【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイドー紅黒の翼ー

アイセル

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第七章 Apple of Discord

不和―⑪―

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 “アルティザン”を覆う空気は重い。

 ブルースと、カナダからの動画越しのナオトの告白は、ロック達に大なり小なりの波紋を広げていた。

「それで……アイと言ったか、お前は何でここにいる?」

 ロックの言葉に、龍之助の傍らに浮かぶ少女が眼を見開く。

 彼の言葉に含まれる硬質感による警戒か。

自分が何故いるのか分かりかねる、戸惑いの様にも思えた。

『……私は、レンを……探しているんだと思う……』

 赤い少女が振り絞って答える。

『リュウちゃんに会えて嬉しかった……でも、レンが……妹が、確かめないといけない気がするから……』

 赤い少女は自身を蝕む痛みに、堪えるかのようにして言った。

 ロックの脳裏に浮かぶ白い少女。

 その雪と言うよりは、氷を思わせる顔を思い出した。

「それって……“へルター・スケルター”を封じた時に使われたアイとレンの双子の肉体、ってことじゃない?」

 サミュエルが思案して、口を開いた。

『……あるかもしれない』

 ノートパソコンの画面内で、ナオトが掌で口元を抑えて、

『“へルター・スケルター”が、特殊卵子凍結手術を受けた住民の意識化に入り込んだことで、封印に使われた“アイ”と“レン”の何れかの肉体は、
“UNTOLD”を研究する上で格好のサンプルだ……』

「同時に言えば、それの封じられている是音台高等科学研究所は、“政市会”の“天之御中主神アメノミナカヌシノカミ”、“政声隊”――正確には三条の言う――の“アイレーネー”が眠っている。そして、その力を……」

 ロックは吐き捨て、テーブルに置かれた珈琲に口を付ける。

 “UNTOLD”については、ロックとサキの解決した“バンクーバー・コネクション”の時に作られた“グランヴィル協定”により、その使用制限が緩和される。

 しかし、その主導権を握っているのは、“ブライトン・ロック社”であることは変わらない。

 あくまで、“ワールド・シェパード社”のミカエラ=クライヴが同意したのは、目の上のたんこぶとも言える、だ。

 加えて、“UNTOLD”によるテロを行う“ホステル”の影響も、未だ衰えない。

 首魁のサロメは、その力を得るために“リリス”を利用して“白光事件”を引き起こした。

 しかも、日本国内の最大極右勢力である“大和保存会”を裏で動かしていることから、“ホステル”は、“へルター・スケルター”への干渉を諦めていない。

「……何で、極論で排除しあえるのかな……」
 サキの呟きが、洞窟の奥で築かれた泉に落ちた雫の様に響いた。

 サキの親友である、キョウコとアカリは、彼女の言葉に歯を食いしばる。

 キョウコにいたっては、怒りの矛先がいないことへのもどかしさを、一息で表した。

 一平はサキの言葉に答えようと、眼を閉じて思案に入る。

 龍之助は、“政声隊”の素行を思い出したのか、重い溜息を吐きだした。

「……自分と、その世界の問い方がわからないからだろ……」

 ロックは呟いた。

「……どういうこと?」

 サキが首を傾げて言う。

「……前に、“大和保存会”の菅原が言っていたろ……『』と。つまり、“……と」

 ロックは珈琲を飲み干して、

「日本の神には。別の言い方をすると、他の多神教や一神教の様なだ」

 マグカップを置いて、

「元々ギリシャ哲学は、自然現象の言いかえだ……と別の言い方ができるという考え方のな……」

 一平がテーブルに置かれた珈琲を飲み、ロックに向けて前のめりになる。

「つまり、それがだ。なら、?」

 龍之助が眼を細める。

「それに答えたのが、デカルト……彼は、考える自己――意識――を神から受け取ったとした。保守主義の原点は、聖書の解釈。神を証明するために、“科学”や“哲学”を追究した……『人間の説明できる範疇で、』からな……」

 サミュエルが肩をすくめる。

 シャロンが、彼に視線で不平を訴えたようだが、ロックは続けることにした。

「つまり、……そして、。自己の定義があいまいだと、という頓珍漢なことになる」

 ロックがため息を吐いて、

「江戸時代に“天之御中主神アメノミナカヌシノカミ”を主神と秩序を定義しようとした一派がいたが、解釈は放置されたままだ。そして、日本には、。それに先立って、。本当に考える自分がいないから、その

 キョウコとアカリの二人が、思い当たったように声を上げた。

「それがわかる奴は、分かりやすい“美辞麗句スローガン”で操る……これは、右も左も実は変わらない。デカルトを知らない……だから、を履き違える」

 ロックの言葉に龍之助は、俯いた。

 一平は何処か納得した声を上げる。

「最も、この時代で……デカルトを忘れているのは、日本に限らないけどな……」

「でも、ロック……本当にそうかな?」

 サキの声が、夜の“アルティザン”に広がった。

「確かに、ロックの言うことは正しい。何も考えずに、正義と思い込んで自分の行動に疑問も持てない人も多い……」

 サキが逡巡して、

「でも、『自分の見る世界が全てで』……そして、『』……そう考えられる人もいるよ?」

 彼女の眼が、ロックを捉える。

 そんな彼の湖面の様な碧眼が、鋭さを増していた。

「確かに“政市会”や“政声隊”…………でも、ロックの様に考えるような人たちばかりじゃない」

 サキの声は、ロックの中で鈴の音の様に広がる。

「だって、『自分テメェを救えるのは、自分テメェしかいない……誰かを助ける為に、都合よく収まるワケねぇ!!』……ロックが教えてくれたことだよ?」

 ロックは、サキの眼の中で赤面をした。

サキの言葉にむず痒さを覚える。

 カナダのバンクーバーで、“リリス”に囚われたサキに向けて言った言葉。

 

「言われたな……ロック?」

 ブルースが笑顔で話しかけてくる。

 しかし、その中に明らかに、揶揄が混じっていたので、顔をそむいた。

「まあ……あれが、典型的なってやつだね?」

「どこか、?」

「むしろ……悪役令嬢じゃないか?」

 サミュエルが言って、一平と龍之助が乗っかった。

「……これは、相思相愛ですね」

「……悲しいけど、しょうがないね……」

 アカリがどこからかハンカチを取り出し、残念そうな視線を送るキョウコ。

 ロックは、照れ隠しに大声を上げようとすると、

「お客さんだよ」

 店主の凛華が、ロック達に話しかける。

 彼女の星屑のメイクをした目が鋭い。

 彼女の招き入れたのは、4人の男女。

 一人は、耳が隠れるほどの茶髪をした長身の男。

 もう一人は、黒いライダースーツの男。

 もう二人は、ロック達もよく知っていた男女だった。

 男はで、女は髪を二房に結んでいて、

「……“政市会”の堀川……か?」

「“政声隊”の……秋津さん!?」

 ロックとサキが言うと、周囲もどういう状況か戸惑って、顔を合わせる。

 その様子を、同じく戸惑う堀川と秋津の二対の眼が、映し出していた。
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