へルター・スケルター”を引き付ける為に、

 ブルースの言葉に、龍之助の顔色が消えていく。

「待て、とは……?」

 振り絞るような口調の龍之助を、ブルースが見据える。

 苔色の外套の男はやがて、上に目を向けた。

 ロック達がその視線の先を辿る。

 全員の視線が、赤い少女――“アイ”に注がれていた。
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