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最強天使、マジシャンに変身!?
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「バレットさんとの電話、切れちゃったんですか?」
背後から遊の声。反射的に振り返った俺は、無言で頷いた。聞かれていたぞ……!いつの間にか、両腕にまん丸のトマトを抱えている遊。その姿がこんなにしっくりくる青年、ほかにいるだろうか。ははは。可愛いではないか。
……いやいや、何をほがらかな気持ちになってるんだ!早急にミッションを見つけねば!!
「遊。何か困っていること、悩んでいること、あるいは解決して欲しいことはないか?」
「え? なんでですか?」
遊の頭上に浮かぶ、黄金の光を放つ【0】の数字。そのまばゆさは、百年に一度のレベルかもしれず。つまりはそれは、遊に関するミッションなど、永久に見つからぬのではと——。
「その、助けてもらった礼をしたいのだ」
「俺、別になにもしてないですよ?」
うっ!
「き、木から落ちた俺を心配してくれただろう!?」
「あっ!」
遊の目がぱっと輝いた。
「一個だけ、困ってることがあります!」
「おお! なんだ!?」
遊は満面の笑みを浮かべ、トマトを抱えたまま人差し指をピンと立てた。敷地内の一軒家を指さしている。
「キッチンの天井から、電気がぶら下がってるんです! 三つ!」
「ほう!」
「で、そのうちのひとつの電球が切れかかってて。俺の背だと、脚立を持ってこないと届かないんですよ。だから、電球の交換をお願いしたいです! へへっ!」
…………。
ショボッ。
助けを求める内容が弱すぎる……(震)。これではバレットにメッセージを送ったとて、「サミュエル様、寝言は寝てからおっしゃってください」と、小言を言われるのがオチだろう。なにより一日に一度だけ許される貴重なメッセージ、有効に使わねばならぬ!
「あ、そうだ。そろそろじーちゃんとばーちゃんがうちに来るので、一緒に昼飯どうですか?」
「え?」
「そう言えば、名前なんですか? すっげえカッコいいから、名前もカッコ良さそう!」
遊は無邪気に笑いかけ、その笑顔に俺もつられた。
いや、つられてる場合か。遊は人を(いや、天使を)疑うということをしないのだろうか。俺の正体も知らぬまま、昼食に誘ってくるとは。なんという警戒心のなさだ。
「俺の名前は、サミュエルだが——」
「えっ! 見た目は日本人なのに『サミュエル』なんですか!? やっぱりカッコいいですね!」
褒められた。
「それに瞳の色もさ、黒とグレーが混ざってるみたいで、すっげえ綺麗ですよね!?」
「……ありがとう。遊の茶色い瞳も、澄んでいて綺麗だぞ」
「ありがとうございます! へへっ!」
「ははは」
なにこれ。
ミッション非対象の人間と、のんきに褒め合い。あまつさえ、昼食まで共にしようという流れ。人間と親しくなってはならないと、バレットにあれほど念を押されたのに。これではまるで、罠に自分から飛び込んでいるようなものである。
一旦、冷静になろう。能力の確認だ!
・魔法使用可(煌めいてしまうため要注意)
・ワープ不可
・バレットとの連絡可
・人間の【数字】を視認できる
・怪我をしない(心の痛みは除外)
以上。
……なんか、役に立つような立たないような。魔法を大々的に使って世間を騒がせては困る。俺が上界に戻れば人間の記憶は抹消されるとはいえ、約一ヶ月ここに留まる可能性も否定できんのだ。ミッションどころではなくなる行為は極力避けたい。
まずは今夜の宿を確保するのが先決だ。鞄には日本円が入った財布、バレットが用意した各国対応のカードもある。よしっ!俺は木の下に転がっていた鞄を拾い上げた。
「遊。ここから一番近いホテルや旅館はどこだ?」
「ここからだと、うつのみ……あっ! じーちゃん、ばーちゃん!」
俺にトマトを押しつけると同時に、遊は門のほうへ駆けだしていった。お、おい!急にトマトを託されても困るのだが!鞄を再び落としてしまったではないか!!
門の向こうから現れたのは、遊によく似た彫りの深い紳士と、ニコニコ顔の淑女。『いい人』とというのぼりを背負っていてもおかしくない雰囲気だ。まん丸ほっぺの孫ラブ!その思いが溢れている。……遊のまん丸ほっぺを気に入ってるのは俺である。
そんな二人だが、庭に入りその目で俺を捉えた途端に硬直。そらそうである。見知らぬ男が孫と一緒にいる状況。心情としては「あんた誰?」であろう。
「この人さ、サミュエルさんっていうんだ! 一緒に昼飯食ってもいーい?」
潔いほどストレートな問いである。もう少し俺についての情報を与えてからでもいいのでは?通報案件になりかねぬ!まずい!
「遊のお友達か? ほほお、いい男ですね。どうぞ、入って入って」
嘘だろ。
「さっきさ、サミュエルさんが芋虫をすげえ綺麗な蝶に変えててさ!」
毛虫だったが、今そこは重要ではない。
「ほお。サミュエルさんは手品ができるんですか?」
「まあ! サミュエルさんは、マジシャンでいらっしゃるの?」
「え? ええと……その……」
三人がそろって俺を見上げている。純粋無垢のその瞳。頭上には、ピカピカ輝く【0】の数字が並んでいる。この状況で「いえ、俺は最強天使です!」とは、口が裂けても言えない。
追い詰められた俺は、喉の奥でごくりと唾を飲み込み——。
「……はい。マジシャンです」
最強天使、虚言を働く。
——続く——
背後から遊の声。反射的に振り返った俺は、無言で頷いた。聞かれていたぞ……!いつの間にか、両腕にまん丸のトマトを抱えている遊。その姿がこんなにしっくりくる青年、ほかにいるだろうか。ははは。可愛いではないか。
……いやいや、何をほがらかな気持ちになってるんだ!早急にミッションを見つけねば!!
「遊。何か困っていること、悩んでいること、あるいは解決して欲しいことはないか?」
「え? なんでですか?」
遊の頭上に浮かぶ、黄金の光を放つ【0】の数字。そのまばゆさは、百年に一度のレベルかもしれず。つまりはそれは、遊に関するミッションなど、永久に見つからぬのではと——。
「その、助けてもらった礼をしたいのだ」
「俺、別になにもしてないですよ?」
うっ!
「き、木から落ちた俺を心配してくれただろう!?」
「あっ!」
遊の目がぱっと輝いた。
「一個だけ、困ってることがあります!」
「おお! なんだ!?」
遊は満面の笑みを浮かべ、トマトを抱えたまま人差し指をピンと立てた。敷地内の一軒家を指さしている。
「キッチンの天井から、電気がぶら下がってるんです! 三つ!」
「ほう!」
「で、そのうちのひとつの電球が切れかかってて。俺の背だと、脚立を持ってこないと届かないんですよ。だから、電球の交換をお願いしたいです! へへっ!」
…………。
ショボッ。
助けを求める内容が弱すぎる……(震)。これではバレットにメッセージを送ったとて、「サミュエル様、寝言は寝てからおっしゃってください」と、小言を言われるのがオチだろう。なにより一日に一度だけ許される貴重なメッセージ、有効に使わねばならぬ!
「あ、そうだ。そろそろじーちゃんとばーちゃんがうちに来るので、一緒に昼飯どうですか?」
「え?」
「そう言えば、名前なんですか? すっげえカッコいいから、名前もカッコ良さそう!」
遊は無邪気に笑いかけ、その笑顔に俺もつられた。
いや、つられてる場合か。遊は人を(いや、天使を)疑うということをしないのだろうか。俺の正体も知らぬまま、昼食に誘ってくるとは。なんという警戒心のなさだ。
「俺の名前は、サミュエルだが——」
「えっ! 見た目は日本人なのに『サミュエル』なんですか!? やっぱりカッコいいですね!」
褒められた。
「それに瞳の色もさ、黒とグレーが混ざってるみたいで、すっげえ綺麗ですよね!?」
「……ありがとう。遊の茶色い瞳も、澄んでいて綺麗だぞ」
「ありがとうございます! へへっ!」
「ははは」
なにこれ。
ミッション非対象の人間と、のんきに褒め合い。あまつさえ、昼食まで共にしようという流れ。人間と親しくなってはならないと、バレットにあれほど念を押されたのに。これではまるで、罠に自分から飛び込んでいるようなものである。
一旦、冷静になろう。能力の確認だ!
・魔法使用可(煌めいてしまうため要注意)
・ワープ不可
・バレットとの連絡可
・人間の【数字】を視認できる
・怪我をしない(心の痛みは除外)
以上。
……なんか、役に立つような立たないような。魔法を大々的に使って世間を騒がせては困る。俺が上界に戻れば人間の記憶は抹消されるとはいえ、約一ヶ月ここに留まる可能性も否定できんのだ。ミッションどころではなくなる行為は極力避けたい。
まずは今夜の宿を確保するのが先決だ。鞄には日本円が入った財布、バレットが用意した各国対応のカードもある。よしっ!俺は木の下に転がっていた鞄を拾い上げた。
「遊。ここから一番近いホテルや旅館はどこだ?」
「ここからだと、うつのみ……あっ! じーちゃん、ばーちゃん!」
俺にトマトを押しつけると同時に、遊は門のほうへ駆けだしていった。お、おい!急にトマトを託されても困るのだが!鞄を再び落としてしまったではないか!!
門の向こうから現れたのは、遊によく似た彫りの深い紳士と、ニコニコ顔の淑女。『いい人』とというのぼりを背負っていてもおかしくない雰囲気だ。まん丸ほっぺの孫ラブ!その思いが溢れている。……遊のまん丸ほっぺを気に入ってるのは俺である。
そんな二人だが、庭に入りその目で俺を捉えた途端に硬直。そらそうである。見知らぬ男が孫と一緒にいる状況。心情としては「あんた誰?」であろう。
「この人さ、サミュエルさんっていうんだ! 一緒に昼飯食ってもいーい?」
潔いほどストレートな問いである。もう少し俺についての情報を与えてからでもいいのでは?通報案件になりかねぬ!まずい!
「遊のお友達か? ほほお、いい男ですね。どうぞ、入って入って」
嘘だろ。
「さっきさ、サミュエルさんが芋虫をすげえ綺麗な蝶に変えててさ!」
毛虫だったが、今そこは重要ではない。
「ほお。サミュエルさんは手品ができるんですか?」
「まあ! サミュエルさんは、マジシャンでいらっしゃるの?」
「え? ええと……その……」
三人がそろって俺を見上げている。純粋無垢のその瞳。頭上には、ピカピカ輝く【0】の数字が並んでいる。この状況で「いえ、俺は最強天使です!」とは、口が裂けても言えない。
追い詰められた俺は、喉の奥でごくりと唾を飲み込み——。
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