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源兵衛
しおりを挟む土曜日になり、誠さんに名古屋の繁華街、栄(さかえ)まで送ってもらいお礼を言って別れた。
ここから地下鉄に乗り久曽神家の近くの駅まで行く。
いきなり行って迷惑じゃないかなとかあんたみたいな子なんて知らないとか言われたらどうしよう……
そんな事を考えながら久曽神家の最寄り駅に着いてしまった……
地下から出て暫く歩くと長い塀が続く、お寺とかだろうか。この辺りのはずだけど……
近くにいたおばさんに聞いてみることにした。
「何言っとんだがね、あんたの目の前にあるでしょう?」
いきなりの名古屋弁にちょっとビックリする、目の前に?お寺しかないけど……
「この長い塀がそうだがね、門はこっから100メートルくらい先にあるでよ、そういえばあんた……」
「な、何ですか……?」
おばさんは顔を覗き込む、上から下にじっと見られて恥ずかしくなった。
「ああ!やっぱりそうだが、久曽神の2番目の子でしょう?やっとかめ(久しぶり)だねえ!!」
2番目?次男ってこと?
「あれ?でも確か病気で入院しとるとか言ってなかったか?そっかあ、良くなって戻ってらしたかあ?」
病気で入院?そういうことになってるの?
とりあえず頷いて誤魔化しとこう。
おばさんにお礼を言って門の方に向かう、ずっと石壁が続く、これが個人の家なの?
門に着き表札を見る、年期の入った木の板で『久曽神』と書いてあった、間違いなくここだ……
唾を飲み込み呼び鈴を押す。
だけど誰も出てこない……
大きな木の門は閉まっていてその横に小さな木の扉がついている、何気にドアを押すと鍵が掛かってなかったみたいで開いちゃった…
「お邪魔しま~す……」
小声で誰に言ってるのか分からないけど一応断りながら中に入る、言い訳っぽい?
中は石畳がずっと続いていて奥の方に建物が見える、回りは向こう側が見えないくらい木が一杯植えてある。日本庭園って言うのかな?お寺とかでよく見るけど個人の家でこんなに広くて立派なのは初めて見た……
1分ほど歩くとようやく玄関が見えてきた、ウチだともう裏口をとっくに越えてるね……
横開きの玄関、また呼び鈴があってまたそれを押すと中から声がする。
「ごめんください……」
玄関を開けると大きな絵の付いた屏風(びょうぶ)?があった。龍の絵?
長い廊下がずっと続く、向こうが霞んで見えない……
横の襖が開いて誰か女の人が出てくる。エプロンしてる、家政婦さんみたいな人かな……
「はいはい、すみません。奥に居たもの…で……」
家政婦さんは私の顔を見てビックリした顔をして動きが止まっている。何かついてるのかと思い顔や頭を整えたけどまだ動いてなかった。
「は、は、陽斗ぼっちゃま!?」
ああ、この人陽斗君の顔を知ってたんだな。それで驚いてたんだ、お化けって思ったのかな?死んだって聞いてるのかな?まあ病気で入院してってさっきのおばさんが言ってたし。
頭の中は何故か冷静だった。
「あの……私森下千景って言います。ここの人に聞きたい事があって尋ねてきたんですけど……」
「え??陽斗ぼっちゃまじゃない?そ、そりゃそうよね…だって陽斗ぼっちゃまは……」
ブツブツと独り言を言って自分を納得させるかのようにしていた、そんなにショックだったのかな…?
「あ、ごめんなさい…こ、こちらにどうぞお上がりください…」
靴を揃えて上にあがる、廊下を進む、右側には障子から光が射し込みさっきとは違う中庭が見える、どんだけ庭があるんだろ……
「こちらでお待ちください……今奥様をお呼び致しますので…」
案内された所は和室で広い、高そうな掛軸とか置物が置いてあった。来たときに見た庭が一望出来る。
中に入り家政婦さんが出ていくと周りを見ながら縁側に座る、障子が開いていて風通しがよくて気持ちいい……
私はここに住んでいたのかな……この庭を見ても何も思い出せない、でも会った人達の反応をみるとやっぱり陽斗君は私みたいだ……
これだけの家に住んでる人ってどんな人?何をしてるんだろ……仕事とかは…?
思い出して生徒手帳と腕輪を取り出してみる。
改めて生徒手帳を見る、久曽神陽斗、私立久曽神学園中等部一年…A 組 男……
今まで普通に受け入れてたけど……自殺だったとしてもどうして男から女になったの?それとも別人?
考えれば考えると分からなくなってくる……私は誰?
「おや、君は……?」
考え事をしていたら誰かに声をかけられ、振り向く。
そこには恰幅(かっぷく)の良さそうなお爺さんが立っていた、ここの御主人かな…?
よく見ると杖を突いていて目が見えないみたい、あわてて駆け寄り支えになる。
「ああ、ありがとう。小さなお客様だね……」
「あ、はい。お邪魔してます。森下千景っていいます……」
「女の子か、歳から言うと嘉久(よしひさ)か陽斗の友達かな?」
「あ、いえ……実は…」
私はそのお爺さん、ここの御当主様で久曽神源兵衛(きゅうそじんげんべい)さんにここに来た理由を話した。
「成る程、君は孫の陽斗かも知れないと……」
「はい、でも私にも分からないんです。本当に陽斗君だったのか……」
「どれ……」
源兵衛さんは私の顔を撫でながら輪郭とかを見ている、その手は大きかった……
「ん……確かに陽斗だ、間違いない。何故だろう、おんなごなのにな…」
「おんなご?こっちでも女の子のことおんなごって言うんでしたか?」
「うん?いや、ワシは君が来た所に昔住んでいた事があってな。その時に覚えたんだが……もう1つ意味があってな、それは……」
「あなた?ここにいらしたの?」
源兵衛さんが何かを言いかけた時に和服の女の人が入ってきた、奥さんかな?
こっちを少し見てキツそうな目をして睨む、それから源兵衛さんの肩を支え上げ源兵衛さんを連れ出す。
「マキノ、旦那様をお部屋にお連れして。」
戸の向こうにはさっきの家政婦さんがいて源兵衛さんを連れていった。
「さて……」
こっちを見た奥さんはじっと私を見ている、立ってお辞儀をして挨拶をする。
「あ、あの……初めまして、森下千景と言います。」
「……そう、私は久曽神宝珠(きゅうそじんほうじゅ)と言います……」
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