つらじろ仔ぎつね

めめくらげ

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「この子がいい旦那様に嫁げますように。ホラ、ちいちゃんもお手手をあわせて」

島民やよその男と"つがう"ようになって、業を背負わずに生まれてくる子供もだんだんと増えてきた。それでもやはり脈々と、呪われた血筋は受け継がれている。割合でいうなら半々だ。

島のしきたりで、『祟られた子供』は島外にやられてしまう。ここに残れるのは『普通の』男児か女児だけである。今年もまたそんなのが数人ほど生まれて、いまこの若い母親に連れられて拝みに来ているのは、まだよちよち歩きをしているような幼い子だ。この母もわざわいを受けて生まれ、男ながらに男と結婚し、そして自分と"おなじ"子供を産んだ。兄弟は他にいくつかあるが、祟りを持ったのはこの子だけであったようだ。

「佐野様、僕たちの先代がしでかしたことの報いは、甘んじて受け入れます。ですが、先々うまれてくるこの不浄の子らをどうぞおまもりください。あつかましく、罪をおゆるしいただこうとまでは願いません。それでもどうか、このような子らが、少しでも仕合わせに生きられるよう、なにとぞお力をお貸しください」

震える声で祈り、ぽろりと涙をこぼす母を見上げながら、事情のよくわかっていない子供もそれをまねておとなしく手を合わせていた。

ううむ、困ったなァ。
佐野はその母子を見ながら銀ギセルを吹かし、ためいきをついた。この呪いは、すでに現世にはいない先代のキツネがかけたものであり、徐々に途絶えるだろうが効力は今後何百年と続き、なおかつ佐野が勝手に解いていいものではなかった。
人間の法律のように、キツネの祟りにも厳正なる決まりごとがあるのだ。こんなふうに泣かれてしまうと、ええいままよと解いてやりたくなるのが『人情』だが、無論そういうわけにはいかない。それにこの母親は、できることならもちろん呪いを解いてほしいのだろうが、そうとは言わず、仕合わせを願ってほしいと言っている。

ともかく、手下のキツネたちがここに到着したら『子供たちの嫁ぎ先』を見に行くくらいはしてみよう、と考えていた。しかし嫁いで行った子らはその土地の人となり、そこに住まうキツネの管轄下におかれるから、自分がどうこうすることはできない。あくまでも見に行くだけだ。

さして犯罪めいたことも起こらぬのどかな島だが、不在をするなら代理のキツネはかならず置いとかなければならない。佐野は呼びよせた彼らをこのまま据え置いて、自分は隠居同然の身で、テレビの水戸黄門のように全国行脚をするのが夢である。それに、ひさびさに本土に上がって人々の暮らしも見たかったし、物見遊山もしたかった。江戸はにぎやかで疲れるが、変化の最先端にあるから退屈がない。人はいつでもくだらないことを考えついて、バカなことをやっているから、見てて飽きないのだ。

……それに、ひとりだけ特に気になっている者がいる。
嫁ぐのではなく、丁稚として引き取られて行った子供だ。なんせケンカっ早くて、大人たちはよく手を焼かされていたものだ。鶏ガラみたいなナリをしているくせに腕っぷしが強く、似たような悪ガキどもが勝負を挑んでは、いつも返り討ちにあい泣かされていた。

あの子はこの島で唯一、このキツネの姿を見破ることができたのだ。社を建てられてから二百年もすると、佐野たちは人間の前に実体をあらわすことはせず、せいぜい"するどい人間"がその霊的な気配をほんのわずかに感じとる程度にとどまっていた。

しかしくだんの子供は、幼いころに託児小屋の者に連れられてこのようにお参りにやってきたとき、佐野を指差しながらこう言ったのだ。

「ねえせんせい、キツネがそこで寝そべりながらお腹をぼりぼり掻いてるよ。いまは眠いから、お願いなんか聞いちゃくれないよ」

先生と呼ばれた女は「そんなはずないでしょう。お稲荷様の御前で失礼なことを言うんじゃないよ」と叱ったが、見えないのをいいことにまさしくその通りの姿をさらしていたので、佐野は目玉が飛び出しそうなほど驚いた。そして手を引っ張られて帰っていくその子供は、「あそこにいるよ、なんで見えないの?」と女に何度も訴えて佐野を指さしていた。
それが、小乃との出会いであった。
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